13. 母からの呼び出し
騎士団への治癒魔法練習を兼ねた見学は、あれからも時々行なっていた。
第2騎士団長に絞られたのか、あの日以降はそんなに救護室に駆け込んでくる団員の数も減り、おかげでゆっくりとアストナ先生に指導を受けながら治癒魔法の練習が出来ている。
暫く騎士団の練習参加を禁止されていたオリバーも、復活後は真面目に取り組んでいるようだ。
休憩時間は必ず私に、にこやかに話し掛けてくるけど……。
今日は授業はないので、部屋でゆっくりお茶を飲んでいた。
私付きのメイドのマリーも、もちろん私と共に王都の屋敷に戻っており、今も変わらず私の世話をしてくれる。
「お嬢様、お寂しいのではありませんか?」
マリーにそう言われて、首を傾げる。
「どうして?」
「だって! 領地ではあんなにお嬢様の傍に居たグレイ様と会えないから……」
あ、そうか。マリーもグレイが姿を消して付いてきている事を知らなかった。
「そ、そうね。うん、でもきっとグレイは元気にしていると思うよ」
「そりゃ、幻獣様だからお身体はお元気だとは思いますが……」
うん。マリーもグレイの事、大好きだったもんね。いつもこっそりお菓子をあげてたの、知ってるよ。
「大丈夫だよ。グレイの事だからその内こっそりと会いに来てくれると思うよ」
「そうだといいですねぇ。本当にグレイ様は見ているだけで、有難い存在でしたから」
グレイはきっと何処かでこの会話を聞いているだろうな。
案外ツンデレだから、今頃照れながらも、そっぽ向いて何処かで丸まって寝ているだろう。
そう思うと自然と笑いが込み上げてくる。
そうしてお茶を楽しんでいると、珍しく母が呼んでいると母付きのメイドが私に告げにきた。
何だろう。
本当に珍しい。
不思議に思いながら、私は母の待つリビングに向かう。
「お母様、お呼びだとお伺いしました」
母は、そこでお茶会に招待された封筒を数枚取り出し、私に見せてきた。
「貴女ももうすぐ学園に入学するのですから、ベルイヤ侯爵家の娘として、他の貴族の方達と顔合わせくらいはしておかなければなりません。
選定しておきましたので、これらのお茶会にわたくしと共に参加しますよ」
そこには、公爵家や同じ侯爵家、伯爵家からの数枚の招待状があり、更には王妃様からの招待状まであった。
「お茶会用のドレスは最近作ったドレスが何枚かあったわよね。後でもう何枚か作るから、商会が持ってきているデザイン本からデザインを選んでおきなさい」
あぁ、道理で最近急にドレスを数枚新調したのね。珍しいと思ってたのよ。
「分かりました」
私は返事をした後、デザイン本を部屋に持って帰り、何枚かデザインを選んだ。
流石にお茶会デビューを学園前にさせなければと思ったのだろう。
しかし、母と2人で出掛けるなんてした事がないから気が重い。
「はぁ~」
思わず溜め息をこぼしてしまった。
『貴族とは大変だなニャ』
今はマリーが席を外している為、グレイが姿を現して直接話しかけてくる。
「母と2人で出掛けるのが何より気が重いのよ」
机に突っ伏した状態でグレイに返事した。
『それよりも、その中に王妃主催のお茶会があるニャ。
きっとそこに、例のヒロインや恋愛対象者が集まるだろうニャ』
「あ、そうか。学園入学前に1度会っちゃうのか」
『ちゃんとヒロインの様子を見ておくんだニャ。
きっと宝玉は肌身離さずに持っていると我は考えているニャ。
もしチャンスがあれば早めに奪い返すに限るからニャ』
グレイは物騒な事を平然と言っている。
そんな簡単に奪い返せるなら、そっちで見つけて早く返してもらってほしい。
ビー玉サイズの宝玉なんて、身体に身に付けていたとしても、そう簡単に見つけられる訳ないじゃん。
そんなふうに考えていると、マリーが戻ってきてドアをノックした。
『我はまた消えるニャ』
そう言ってすぐにグレイは姿を消す。
それを確認してからマリーに返事をした。
「お嬢様。誰かと話しているような声が聞こえましたが?」
部屋に入ってきたマリーが、不思議そうに部屋の中を見回しながら話しかけてくる。
「独り言をつい言っちゃってたのよ。
母とのお茶会参加が気が重すぎて」
私の言葉にクスッとマリーは笑う。
私と母との関係を知っているから、マリーはすぐに納得してくれた。
「確かに奥様と一緒にお出掛けだなんて、今までに無かったことですものね。
お嬢様、大丈夫ですか?」
「ええ。何とか乗り切るわ。お茶会は王妃様主催のもあるから、ドレスの新調をするの。他のお茶会もドレスが重ならないように準備しといてくれる?」
そう伝えると、マリーは気合いを入れながら頷く。
「勿論です! 腕が鳴りますわ!
お嬢様はあまり着飾らせてくれないのですもの!」
今まで他家に出向く事も、何処かに出掛ける事もなかったから、着飾る必要がなかったのよね。
この前の騎士団の見学はあくまで治癒魔法の練習だから、逆に動きやすい服装でないといけなかったし。
「マリーの腕にかかってるのよ。よろしくね」
そう言って、お茶会に向けての準備を行なう事にした。




