24. エマの力
「ねぇ、グレイ。宝玉って、今もアリアが持ってるよね?」
「多分?」
「グレイも戻ってきたし、一刻も早く宝玉をアリアから取り戻さないといけないでしょ?
どうすればいいと思う?」
「あの宝玉は、下界に来てから姿を変えている。我にはあのお茶会の時には、ただの赤い魔石にしか見えなかった。本物の宝玉だと見分けがつくエマに判断してもらわないと、我一人ではアリアの部屋に入っても探せないからな」
そうなのだ。
グレイなら姿を消してアリアの部屋に入れる。
そうすれば簡単に宝玉を取り戻せると思ったのだが、アリアの部屋には似たような赤い魔石がいくつもあったそうで、見分けがつかなかったらしい。
しかも、盗難防止魔法も掛けられていて、触れた拍子に警報がなったそうで、慌てて逃げ帰ってきたのだ。
グレイ。やはり、どこか抜けてるところは、さすがはラケシス様の御使いといったところか。
「私はアリアに警戒されてるしなぁ。
そもそも私は聖属性しか使えないから、魔法で探しに行く事も出来ないし……」
私がそう話していると、グレイは微妙な表情で私を見る。
「なに?」
私がそう聞くと、グレイは呆れた表情をする。
「まさかとは思ってたんだ。でもそのまさかなのか?」
「何が?」
グレイはため息を吐いた後、私に質問してきた。
「なぁ。お前、魔力はいくつだ?」
「え? ああ、この前の魔力測定では38に上がってたわよね。アリア様は46になってたけど!」
「……アリア嬢は聖属性と火属性だよな。お前は?」
「何馬鹿な事を今更聞いてくるのよ。私は聖属性……」
あれ? なんか私、忘れてない?
「魔力測定の度に、魔法で改ざんしてきたのだが……まさか、本当にそう思い込むとは……」
ん……? 改ざん?
あ────!!
「初めて魔力測定した時はもっといっぱい魔力と属性があったよね!? あの時はグレイが確かに改ざんしたけど……。
でも、おかしいじゃない!
グレイが居なくなった後も、学園で何度も測定する機会があったのよ!
なのに、ちゃんと変更された数値と属性になってたのは、どういう事!?」
慌てる私にもう一度グレイは大きくため息を吐く。
「俺が戻れない間でもエマの力が無闇にバレないように、測定値を変更出来るように魔法をかけておいたんだよ。
でも、本当にその数値を信じこんでいたとは思わなかった」
「じゃあ、今の私の本当の魔力は!? 属性は!?」
そう叫ぶ私に、グレイは仕方ないなというように、首を横に振る。
「今日の夜、学園内にある魔力測定器に乗れ。夜なら誰もいないからバレないだろう」
そうして私とグレイは夜遅く、学園に行く事になった。
学園から帰宅後、家で父母と弟だけが楽しそうに話している中、黙々と食事を終え、早々に自分の部屋に戻る。
入浴を終えた後ベッドに入り、みんなが寝静まるのをジッと待つ。
夜も更けて来た頃、久しぶりにケット・シー姿になったグレイが私の部屋に入ってきた。
「準備はいいかにゃ?」
「ええ、行きましょう!」
私とグレイは静かに屋敷を抜け、予めグレイが用意していた目立たない馬車に乗り込んだ。
「グレイ、その姿のまま行くの?」
私が聞くと、グレイは嫌そうな表情で背中を丸めて座席に座っている。
「万が一誰かに見られた時、こんな夜更けにお前が男と一緒にいるのはマズイだろにゃ」
「あ、そうね。ありがとう、グレイ。余計な心配かけちゃったね」
「ふん、今更だにゃ」
グレイはそっぽ向きながらも、しっぽは揺れている。
分かりやすいグレイの久しぶりのケット・シー姿に癒されるばかりだ。
そうこうしているうちに、学園に辿り着く。
グレイと共にこっそり学園に入り、魔力測定器のある場所に向かう。
魔力測定器は、魔法学の教室に置かれている。
年度末に毎年魔力測定を行ない、実力が上がっているかを確認するのだ。
「さぁ、エマ。乗ってみるにゃ」
「うん」
そうしてそっと体重計のような魔力測定器に乗ってみる。
【⠀魔力: 206 】
【⠀属性: 聖 】
【⠀属性: 光 】
【⠀属性: 空間 】
【⠀属性: ? 】
そこには有り得ない数値と属性が記されていた。
「魔力206!? 属性が4つ!? え…………何これ」
私が驚いていると、グレイが測定器の画面に記された表記を見ながら言う。
「改ざんしないと、これが表立ってしまうにゃ。
でも、まさか本気で忘れていたとはにゃ」
「うっ……。すみません」
私はその表記を見ながら、ふと気になる事を聞いた。
「ねぇ、12歳の時も思ったんだけど、この? 属性は何?」
そういえば、前にも聞いたけど結局答えを聞きそびれてたんだった。
「それは、ディオーネ様からの贈り物属性だにゃ」
「ん? この属性だけディオーネ様からなの?」
「あぁ。お前、転生する前にお願いしたんだろ? 困らない程度の能力が欲しいってにゃ。でも具体的な希望がなかったからと、お前が必要だと思う魔法が使えるようにって、それを授けたんだにゃ。それはいわゆる、想像魔法だにゃ」
「想像魔法!?」
「そうだにゃ」
ちょっと待って。まさかそれって、私が考えた事全てが出来る魔法なのでは?
「凄いじゃない! 何でもっと早く教えてくれなかったの!?」
私が食いつくようにそう言うと、
「忘れてたくせに何を言ってるにゃ」
と、呆れた目でグレイが言ってくる。
でも、これは凄い!
想像するのは得意よ!
前世ではベッドの住人をしながら色々と想像していたし、携帯で色々と異世界ものの漫画も楽しんでいた。
ここは定番のあれを使う時では!?
「グレイ。帰りの馬車はいらないわ」
「ん? どうやって帰るんだにゃ?」
「ふふふ。もちろんテレポートよ!」
「テレポートにゃ?」
「まぁ、見てて」
初めて使う魔法だ。
万が一って事もあるから、私はまず、今の位置から魔法学教室のドアまで一瞬でテレポートする事にした。
まずは心の中で行きたい場所を思い浮かべる。
そこに辿り着いた自分を想像しながら魔力を動かす。
魔力測定器の近くに立っていた私は、次の瞬間、魔法学教室のドアの前まで移動していた。
「ほぅ! それは凄い便利な魔法だにゃ!」
「でしょう? これで家の私の部屋まで飛んでみるわ」
「距離があるけど、大丈夫かにゃ?」
そう言われると少し怖いが、夜中にまた馬車に乗って見つからないように戻るほうが恐い。
「だ、大丈夫! 何とかなるわ!」
そう言って頭の中で自室を思い浮かべ、そこに戻る自分を想像しながら念じる。
すると次の瞬間には自室に戻っていた。
「やった。成功だわ!
これで宝玉も探しやすくなるわ!」
それに、ヒールの時に放った無詠唱。
あれは本来の私のヒールだ。
そうよ。目立たないようにしていたけど、世界の一大事も懸かってる。
なら、もう遠慮なく魔法を使ってもいいんじゃない?
悪役令嬢、上等だ!
静かな生活はとっくに諦めているもの。
宝玉を回収し、大好きな魔法を色々試しながら面白可笑しく長生きしてやるわ!




