4. 少女時代②
「お祖父様、お祖母様、改めて本日から宜しくお願いいたします」
私がそう言うと、祖父母は満面の笑みで私の手をひいて、ソファに座らせた。
「ようやくエマとゆっくり話せるわ。これまで本当に大変だったでしょう?
エリオットも、あんな両親に育てられたからか、7歳にてすでに意地悪さの片鱗が見えていたわね」
「全くだ。ルイーズも、元々領地経営に興味を持たない奴だとは思っていたが、呆れたものだな。王都の中央貴族気分でやけにお高くとまっていたではないか。やはり中央貴族出の令嬢を妻に持ったから余計にその考えに拍車がかかっているのだな」
祖父母がそんなふうに両親や弟をこき下ろしている。
黙って聞いていた私を見て、ハッとしてバツが悪そうに言った。
「悪かったな、あんなでもエマにとっては両親であり、弟だ。悪く言われたら嫌だな。
いや、もちろん、わし達にとっても家族だからな、ただ残念で仕方ないだけで……」
「そ、そうですよ。あんなでもわたくしにとっても息子夫婦であり、孫でもありますからね。
エマがあまりに不憫で腹立たしかったものですから、つい……ね」
フォローしているようで、全然フォローし切れていない祖父母の言い訳を聞いて、思わず吹き出す。
「エマ、これからはここでのびのびと暮らせばいい。誰にも遠慮はいらんぞ。欲しい物があれば何でも買ってやる。何でも言いなさい」
「そうですよ。貴方の興味のある事はなんでも協力するから教えてちょうだい。好きな物を食べて、好きなだけ遊びなさい。今まで出来なかった分、思い切り弾けていいのですからね!」
お祖父様、お祖母様。
よほど私に関するひどい報告がなされていたのですね。
どんな報告が王都の執事からされていたのか、それがとても気になるわ。
「お祖父様、お祖母様、ありがとうございます。
せっかく領地で暮らす事になったのだから、今後は約束通り、領地について色々学んでみたいと思います。もちろん侯爵令嬢としても、しっかりと学んでいきたいと思っていますので、よろしくお願いしますね、お祖父様、お祖母様」
その私の言葉に、祖父母は満足気に頷く。
どうやら、元々祖父母は私が領地に来たら、そのまま引き取ろうと考えていたらしい。
だから両親と初めて来た時に、私だけ家族が住む二階の部屋に案内されたのだ。
こうして、私はあの家族から離れて領地で祖父母と共に暮らす事となった。
ベルイヤ侯爵領に住み始めてから半年立ったある日、お祖父様に連れられて、ブルーダイヤが採れる採掘場のある鉱山に行く事になった。
この世界にも春夏秋冬の季節がある。
鉱山は冬場は、足を踏み入れるのが危ないくらいに雪が降りつもる。
だから冬の間に、違う事業をして領地を支えているのだ。
そして、ようやく雪解けも終わり、安全が確認された今日、また始まる鉱山の採掘現場を視察しようと考えたらしい。
私はお祖父様と一緒に、鉱山の採掘場に向かった。山道でもスムーズに走れる魔道式馬車に乗って。
「お祖父様、この馬車凄いですね! この山道を平坦な感じでスイスイ走っていますよ!」
感動した私は、やや興奮気味にお祖父様にそう言う。
「ああ、わしの魔法もこの馬車に沿って使っているからだな」
お祖父様の魔法は、引力を自由に操る力があるそうだ。
なかなか珍しい魔法らしく、使える要素も限られてくるが、使いこなすととんでもない戦力として、1目置かれているらしい。
そんな感じで、スイスイと急斜面も馬車で難なく走りこなせ、現場まで思いの外、早く着いた。
「あ! 領主様!」
鉱山の採掘場の管理者がいち早くお祖父様に気付いて、駆け寄って挨拶にくる。
「今日から採掘が再開すると聞いてな。
様子を見に来た。どうだ? 中の様子は」
「はい。雪解けの際に起こる土砂崩れなども最小の範囲で鎮まっており、中の採掘場に影響は見られません」
祖父の質問に現場の管理者が答える。
そして、ふとその管理者が私を見た。
「ああ、この娘は我が孫のエマだ。我が家に滞在してから初めての鉱山採掘だから、一緒に連れてきたのだよ」
視線に気づいた祖父が私を紹介してくれた。
管理者の人と挨拶を交わし、採掘場に祖父と共に入る。
採掘現場は、魔法で周りや道を地固めし、少しづつ採掘場所の硬い土を砂状に魔法で変えていきながら、鉱物を傷つけることなく掘り出している。
ここで勤めている人は全員が土魔法が使える人達だそうだ。土魔法でも砂に変えられないものが鉱石なので、とても分かりやすく見つけやすい。
魔力は使うが、体力はそれほど使わずに採掘出来るといった、何だか私が想像していた過酷な採掘現場とは程遠い穏やかな現場だった。
祖父が現場で色々と作業場の人や管理者の人と仕事の話をしている間、私は一旦採掘場を出て、近くの森を散歩していた。
そこでこれからの人生の転機を迎える出会いがあるとも知らずに……。