再起
x月7日
「ここは?…」
気がつくと天流寺総駕は灰色の空間に横たわっていた。
全身に冷たさを感じ上体を起こす。
「気が付いたか」
声の主はディザスターだった。
奴は少し離れた横で壁を背もたれにして座っていた。
目を見開く総駕…、様々な感情や情報が頭の中で錯綜する。
俺達は確かに敗北したーー
だが、そんな事も押し除ける程に気になる事が一つあるーー
肌色の一糸纏わぬ生まれたままのその姿ーー
「おまっ何で裸なんだよ⁉︎⁉︎⁉︎」
総駕は声を大にした。
ディザスターは冷静に言った
「お前もだぞ」
えっ?・・・
視線を下腹部に移す
「うわぁああああ!!」
慌てて股間を両手で隠す。
「だからなんで⁉︎⁉︎」
「…さぁな」
冷静過ぎるだろ…。
総駕が黙って居るとディザスターは立ち上がる
「ちょっ待ってくれよ」
全裸って状況だから辺りを気にする総駕、
対してディザスターはまるで銭湯にいる感覚で堂々と建物を前進する。
恐る恐る総駕はディザスターの後に続く。
2人は無機質な廊下を歩いて行く
「何処行くんだよ」
「決まってない」
「はっ⁉︎」
「あそこに居たって埒が明かない」
「それはそうだけど、この格好ヤバいだろ」
「だったら先ずは服だな」
「お、おう」
只者じゃ無さそうだとは思ってだけどーー
落ち込んだり、焦る状況に動じないって言うのか。
「ここには窓が無いから地下だろう…
外に出ないとな」
こいつは前しか観てない…
じっと見る視線に後方に一目振り向く
「どうした?」
「いや、逆に何も聞かねぇんだなって…」
「本気で戦っても駄目だったんだから仕方ないだろ」
「仕方ないってそんな簡単に割り切れるもんかよ!」
「辛いが俺達はまだ生きてる」
「ただ生きてたって…どうしようも無い」
総駕は不貞腐れて言った。
「今までどうにもならなかった事の方が少ないんじゃ無いか?」
「…」
「生きてりゃ大概は何とかなって来たろ、
生きてる限りフルチャンだ」
軽快そうな奴とは違って自分は軽いため息を吐いた。
格好つかねぇよーー
ーーフルチャンつうか、今フルチンなんだよ俺達。
気分はドン底だ何もかも失ったし、
あれだけ死力を尽くしてもパラパラには敵わなかった。
だからもう本当は前に進む気力なんてこれっぽっちも残って無かったのにーー
--何でアイツに着いてってんだろ俺。
ボーっと歩いていた為背中に打つかる
「イテッ」
ディザスターが曲がり角で立ち止まった。
「何だよ」…
視線を追うと黒服2人が歩いていた。
小声でディザスターは言った
「ヤツ等から服を奪うか」
「はっ、、なに言ってんの?!」
「ここがパラパラ達のアジトだとしたら都合が良い」
直後ディザスターが忍足で黒服まで一気に距離を詰める。
総駕は戸惑って身を潜める。
そして黒服の背後に迫る、ヤツ等が振り向きかけた瞬間に右の拳撃でこめかみを殴り抜ける。
1人が倒れ、もう1人が臨戦体制になる。
黒服の男が制圧するためタックルを仕掛ける、
腰回りを狙われ後方に上体が崩れて行く。
反撃を両手でするが馬乗りの形になりマウントを取られる。
上手くディザスターが攻撃をいなしてボディーに数発攻撃を入れた。
そこで倒れたもう1人が起き上がりディザスターの両腕を狙うーー
「ッ!!」
次の瞬間両腕を封じられたディザスターが馬乗りで殴られた。
このままじゃやられちまう、めちゃくちゃな事やってるけど本気なんだ。
「うりゃあああ」
総駕が駆け出し黒服2人を突き飛ばす。
隙を見計らいディザスターが1人を制圧、
総駕はもう1人を押さえ付けて居た。
ここで戦わないと後悔するーー
喧嘩が得意な方じゃ無いし、まともにした事もない、だからこいつを必死で抑えるしか出来ない。
「ディザスター…」
絞り出すように声を出す。
ディザスターが駆けつけ一撃が黒服の鼻にクリーンヒット。
悶える間に急所に数発叩き込み、ネクタイを解き腕を縛る。
1人を拘束後最初に伸びた黒服に近づく
「少し抑えててくれ」
それに頷くとディザスターは上半身のスーツを脱がせ、ネクタイで両腕を縛り近くの手摺りに固定した。
その後ベルトを外しズボンを下ろし、パンツは残してもう一名の元へ。
両腕は縛ってあったので、ズボンを先に下ろし暴れる為奪ったベルトで足を拘束。
その後、同様に上半身の身包みを剥いだ。
ーーこうして2人分の衣服を確保しスーツに着替える。
ノーパンだから下半身に違和感しか無い。
「流石に同じパンツは履きたく無いのと
せめてもの慈悲だ」
「同感…」
苦笑いで返事を返し2人は再び歩き出す。
「この感じ懐かしいな」
「何がだよ」
「水泳の授業があるから朝から水着を履いてって帰りにパンツが無いって事、小学生の頃無かったか?」
アホだ…
「俺は無い」
総駕は首を横に振るとディザスターは心無しか残念そうに見えた。
「そうか」
\チーン/
エレベーターに乗り込む。
「今頃サードステージが始まってるだろうな」
「けどデッキもねぇし、それに次のラウンドに参加できるのか?」
「セカンドステージの突破条件を満たしてるだろ?だったら参加する権利だってあるはずだ」
確かに5戦3勝はしてるけど。
「俺はパラパラに負けてあれが3敗目だったんだよ、お前はどうせ負けてなかっただろ?」
「そうだな、だがパラパラは俺も確実に敗退させたつもりだろうな」。
扉が開いた
「この状況自体、イレギュラーなんだ
運が良かったと思えばいい」
「俺は次戦っても勝てる気がしない…」
総駕には覇気が無かった
「最後のターンまでの話を聞かせてみろ」
俺はきっと話したかったんだ、パラパラに使われた3種の神器のタイムスペル、最後に現れた
"-円卓の騎士-モルドレッド"
ディザスターは頷いた
「そうか」
奴は再び何事も無かったように歩を進めた
「おい、そうかってそれだけかよ」
「今やる事は決まってる」
「そうだけど」と心では頷くが、そうじゃ無くて俺はそんなに強くなくて…歯痒さを感じる。
「なんでそんなに切り替え早えんだよ、
何も思わないのかよ」
「俺だってショックだ、だが絶望してる間にも
次の絶望は近づいて来るんだ」。
「だからヤバい時ほど1つ1つ目の前の出来る事をこなしてくしか無いんだ」
ディザスターは部屋の扉を開けた。
資材室だった。
ーフロアマップいつの間に見てたのか
「元来人はこの身一つで道を切り開いて来た」
「1からでもまたやり直せる」
ディザスターがカードの束を手に取る。