三十路のため息
「……以上ですねー。お疲れ様でしたねー。あとこちらが解雇申請書になりますねー……ミヨちゃん、解雇しちゃうんですかねー?」
「……これから決めますので」
中央役所での始末書の提出も終わり、私はねーねーさんから差し出された書類を受け取りました。
あの後、駐屯地に放火して逃げた私たちは、そのままこちらの世界に帰ってきました。あの世界での仕事ができなかったので、また後日行かなければなりませんね。
ちなみにあの小競り合いのような戦闘は私の所為か、私達を捕らえた側が負けたみたいです。まあ、どうでもいいですけどね。
彼女にお礼告げると、私は中央役所を後にしました。
「……どうしましょうかねえ」
歩きながら考えることは、もちろんミヨさんのことです。彼女のことだから、このまま働きたいとか言い出しそうですよね。
「……最悪、身を守る必要がないというのは確かに魅力的ですが」
彼女は不老不死。そういった研究は色んな世界で行われていますが、実物を見るのは私も初めてでした。蘇生費も馬鹿にならないので、そこは評価点です。
しかし、荷物も持てない彼女が働けるようになるまでの教育。そして単純な、お金の面での負担増大。少し考えただけでも面倒になることは、目に見えています。
個人事業主として気ままにやってきた私としては、彼女をこのまま雇う気にはあまりなれないのですが。
『それでも、わたしを助けてくれた人なんだから!』
小さな身体で私を庇ってくれた、ミヨさんの姿を覚えています。
「…………」
帰り道一人。少し足を止めて目を閉じた後、私はため息をつきました。
「……なんですかねぇ」
別に良いような、そうでないような。気分が沈んでいる訳でもなく、かといって晴れ晴れとした気分には遠すぎる。はっきりしないもやもやが、頭の中をぐるぐるぐるぐる。
「……私らしくありませんね」
私はもう一度ため息をついて、足を速めました。
なるようになる、と何処かで聞いた気がします。再び歩き出した私は、ミヨさんが待つ事務所兼自宅を目指しました。