ロジカル☆マジカル魔法少女・クレアハート
深夜の突貫アップデートを終えた翌朝。
(よし、どうせだからギルドに寄って手頃な依頼でも探してみるか。これから向かう関所の街で完遂出来る物があれば理想的なんだが)
宿を出たその足でギルドへ向かう。すると、その途中で同じ方へと向かうエルゼと出会った。
「あ、エルゼさん! おはようございます!」
朝の澄んだ空気に、クーリアの元気な声が響く。
隣を歩くエルゼは、朝日を浴びて鈍く光る槍を腰に下げ、相変わらずの隙のない佇まいでこちらを振り返った。
(ほう、槍も扱えるのか)
「おはよう、クレアハート。……昨日の女王蟻の一件、ギルドで聞いたよ。君のような華奢な魔導士が、あんな大物を物理で仕留めるなんてね。おかげでこの街の物流は救われた、感謝するよ」
褒められた事に少し照れながら、クーリアは手首の腕輪を撫でる。
「えへへ、実はこれ、本当は杖なんですけどね……使い方が違うってミコ……えっと、作ってくれた方に怒られちゃいました」
(……おっと、危ない。今さら俺の名前を出すのは不自然だからな)
俺はクーリアの思考の端っこを軽く突いて、失言を未然に防いだ。
エルゼは、クーリアが手首の腕輪――『蒼の憧憬』に触れる様子を、鋭い鑑定眼でじっと見つめている。
「……そのデバイス、昨夜見た時よりも密度が増している気がするな。ただの杖には見えない。……なるほど、槍の心得がある私から見ても、その『道具』からは合理的な殺気を感じるよ」
(ほう、やはりこの女、ただの槍使いではないな。道具の質から使い手の意図を読み解くとは、なかなかの経験値だ)
エルゼの視線は、クーリアの腕輪からその細い指先、そして重心の置き方へと移る。
「そうだクレアハート、もし関所まで同行するなら、少し手を貸してくれないか? 実は昨日の件の絡みで、ギルドに山道の魔物間引きの依頼が出ていてね。女王を倒した君の物理魔法スタイルなら、相性は悪くないはずだ」
(いい申し出だ。関所までの護衛が増えるのは安全面でもプラスだし、何よりエルゼの槍術を間近で観測できるのは、ストラトスのさらなる最適化に役立つだろう)
(ミコトさん、どうしますか? エルゼさんと一緒なら、心強いですよね!)
(ああ、承諾しろ。ただし、あんまり「槍」にばかり気を取られて、本職の魔法を忘れるなよ。……さあ、新しい『蒼の憧憬』《ストラトス》』の実戦テストといこうか)
「はい! もちろんです、エルゼさん! 私、精一杯サポートしますね!」
元気よく答えるクーリアの腕で、『蒼の憧憬』が朝日を受けて、鋭く青い起動光を一瞬だけ走らせた。
これから始まる山道は、昨日よりも険しく、そして冷たい。だが、今の二人(と一人)には、未知の領域を切り拓くための新たな機能が備わっている。
街を背にして登るにつれ、街道の未舗装路は白銀の厚い膜に覆われていった。吐き出す息は白く凍り、肺の奥を刺すような冷気が鼻腔を抜ける。
ザク、ザクと雪を踏みしめる規則的な音が、静まり返った山脈の入り口に響いていた。
(そう言えば、『蒼の憧憬』の改造は昨夜の内に済ませてある。急造だが、今のお前にはむしろ都合が良いだろう。今後の成長次第で都度合わせてやる)
ミコトの声は、彼女の脳内でいつも通り冷静な響きを保っていた。クーリアは隣を歩くエルゼに気づかれないよう、手首の腕輪にそっと指先を這わせる。
(相変わらず魔導具作りになると仕事が早いですねえ。今度は何て名前なんですか?)
(ふん、予定外の割り込み作業だったからな、最優先しただけだ。今回は穂先がしっかり鋭利になり、軽量化しつつも重心を調整したトリックスターモードだ)
ミコトの脳内には、昨夜編み上げた複雑な構造図が展開されていた。クーリアの「槍のように扱う」というイレギュラーな挙動を逆手に取り、魔法の指向性と物理的な質量移動を瞬時に切り替える機能だ。
(わ、何だか凄そう……『蒼の憧憬』って全部星の名前なんですね)
(まあ、今回のはお前の奇抜な使い方に合わせたネーミングだがな)
ミコトは皮肉交じりに応じながらも、『星屑の目』からの視界を共有し、前方の高低差を読み取る。
クーリアの歩みに合わせて、『星霜の蒼』の裾が軽やかに揺れる。その琥珀色の瞳は、未知の新機能に対する期待にキラキラと輝いていた。魔法使いが杖を槍として振り回すなど、通常の魔導教育ではあり得ないが、今の二人にとってそれは最強の解法になりつつあった。
「……どうかしたか、クレアハート? さっきから自分の腕輪をずっと見つめているようだが」
前を行くエルゼが、ふと足を止めて振り返る。その鋭い観察眼を誤魔化すように、クーリアは慌てて手を振った。
「えへへ、なんでもないです! ちょっと、新しい機能が楽しみだなって思って!」
「機能……? まあいい。間もなく、この先が例の雪猿の出現領域だ。気を引き締めろ」
標高が上がるにつれ、吹き付ける風はナイフのような鋭さを増していく。
クーリアは、モコモコとした白いボアがついたフードを深く被り、寒冷地仕様のロングコートの襟を立てた。厚手の生地がしっかりと体温を保持し、過酷な環境下での生存能力を支えている。
(……ふむ。そのコート、防寒性能は高いが、少し動作に干渉しそうだな。だが、俺が姿勢制御を補正してやれば問題ない)
(大丈夫ですよ! これ、すっごく温かくて動きやすいんですから。ね、見てくださいミコトさん、このフードのボア、ふかふかですよ!)
(お前な。今は遠足ではなく哨戒中だ。……来るぞ。先ほどより信号がデカい)
ミコトの警告通り、前方の雪煙の向こうから、地鳴りのような咆哮が響き渡った。
現れたのは、通常の雪猿よりも一回り大きい、群れの統率個体。その巨体が雪を蹴立てて、一直線にこちらへと突進してくる。
「クレアハート、下がれ! ……と言いたいところだが、その構え……行くんだな?」
隣で槍を構えるエルゼが、コート越しでも伝わるクーリアの戦意を感じ取って、不敵に口角を上げた。
(よし、クーリア。『蒼の憧憬』――トリックスターモード、起動。お前の『出鱈目な槍術』を、俺の理論で最強の初見殺しに昇華させてやる!)
ボアフードの奥で、クーリアの琥珀色の瞳が鋭く光る。
コートの裾を翻し、彼女は雪原を蹴った。
「行きますよ! 魔法少女ロジカル☆マジカル・クレアハート! あなたの息の根、串刺しにして止めてあげます!」
「ロジ……え?」
(おい! クーリア! まだその名乗り憶えていたのか! しかも今度は人前でやりやがって! って言うか名前の割に内容が物騒だな! しかも、よりにもよって他人の目の前でその黒歴史確定演出をぶちかます奴があるか!!)
ボアフードの奥で、クーリアは至って真剣な、それでいてどこか悦に入った表情で蒼い長槍を構えている。
だが、隣に立つエルゼの困惑は深刻だ。彼女の構える槍の先が、困惑のあまり数センチほど彷徨いでいる。
「ロジ……マ……? クレアハート、君、さっき何を……」
「問答無用です! 食らえっ! 超高密度質量投下!」
(お前、技名まで論理性をかなぐり捨てて情緒に振り切ってやがるな!? ……ええい、ままよ! 『蒼の憧憬』、お前のその支離滅裂な勢いに合わせて再計算してやる!)
雪猿がその異様な空気を察知したのか、怯んだように後退しようとする。
だが、クーリアの跳躍は一瞬だった。ロングコートをマントのように翻し、彼女は『蒼の憧憬』を全力で振り下ろす。
その瞬間、ミコトは槍の石突き側に、周囲の雪と大気を強引に圧縮固定して、瞬間的な巨大質量を発生させた。
ドォォォォォン!!
槍が雪猿の頭上をかすめただけで、凄まじい衝撃波が地面を叩き割る。
雪猿は串刺しにされるどころか、その擬似的な重圧だけで雪の中に深く埋没し、再起動不可の状態に追い込まれた。
「……ふぅ。これが愛と論理の力です!」
「……そうか。……魔法少女、だったのか……」
エルゼは遠くを見つめるような瞳で、静かに自分の槍を収めた。その背中には、立ち入ってはいけない領域に触れてしまった者の哀愁が漂っている。
(……クーリア。お前の戦闘センスについては認めてやるが、その対外インターフェースについては帰ってから緊急会議だ。おかしいな……。戦意高揚系の術式は組み込んでいない筈なんだが……。念のため感情バッファを走査したが、外部からの干渉はない。……つまり、今の『論理的に串刺し』という発想は、純度100%お前の自前だというのか……?)
俺は戦慄した。
ボアフードを被った可憐な少女が、長槍を構えて「息の根を止めてあげる」と微笑む。その整合性の取れない光景に、俺の演算回路が一時的な過負荷を起こしそうになる。
「……あの、クレアハート。さっきの『ロジカル』というのは……その、何かの暗号か? あるいは、君の故郷の儀式か何かで……」
エルゼが、壊れ物に触れるような慎重な手つきで問いかけてくる。彼女ほどの槍使いが、あからさまに視線を泳がせているのは相当な異常事態だ。
「いえ! 『ロジカル』は『ロジカル』ですよ、エルゼさん! 相手を一番確実に、迷わず、最短距離で仕留める……それが魔法少女の愛の形なんです!」
(お前、それを世間では効率的な殺傷と呼ぶんだよ! 頼むからその物騒な思想に『魔法少女』という可愛いラベルを貼るのをやめろ!)
「……そ、そうか。……効率的、ということだね。……うん、非常に……論理的だ……。……はは」
エルゼの引きつった笑みが、雪原の寒風に虚しく消えていく。
彼女はそっと視線を逸らすと、まだピクピクと動いている雪猿の死骸から槍を引き抜いた。
(……おい、クーリア。お前の適応能力が高すぎて、ついにエルゼの思考ルーチンに致命的なデバフを与えちまったぞ。……だが、TSモードのデータ収集としては満点だ。刺突の瞬間の魔力収束、あれは俺の計算以上に鋭利だった)
(えへへ、そうですよね! やっぱり『ロジカル』な一撃は決まると気持ちいいです!)
(……その言葉、お前は二度と人前で使うなよ。いいな、絶対にだぞ。俺の|管理者としてのプライド《尊厳》が、さっきからボロボロと消去されていってるんだからな……)
「エルゼさん、魔物、まだまだ居ますよね? 私、今とっっっても蹂躙したい気分なんです!」
「え、じゅ……そ、そうか、頼もしいな、うん」
いやいや、普通じゃないからな? 確かに戦場においては頼もしいかもしれないが、俺は分かる、今のクーリアはちょっとまともじゃない。
(おい、クーリア。お前、ちゃんと自分自身のログを憶えているのか?)
(当たり前じゃないですか、何言ってるんです? ミコトさん?)
(……思い出しているならいい。だが、お前のその好戦性は明らかに異常だ。待て、深層ログと生体情報を照合する……)
俺はクーリアの視界を共有したまま、彼女の体内を巡る魔素の循環経路と、脳内の化学伝達物質を高速でスキャンした。
先ほど説明した通り、この世界における魔法とは「エネルギーそのものを魔素として利用する」ことだ。そして今、彼女は俺のサポートを受けて、本来ならあり得ない出力でそのエネルギーを物理的破壊へと変換している。
(……チッ、原因はこれか。TSモードによる強制的な質量操作と、魔素の急激な放出が、お前の神経系に強烈な恍惚を与えているんだ)
一言で言えば、強力な魔力行使に伴う全能感――極度の魔力酔い状態だ。
破壊の快感が魔素の循環を通じて直接脳を刺激し、恐怖心や倫理的なブレーキを焼き切ってしまっている。
「ふふっ……エルゼさん、あっちの岩陰にもまだ隠れてますね。まとめて粉砕にしてあげましょうか……?」
ボアフードの奥で、クーリアの琥珀色の瞳がトロンと妖しく潤んでいる。
コートの裾から伸びる『蒼の憧憬』の切先が、微かな震えと共にチリチリと青い放電を散らしていた。
「み、ミンチ……!? クレアハート、君、さっきから言葉の端々が……その、魔法少女というより、暗黒卿か何かに……」
歴戦の槍使いであるはずのエルゼが、完全にドン引きして数歩後ずさっている。
これ以上この状態を放置すれば、クーリアの精神構造そのものに悪影響が定着しかねない。
(おい、クーリア。その物騒な妄想を今すぐ強制終了しろ。魔力回路への出力を一時的に絞るぞ。……強制冷却、実行!)
俺はクーリアの視界を共有したまま、彼女の体内を巡る魔素の循環経路と、脳内の化学伝達物質を高速でスキャンした。
この世界における魔法とは「エネルギーそのものを魔素として利用する」ことだ。そして今、彼女は俺のサポートを受けて、本来ならあり得ない出力でそのエネルギーを物理的破壊へと変換している。
(……チッ、原因はこれか。TSモードによる強制的な質量操作と、魔素の急激な放出が、お前の神経系に強烈な魔力還元を起こしているんだ)
一言で言えば、強力な魔力行使に伴う全能感――極度の魔力酔い状態だ。
破壊の快感が魔素の循環を通じて直接脳を刺激し、恐怖心や倫理的なブレーキを焼き切ってしまっている。
「ふふっ……エルゼさん、あっちの岩陰にもまだ隠れてますね。まとめて粉砕にしてあげましょうか……?」
ボアフードの奥で、クーリアの琥珀色の瞳がトロンと妖しく潤んでいる。
コートの裾から伸びる『蒼の憧憬』の切先が、微かな震えと共にチリチリと青い放電を散らしていた。
「み、ミンチ……!? クレアハート、君、さっきから言葉の端々が……その、魔法少女というより、暗黒卿か何かに……」
歴戦の槍使いであるはずのエルゼが、完全にドン引きして数歩後ずさっている。
これ以上この状態を放置すれば、クーリアの精神構造そのものに悪影響が定着しかねない。
(おい、クーリア。その物騒な妄想を今すぐ強制終了しろ。魔力回路への出力を一時的に絞るぞ。……強制冷却、実行!)
俺は彼女の腕から『蒼の憧憬』へ流れる魔素のラインに制限をかけ、同時に頭部の血管を魔術的に僅かに冷やして、物理的に頭を冷やさせる。
しかし。
「あ、なんか……不自然な吹雪が来ましたね……良いですね、何か変な奴が居そうですよ!」
まさかのディスペル。俺のサポート無しでここまで魔素を使いこなすとは……!
(なっ……強制解除だと!? 俺の管理者権限による冷却処理を、無意識の防壁で弾き返したというのか……!)
俺は電子的な絶句に陥った。
魔法が単なる化学反応の延長ではなく、「魔素という一次エネルギーの直接操作」であるこの世界において、彼女の直感は俺のサポートすら上書きし始めている。
つまり今のクーリアは、TSモードによる魔力酔いの勢いそのままに、俺の制御系から半ば独立して『暴走する重戦車』と化しているのだ。
「あはっ、風が冷たくなってきました! この異常な魔力密度……エルゼさん、大物が来ますよ! 私の『蒼の憧憬』が、早く串刺しにさせろってウズウズしてます!」
(違う! ストラトスはそんなこと言ってない! それはお前の破壊衝動だ!)
俺は脳内で叫ぶが、当然彼女の受信回路には届かない。
ボアフードのモコモコとした可愛らしいシルエットとは裏腹に、彼女の琥珀色の瞳は猛烈な吹雪の奥を肉食獣のように睨みつけている。
「ま、待てクレアハート! あの吹雪は自然現象じゃない、おそらく局地的な吹雪の精霊か、それに類する高位の……って、聞いちゃいないな!?」
エルゼが悲痛な声を上げるが、クーリアはロングコートの裾をバサリと翻し、|蒼い長槍《ストラトス・TSモード》を肩に担いで、猛吹雪の中へズンズンと歩みを進めていく。
(ええい、こうなったら仕方ない! 下手に強制介入してこの極寒の中で気絶させるより、暴走状態のままその過剰リソースを眼前の敵に全て叩きつけさせ、魔力枯渇による強制睡眠を狙うしかない!)
俺は腹を括り、彼女の肉体が自壊しないよう物理的負荷の軽減に全リソースを振り向けた。
「さあ、どこに隠れてるんですかー? 早く出てこないと、この山ごと更地にしちゃいますよー? きゃはははっ!」
無邪気で可憐な声が、吹雪の轟音を切り裂いて響き渡る。
その狂気じみた挑発に応えるかのように、吹雪が一点に収束し、巨大な氷の塊が人の形を取り始めた。
見上げるほどの巨体。四肢に鋭い氷柱の刃を生やした氷雪の巨人。災害級とまではいかないが、一介の冒険者がソロで挑む相手ではない。
だが、クーリアの顔に浮かんだのは恐怖ではなく、満面の笑みだった。
「やあっと出て来てくれました」
(……ふむ。確かに親玉クラスのようだ。氷雪の巨人か。周囲の魔素を凍結させて外部装甲を増設し続けるタイプだな。……おい、クーリア。はしゃぎすぎて自壊するなよ?)
俺と彼女は今、一つの肉体を共有しながらも、完全に独立したデュアルコアとして稼働している。彼女の情緒がアクセルを限界まで踏み込めば、俺の論理がその膨大なエネルギーを戦闘術式へと変換し、肉体にかかる過負荷を逃がす。
俺たちの意識は、混ざり合うのではなく、並列に走りながら互いに干渉し合うマルチOSだ。
(わかってますってば! 今の私は、最高にロジカルなんです! ……ねえ、ミコトさん。あの巨人の胸のあたり、すごく美味しそうな魔力が詰まってますね?)
(……フッ。お前、ついに魔物を食糧として見るようになったか。いいだろう、俺が軸合わせと質量補正を担当する。お前はただ、その衝動のままに物理を叩き込め!)
ボアフードの隙間から、青白い放電が漏れ出す。
ロングコートを棚引かせ、クーリアは雪原を蹴った。一歩ごとに『蒼の憧憬』がその姿を変え、槍の穂先が超高周波で震え始める。
「な、なんなんだ……あの子……。魔力波形が二重に共振している……!?」
背後でエルゼが槍を構えたまま、戦慄に目を見開く。彼女の目には、クーリアの小さな背中に、巨大で冷徹な魔素が見えているだろう。
「見ぃ~つけたっ! 『蒼の憧憬』|最大出力ッ!!」
クーリアが跳躍する。重いボアコートが羽のように舞い、ミコトの質量制御によって重力を無視した弾道を描く。
(よし、クーリア。そのまま心臓部へ突っ込め。『蒼の憧憬』の全ポートを開放する……。刺突の瞬間、巨人の魔素構造を浸食し、その存在定義を書き換えてやる!)
「はぁぁぁぁぁっ!!」
巨人が放つ氷柱の弾幕を、クーリアは空中で体を捻りながら紙一重で回避する。その回避行動はミコトが算出した最適解。そして、剥き出しになった巨人の胸部へと、蒼い閃光が吸い込まれた。
ズドォォォォォン!!
槍が刺さった瞬間、巨人の巨体がビクンと硬直する。
ストラトスの穂先から、ミコトの冷徹な論理杭が打ち込まれ、巨人を構成する魔素の所有権が強引に剥奪されていく。
「……あ、これ、すっごく美味しいですっ!」
(食うなと言いたいところだが……効率的ではあるな。魔力置換、開始!)
次の瞬間、巨人の全身に蒼いひび割れが走り、内側から凄まじい光が溢れ出した。
咆哮を上げる暇もなく、見上げるほどの氷の巨躯が、キラキラと輝く純粋魔素へと分解され、ストラトスを通じてクーリアの体内へと還元されていく。
(クーリア、まだ終わってないぞ。あの硬質なボディには刃物よりも鈍器の方が有効だろう。『蒼の憧憬』TSモードはお前の想いに応える。望めばハンマーのような形態にもなるだろう)
(なるほど。お望み通りに最適化してやりましょう。『蒼の憧憬』、お前の可変領域をさらに広げて!)
俺の思考に呼応するように、クーリアの手の中で蒼い槍が再構成を開始する。
鋭い穂先が重なり合い、青白い火花を散らしながら、一撃で空間を歪めるほどの高密度質量を備えた大型の戦鎚へとその姿を変貌させた。
(わあ……! すごい、重いのに、すごく振りやすそうです! ミコトさん、これならいけます!)
(ああ、行け。TSモード真骨頂、破壊的論理の実行だ。遠心力に重力加速度を上乗せして叩き込め!)
クーリアはボアコートを大きく翻すと、巨人の懐へと超低空滑走で潜り込む。
巨人が振り下ろした氷柱の腕を、ミコトの演算による最小限の動きで回避。そのまま、独楽のように鋭く回転しながら、巨大なハンマーを巨人の足首へと叩きつけた。
「魔法少女ロジカル☆クレアハート! 質量爆散ッ!!」
(だからその名乗りはやめろぉ!)
――ズ、ドォォォォォォン!!!
鈍い衝撃音が山脈に木霊する。
巨人の強固な氷結装甲は、ミコトが算出した「構造上の脆弱性」を突かれ、蜘蛛の巣状の亀裂を一瞬で全身に走らせた。
修復が追いつかないほどの圧倒的暴力。
「……あ、あ……」
エルゼはもはや言葉を失い、槍を構えたまま石像のように固まっている。
彼女の視界には、可憐な少女が自分よりも巨大な鉄塊を軽々と振り回し、災害級の怪物を「物理」で粉砕していく非現実が焼き付いていた。
(……ふん。やはり俺のロジックを完全に受け止めるな、この『蒼の憧憬』。……もはやこれは単なる道具ではなく、俺の意志の延長そのものだ)
崩れ落ちる巨人の残骸を見上げながら、俺は改めてこの武器の従順さに底知れぬ何かを感じていた。
次の瞬間、巨人の全身に蒼いひび割れが走り、内側から凄まじい光が溢れ出した。
咆哮を上げる暇もなく、見上げるほどの氷の巨躯が、キラキラと輝く純粋魔素へと分解され、ストラトスを通じてクーリアの体内へと還元されていく。
「……信じられない。あの巨人を、一撃で分解した……?」
雪煙が収まった後に立っていたのは、返り血(氷の破片)を払い、満足げに喉を鳴らすボアコートの少女一人。
クーリアは槍をくるりと回すと、手首の腕輪へと戻し、何事もなかったかのようにエルゼを振り返った。
「お待たせしました、エルゼさん! デザート……じゃなくて、お片付け完了です!」
(……ふん。TSモードの初戦としては上出来だ。だがクーリア、お前のその『美味しい』という味覚センサーについては、やはり後で徹底検証が必要だな)




