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僕がバカになった日

作者: 紅の鮭


「君は今何を考えて生きているんだい? 」


これは僕の担任が生徒に向かって言った言葉だ。


今思えば別段深い意味があったわけじゃない。テストに遅れてきた生徒へ「君は何も考えずに生きているんだな」と嫌味を言いたかった、ただそれだけだろう。


しかし、当時の僕はその言葉になぜか興味を持った。


「( 今何を考えているかってそりゃあテストの出来だよなぁ)」


学生とは矮小な生き物だ。どれだけ偉そうなことを言っても、目の前に強敵(テスト)がいれば他のことなど考えてはいられない。どうやってやり過ごすか、思考はそれで埋まってしまう。


テストが返却された。他人と自分の点数を見比べ周りが一喜一憂し始めたのを横目に、


「ま、こんなもんかな」


僕はそう1人呟きながら、余裕で平均点を下回ったテストを机にそっとしまった。


自分のことを頭が良いなどと思ったことはない。中学生の頃「もしかして俺は他の人間とは脳の構造が違うんじゃないか? 」などと思ったことはある。


しかし、あれは俗に厨二病などと呼ばれる病を患っていた時期なのでノーカンである。はぁ⋯⋯死にたい。


何故日本政府はこのような国民病とも言える病に対し、なんら措置を取ってくれないのだろうか。後遺症に今も苦しんでいる人々が一体どれほどいるのかわかっていないのか。


そんな日本政府に内心怒りを抱きながらも授業は淡々と進んでいった。



今日の授業が終わり、帰り支度を始める。するといつも一緒に帰る友人が、今日は先に帰っててくれと言ってきた。


1人で帰り道を歩きながら、授業中に担任が言った言葉について考えてみた。


「( " 今何を考えて生きている " ね。そういえばいつも何を考えながら帰ってたんだっけ? )」


ふとした思いつきで、昨日の会話を思い出してみた。


「(昨日は確か、テストの話をして、その後は最近オ〇ってるかどうか聞かれて、好きなAVのジャンルを語って、お気に入りのサイトを教えてやったんだっけか )」


他に何か話をしていた気もするが、どうせ似たり寄ったりの内容だろうと思い、思い出すのをやめた。


昨日話した内容を思い出しながら、僕は静かに驚いていた。


あまりに中身が無さ過ぎたからだ。


確かに中身の無い会話は面白い。しかし、それ自体には何の価値も無い。ただただ面白いだけなのだ。


中身の無い思考をしている自分が怖くなった。


「(僕はこのまま中身の無い人生を送っていくのか? そんな自分が生きる意味などあるのか? )」


考えれば考えるほど答えが見つからない気がした。


「 (そもそも生きる意味ってなんだ? どんなに頑張って生きても結局は皆んな死ぬんだろ? 僕は死ぬために頑張っているのか? )」


あたりが霧に包まれたように周囲の存在が希薄になり、だんだんと思考の渦に巻き込まれていくのを感じたーー。








「よっと! 」


急に後ろから衝撃を感じ振り向くと、そこには友人の姿があった。


「悪い、テストに遅れた件でめっちゃ怒られてた。今度再テストやってやるから、絶対遅れんなだってさ」


普段通りの友人が今は何故か嬉しかった。


「あのババアはよ! 要件だけ伝えればいいのに、グチグチグチグチねちっこく人の揚げ足とってよ! そんなんだから独身なんだよな! まったくこれだからーー。」


「あのさ」


「何? どした? 」


「少し変なこと聞いてもいいかな」


「内容によるけど⋯⋯まぁ言ってみ? 」


僕は悩んだ。この悩みをコイツに言って、コイツも同じ渦にはまってしまったら、誰が助けてあげられるんだろうか。


それでも、コイツならこの渦から助けてくれるようなそんな気がした。


「お前はさ、自分の生きる意味って考えたことある?僕は何で自分が生きているのか分かんなくなっちゃってさ。考えてると、なんか自分に生きる価値なんてない気がしてきちゃってさ」


話し出すと止まらなかった。自分でも何を言っているのかわからなかった。


頭の中がグチャグチャでそれを整理するために必死になって話している。その吐け口に大切な友人を使ってしまった罪悪感はあった。しかし同時に、そんな自分の話をちゃんと聞いてくれる親友を誇らしくも思った。


「なるほどなぁ」


親友は僕の話を聞き終えそう呟いた。


「お前が何に悩んでいるのか大体はわかった。それは多くの人が悩んでいることでもある」


自分にとってそれは衝撃的だった。あのババアやコイツも同じ悩みを持ったことがあるのかと、同時にその解答があるのかと。


「なら答えはあるのかって期待しただろ?無いんだなぁこれが」


「じゃあどうして生きていられるんだよ。自分の生きる意味も価値もわからないまま何十年も生きなきゃいけないんだろ?そんなのただの拷問だよ」


「そうだな。そうとも言える。でもそれは大前提に優等生ってのがある」


「どういうことだよ」


「優等生ってのは何にでも正解を求めたがる。数学とおんなじように全ての問題を解こうとするんだ」


「だからなんだよ」


「まず間違いなくお前はバカだ。俺が保証する。ちなみに俺もバカだ。お前は計算するときに1+1がなんで2なのか悩みながら解くか?バカは全ての問題に答えを求めない。わからないものはわからないで納得できる」


「⋯⋯」


「だからバカは生きるのが楽なんだよ」


結局コイツは何の答えも教えてくれなかった。でも、それでも納得している自分がいた。やっぱり俺はバカなんだと思った。


「バカは他にも強みがある。それはのめり込むとどこまでも行きそうになることだ。今回のお前がいい例だな」


頭の中がスッキリした途端、今までの行動を客観的に見る余裕が出てきた。


「今考えると僕めっちゃ恥かしいこと言ってた気がする」


「それな」


「否定して欲しかったんだけど⋯⋯」


「しばらくはこのネタでいじり倒してやるよ現役厨二病」


「や、やめい! 」





~後日~


「よお。再テスト受けてきたわ」


「どうだった? 」


「余裕で満点だった」


「嘘だろ!? 」


てっきり僕のテストの成績が悪いのは、バカだからだと思っていた。だから同じバカのコイツも悪いに違いないとそう勝手に思い込んでいた。

しかし現実はそうではなかった。


「言い忘れてたけど、バカの強みはまだあってな。それはバカなのと、頭の良し悪しは関係ないってことだ。まさかとは思うが、テストの点悪かったりしないよな?  」


「そ、そんなわけないだろ」


「そう言えば、ババアがお前のこと呼んでたぞ。テストの件で話があるって」


僕は職員室へ走り出した。



最後まで読んでいただきありがとうございます。


まず言いたいことは、生きる意味や自分の価値について考えることを否定したい訳ではないということです。


それ自体は良いことかもしれません。その過程で自分の大切な何かが見つかるかもしれないからです。


しかし、それを理由にして今を疎かにしてしまうのは違うだろ?って話です。




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