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初戦闘

 あくる日。町の宿に泊まっていた二人とともに、西を目指しながら歩いていた。もう少し大きな町に出れば、大型馬車に乗ることも可能だろうから、少しの辛抱だ。


「なあ、それだけ強いんだったらアンタ、相当良い精霊が宿ってるんじゃないか?」

「精霊ね。僕、何故かわからないんですが精霊が宿らないんです。」


 精霊とは簡単に言うと、世界における魔力の塊みたいなものだ。魔力で構成されている生き物で物理的な実体はない。それぞれが意思を持ち、人に宿る。人に宿ると、その人の戦闘を助けたり、魔力を分け与えるなどしてくれる。逆に、精霊も人に宿らない場合には魔力を新たにつくることができず、数年で消えてしまう。そのため、精霊と人間は、奇妙な共生関係にあるといえる。


「あんちゃん、そんなに強いのに精霊が宿っていないって、マジかよ…。あり得ない。精霊を召喚したりしたことはないのか?」

「あるんですけど…。」


 俺も寮にいた時、精霊について教えられて興味を持ち、精霊を召喚してみた。精霊は低級なものなら割と簡単に召喚でき、場合によってはその場で宿ってくれることもある。しかし、召喚に成功したのに宿ってはくれなかった。精霊はテレパシーのようにして会話が可能なので、理由を聞くと、「宿ることを拒絶されている」とのことだった。俺はそんなつもりは全くなかったが、体は無意識下に拒絶したのだろうか。その話を彼らにすると、


「それはあんちゃんの体により強力な精霊が宿ってるからじゃないか?」

「いやいや、精霊ってのはたいていあっちから話しかけてくれるから宿ってるならすぐにわかるだろ。この世の半分の人は精霊を宿せない体質なんだから、ベティスもそうなんだろう。」


 と議論し合っていた。本当に精霊を宿せない体質であれば、戦闘においては不利だろうから、その点については心配だった。


「でも、国家戦力に指定されるような奴には、たいてい精霊が宿ってるけどな。」

「そうなんですか?」

「知らないのか?精霊には様々な種類があるし、精霊内にもヒエラルキーが存在している。最も強い魔力を持っているのが五神精霊。次点が七聖精霊。次に十三大精霊だ。もっと序列自体があるけど、この辺りの精霊を持っている奴らが一般的には『国家戦力』と指定されているよ。あんだけ強いんだから、何かしらの精霊がアンタにも宿ってると思っていたが…。ないんだったら国家戦力指定は無理かねえ。」


 そんな生まれた時の才能ゲーだったとは。何とも理不尽だ。別に国家戦力になりたいと強く思っていたわけではないが、その響きに多少憧れていた節もあったので残念だ。



=====



 午後すぎ。早く王都に着きたい思いもあって、若干早歩きをしているとついにラウド領を抜けて隣のエーデル家領に入った。

 その後も他愛もない話をしながら歩いていると、後ろから並々ならぬ気配を感じた。


「あんちゃんも感じたかい?ヤバいよこりゃ。」

「これは魔物…、ではないですね。人間の部隊のようです。」


 歩みを止め、気配のする方を警戒する。すると、凄まじい速度で短剣が飛んでくる。俺は腰から滅多に使わない剣を抜き、短剣を弾き返す。よく見ると短剣の柄は魔力でできた糸のようなものが結ばれている。これで鎖鎌のように短剣を操る戦闘を行う相手のようだ。


「ありゃりゃ…、見切られちゃったか…。ケヒヒヒ」


 魔力の糸を手繰り寄せ、手に短剣を持った男は笑いながら短剣を舌で舐め上げる。


「うわ…、何あれ気味悪い…。」

「相手にしたくないな、あんなの。」


 冒険者の二人もドン引き。二人とも【身体強化Ⅴ】【思考強化Ⅳ】を付与して構える。


「俺はコードネーム・ヒュー。訳あってお三方、始末しちゃうよぉ~~~!」


 スキンヘッドに悪趣味な豹のような刺青を頭に入れた男は、一気に懐へと入り込み、斬り込んでくる。と、同時に後ろから彼の部下と思われる黒ずくめの兵士が10人、俺たちに襲い掛かってきた。圧倒的に数的不利だ。


「お二人はそいつを頼みます!」


 俺はヒューと名乗った男を二人に任せ、上に飛んで奴の部下たちを迎撃する。衝撃弾を作り出し、連続で奴らに投げつけるが、中々すばしっこく当たらない。奴らもただの有象無象の雑魚ではないようだ。10人中2人には当たったが、それ以外はこちらに向かってきている。

 一方で、二人も中々厳しい戦いを強いられている。相手は相当な手練れのようで、いとも簡単に二人を圧倒して見せる。


「ありゃりゃ、どうしちゃったの?そんなんで冒険者名乗っちゃダメじゃないのぉぉぉ?」


 剣で迎撃する二人に対して、ヒューは短剣を二本用いて素早く攻め立て、反撃の隙を全く与えない。辛うじて二人いるからこそ持ちこたえているが、一人ずつだったら3分と持たずに死ぬことになっていたかもしれない。俺は冷静に状況を分析し、二人に指示を出した。


「お二人、一旦下がって下さい。俺が何とかするので。」

「「了解!」」


 流石に俺の実力を少しは理解してくれたようで、俺の指示に反応して後退。追撃しようとするヒューに対して上から衝撃弾を撃ちこんでけん制する。簡単にかわしたヒューは、浮遊する俺に地面を蹴り、ジャンプして突っ込んでくる。指南役にも言われたことがあるが、俺の長所は高い思考強化にある。反応速度が速く、細かい技術に長ける。ヒューのような難敵にはこういった思考強化の差を使った戦闘が必要だろう。10年以上前の対人戦の記憶を必死に探り、俺は次の行動を決めた。

 俺は衝撃弾を足から放つことによって急加速できる。これを応用し、ヒューが近づいた時に急加速。一気に懐に入ってすれ違いざまに拳を腹に入れた。もちろん、衝撃波を纏ったパンチ。ヒューもこれにはたまらず血反吐を吐く。

 だが、迫ってきていた彼の部下たちがヒューの背後から俺に剣を振るった。ガードするも間に合わず、腕で剣で受け止める格好になった。流石に身体強化をつけていても、剣を受け止めるのにはダメージを伴う。さらに部下たちは俺の腹を剣で刺す。

 すぐに体勢を立て直したが、流石に腹に剣が刺さったのは体に相当なダメージをもたらす。身体強化で緩和されてはいるが、相当痛む。初めてここまでのダメージを負った。


「おい、大丈夫か!?」


 エリスとマクロンが駆け寄ってきて構えるが、極めて不利な状況と言わざるを得ない。若干ダメージを負ったヒューと部下8人。こっちは相当なダメージを負った俺と俺より恐らくは弱いランク6の冒険者二人。ヒューの部下たちは一人ずつやれば確実に勝てる相手だが、それでもエリス・マクロンよりも若干弱い程度の実力はある。この人数では厳しい。それに、ヒューは言うまでもなく強敵だ。

 魔法で応急処置はしたが、完全に血も止まっていない。このままではじきに俺も動けなくなりかねない。俺は無理にでもこの展開を打開するために、適正ではないため体に過剰な負担がかかるが【身体強化Ⅶ】を付与。攻撃に打って出た。今まで、身体強化などについて〇までしか使えないなどと表現していたが、実際には魔法さえ使えれば、最大である身体強化Ⅹまで誰でも使える。しかし、体の強度、魔力量などによって実質的な制限が設けられる。俺も身体強化Ⅹを使った場合、10秒と持たずに意識がなくなるだろう。Ⅶは辛うじて使える最大火力になる。明日動けなくなるかもしれないが、死ぬよりマシだ。

 身体強化Ⅶを付与し、足から衝撃弾を放って衝撃で前進。思考強化Ⅷをつけている俺の動体視力でもついていけなくなりそうな速度でヒューたちに迫った。剣も抜き一気に斬りかかる。


「おいおい、何だよこのスピード!聞いてねえよ!」


 ヒューは動揺しながらも剣を構え、剣と剣がぶつかり合った。剣には衝撃波を纏わせてある。そうではなくとも異常なスピードで突っ込んでいるので、ヒューはぶっ飛んでいく。ぶっ飛んだ隙に部下たちを戦闘不能にしていく作戦だ。

 それを察した冒険者の二人も剣を持って部下たちに斬りかかり、乱戦に。俺は痛む腹に堪えながら、二人を殴り飛ばしてノックアウトさせ、さらに一人を叩き斬った。だが、それでも数的不利は変わらず、後ろから足を斬られ、前傾姿勢になったところを前から水魔法【水龍】を撃たれ、俺の体は宙を舞った。水龍の威力は凄まじく、もう立ち上がれなくなった。

 二人は慌てて駆け寄ろうとするが、足止めされて動けず。俺も後はとどめを刺されるだけ…。という状態だった。


「ちょうどいいや。生け捕りにしろって言われていたしな。都合がいいや。」


 俺にぶっ飛ばされたヒューも戦線に復帰。戻ってくるなり都合がいいなどと言いながら俺の方に近づいてくる。生け捕りにしろと言われた?都合がいい?どういうことなのかと頭が混乱する。思考強化Ⅷも切れてきた。そろそろ限界が近い。

 あの時不意を突かれて刺されることがなければこんな戦い方はしていなかったのに。冷静に判断できていたら、距離をとって衝撃弾を撃ちまくる戦法も採れたし、何なら二人を抱えて衝撃弾ブーストをかけまくって逃げ帰ることも可能だった。その判断ができなかったから俺は何も成せないまま、辺境で護衛を10年だけした男として幕を下ろす。客観的に見ても不憫としか思えない人生だった。


『力を貸してやろうか。』


 ヒューがゆっくりと近づく足音が聞こえる中、死にかけているからかそんな声が聞こえる。何でこんな声が聞こえるんだ。これから死ぬってのに。


『お前は死なねェよ。さっきも奴が言ってただろ、生け捕りにするって。死にかけだからマトモな思考もできねえか。カッカッカッカッカ』


 妙にはっきり、頭の中で響き渡る声。以前精霊と話したときに酷似している。


(誰かわからないが、力を貸してくれ。)


 力を貸すように希った。こうなれば面目も何もない。だが、声の主は何かを発見したように、


『少し事情が変わったようだ。俺の出番じゃねえな。』


 と言って、音信不通になった。いくら話しかけてももう応答はしてくれなくなった。だが、代わりに声が響き渡った。


「おいお前ら。何大人数で弱い者イジメしてやがる?」


 その場が凍り付いた。仰向けになっていた体を起こすと、茶髪で長髪。20代に見える好青年が悠々と歩いてきた。


「お、お前は…。6番隊の…フェルディナンド…。」

「いかにも。休暇だから自領に帰ってきたらこれか。全く…、どこのどいつかわからんが、この私が成敗してくれるわッ!」


 ヒューすらも恐怖する彼は何者なのかわからないが、加勢してくれるようだ。


「今日は槍がないが、君らごとき素手で十分だろう!」


 フェルディナンドはそう言い放つと、加速してヒューに接近。ヒューに裏拳をお見舞いした。ヒューも相当ダメージを負っているようで反応できず、吹っ飛ばされる。


「そこの冒険者の二人!邪魔になるからそこの倒れている人と一緒に後退しなさい。」


 その隙にフェルディナンドが二人に指示を出し、二人は俺を担いで撤退。それを妨害しようとしたヒューの部下5人を足止めしてのけるから驚きだ。

 俺たちが十分な距離まで離れると、フェルディナンドは真の実力を見せる。


「さて君たち。何者か知らないが、お別れを言っておこう。雷魔法【雷霆の雨】!」


 フェルディナンドの詠唱後、広範囲に雷が降り注ぐ。雷がやむと戦っていた草原一帯が焼け野原に変わり果てていた。ヒューの部下たちは、辛うじて防御魔法で耐え忍んだ者もいれば、地面魔法で何とか無傷だった者もいた。ヒューを逃がすために魔法を使って自分の守りが追いつかず、死亡した者もいたようだった。


「あらら、意外と耐えた…。けど、もう戦意喪失しちゃってるかなあ。」


 フェルディナンドは残念そうにそう言うと、残っている者たちを捕縛しようとする。彼らは捕縛後、尋問されることを恐れたのか。その場で舌をかみ切ったり、魔法を使って自害した。この異様な光景にはフェルディナンドも、冒険者の二人も眉をひそめた。



=====



「なるほど。生け捕りの指示、11人の部隊…。黒ずくめ…か。少なくとも王国軍は関与していないが、ではどこの部隊だろうか。」

「帝国軍や公国軍では?」

「そんなピンポイントで彼を狙うだろうか。彼はだって、君らが発見した逸材なんだろ?」


 重症の俺を担ぎながら、三人はそんな話をしている。話を聞く限り、フェルディナンドは王国軍最高幹部にして『国家戦力』。雷を操る十三大精霊を宿す身であり、王国軍第6番隊隊長も務めている。極めて優秀な武人だ。国家戦力に指定されるような彼と遭遇してしまったヒューたちは不運であったと言えるし、俺は本当に幸運だった。


「にしても、彼ら相手に善戦したのだから、君は本当に優秀なんだろうね。」


 担がれている俺の顔を覗き込んでフェルディナンドは言った。やや傲慢なようにも見えたが、しっかり相手の戦力を分析したうえで、あの大技を使ったのだろう。


「いや。そんなことは…。まだまだです。」

「死にかけるような経験は今後の努力の糧になる。王国のためにも頑張ってくれたまえ。」


 エールまでくれた。意外にも優しいのだろうか。


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