風が運ぶもの
僕は今日も、窓際のあの子を見つめている。柔らかな風が、教室の窓から中へ吹き込む。風が彼女の髪の毛を踊らせ、僕の方へ不思議で心地よい匂いを運んでくる。
――なんか嗅いだことあるような無いような――
咲夜は、何回考えても答えに辿り着かないこの疑問にいつも悩まされていた。
キーンコーンカーンコーン
授業終了のチャイムが鳴った。
彼女、如月 アズモに見とれていたら授業が終わるなんて日常茶飯事だ。
「咲夜ー!わりぃ今日部活の集まりで一緒に飯食えないわ」
豪快な声とともに大柄な同級生が後ろの席から歩いてきた。中学校からの同級生の柳澤 楽である。彼はサッカー部に所属している。
「全然いいよ。気にしないで行ってきて!」
「おう!じゃまた後でな〜」
そう言い残し、彼は颯爽と教室を出ていった。楽は咲夜の数少ない友人の一人である。口数が少ない咲夜の良き理解者であると同時に、幼馴染のような存在でもある。
――じゃあ、今日は久しぶりに屋上で食べるかぁ――
いつも教室で楽とお弁当を食べているが、楽が部活関係で席を空ける時は、よく屋上で食べている。
屋上の扉へと続く階段を登り、生徒立ち入り禁止という扉の古く黄ばんでいる張り紙に目もくれずに、慣れたようにドアノブを回す。
その刹那、風が身体を突き抜けた。
「あ」
思わず声を漏らしてしまった。