陽の光と雪解け
フィラデルがリーゼベルト姫に仕えるようになってから1年程の月日が過ぎた。その間にも何人かの王子らが姫に剣の勝負を挑んだが、誰1人として勝利することはなかった。むしろ、フィラデルと修行を重ねたことで、姫の剣の実力はますます上がっていたのだった。
この事態に、姫の父親でもあるサニダリア国王は頭を抱えていた。
「姫に剣で勝利できる者がこれほどまでおらぬとはな...。姫も早く自らの伴侶を決めたかろう」
「...え、ええ、そうですわね...」
「安心せい。必ず儂がどこかの国から姫に相応しい王子を見つけてみせるゆえ」
「...ありがとう、ございます...」
王の言葉に、姫は無理矢理作ったような笑顔で答えた。
「...どうしましょう...」
自室に戻ると、姫は深い溜め息とともに呟いた。
「何が」
「何が、って、お父様は私のためを想って、きっと優秀な剣の使い手を探し出してくださるわ。そうしたら、私はその方と結婚することになるのよ?」
「お前が決めた条件だろ」
「そうだけれど!最初に私に勝利したのは貴女よ?そしてその後も何度だって...!」
悲痛に訴えてくる姫に対し、フィラデルは淡々と答えた。
「...あのな。お前は最初に自分を負かしたのは俺だって言うけど、そうじゃねえだろ?騎士団長様とかにも勝ったことないんじゃねえか?」
「そ、そうだけど...。彼は年が離れすぎているわよ!それに、既に自分の家庭を築いているわ」
「そうやって、自分に剣で勝つこと以外にも条件つけて対象者絞ってるだろ?だったら、女は対象から除外すべきだ。違うか?」
「...」
冷静なフィラデルの言葉に、姫は黙りこむ。2人の間に、気まずい沈黙が流れた。
「......なあ」
「え?」
先に口を開いたのは、フィラデルの方だった。
「お前...自分を負かしたこと以外に俺に執着する理由あるの」
姫の姿を見ることもなく、その言葉は虚空に向かって発せられた。
「そ、そりゃあそうよ!!確かに、最初は男性だと思ったし、剣を交えただけで結婚相手にしたいと感じたわ。でも、そうね...共に生活するうちに...。貴女って口が悪くて生意気だけど、でも私にきちんと仕えてくれて、なんだかんだ優しくて、一生懸命で...。そういうところを知っていって、ああ、やっぱりこんな人が自分の結婚相手だったらいいな、って思えてきたのよ。...最初に助けられたときに、既に心を掴まれていたのかもしれないけれど」
「...あ、そ...」
いとおしげに語る姫の言葉に、フィラデルは表情も変えずに短く答えただけだった。しかし、内心その言葉に安心感のようなものを感じていた。
フィラデル自身、自分に真っ直ぐ向けられる姫からの好意を、いつの間にか心地よく思うようになっていた。だが、それと同時に、勝負に勝っていれば自分でなくても...どんな人間であってもよかったのではないか、と考えざるをえなかった。先程の姫の言葉はその疑念を晴らしてくれ...そして、フィラデルはそれで満足だった。
「でも、俺は結婚相手が女でも別にいいけど、お前は違うだろ?お前は一国の姫なんだから、ちゃんと男と結婚して、世継ぎ産まねえと」
「そんな...。貴女はよくて私はいけないなんて、不公平だわ」
「そもそも身分が違うんだから仕方ねえだろ。もっと自分の立場をわきまえろ我が儘姫」
「...」
姫はまた何も言い返せず、俯いて黙りこむ。そして、しばらくの後、ボソリと呟いた。
「......分かったわ」
「そうか、お前もようやく...」
「要は、サニダリアの血が絶えなければいいのね?!だったら、私以外に血族がいないか調べて、その人達に世継ぎを作ってもらうわ!!」
「......はあ?!お前何言ってんの?そこ諦めるところじゃねえの?」
予想外の答えに、フィラデルはこれまでで一番の呆れ顔になった。
「簡単に諦めるなんて私らしくないわ。方法があるなら試してみないと!それに...」
姫は少し間を空け、不敵な笑みを浮かべた。
「貴女は相手が女でも構わないと、言ってくれたものね...?」
「!!いや、それは、その...」
「さあ、早速調べてみましょう!行くわよ、フィラデル!」
「ちょ、おい待て!!」
部屋から飛び出す姫を、フィラデルは慌てて追いかけた。
ーーー
「うむ、別に構わぬよ。姫は姫のまま、フィラデルと結婚するがよい」
「...え?」
王の言葉に、リーゼベルト姫とフィラデルは目を丸くした。
あれから、2人で家系図など調べてみたのだが、既に他国に嫁いでいたりしていて、サニダリア国を継げそうな者は見つからなかった。そこで、ダメ元で国王に直談判してみたところ、あっさりと承諾されてしまったのである。
「...大変失礼ですが王、正気でしょうか...?」
「うむ、正気じゃよ。結婚したいと思う相手と結ばれるのが1番じゃ。フィラデルなら、安心だしのう。儂らの後はそなたらが国を治め、その後は...どこかから養子でももらえばよかろう。血にこだわる必要などない」
「流石!素晴らしいお考えですわ、お父様!」
「...マジかよ...」
すっかり上機嫌の姫に対し、フィラデルは困惑する気持ちを抑えきれずにいた。
「...但し」
王は少し真面目な口調になり、話し始めた。
「姫が元々定めていた結婚の条件は、『剣で自らに勝利すること』...。フィラデルはその条件を満たしたと申すが、儂はその様子を見ておらぬ。真に姫に相応しいかどうか、最後に確かめさせてはもらえぬか...?」
「...分かりましたわ。いいわね、フィラデル?」
「...分かったよ」
こうして、一同は大広間から場所を移し、そこで姫とフィラデルの剣の勝負を行うこととなった。国王夫妻の他、団長をはじめとする騎士達や侍女らも見守る中、2人の真剣勝負が始まる。
激しく剣を交えるリーゼベルト姫とフィラデル。2人の勝負は長く続いたが、最終的に相手の剣を弾き、勝利したのは...またしても、フィラデルだった。
「そこまで!勝者、フィラデル・スノッド!」
騎士団長が高らかに宣言すると、場内に歓声が巻き起こった。
「...うむ。これで文句なしじゃな。フィラデルを我が姫の婚約者と認めよう」
国王も満足そうに頷いた。一方の姫は、茫然と立ち尽くしていた。
「...よかったの?」
「何が」
「貴女、わざと負けていれば私と結婚しなくてよくなったかもしれないのよ?」
「何を今更...。お前こそ、とっとと自分から負けりゃよかったんじゃねえの」
「そんな!お父様や騎士団長の目を誤魔化すなんてできないわ!」
「だったら俺も同じだ。...それに、嫌っつっても無理矢理結婚させられそうな強引我が儘姫、本気で嫌ならとっとと逃げてるよ」
「フィラデル...!」
姫はフィラデルの言葉に大変感動したようだった。だが、そのまま抱きつきたい衝動を抑え、言葉を続けた。
「じゃあ...貴女も私のことが好きなのね?お金目当てとか、そういうことじゃないのよね?」
「前の仕事でもそれなりの稼ぎはあったわけだし、金目当て(それ)はねえよ」
「私のことが好きなのよね?」
「だからまあ、嫌いではな...」
「好きなのよね?!」
「...」
しつこい、と一蹴したいところだが、国王含む宮殿中の者に注目されている中、流石にそうするわけにもいかない。困り果てたフィラデルは、大きく溜め息をつき、剣を床に置いて、姫の前に膝まずいた。
「...誰よりも傍で貴女を守り続けることを誓いますよ。リーゼベルト姫」
そうして、姫の右手をとり、甲に優しくキスをする。その様子に、またしても場内がどよめいた。
「...ちょっと!これじゃ愛の契りじゃなくて騎士の誓いじゃない!本当に私を愛しているの?!」
「...んな恥ずかしいこと、公衆の面前で言えるかよ」
いまいち不満そうな姫に、フィラデルは彼女にしか聴こえないような声で呟いた。
「...フィラデル!!」
「...っておい、やめろ!」
照れる(?)フィラデルにおかまいなく、リーゼベルト姫は愛しい婚約者に今度はぎゅっと抱きついた。
こうして、太陽の姫と雪の騎士は結ばれることとなった。