そうめんのように流されていく俺の人生
俺は凡人なのになぜこうなった……?
「藤波はやっぱ中太ちぢれ麺なんだろー?」
俺はそれしか食べたことがない。
「あ、俺はストレート麺のやや細めで頼んます」
とオーダーされた。
俺は“ラーメン通、かつ『中太ちぢれ麺』が好き”という設定になった。というかされた。
あの日同僚とラーメンで〆るべく繰り出した。
俺はなんとなく「中太のちぢれ麺がいいなぁ」と言っただけなのに……。
なぜだろう?
特にラーメン通でもない。
ラーメン通ならば週に1度はラーメンを食べて然るべきだが、どっちかというと、カップ麺に世話になる独身サラリーマンがラーメン通気取りであちこち食べ歩きなどできない!
ラーメンよりもソバの方が好きだし。外で食べたときに出てくる蕎麦屋の蕎麦湯が大好きだ。
かといって特にソバ通ではない。自分が気に入った蕎麦屋にしか入らないし、一人ソバがいい。
別に中太ちぢれ麺が嫌なわけではない。勝手に注文されるのは腹立たしい。他の麺も食べてみたい。その上でどの麺が自分は好みなのかを判断したい。
……と言うのに。
しかも悪いことに俺が……この俺がメディアで取り上げられるようになった。なぜだろう?
よって外食だろうとなんだろうと中太ちぢれ麺のラーメンを食べなくてはなんだかキャラクターなるものが保てないようで実に面倒くさい。
本っ当に食べたことがないだけなのに俺はうまいラーメンから見放されている気がする。
いっそのこと手打ち……いやいや一介のサラリーマンにそんな時間はありません。昔、テレビで言ってたなぁ『24時間戦えますか?』何と?無理。死んでしまう。
テツヤも辛い年齢になってきたというのに、無理に決まってんだろって!
あー、流されてんなぁ。俺。上司に逆らえないし、仕方ないかなぁ?
突然テレビでカミングアウトすればよくねー?……よなぁ、やっぱ。
子供の夢を壊してしまう。
翌日同僚と昼食に出た。
「藤波、いっつも中太ちぢれ麺だもんな。たまには違うの食わねーの?」
元凶お前だよ!お前のせいで、麺も選べず人生なんだよ!
「えーと、あなたが藤波君?」彼女の目前の先のソレは同僚Aだが……天然か?
「あっ、ゴメンなさいー!あらためて藤波君、ランチを一緒にどう?」
これはなんでまた俺なんだか。
「あっ、はい」
「おい、同僚の中でもピカイチの美人にランチに誘わられおって。全くテレビに出るような人気者は違うよなー」
それはお前の仕業だ。
彼女は高嶺麗子さんという。まさに名が体を表している。そんな彼女と俺がランチねぇ。テレビに出るような感じだからだろうなぁ。なーんかダルイ。
ランチの時、俺は驚いた。彼女は開口一番言い当てた。
「藤波君、別にラーメン通でもなんでもないでしょ?」
ご名答。
「わかるー。私も名前のせいでイメージうえつけられるもん」
ということは、いつもの彼女は本当の彼女ではないという事か。
「うちの親がさー、面白がって『どーせ高嶺って名字だから、名前も面白くしちゃおう』って。私、あやうく『花子』になりかけたのよ?!」
そりゃあ子供には迷惑な話だ。
「で、藤波君は?」
なんとなく言ったら、俺の定番みたいに取られるようになって、メディアにもとりあげられるようになった。今まで『中太ちぢれ麺』以外食べたことない。と言った。
「んー、うちで食べる?」
ふぇ?うちとは?高嶺家?敷居が高すぎないか?
「うちなら遠慮しなくていいしー」
俺がする。
「いろんな麺で食べない?」
それは楽しそうだ。俺はその話にのった。
高嶺家はというと……面白そうだからのった。
父親がブチブチいっていたらしいが。
高嶺家……俺の想像を超える豪邸っぷり。これはシェフも使用人も現れるね、うん。
「いらっしゃーい」高嶺さんは今日も明るく美しい。
「おまねきにあずかりまして。つまらないものですが、これを」と俺が差し出すと、
「つまらんものはいらん」と高嶺父。
俺が持って行ったのは食べ物ではなく、ミニカーセット。
高嶺さんは普通に喜んだ。女性って喜ぶか?
高嶺父もチラチラ見ている。まずまず満足のようだ。
面白いもの・ことが好きみたいだから、奇をてらってみた。
麺を食べるだけでなく、つゆとの組み合わせもみるみたいだ。俺が思っていたよりも大がかりだな。
実に本格的。俺の舌は貧乏舌なのに。
麺は細から太まで5種、ちぢれの有無で計10種用意されてるし。
つゆは基本の4種、みそ・しお・しょうゆ・とんこつ。
で、40パターンある。多すぎる……。だろ?
面白ければOKなのか?高嶺家!!そうなのか?
「うーんやっぱりちぢれてないとスープとのからみが……」
「つゆによりけりだよ、そこは」
と高嶺父娘。俺は他の麺を食べたかっただけだし。
なんか主旨が変わってないか?どんな麺が一番かに……。
いや、俺は常に『中太ちぢれ麺』だったけどさー。
俺も、ふむと思いを馳せる。太さについて、太いとうどんぽくて細いと伸びてたり、そうめんっぽかったりするのか……。
よって、中細・中・中太の3種が太さについては残された。高嶺父娘のいうように、ちぢれの有無はつゆによりけりだから決めかねるよなぁ。店の大将任せかなぁ?
どーもラーメンの一番を決めるような感じになっていたし、俺は満足したので暇しようとした。
「なんだ?この高嶺家に足を踏み入れて帰れると思っているのか?」
時代劇か?帰りたい。
「私に付き合ってもらうぞ」
と、ミニカーで遊ぶ酔ったおっさん二人。結構シュールな絵面だと思う。遠くで高嶺母が見てるし。見てるなら俺を助けてくれー!
高嶺母曰く「娘がうちに初めて連れてきた男性よ。面白いじゃない?」
嗚呼、やっぱり面白ければいいんですね。俺の事も考えてほしいところだ。
「ちゃーんと寝床も確保してあるわよ、ほら」
と、俺の両の眼には時代劇で襖をあけると出てくる、ピッタリと2つの布団がくっついた状態のものがうつった。
「変なことを考えるでない!娘の部屋は別だ。君は特別待遇。ダブルがないから、シングルの布団を2つ合わせただけだ」
と高嶺父に言われた。あ、俺泊まるんだ……。
「さぁ、藤波君。今夜は眠れるかな?」
気に入られたのはいいが、貫徹でミニカー?どんだけ気に入ったんだよ、このおっさん。
翌日、俺は寝落ちしたのかな?酔ってたしな。
高嶺父はザルだな。違うミニカーを買いに行っているらしい。違う、高嶺家に大量のミニカーを持ったデパートの外商さんがいる。庶民とは違う。デパートには行くものではない。外商さんが“家”にふさわしいものを持ってやってくるのだ。
この家にふさわしいミニカー……外商さんも困っただろうなぁ。
「藤波君はどれがいいと思う?」と俺に聞く。
俺に聞くなよ。
「まぁ、テッパン物は働く車ですか?」デパートの人はすばやく動く。
ずらりと並んだ働く車たち。
「んじゃ、これ全部お願い」と高嶺父の一声で片付けられた。
「さ、今日も遊ぶぞー!」元気だな、おっさん。働けよ……。
今日が休みでよかった。さんざん飲んで寝落ちした翌日に仕事は嫌だ。
高嶺父、改めおっさんは今日も元気にラーメン食ってミニカーで遊ぶ。全く、娘が似なくて……。
娘ー!!ラーメン食ってるし、ミニカーを吟味してる!なんだよこの父娘は。
ラーメンばっかで胃は大丈夫なのか?俺は蕎麦湯でほっこりしたい。
「ミニカーってさー。子供メインだけど、ターゲットを大人にしても面白くねー?」
おっさん、色々考えてたんだ……。
「大人のおもちゃですか?」と俺が言うと
「いや、そういうとなんか卑猥な響きがする。作りを複雑にしてさー。台数も多く作れないけど」
「あら、面白そうね」珍しく高嶺母まで話にのってきた。
「最高のラーメンってのも面白そうだけど、凝ってるミニカーってのも面白いなぁ」
おっさん、面白いこと大好きですね。
「ねー、このミニカー。ドア開かない」高嶺さんが言う。
「やっぱり子供向けはちゃちいんだよ。ドア開けたいなあ。クレーン動かしたいし、救急車の設備とか……中身は応急セットでいいからさぁ」こだわるな、おっさん。
「藤波君ありがとう。父がこんなに面白そうに熱中するの久しぶりなの。また来てね」
うーん、それは『また何か面白いもの持ってこい』ということか?
まぁ、今回は俺もラーメン食べれてよかったし。ま、いっか。
翌日は同僚Aに捕まった。
今度は俺と高嶺さんが付き合ってるという話になっているらしい。この男は脳内ゴシップ製造器か?この男に色々話すと危険だなーと思っていたのに。……なのに。
「藤波君!父が藤波君がくれたの気に入ってまたうちに来てほしいって言ってるの。また来てね!」
その言い方だとマズい。
高嶺父に会いました→気に入られました→また会いたがっている おそらく交際相手としてこの男はとるだろう。
違うんだ!色々はしょりまくりだが、俺が渡したのはミニカーでまた一緒に遊びに来てね。って話が真実だ。
うーん、ミニカーと同等またはそれ以上面白いもの……俺にはわからない。
昔流行ったおもちゃをみつくろうか?フラフープとか?今はフラフープ分解できるんだよなー。
流しそうめんセット。一人暮らしだとできないんだよなー。茹でるのダルイし。
いっその事、高嶺父と一緒におもちゃコーナー行ってみたいもんだ。
「で、藤波君!」うわ!まだいたのか。
「ぼーっとしてたから何かと思ったんだけど、今週末うちに来ない?」
「ぜひ!」なぜか同僚A返事をした。行くの俺なんだけど……。
「ところで、高嶺さんのお父さんの下の名前はなんていうの?」
高嶺さんがなぜだか神妙な面持ちになった。
「ちょっと……こっち来て……」
俺は高嶺さんにひっぱられてしまった。
「何でそんな質問?」
「そうだなぁ、高嶺さんのお父さんともっとフランクに付き合えたらなー。と思っただけ。他意はない」
きっぱりと答えた。呼ぶのに、いちいち『高嶺さんのお父さん』って長いんだよね。
「他言無用よ!……大作……」
「え?マジ?じゃ『大ちゃん』って呼んでいいかな?」
「んー?本人がいいならだけど、多分それダメ」
「なんで?」
「母用だからよ」
……難しいな。本人に聞こう。
週末になった。俺は手ぶらで高嶺家に行った。
ああ、やっぱり高嶺父が不機嫌だよ。
「えーっと、高嶺さんのお父さん、俺と出かけましょう!」
と俺は普段は内向的なのに無理やり連れだした。
こんなおっさんの側にいるのヤダよー。機嫌直してくれ。と某おもちゃ屋に連れて行った。心の中で『ほーら、ワンダーランド』と思った。が機嫌直らず。
何故だー!娘も連れてくればよかった。間が持たない。おっさんはブツブツ「君が持ってくるから面白いのに……」とか言ってる。
うーむ、わからん。
「あ、コレ持ってくか迷ったけど4人だしなぁって断念したんですよ、流しそうめんセット。一人暮らしだと流しそうめんってないから」
おっさんの目が輝きだした。
「昔流行ったんですよね?フラフープ。わっかが今は分解できて世の中便利になったもんですよー。ところで、僕はあなたを何と呼べばよいでしょうか?“高嶺さんのお父さん”は長いでしょう?」
「酔ってるときは“おっさん”って呼んでたからそれでいーよ」
マジか俺?
「では、おっさん的には体験型と楽しみ型どっちがいいですか?あ、あんなとこにプラレールが!?」
おっさんがムチウチせん勢いで鉄道模型を見る。
「高嶺家は広いから、一部屋レールで埋めれそうですね。電池で動くけど、ちょっとした管制室気分になりそうですね」
おっさんは自動車・鉄道が好きなのか?この分だと飛行機とかも好きそうだな。
「庭も広いからラジコンカーとか?ごっつい四駆走らせるの楽しそう。飛行機とかヘリも飛ばせるんじゃないかなぁ?そのコーナーに行ってみましょー!」
俺はおっさんをラジコンコーナーに連れて行った。何やら奥の深い世界のようだ。マニアックな格好の若者がいたりする。そんな中おっさんはごっつい四駆を手に取った。
おっさんはマニアックな格好の若者から色々と教わり、その四駆に必要なパーツをどんどんカゴに入れていく。
「おっさん、鉄道はいいんですか?」
「今日の収穫はコイツ!あ、土産に流しそうめんセットも加えよう。いやぁ、たまには買い物に外に出ないとわからないことも多々あるもんだ」
俺の夢の流しそうめん。ありがとう、おっさん。酒を飲まずに食おう。
「「おかえりなさい!」」と高嶺母娘が出迎えてくれた。麗しい。
「荷物少ないのね?後から届くとか?」高嶺さんが言う。
「これだけ」得意げに答えるおっさん、別に普通の事だ。
「あ、土産に流しそうめんセットです」となぜか俺が高嶺母に渡した。まぁ、そうめんを茹でるのは高嶺母だろ……「梅さーん、今日のお昼はそうめんお願いー」……使用人というやつが茹でるんですね。そうですね。
俺はポツリと「わんこそばもやってみたいなぁ」と言った。
おっさん曰く「君はやっぱり面白いなぁ」だ。
おっさんはひとりでイソイソとゴツイ四駆の組み立てに取り掛かった。
俺の人手は『必要な時に呼ぶ』と言われ、時間をつぶすのに犬と庭で遊んで(?)いた。よくしつけられていたので、おっさんに呼ばれた時はドーベルマンに“待て”をしておっさんの所へ行った。この犬、名前はなんていうんだろう?後で聞こう。
昼になり、夢の流しそうめん!俺は箸をかまえる。
梅さんがそうめんを流す。おっさん・高嶺母・高嶺さん・俺の順で並んでいるのでそうめんがなかなか俺に来ない……。俺は考えた。気がそっちに向けば……と。「あの犬の名前って何ですか?」流石に誰か答えるだろう。甘かった。梅さんが丁寧に答えてくれた。「あの犬はマリーってメスですよ」そう言いながらそうめんを流し続ける。ちっ、絶対箸が止まると思ったのに。この家族は一筋縄じゃいかんな……。その割に「そっかー、散々遊んだもんなぁ。顔がほぼよだれだらけですよ、ははは」と言うと、箸が止まった。俺は人生初の流しそうめんゲット!
「え?驚くことですか?」
「マリーは番犬だから基本的に人になついて遊ぶとかないんだ」とおっさん説明。説明中もそうめんはじゃんじゃん流れてくるので、俺はそうめんでわんこそば状態だった。
昼過ぎになり、おっさんはラジコンのゴツイ四駆が完成したらしい。一家でお披露目のため庭に集合。おっさんは満足そうだから、かなりお気に入りの一品のようだ。
俺はヒイテしまった……。車体に“良枝LOVE”と書いてある。どうやら高嶺母の名前のようだ。
おっさんがドヤ顔だが、高嶺母はちょっと怒っている。嬉し恥ずかし腹が立つだろうか?一昔前のトラック野郎のようだ。
俺としては、迷彩色の四駆だったが、コレは……。娘的にはどうなんだろう?なんだか居た堪れない様子だけど?
良枝LOVE四駆がお気に入りなのだから夫婦仲はよいと思う。
おっさんに話しかけられた。「なぁ、君さぁ。いつにうちの娘と結婚するの?」と。
コレ本音。事実、流されるようにココにいるわけだし。
「うーん、君にうち継いでほしいなぁ」とおっさん。
「今更ですが、何屋さんですか?」
「何でも屋さん。かなぁ?会社が大きくなりすぎてよくわからん」
いいのか、おっさん。創業者なんだろ?
「とりあえずヘッドハンティングしてみるかなぁ?」
マジかよ。俺は給料上がればいいけど。
「おっさんの娘さんの気持ちもあるでしょーに」
「会社が大きいと他の会社からの見合い話が多くてね。それなら、君の方がいい」
いや、おっさんの気持ちじゃなくてだなぁ。
「私も藤波君ならOK。正直見合い話にうんざりしてたの。マリーが懐くくらいだし、人格に問題はないでしょ」
娘も軽いなぁ。
「で、俺はムコ養子ですか?」
「好きにどーぞ」
うーん、おっさん軽すぎる。
俺はあっさりヘッドハンティングされ、おっさんの会社で働くことになった。
前の会社では「なんであいつが?」等々のウワサがあるらしい。そんなのこっちが聞きたいくらいだ。
普段はヒラの営業職だが、おっさん……じゃない社長に呼ばれて重役会議に出席することも多いので、謎の社員として扱われている。
ミニカーを複雑にするとかをこの会社でする話で重役会議。
ミニカーひとつとっても、自動車会社の許可とか法律とかお役所の許可が必要なようで、
「うーん、お役所とあんまり仲良くなりたくないんだよねー」とおっさん。
「やむをえないですよー。自動車会社は面倒だから、この会社が超かっこいいデザインの車作っちゃえばいいじゃないですか?そうすれば、あとは法とお役所だけですよ!」と俺は言った。
重役は渋るが、おっさんは面白そうな顔をしている。
「そうだな、この会社が超かっこいいデザインの車作ればいいんだ」
「「社長ー!!」」
あー、こんなやり取りがたくさんあったんだろうな。
かくして“超かっこいい車”を作ることになったが、コンセプトは『カコもミライもひっくるめて』らしい。どんなんだ?
ま、ヒラの俺には関係ない。……と思ってたのに、あっさりとプロジェクトチームに入れられた。マジかよ。カコってどこまでカコなんだ?という俺の思いとはうらはらに話は進む。
「ミライなら流線形。タイヤは有?無?無ならラジコンか?」
「カコ過ぎてもねぇ。平安時代なら牛車だし、明治で人力車?」
「クラッシックカ―ならけっこう角ありますよねー」
あ、普通過ぎる。俺でもそれは考える。わざわざ口に出すほどじゃない。んー、この会社独自のかっこよさ。うーん。「あ、それよりターゲットは?それによって製作費が変わるし、見た目も変わりますよね」
俺はどうやらおっさんのお気に入りで高嶺さんとのウワサもあって風当たりが強い。ようだ。
「ターゲットが子供なら少しぐらいちゃちいものでもいいでしょう。でも大人ならばスゲェと思うようなものを欲しがるのでは?わざわざおもちゃ売り場まで足を運んでまで欲しがるようなもの」
「そうだよねー」と、おっさん。
「ターゲットは大人がいいんだよね。私が遊びたいし」おっさん……まだ遊ぶんかい。
「だからイイ物。家族に反対されても、欲しいと思うようなものがいいなぁ」うーん「あ、各々カスタマイズできるといいんじゃないですか?」
結果『昔のクラッシックカーのようで角をとり、流線形に近づけ、各々でカスタマイズできる』車を作る。タイヤもカスタマイズするらしい。
原型は車体のみ、色も後付け、ドアも開閉可。らしい。どんなだ?
俺は元の営業に戻ってモクモクと仕事をしている。……というのにおっさん。
「ねー、社長専属の秘書やってよー」と来る。仕事してるのか?社長なのに。
「秘書の資格持ってません」
「検定受けて!」そこまで?俺はそこまでするのか?
結局秘書検定受けるし、俺。人がいいよな。そして合格。
合格祝い、と高嶺家でわんこそばをしてくれた。ありがたや~。
梅さん、手際いいっす。お椀にふたできない。エンドレスわんこそば。これはこれで地獄。
しかもおっさんは「わんこそばもラーメンみたいに組み合わせあるのかな?」と言い出す。
そばはあるかもだけど、“わんこそば”はないだろう。
そして俺は社長専属の秘書になった。まァ給料上がっていいんだけどさぁ。スケジュールの管理やら……と思ったら、やることは社長のワガママを諫めるだった……。
「奥様に笑われる」とか「奥様に呆れられる」とか言えば済む。今まではどうしてたんだろう?
他の人は知らなくて手を焼いてたのかな?良枝LOVE四駆を作る人なのに。
「で、君はいつになったら娘と結婚してくれるのー?孫見たいー!!」
……駄々っ子かよ、おっさん。
「えーと、ヘッドハンティングで来たヒラ社員がけっこう大きいプロジェクトチームに入ってたりしたし、今は社長専属の秘書って異例の人事ですよ?」
「あ、そうなの?」あいかわらず軽いな、おっさん。
「その上、いきなり社長令嬢と結婚って大事なんですよ!」
「そんなに固く考えなくてもねぇ?」あんたが緩すぎなの!おっさん。
と言いつつも結局、神前式を挙げました。
俺はムコ養子だけど両親は諸手をあげて喜んでたな。高嶺さんが美人だからか?
高嶺さん、ドレス着たかったかもだから写真は撮りました。
俺は社長補佐になり、『高嶺りょう』になりました。子供は……神のみぞ知るだろう。
あ、高嶺さんには「いい加減『麗子』って呼んでよ!」って怒られた。俺も『高嶺さん』だからなぁ。
ちなみに藤波家は男兄弟が残り2人いるから、俺の事はどうでもいいみたいだ。問題は息子が可愛い嫁を連れてくるか否かだったから、麗子さんで大喜びというわけだ。で、息子はどうでもいいと。
式とか大袈裟にしなかったのは、デカくしようとすればするほど、おっさんが張り切るからだ。張り切って社長の仕事してほしい。
流されていく俺の人生……。終わりは来るだろう。