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2. 誕生

 ここはサンタベルグ王国にあるベルイヤ侯爵邸。

 そこで1人の女児が生まれた。

 

「……女か」

 

 ここの主であるベルイヤ侯爵は、生まれた赤子を見てそう言うと、興味を失ったように自分の執務室に戻った。

 その言葉を聞いた途端に、たった今自分が産んだばかりの赤子に向かって、その母親は憎らしげに睨んだ。

 

「旦那様の希望は男児だったのに! 何故お前は女に生まれたのよ!」

 

 そう言うと、母親であるベルイヤ侯爵夫人も赤子に興味を無くしたように背を向ける。

 

「とっとと、その子を乳母の所に連れてってちょうだい」

 

 侯爵夫人の言葉に、使用人達は気の毒そうに赤子を見て、粛々とその命令に従った。

 

 

 

 

 

 その女児はエマと名付けられた。

 

 そう、エマ。 恵美と1字違い。

 

 これが今世の私の名前だ。

 

 前世の記憶を持って生まれた私は、生まれた時の両親の言葉を聞いていた。

 

 まぁ少しショックだったが、家族の事まで女神様にお願いしてなかったし、私の母は前世の母だけだという気持ちが強いので、逆に割り切れるかなと思った。

 実際、今世の両親は私に興味がなく、滅多に顔を見せないが、今世の家はどうやら貴族の家で使用人が沢山いて裕福だし、私を育ててくれる乳母のアリーも優しい。

 周りの人に恵まれて、衣食住にも不便がないので、私としては文句はなかった。

 そして、なんと言っても健康な身体を手に入れたのだ!

 生まれてから1度も熱を出して寝込むどころか、風邪1つ引いたこともない。

 ちょっと走ったくらいでは息切れもしない。

 危ないから走ってはいけませんと、その都度叱られるが、嬉しすぎて叱られても走ってしまうのだ。

 

 また、食事もとても美味しい。

 乳児の時は乳をよく飲み、離乳食から始まって、普通の食事が出来るようになった頃には嬉しくて涙が出た。

 前世では、ほとんど口から食べられず、点滴で栄養補給をしている状態だった私は、今世では出された物が全て珍しく、残すなんて選択肢は持っていなかった。

 アリーからは、「よくそんなにお食べになられますね……」と、呆れた目で見られたが、そんなの知らない。

 普通に物が食べられる有難みを、心から感じて食べているだけよ。

 

 

 そんな感じで、すこぶる健康で元気にすくすくと育った私は10歳になっていた。

 

 

 そして私には3歳下の弟がいる。

 両親の念願の男の子なので、それはそれは大切に育てられている。

 

 ちなみに、弟も父母の影響で、私とは仲良くない。というか、弟が勝手に私を見下しているから、あまり関わらないようにしている。

 

 

 その弟が7歳となり、いずれは跡を継ぐ事になる領地を見に行こうという話になり、王都より馬車で3日かけて領地に来た。

 もちろん私は来るのは初めてだ。

 

 

 

 領地に着くと、前侯爵夫妻、つまり私や弟にとっては祖父母にあたる方と初めて会った。

 

 

「父上、母上、息災で何よりです」

 

 領地の屋敷に着いた父が祖父母に、そう挨拶する。

 

 祖父は深緑色の髪に、髪色を少し薄くした翡翠色の目。年齢を感じさせないガッシリとした体躯の長身で高潔な感じを受ける。

 

 祖母はラベンダーピンク色の髪を緩やかに纏め、アメジスト色の目は切れ長。こちらも年齢を感じさせない絶世の美人だ。

 

 ちなみに、私の色も祖母と同じ。だから初めて祖母を見た時はとてもビックリした。

 私も将来は祖母のように絶世の美人になるのだろうか。

 そう考えるととても嬉しい。

 

 そして、もう1つ分かったこと。

 祖母と母の折り合いは良くない。

 きっと、私が祖母に似ているから余計に私の事が疎ましいんだろうなぁと、妙に納得してしまった。

 

「お義父様、お義母様、ご無沙汰致しております。 

 紹介致しますわね。こちらが将来この侯爵家を継ぐ嫡男のエリオットでございます。

 大変聡明なので、お義父様やお義母様もご安心頂けると思いますわ」

 

 

 そう言って、ひとしきり弟の自慢話をする。

 

「貴女は相変わらずですね。娘は紹介してくれないの?」

 

 冷たい視線を母に向けながら祖母はそう言った。

 

「あ、ああ、そうですわね。エマ、こちらに来なさい。この娘が長女のエマです。さ、挨拶なさい」

 

 何とも素っ気ない紹介を受けて私は祖父母の前に立つ。

 

「初めてお目にかかります。エマ・ベルイヤと申します。お祖父様、お祖母様にお会い出来て、大変嬉しく思います。よろしくお願い致します」

 

 カーテシーと共にそう挨拶をした私に、祖父母は優しく迎えてくれた。

 

 

「ああ、宜しくな。何もない田舎だがゆっくり寛いでくれ。長旅で疲れただろう?」

 

「ええ、そうね。食事の準備まではまだ時間はあるわ。各自部屋を案内させるから、それまではお茶を飲んでゆっくり休んでね」

 

 祖父母に迎え入れられ、各自部屋を案内してもらう。

 父母や弟は1階にある客室の方に案内されたが、私は家族の部屋がある2階の部屋に案内された。

 

「?」

 

 不思議に思っていると、私の部屋に案内してくれた祖母が優しく声を掛けてくる。

 

「エマ、貴方のことは王都の屋敷にいる執事から報告を受けているわ。

 全く馬鹿な息子夫婦のせいで、貴方への扱いがとても悪いと聞いた時は本当に腹立たしかった。

 貴方を引き取ろうとも考えたけど、貴方はその環境にも屈する事無く、誰にでも優しく接していて勉強も頑張っていると聞いています。

 私達はとても誇らしく思ったのよ」

 

 そう言って、私を優しく抱きしめてくれた。

 

「さぁ、ここが貴方の部屋よ。お茶を飲んでゆっくりしていてね。私のお茶は美味しいのよ。

 また後でお話しましょう。貴方のお祖父様も貴方と会ってお話するのを、とても楽しみにしていたのよ」 

 

 そう言って魔法でポットにお水をいれ、瞬時に沸かす。そして一緒に来ていた私付きの侍女のマリーに託し、お祖母様は部屋を出ていった。

 

  

 この世界には魔法が存在する。

 魔法は、魔力が安定してからでないと教えて貰えず、12歳になったら教会で魔力検査を行い、適正魔法を調べてから、それに沿った魔法を学ぶそうだ。

 

 どうやら祖母の適正魔力は水属性のようだ。

 

 まだ10歳の私は、早く自分の適正魔法が知りたいとワクワクしていた。

 

 

 

 マリーは、乳母のアリーの娘だ。歳は私より8歳年上の18歳。学園を卒業後、アリーの代わりに私付きでメイドとして侯爵家に就職した。

 アリーは引退して、今は家でゆっくり過ごしているそうだ。

 

 

 お祖母様が用意してくれたお茶は、今までで一番美味しかった。茶葉は王都の家の物と同じなので、やはり祖母の出してくれた魔法の水のおかげだろう。

 ホッと一息入れて、夕食まで私はゆっくりと過ごした。

 

 

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