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ロジカル☆マジカル魔法少女・クレアハート

 深夜の突貫アップデートを終えた翌朝。


(よし、どうせだからギルドに寄って手頃な依頼でも探してみるか。これから向かう関所の街で完遂出来る物があれば理想的なんだが)


 宿を出たその足でギルドへ向かう。すると、その途中で同じ方へと向かうエルゼと出会った。


「あ、エルゼさん! おはようございます!」


 朝の澄んだ空気に、クーリアの元気な声が響く。

 隣を歩くエルゼは、朝日を浴びて鈍く光る槍(ハードウェア)を腰に下げ、相変わらずの隙のない佇まいタクティカル・フォームでこちらを振り返った。


(ほう、槍も扱えるのか)


「おはよう、クレアハート。……昨日の女王蟻の一件、ギルドで聞いたよ。君のような華奢な魔導士が、あんな大物を物理(ちからわざ)で仕留めるなんてね。おかげでこの街の物流は救われた、感謝するよ」


 褒められた事に少し照れながら、クーリアは手首の腕輪を撫でる。


「えへへ、実はこれ、本当は杖なんですけどね……使い方が違うってミコ……えっと、作ってくれた方に怒られちゃいました」


(……おっと、危ない。今さら俺の名前を出すのは不自然だからな)


 俺はクーリアの思考の端っこを軽く突いて、失言を未然に防いだ(ブロックした)

 エルゼは、クーリアが手首の腕輪――『蒼の憧憬』(ストラトス)に触れる様子を、鋭い鑑定眼(スキャニング)でじっと見つめている。


「……そのデバイス、昨夜見た時よりも密度(魔力の気配)が増している気がするな。ただの杖には見えない。……なるほど、槍の心得がある私から見ても、その『道具』からは合理的(タクティカル)な殺気を感じるよ」

(ほう、やはりこの女、ただの槍使いではないな。道具の質(スペック)から使い手の意図(ロジック)を読み解くとは、なかなかの経験値だ)


 エルゼの視線は、クーリアの腕輪からその細い指先、そして重心の置き方へと移る。


「そうだクレアハート、もし関所まで同行するなら、少し手を貸してくれないか? 実は昨日の件の絡みで、ギルドに山道の魔物間引きの依頼が出ていてね。女王を倒した君の物理魔法スタイルなら、相性は悪くないはずだ」


(いい申し出だ。関所までの護衛(ログ)が増えるのは安全面でもプラスだし、何よりエルゼの槍術を間近で観測(キャプチャ)できるのは、ストラトスのさらなる最適化(ビルド)に役立つだろう)

(ミコトさん、どうしますか? エルゼさんと一緒なら、心強いですよね!)

(ああ、承諾しろ。ただし、あんまり「槍」にばかり気を取られて、本職の魔法を忘れるなよ。……さあ、新しい『蒼の憧憬』《ストラトス》』の実戦テストといこうか)


「はい! もちろんです、エルゼさん! 私、精一杯サポートしますね!」


 元気よく答えるクーリアの腕で、『蒼の憧憬』(ストラトス)が朝日を受けて、鋭く青い起動光(システム・ライト)を一瞬だけ走らせた。

 これから始まる山道は、昨日よりも険しく、そして冷たい。だが、今の二人(と一人)には、未知の領域を切り拓くための新たな機能(ブレード)が備わっている。

 街を背にして登るにつれ、街道の未舗装路(オフロード)は白銀の厚い膜(レイヤー)に覆われていった。吐き出す息は白く凍り、肺の奥を刺すような冷気が鼻腔を抜ける。

 ザク、ザクと雪を踏みしめる規則的な音が、静まり返った山脈の入り口に響いていた。


(そう言えば、『蒼の憧憬』(ストラトス)の改造は昨夜の内に済ませてある。急造だが、今のお前にはむしろ都合が良いだろう。今後の成長次第で都度合わせてやる)


 ミコトの声は、彼女の脳内でいつも通り冷静な響き(クリアな音質)を保っていた。クーリアは隣を歩くエルゼに気づかれないよう、手首の腕輪にそっと指先を這わせる。


(相変わらず魔導具作りになると仕事が早いですねえ。今度は何て名前なんですか?)

(ふん、予定外の割り込み作業だったからな、最優先しただけだ。今回は穂先がしっかり鋭利になり、軽量化しつつも重心を調整したトリックスター(TS)モードだ)


 ミコトの脳内には、昨夜編み上げた複雑な構造図(アーキテクチャ)が展開されていた。クーリアの「槍のように扱う」というイレギュラーな挙動(バグ)を逆手に取り、魔法の指向性(ベクトル)と物理的な質量移動(ウェイト・シフト)を瞬時に切り替える機能だ。


(わ、何だか凄そう……『蒼の憧憬』(ストラトス)って全部星の名前なんですね)

(まあ、今回のはお前の奇抜な使い方に合わせたネーミングだがな)


 ミコトは皮肉交じりに応じながらも、『星屑の目』(スター・ビット)からの視界を共有し、前方の高低差(地形データ)を読み取る。

 クーリアの歩みに合わせて、『星霜の蒼』(プラネ)の裾が軽やかに揺れる。その琥珀色の瞳は、未知の新機能(アップデート)に対する期待にキラキラと輝いていた。魔法使いが杖を槍として振り回すなど、通常の魔導教育(チュートリアル)ではあり得ないが、今の二人にとってそれは最強の解法(ロジック)になりつつあった。


「……どうかしたか、クレアハート? さっきから自分の腕輪をずっと見つめているようだが」


 前を行くエルゼが、ふと足を止めて振り返る。その鋭い観察眼(センサー)を誤魔化すように、クーリアは慌てて手を振った。


「えへへ、なんでもないです! ちょっと、新しい機能が楽しみだなって思って!」

「機能……? まあいい。間もなく、この先が例の雪猿(イエティ)出現領域(スポーン・ポイント)だ。気を引き締めろ」


 標高が上がるにつれ、吹き付ける風はナイフのような鋭さを増していく。

 クーリアは、モコモコとした白いボアがついたフードを深く被り、寒冷地仕様のロングコートの襟を立てた。厚手の生地がしっかりと体温を保持(キープ)し、過酷な環境下での生存能力(バイタリティ)を支えている。

(……ふむ。そのコート、防寒性能は高いが、少し動作(モーション)に干渉しそうだな。だが、俺が姿勢制御(スタビライザー)を補正してやれば問題ない)

(大丈夫ですよ! これ、すっごく温かくて動きやすいんですから。ね、見てくださいミコトさん、このフードのボア、ふかふかですよ!)

(お前な。今は遠足(レジャー)ではなく哨戒(パトロール)中だ。……来るぞ。先ほどより信号(サイン)がデカい)


 ミコトの警告通り、前方の雪煙の向こうから、地鳴りのような咆哮が響き渡った。

 現れたのは、通常の雪猿よりも一回り大きい、群れの統率個体(リーダー)。その巨体が雪を蹴立てて、一直線にこちらへと突進してくる。


「クレアハート、下がれ! ……と言いたいところだが、その構え……行くんだな?」


 隣で槍を構えるエルゼが、コート越しでも伝わるクーリアの戦意(パッション)を感じ取って、不敵に口角を上げた。


(よし、クーリア。『蒼の憧憬』(ストラトス)――トリックスター(TS)モード、起動(ブート)。お前の『出鱈目な槍術』を、俺の理論(ロジック)で最強の初見殺し(カウンター)に昇華させてやる!)


 ボアフードの奥で、クーリアの琥珀色の瞳が鋭く光る。

 コートの裾を翻し、彼女は雪原を蹴った。


「行きますよ! 魔法少女ロジカル☆マジカル・クレアハート! あなたの息の根、串刺しにして止めてあげます!」

「ロジ……え?」


(おい! クーリア! まだその名乗り憶えていたのか! しかも今度は人前でやりやがって! って言うか名前の割に内容が物騒だな! しかも、よりにもよって他人の目の前でその黒歴史確定演出(中二病名乗り)をぶちかます奴があるか!!)


 ボアフードの奥で、クーリアは至って真剣な、それでいてどこか(ハイ)に入った表情で蒼い長槍(ストラトス・グレイブ)を構えている。

 だが、隣に立つエルゼの困惑は深刻(クリティカル)だ。彼女の構える槍の先が、困惑のあまり数センチほど彷徨()いでいる。


「ロジ……マ……? クレアハート、君、さっき何を……」

「問答無用です! 食らえっ! 超高密度質量投下(マジカル・インパクト)!」


(お前、技名まで論理性(ロジック)をかなぐり捨てて情緒に振り切ってやがるな!? ……ええい、ままよ! 『蒼の憧憬』(ストラトス)、お前のその支離滅裂な勢い(パッション)に合わせて再計算(リビルド)してやる!)


 雪猿がその異様な空気(カオス)を察知したのか、怯んだように後退しようとする。

 だが、クーリアの跳躍(リープ)は一瞬だった。ロングコートをマントのように翻し、彼女は『蒼の憧憬』(ストラトス)を全力で振り下ろす。

 その瞬間、ミコトは槍の石突き(エンド)側に、周囲の雪と大気を強引に圧縮固定(パッチ)して、瞬間的な巨大質量(メガ・ウェイト)を発生させた。


 ドォォォォォン!!


 槍が雪猿の頭上をかすめただけで、凄まじい衝撃波(バースト)が地面を叩き割る。

 雪猿は串刺しにされるどころか、その擬似的な重圧(プレッシャー)だけで雪の中に深く埋没し、再起動不可(ノックアウト)の状態に追い込まれた。


「……ふぅ。これが愛と論理(マジカル・ロジック)の力です!」

「……そうか。……魔法少女、だったのか……」


 エルゼは遠くを見つめるような瞳で、静かに自分の槍を収めた。その背中には、立ち入ってはいけない領域に触れてしまった者の哀愁(哀しみ)が漂っている。


(……クーリア。お前の戦闘センス(センス)については認めてやるが、その対外インターフェース(名乗り)については帰ってから緊急会議(デバッグ)だ。おかしいな……。戦意高揚(バーサク)系の術式(プログラム)は組み込んでいない筈なんだが……。念のため感情バッファ(メンタル・ログ)を走査したが、外部からの干渉はない。……つまり、今の『論理的(フィジカル)に串刺し』という発想は、純度100%お前の自前(デフォルト)だというのか……?)


 俺は戦慄した。

 ボアフードを被った可憐な少女が、長槍を構えて「息の根を止めてあげる」と微笑む。その整合性の取れない(アンバランスな)光景に、俺の演算回路(ロジック)が一時的な過負荷(オーバーロード)を起こしそうになる。


「……あの、クレアハート。さっきの『ロジカル』というのは……その、何かの暗号か? あるいは、君の故郷の儀式(ルーチン)か何かで……」


 エルゼが、壊れ物に触れるような慎重な手つき(タクティカル・ムーブ)で問いかけてくる。彼女ほどの槍使いが、あからさまに視線を泳がせているのは相当な異常事態だ。


「いえ! 『ロジカル』は『ロジカル』ですよ、エルゼさん! 相手を一番確実に、迷わず、最短距離(最短ルート)で仕留める……それが魔法少女の愛の形(やりかた)なんです!」


(お前、それを世間では効率的な殺傷(エフィシェント・キル)と呼ぶんだよ! 頼むからその物騒な思想(ロジック)に『魔法少女』という可愛いラベル(スキン)を貼るのをやめろ!)


「……そ、そうか。……効率的、ということだね。……うん、非常に……論理的(ロジカル)だ……。……はは」


 エルゼの引きつった笑みが、雪原の寒風に虚しく消えていく。

 彼女はそっと視線を逸らすと、まだピクピクと動いている雪猿の死骸から槍を引き抜いた。


(……おい、クーリア。お前の適応能力(アダプテーション)が高すぎて、ついにエルゼの思考ルーチン(メンタル)に致命的なデバフを与えちまったぞ。……だが、TSモードのデータ収集としては満点だ。刺突の瞬間の魔力収束(フォーカス)、あれは俺の計算以上に鋭利(シャープ)だった)

(えへへ、そうですよね! やっぱり『ロジカル』な一撃は決まると気持ちいいです!)

(……その言葉、お前は二度と人前で使うなよ。いいな、絶対にだぞ。俺の|管理者としてのプライド《尊厳》が、さっきからボロボロと消去(デリート)されていってるんだからな……)


「エルゼさん、魔物、まだまだ居ますよね? 私、今とっっっても蹂躙したい気分なんです!」

「え、じゅ……そ、そうか、頼もしいな、うん」


 いやいや、普通じゃないからな? 確かに戦場においては頼もしいかもしれないが、俺は分かる、今のクーリアはちょっとまともじゃない。


(おい、クーリア。お前、ちゃんと自分自身のログを憶えているのか?)

(当たり前じゃないですか、何言ってるんです? ミコトさん?)

(……思い出しているならいい。だが、お前のその好戦性(アグレッシブ)は明らかに異常だ。待て、深層ログ(システム・コア)生体情報(バイタル)を照合する……)


 俺はクーリアの視界を共有したまま、彼女の体内を巡る魔素の循環経路(サイクル)と、脳内の化学伝達物質(ホルモン・バランス)を高速でスキャンした。

 先ほど説明した通り、この世界における魔法とは「エネルギーそのものを魔素として利用する」ことだ。そして今、彼女は俺のサポートを受けて、本来ならあり得ない出力でそのエネルギーを物理的破壊(クラッシュ)へと変換している。


(……チッ、原因(バグ)はこれか。TSモードによる強制的な質量操作(ウェイト・シフト)と、魔素の急激な放出(バースト)が、お前の神経系に強烈な恍惚(フィードバック)を与えているんだ)


 一言で言えば、強力な魔力行使に伴う全能感――極度の魔力酔い(マナ・ハイ)状態だ。

 破壊の快感が魔素の循環を通じて直接脳を刺激し、恐怖心や倫理的なブレーキ(リミッター)を焼き切ってしまっている。


「ふふっ……エルゼさん、あっちの岩陰にもまだ隠れてますね。まとめて粉砕(ミンチ)にしてあげましょうか……?」


 ボアフードの奥で、クーリアの琥珀色の瞳がトロンと妖しく(デンジャラスに)潤んでいる。

 コートの裾から伸びる『蒼の憧憬』(ストラトス)の切先が、微かな震えと共にチリチリと青い放電(スパーク)を散らしていた。


「み、ミンチ……!? クレアハート、君、さっきから言葉の端々が……その、魔法少女というより、暗黒卿か何かに……」


 歴戦の槍使いであるはずのエルゼが、完全にドン引きして数歩後ずさっている。

 これ以上この状態を放置すれば、クーリアの精神構造そのものに悪影響(エラー)が定着しかねない。


(おい、クーリア。その物騒な妄想(プロセス)を今すぐ強制終了しろ。魔力回路(マナ・パス)への出力を一時的に絞るぞ。……強制冷却(クールダウン)、実行!)


 俺はクーリアの視界を共有したまま、彼女の体内を巡る魔素の循環経路(サイクル)と、脳内の化学伝達物質(ホルモン・バランス)を高速でスキャンした。

 この世界における魔法とは「エネルギーそのものを魔素として利用する」ことだ。そして今、彼女は俺のサポートを受けて、本来ならあり得ない出力でそのエネルギーを物理的破壊(クラッシュ)へと変換している。


(……チッ、原因(バグ)はこれか。TSモードによる強制的な質量操作(ウェイト・シフト)と、魔素の急激な放出(バースト)が、お前の神経系に強烈な魔力還元(フィードバック)を起こしているんだ)


 一言で言えば、強力な魔力行使に伴う全能感――極度の魔力酔い(マナ・ハイ)状態だ。

 破壊の快感が魔素の循環を通じて直接脳を刺激し、恐怖心や倫理的なブレーキ(リミッター)を焼き切ってしまっている。


「ふふっ……エルゼさん、あっちの岩陰にもまだ隠れてますね。まとめて粉砕(ミンチ)にしてあげましょうか……?」


 ボアフードの奥で、クーリアの琥珀色の瞳がトロンと妖しく(デンジャラスに)潤んでいる。

 コートの裾から伸びる『蒼の憧憬』(ストラトス)の切先が、微かな震えと共にチリチリと青い放電(スパーク)を散らしていた。


「み、ミンチ……!? クレアハート、君、さっきから言葉の端々が……その、魔法少女というより、暗黒卿か何かに……」


 歴戦の槍使いであるはずのエルゼが、完全にドン引きして数歩後ずさっている。

 これ以上この状態を放置すれば、クーリアの精神構造そのものに悪影響(エラー)が定着しかねない。


(おい、クーリア。その物騒な妄想(プロセス)を今すぐ強制終了しろ。魔力回路(マナ・パス)への出力を一時的に絞るぞ。……強制冷却(クールダウン)、実行!)


 俺は彼女の腕から『蒼の憧憬』へ流れる魔素のラインに制限(フィルタ)をかけ、同時に頭部の血管を魔術的に僅かに冷やして、物理的に頭を冷やさせる。


 しかし。


「あ、なんか……不自然な吹雪が来ましたね……良いですね、何か変な奴が居そうですよ!」


 まさかのディスペル。俺のサポート無しでここまで魔素を使いこなすとは……!


(なっ……強制解除(ディスペル)だと!? 俺の管理者権限(アドミン・コマンド)による冷却処理を、無意識の防壁(ファイアウォール)で弾き返したというのか……!)


 俺は電子的な絶句(フリーズ)に陥った。

 魔法が単なる化学反応の延長ではなく、「魔素という一次エネルギーの直接操作」であるこの世界において、彼女の直感(センス)は俺のサポートすら上書きし始めている。

 つまり今のクーリアは、TSモードによる魔力酔い(マナ・ハイ)の勢いそのままに、俺の制御系(システム)から半ば独立して『暴走する重戦車』と化しているのだ。


「あはっ、風が冷たくなってきました! この異常な魔力密度……エルゼさん、大物が来ますよ! 私の『蒼の憧憬』(ストラトス)が、早く串刺しにさせろってウズウズしてます!」


(違う! ストラトスはそんなこと言ってない! それはお前の破壊衝動(バグ)だ!)


 俺は脳内で叫ぶが、当然彼女の受信回路(アンテナ)には届かない。

 ボアフードのモコモコとした可愛らしいシルエットとは裏腹に、彼女の琥珀色の瞳は猛烈な吹雪の奥を肉食獣(プレデター)のように睨みつけている。


「ま、待てクレアハート! あの吹雪は自然現象じゃない、おそらく局地的な吹雪の精霊ブリザード・スピリットか、それに類する高位の……って、聞いちゃいないな!?」


 エルゼが悲痛な声を上げるが、クーリアはロングコートの裾をバサリと翻し、|蒼い長槍《ストラトス・TSモード》を肩に担いで、猛吹雪の中へズンズンと歩みを進めていく。


(ええい、こうなったら仕方ない! 下手に強制介入システム・シャットダウンしてこの極寒の中で気絶させるより、暴走状態のままその過剰リソース(魔力)を眼前の敵に全て叩きつけさせ、魔力枯渇(ガス欠)による強制睡眠を狙うしかない!)


 俺は腹を括り、彼女の肉体が自壊しないよう物理的負荷(ダメージ・ログ)の軽減に全リソースを振り向けた。


「さあ、どこに隠れてるんですかー? 早く出てこないと、この山ごと更地にしちゃいますよー? きゃはははっ!」


 無邪気で可憐な声が、吹雪の轟音を切り裂いて響き渡る。

 その狂気(サイコパス)じみた挑発に応えるかのように、吹雪が一点に収束し、巨大な氷の塊が人の形を取り始めた。

 見上げるほどの巨体。四肢に鋭い氷柱の刃を生やした氷雪の巨人(フロスト・ゴースト)。災害級とまではいかないが、一介の冒険者がソロで挑む相手ではない。

 だが、クーリアの顔に浮かんだのは恐怖ではなく、満面の笑みクリティカル・スマイルだった。


「やあっと出て来てくれました」


(……ふむ。確かに親玉クラスのようだ。氷雪の巨人(フロスト・ゴースト)か。周囲の魔素を凍結させて外部装甲(ハードウェア)を増設し続けるタイプだな。……おい、クーリア。はしゃぎすぎて自壊(クラッシュ)するなよ?)


 俺と彼女は今、一つの肉体を共有しながらも、完全に独立したデュアルコア(双子演算)として稼働している。彼女の情緒(パッション)がアクセルを限界まで踏み込めば、俺の論理(ロジック)がその膨大なエネルギーを戦闘術式(プログラム)へと変換し、肉体にかかる過負荷(ストレス)を逃がす。

 俺たちの意識は、混ざり合うのではなく、並列に走りながら互いに干渉し合うマルチOS(多重環境)だ。


(わかってますってば! 今の私は、最高にロジカル(無敵)なんです! ……ねえ、ミコトさん。あの巨人の胸のあたり(コア)、すごく美味しそうな魔力が詰まってますね?)

(……フッ。お前、ついに魔物を食糧(リソース)として見るようになったか。いいだろう、俺が軸合わせ(エイミング)質量補正ウェイト・コントロールを担当する。お前はただ、その衝動のままに物理(暴力)を叩き込め!)


 ボアフードの隙間から、青白い放電(スパーク)が漏れ出す。

 ロングコートを棚引かせ、クーリアは雪原を蹴った。一歩ごとに『蒼の憧憬』(ストラトス)がその姿を変え、槍の穂先が超高周波(ハイ・フリケンシー)で震え始める。


「な、なんなんだ……あの子……。魔力波形が二重に共振している……!?」


 背後でエルゼが槍を構えたまま、戦慄に目を見開く。彼女の目には、クーリアの小さな背中に、巨大で冷徹な魔素が見えているだろう。


「見ぃ~つけたっ! 『蒼の憧憬』(ストラトス)|最大出力ッ!!」


 クーリアが跳躍する。重いボアコートが羽のように舞い、ミコトの質量制御ウェイト・コントロールによって重力を無視した弾道(軌道)を描く。


(よし、クーリア。そのまま心臓部(コア)へ突っ込め。『蒼の憧憬』(ストラトス)の全ポートを開放する……。刺突の瞬間、巨人の魔素構造を浸食(ハック)し、その存在定義を書き換えてやる!)


「はぁぁぁぁぁっ!!」


 巨人が放つ氷柱の弾幕を、クーリアは空中で体を捻りながら紙一重(最小マージン)で回避する。その回避行動(モーション)はミコトが算出した最適解。そして、剥き出しになった巨人の胸部へと、蒼い閃光が吸い込まれた。


 ズドォォォォォン!!


 槍が刺さった瞬間、巨人の巨体がビクンと硬直する。

 ストラトスの穂先から、ミコトの冷徹な論理杭(ロジック・パイル)が打ち込まれ、巨人を構成する魔素の所有権(オーナーシップ)が強引に剥奪されていく。


「……あ、これ、すっごく美味しいですっ!」


(食うなと言いたいところだが……効率的ではあるな。魔力置換(エネルギー・トレード)、開始!)


 次の瞬間、巨人の全身に蒼いひび割れが走り、内側から凄まじい光が溢れ出した。

 咆哮を上げる暇もなく、見上げるほどの氷の巨躯が、キラキラと輝く純粋魔素(リソース)へと分解され、ストラトスを通じてクーリアの体内へと還元(チャージ)されていく。


(クーリア、まだ終わってないぞ。あの硬質なボディには刃物よりも鈍器の方が有効だろう。『蒼の憧憬』(ストラトス)TSモードはお前の想いに応える。望めばハンマーのような形態にもなるだろう)

(なるほど。お望み通りに最適化(ビルド)してやりましょう。『蒼の憧憬』(ストラトス)、お前の可変領域(バッファ)をさらに広げて!)


 俺の思考に呼応するように、クーリアの手の中で蒼い槍が再構成(リビルド)を開始する。

 鋭い穂先が重なり合い、青白い火花を散らしながら、一撃で空間を歪めるほどの高密度質量(ヘヴィ・エンド)を備えた大型の戦鎚へとその姿を変貌させた。


(わあ……! すごい、重いのに、すごく振りやすそうです! ミコトさん、これならいけます!)

(ああ、行け。TSモード(トリックスター)真骨頂、破壊的論理(ロジカル・スマッシュ)の実行だ。遠心力に重力加速度()を上乗せして叩き込め!)


 クーリアはボアコートを大きく翻すと、巨人の懐へと超低空滑走(スライディング)で潜り込む。

 巨人が振り下ろした氷柱の腕を、ミコトの演算(サーチ)による最小限の動きで回避。そのまま、独楽のように鋭く回転しながら、巨大なハンマーを巨人の足首へと叩きつけた。


「魔法少女ロジカル☆クレアハート! 質量爆散(マジカル・ブレイカー)ッ!!」

(だからその名乗りはやめろぉ!)


 ――ズ、ドォォォォォォン!!!


 鈍い衝撃音が山脈に木霊する。

 巨人の強固な氷結装甲(ハードウェア)は、ミコトが算出した「構造上の脆弱性」を突かれ、蜘蛛の巣状の亀裂を一瞬で全身に走らせた。

 修復が追いつかないほどの圧倒的暴力(パワー)


「……あ、あ……」


 エルゼはもはや言葉を失い、槍を構えたまま石像のように固まっている。

 彼女の視界には、可憐な少女が自分よりも巨大な鉄塊を軽々と振り回し、災害級の怪物を「物理」で粉砕していく非現実(バグ)が焼き付いていた。


(……ふん。やはり俺のロジック(計算)を完全に受け止めるな、この『蒼の憧憬』(ストラトス)。……もはやこれは単なる道具ではなく、俺の意志の延長(インターフェース)そのものだ)


 崩れ落ちる巨人の残骸を見上げながら、俺は改めてこの武器の従順さ(親和性)に底知れぬ何かを感じていた。

 次の瞬間、巨人の全身に蒼いひび割れが走り、内側から凄まじい光が溢れ出した。

 咆哮を上げる暇もなく、見上げるほどの氷の巨躯が、キラキラと輝く純粋魔素(リソース)へと分解され、ストラトスを通じてクーリアの体内へと還元(チャージ)されていく。


「……信じられない。あの巨人を、一撃で分解(デリート)した……?」


 雪煙が収まった後に立っていたのは、返り血(氷の破片)を払い、満足げに喉を鳴らすボアコートの少女一人。

 クーリアは槍をくるりと回すと、手首の腕輪へと戻し、何事もなかったかのようにエルゼを振り返った。


「お待たせしました、エルゼさん! デザート……じゃなくて、お片付け完了です!」


(……ふん。TSモード(プラクティス)の初戦としては上出来だ。だがクーリア、お前のその『美味しい』という味覚センサー(感性)については、やはり後で徹底検証(問い詰め)が必要だな)


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