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誕生日の朝、目覚めた私に両親はとびきりのプレゼントを用意したのだと言い玄関のロビーに行くように促した。
「プレゼント? やったーー!!」
私は両親が期待したとおりにベッドの上で跳ね上がって見せ、寝巻きのまま勢いよく部屋を飛び出した。
少し我儘で無邪気な女の子の演技が出来ただろうか。プレゼントを見たらどんな反応をしようかと考えながら、1階へ続く階段を降りてゆく。
毎回喜ぶだけではつまらないから、時々は「もっと違うのが良かったのにっ!」と怒ってみせるようにもしている。
自分があまり子どもらしくない事を自覚してからは、周りの子ども達の仕草を観察して、よりリアルな演技を覚えた。少し我儘を言って大人を困らせる方が、可愛いげのある子どもに見える。
私は幸せなんだから、幸せな子どもらしくしなきゃだめなんだ。
そうしないと、家族が悲しい顔をしてしまうから。
胸の辺りがぎゅっと痛くなる。
玄関にやって来ると予想していた大きな箱も、リボンに包まれたおもちゃも置いてはいなかった。
あるのは、いや、そこに居たのは1人の男の子だったーーー
月明かりのように美しい銀髪に、色白で王子様みたいな美少年がぽつんと立っていた。
私が目の前に現れても眉1つ動かない。
ただ、ただ、美しい少年だった。
その美しさにおもわず見惚れてしまい、じっと顔を覗きこんで見た。
無礼な私の行動にも少年はぴくりとも動こうとはしない。本当は人形なのではないかと疑いたくなるほどだ。私を見ているようで、何も写していないかのような光りのない瞳に思わず、ドキッとした。
こんな瞳が死んだような子どもは初めてだった。
顔を近づけて観察してみると美しいだけじゃなく、少年がかもしだすミステリアスで仄暗い負のオーラの冷たさに益々興味が湧いた。
興味がある?
私が?
今まで感じた事のない感情に心臓がドキドキした。
ずっとこの美しい少年を眺めていたいと思うほど、初めて会った彼に私は強く惹かれてしまった。
「お誕生日おめでとう、ミロード。婚約者になるランスロットよ。気に入ったかしら?」
いつのまにか私の後ろにやって来た両親達がにこにこしながら私を見て言った。
ランスロット、それが美しい少年の名前。
そして両親が可愛いくて可哀想な私に用意した、最初で最後の婚約者ーーー
きっとランスロットは何かの事情があり両親に買われたに違いなかった。本来なら私の婚約者になるはずのなかった可哀想な男の子。
この子が欲しい!
何故かは分からないが、そう強く願ってしまった。
私はどうせ長くは生きられない。
結婚が可能な年齢までには死んでしまうのだ。
それなら、それまでランスロットと楽しい婚約者ごっこをして暮らすのも良いかも知れない。
ランスロットには可哀想だけど、それまでは私の婚約者でいてほしい。
どうしよう……わくわくが止まらない!!
あぁ、楽しいってこういう気持ちなのか!
体中がそわそわして、踊り出したくなるような興奮が抑えられない。
楽しいふりなんかじゃない、私は本当に幸せに満ちたりた赤い頬で彼に笑いかけた。
「私はミロード、私が死ぬまでランスロットは私の婚約者だからね」
彼の冷たい両手を握ると、ランスロットは静かにこくりと頷いた。
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