兆し
戸田山との別れ際、少しだけ雑談をしたーー
「まさかあのディメンションモンスターに俺の鬼神がやられるとは思わなかったよ」
ーー効果を持たないフルアーマーじゃ戸田山さんほどの人に普通なら勝機は無い。
「、、何とか上手くいきました」
「ディメンションモンスターはそれだけ?」
「色々あって今はこいつだけです」
ーーこれまで戦った相手のカードでそれなりに強いディメンションモンスターが有るのが当然だろう、戸田山にはそう思われたはずだ。
「色々悩んでるみたいだね」
「分かりますか」
「顔に出てるからね、鬼神を倒した時ですら君は良い顔をしなかった」
「実はディメンションモンスターによってクリスタルが砕けると、その度に2つの世界が融合してしまうんです」
「えっ?ーー」
戸田山は口元に手を当てた…
総駕の戦い方はストレートフラッシュ狙いではあったがセオリーとは違った。
「ーー俺もずっとこのゲームで戦い続ける事には疑問だったんだ、理由が知れて良かった」…
「所で何故そんな詳しい事情を知っているの?」
「信じられないでしょうけど…俺は一度パラパラと戦ってます、そして敗れました」
戸田山は驚いた表情を一瞬して、直ぐに腑に落ちた顔をした。
「そうだったのか…」
「ええ、そっから色々あって…
具体的な解決策は浮かばないけど彼奴は理不尽な事をしていて諦められなくて…」
「ーー結局ディメンションモンスターに頼らなきゃいけなかったり、パラパラに挑むには勝ち続けなきゃいけなくて悩みまくりですよ」
「確かに直ぐには答えは出なさそうだ、俺にも分からない、きっと同じように目の前の事に臨むしか出来ない」
戸田山はポケットからカードの束を取り出し差し出す
「えっ?!…」
「使ってよ」
ディメンションモンスター…
プロダクションタイプに翼が装備され、装甲もアップデートされたカード、改良型だ。
ゲームの都合上ありがたいカードだが、あまり良い顔を総駕はしなかった。
「本当は頼りたく無いと思う、それでも君には先に進んで欲しいかな」
「…ありがとうございます」
「俺もまだキーが残ってるから、総駕君みたいに出来るだけノーマルモンスター主体でやってみるよ」
同じ想いでこの世界で抗ってくれる仲間、
そして俺がこの先も立っていられるのは今まで出会って来た人達がいるからだ。
総駕の表情が明るくなる。
「俺も聞きたいんですけど」
「ん?」
「見ず知らずの俺に親切だし良い人なのはすげぇ伝わって来たんですけど、その…心の持ちようっていうのか戦ってる時も気持ちがブレないって感じがして他の人と違うなって」
「そうだな俺がかっこよく生きていたいって思ってるからかな」
「かっこよくですか?」
総駕は戸田山の顔を見る
「ルックスの話じゃ無いよ、かっこいいのは否定はしないけどね」
確かに男の俺から見てもかっこいいけど、総駕は半笑いをする。
「この世界、なんて言うのか心無い冷たい気がするんだ、だから俺が人らしく在るべきだと思う生き方をしたい訳さ」
「…何となく分かる気します」
「まぁ鍛えてるって事かな」
戸田山は指でピストルを作り総駕を打つように腕を上げた。
ーー総駕は笑った
[野比さんといい戸田山さんも、最近ピストルのポーズ流行ってんのか]。
〇〇⚫︎〇〇⚫︎〇〇⚫︎〇〇⚫︎〇〇⚫︎〇〇⚫︎〇〇
カードキーが2枚になった総駕は再びマップを起動し移動を開始。
対戦相手と巡り合うーー
ーー海外の男性だった、体格が良く鍛えられた身体はイカつい雰囲気だ。
声を掛けずらかったが身振り手振りで試合を申し込み、合意してもらった。
試合が進み相手の男は
ディメンションモンスターSILENTbattleshipをサモンしてきた。
彼が使うカードはホルダーで処理すると日本語になりテキストも和訳されたので落ち着いて対処出来た。
○○●○○●○○●○○●○○●○○●○○●○○
2つの球体が表示されたモニターと街の監視カメラの映像を凝視するパラパラ。
「天流寺総駕…まだ足掻くか」
不適に笑うパラパラは試合を拡大した。
ドゥクスが部屋に入りモニターに目を向けた。
「どうです進捗は?」
「ええINstageの為のクイックスペルの調整が終わって問題なく散布出来そうよ」
ドゥクスの視線にパラパラが問う
「気になりますか?この試合」
「気にならないと言えば嘘になるわね
けれどあの子にはもう…」
「そう、インフィニティナンバージョーカー
そしてライガードラゴンすら無い」
ーー試合が決着しようとしていた
総駕と戦う屈強な男セガールが操る
SILENTbattleship、それを総駕のイムプルーヴドタイプVer.wingが撃破する。
戸田山から受け継いだカード…
ディメンションシフトにより呼び出した、これが無ければセガールには勝てなかった。
セガールのディメンションモンスターが異次元に戻った事で契約の代償、黒い瘴気が視認出来る。
総駕は歯痒い表情で見守る。
黒い瘴気は橙色のオーラに変わりセガールは目を見開く。
試合に勝利した総駕は違和感を覚える。
総駕 カードキー3枚。
残るキーはC.とE.のカードキーだ。
ーー違和感を覚えたのは総駕だけでは無かった
パラパラは直様2つの球体が映るモニターに近寄る。
画面上には小数点含む数字が記されていた。
[この並行世界と地球は交わる事は無かった、それをこのゲームの力でゲートを生み出し世界を繋げる事が目的だ]
[どんな試合でもディメンションモンスターを使えば僅かな数値でも可視化する事が可能だった]
「今の試合…最後にタイムクリスタルが5つ以上砕かれたのにも関わらず変動が無い?!」
パラパラの動揺が見て取れた。
「ドゥクス、このステージで天流寺総駕の他の試合の記録はありますか?」
ドゥクスがかすかに笑う
「ディザスターの新たな力ESにも動じなかったのに意外ね」
「えぇ、意外です。気の持ちよう一つで争うなど…」。
「あのディメンションモンスターESはまだ得体が知れている、ディザスターはまだ一度も自分のディメンションモンスターを顕現させていなかった、それにーー」
「ーー私の創世龍もまた進化している」
問題は無い。
「前回の試合でも同様の結果ね、変動は無かったわ
」
「天流寺総駕は実力は無いが想定外の事象を都度を起こしている…これは由々しき事態だ」
「傲慢ね」
「権力者でしたからね」
パラパラがコールボタンを押す。
「はい…」
暗い声が聞こえる。
「あるプレイヤーを始末してもらいたい」
「分かりました」
「お願いしますよ熊闇御堂君」。
紺色の長い前髪の下から虚な目を覗かせる、
熊闇御堂陸人。
デッキの1番前には闇に染まるライガードラゴン、
それを電子ホルダーに装填し街に繰り出す。




