狂う歯車
「タイムクリスタル セットアップ」
総駕のホルダーからクリスタルが連なるように放射される。
手札を見るとバランスが良く、ディメンションモンスターも呼び出せる。
「よし…」。
'結衣の様子が気になる'
ゲームに余裕がある総駕は他の事に思考の余地が生まれる。
'一気に決めて行きたい所だが…油断は出来ない'。
ーーー
「さぁ、始めようか」
紫宴が手札を構える、対面は結衣。
紫宴の堂々とした余裕ある雰囲気に、自信すら感じる表情は、プレッシャーを与える。
-第1ターン-
「私の先行」
「僕のターン」
互いにクリスタルを解放しターンが流れる。
-第2ターン-
「タイムクリスタルを解放ターン終了」
強張った様子で結衣はカードを慎重に運んだ。
「僕はTs
ソニックタイムを使う…」
カードを2枚クリスタルに投げ込む紫宴。
そのカードは12、11番の先端のクリスタルを灯す。
紫宴が細い目を向ける
「ターン終了」。
紫宴Tc解放値4。
コスト4までが使役可能となる。
-第3ターン-
結衣は思考を巡らせこのターンの動きを確定させる
「私はクリスタルにカードをセット」
さらに一枚カードを繰り出す
「クロックブーストを使って解放値を4つに」。
「サモン-コスト/4。カラーリーフ-カンナ-」
結衣の場に情熱的な花弁を持ち、赤銅色の葉を付ける人型の植物モンスターが出現。
先のターン
'あの人はわざと数字の大きいクリスタルにカードを伏せた'
「カンナは12〜7番のクリスタルなら指定して攻撃ができる」。
'これなら12.11のクリスタルに仕掛けられた罠を躱せる…!'
「やるねえ」
余裕ある表情で紫宴は手札を構える。
その様子のせいか結衣は緊張感を味わう
「カンナでプレイヤーにアタック
攻撃先は10と9のクリスタル!」
その花弁が手裏剣のように展開し、不起訴な動きでクリスタルに向かって行く。
「残念だけど、僕の思うがままだ」
紫宴がタイムスペルを公開…
"パープルストーン"
…結衣は目を見開く。
「相手の攻撃時、そのモンスターのコストを+-1どちらかを行い、パワーを500上げ、矛先を僕が決める」。
紫の球体が攻撃を誘う…、花弁は念動力によりクリスタルの12.11を襲う。
直後、紫宴のクリスタルの破壊音が響く--
紫宴 TC12➡️残り10。
キラキラと輝く破片が紫宴の顔前を通過する。
「僕は、カンナのコストを3にした、これにより、クリスタルと共に破壊されたモンスターの能力を使える」。
"パープルスピリット"
TCZで破壊された時相手の場のコスト3を破壊できる。
「パープルスピリットによりカンナを破壊」
霊体が人型モンスターのカンナを羽交締めにし、生気を奪い破壊する。
結衣 TC 12➡️残り11。
「さらにもう一枚伏せたカードがある、
"パープルブルーミング"」
TCZで破壊された時、同時に他のパープルカードが破壊されこのターン、パープルモンスターの能力を他に使っていたならそのカードをTCZに表でセットし更に一枚カードを引く。
「僕はカードを1枚引く、それから破壊されたパープルスピリットをセットする」
紫宴のクリスタルの解放値は3になる。
結衣の表情が強張る…
考えた一手が通じなかった徒労感、
戦略が上回る彼との力差を感じる。
「ターン終了」…。
紫宴の3ターン目…
「クリスタルにセット、これで解放値は再び4」
サモン--パープルパペッティア
パワー1200
傀儡子が現れる。
「行け パペッティアでプレイヤーアタック」
傀儡子の操る紫の糸に繋がれし傀儡が動き出す…
カタカタと震えながら空中を浮遊し、ノコギリのような歯を見せつけ結衣に向かってゆく。
その様は狂気そのもの。
クリスタルを2つ噛み砕き…、、結衣は悲鳴を上げる。
結衣 TC11➡️残り9。
砕けたクリスタルを確認した紫宴が宣言する
「パープルパペッティアは直接クリスタルを破壊した時能力を発揮する…」。
傀儡が奇怪な笑い声を発した--
カカカカカカカカッッッッ
「次の僕のターンの終わりまで、互いにパワー2600以上のモンスターは呼び出せない」。
紫の傀儡子の糸が赤外線のように張り巡らされる。
結衣の頬を汗が伝う…。
'強い…'
鼓動が強く脈を打つ。
'けど、私は諦めない。総駕が…
パパとママが私の帰りを待ってるから'
結衣の戦意は消えていない、強い意志が目から感じ取れる。
紫宴はそれを感心するように見る。
'…折れないか。強いね…'
'それでも勝つのは僕だ'
-第4ターン-
「私のターン…」
結衣は思考する。
あのパープルパペッティアによって、ライガードラゴンという強力なモンスターのサモンは封じられた。
それでも結衣には選択肢が未だある…
「私はロベリアゲートを場とクリスタルゾーンにオープンアップ」
辺り一面が紫色のロベリアが覆う。
花弁が舞い上がると、姿を現す
スペシャルディメンションサモン。
「サディスティックサキュバス」
パワー2000
奇抜な衣装に、豊満な身体。
悪魔をイメージさせるツノと羽根と先端がハート形な尻尾。
「サキュバスのエフェクトでパペッティアのパワーを吸収、これでパワーは2500」。
ーーバトル。
「サキュバスで攻撃する時、Tsローズウィップを使用。これはバトルに勝ったらディメンションソウルになってパワーはずっと500上がる」。
サキュバスの操る薔薇の鞭が傀儡子を破壊する。
紫宴TC10➡️残り9。
これにより結衣のサキュバスはパワーが3000へ上昇する。
「…あの人は今、自分の首を絞めてる」
パペッティアを使って2600以上の強いモンスターを牽制したつもりだけど、私はそれを上回った…。
'そして、次のターン紫宴は、サキュバスより弱いモンスターしか出せない… 。'
'行ける…!。'
紫宴へターンが切り替わる。
「僕のターン」
…深くを見る眼光、細く笑う紫宴。
結衣はその表情に背筋が凍る…首筋に寒気を感じる。
「パープルゲートを2枚、オープンアップ」
ジワジワと辺りに息苦しい空気が漂う。
紫のオーラがゲートから漏れ出しそれは姿を見せる。
ーーディメンションサモン。
「"パープルリムーブ"」
姿を表したモンスターは大蛇のモンスター、ジロッと鋭い目でサキュバスを睨む…。
サキュバスの溢れる色香も、爬虫類の大蛇には通じない。
「リムーブのエフェクト…」
《ディメンションモンスター》
コスト5/パワー1500
このカードのDsを2つまで取り除き、相手のDMはDsを取り除いた数まで破棄する。自身がDsを2つ取り除いた場合、効果を受けたカードのパワーがリムーブの倍以上ならそのモンスターのパワーは半分になり、半分の数値を得る。
「なっ、。そんな…⁉︎」
結衣は困惑し頭の中が真っ白になる。
大蛇が地面を這い、サキュバスを締め上げる。
喉を引き裂く甲高い声が響く…
「うるさいな」
紫宴は吐き捨てるように言った。
そして、ディメンションソウルを2つ排出。
リムーブがそれを丸呑みする。
この瞬間、パープルリムーブが人間の数倍もの大きさに膨れ上がる。
「っァ…ァッッ」
結衣は大蛇に睨まれ、硬直し、弱々しい声を漏らす。
無常なる紫宴の宣言ーーバトル…。
「リムーブでアタック」。
パープルリムーブ/パワー3000vs
パワー1500/サディスティックサキュバス
毒汁滴るキバを見せつけるパープルリムーブが身体を左右に畝り、サキュバスに食らいつく。
クリスタルが砕ける…
結衣 TC9➡️残り8。
サキュバスのディメンションソウルが0になる。
全てを見透かすように笑う紫宴
「ターンエンド」。
-第5ターン-
容赦ない戦略で、結衣の膝がブルブルと震え出す…
「私の戦術が読まれてる…⁉︎」。
呆然とカードを眺める。
'選択肢があるように見えるけど…
それは全て、僕の勝利へと繋がっている'
'与えられた選択肢をただ選ばされているに過ぎない'。
圧倒的な力差と、大蛇のモンスターを目の前に硬直。
「たす、、助けて」
結衣は戦慄して、本能的に声を漏らしていた…。
'……'
紫宴は呆れるように息を吐いた…。
紫宴の心無い様子を見て、心が完全に折られてしまう。
「もう、、2回負けてるの…だから…」
震える声で助けを求める結衣。
それでも紫宴は顔色ひとつ変える事なく告げる
「僕は相手が女子供だろうが容赦しない」。
冷たく、非情な一貫した姿勢。
結衣の瞳が揺れる。
「ホワイト、、ゼラニウム」
深呼吸をして結衣はなんとかカードを繰り出す。
何もできず、潤んだ瞳が彼方を見る…。
紫宴へターンが切り替わる。
「クリスタルを解放し、サモン…
ヘルドラゴン」
外骨格を覆う、骨が剥き出しの不死の竜。
結衣は2体の強力なモンスターを前に脈が高まる。
胸元が苦しく圧迫感を覚える…。
「行けパープルリムーブ」
大蛇が床を滑るように迫る、、。
サキュバスは巨体に巻き付かれ、喉を引き裂く叫びを上げ圧死する。
クリスタルが砕ける…
結衣TC8➡️7。
「ディメンションモンスターが破壊された事で君は代償を支払う」。
結衣のディメンションゾーンのカードは表向き4枚…。
サキュバスの契約が解除され、瘴気が結衣を苦しめる。
"ぐぅう…はぁっっはっ、、はぁっっ"
クリスタルが連続して砕ける。
結衣TC7➡️残り3。
「ヘルドラゴンでプレイヤーアタック」
紫炎のブレスがクリスタルを包み込む。
結衣TC3➡️残り1。
悲痛な叫び、絶望の声が聞こえる。
ターンが切り替わる…。
-第6ターン-
タイムクリスタルが1の結衣はコストが1までしか使役出来ない。
もはや打つ手が無い。
呼吸が荒くなり…過呼吸寸前にもなると思考の余地が無い。
''…消えちゃう…"
イヤッッ死にたく無いよ…、。
手札を落とし…顔をぐしゃぐしゃに濡らす。
涙を啜る声も、悲痛な表情にも、紫宴は動じない。
⚪︎⚫︎⚪︎⚫︎⚪︎⚫︎⚪︎⚫︎⚪︎⚫︎⚪︎⚫︎⚪︎⚫︎⚪︎⚫︎⚪︎⚫︎⚪︎
「道化師でアタック!!」
総駕の渾身の一撃。
しかし、相手の中年の男武田は、攻撃を捌く。
「ディメンションガード」。
歯軋りをし、総駕は荒い鼓動を落ち着かせる。
'…結衣'
二回戦開始前の暗い表情がここに来て、強く気になる。
'俺は、自分の事しか見えなくなっていた'
総駕の次ターン…
「道化師でアタック」
気迫に満ちた総駕の一撃…
武田の操るプロダクションタイプが破壊される。
「ダイヤルブーツーを捨てて、道化師でもう一度アタック」。
「クラブレードフォースでプレイヤーアタック」
クラブの棍棒が最後のタイムクリスタルを削り切る。
総駕は駆け足気味で上階へ向かう…
あそこからなら対戦スペースが全体的に見える。
人混みを掻き分けるように手を伸ばし突き進む。
「っすいません!!」
……
「急いでんだ…」
階段を駆け上がり、左右を見渡す…。
「アレは…⁉︎」
総駕の視界に入ったのは、パープルリムーブ。
紫宴の操る大蛇のモンスターだ。
あのデカさは随分喰ったな……。
紫宴の対面を見ると、心臓が大きく音を鳴らす。
結衣ッー
紫宴と結衣が戦ってる…!!
ー戦局は⁉︎…。
結衣のクリスタルの輝きが一つ此方に反射する。
肩を落とす姿…。
'…今にも負けそうじゃ無いか⁉︎'
「紫宴!!…待ってくれ!!」
総駕は声を大にして叫ぶ。
「紫宴! 紫宴!!」
叫んでも混戦するフィールドに声は届かない。
総駕は手摺をドンッと拳で叩く。
直後勢い良く走りだす。
「ック…間に合うか」
階段を飛ぶように駆け下りダッシュで向かう。
「まだ、結衣は一敗しかしてない…
なのに、どうしてだ⁉︎」
別れ際に見た、不安が纏わりついた表情が強く出てくるのは…⁉︎。
⚪︎⚫︎⚪︎⚫︎⚪︎⚫︎⚪︎⚫︎⚪︎⚫︎⚪︎⚫︎⚪︎⚫︎⚪︎⚫︎⚪︎⚫︎⚪︎
動きを見せず、膠着状態の結衣…。
紫宴はジッと時を待つ…。
ホルダーのバイブレーション、結衣にタイムリミットが迫る。
「時間だ、僕のターン」
紫宴は一切の迷い無くカードを引く。
対峙する結衣はその紫宴の姿勢に諦めが付く。
静かに涙を流すーー
「……パープルリムーブでアタック」
確信的な勝利。
決まっていた思考を実行に移す、ただそれだけだ。
無機質な感情、相手の思いや事情など紫宴は思わない。
勝負に余計な感情や思考を挟めば、窮地に立つ事を理解しているからだ。
結衣の最後のタイムクリスタルが砕ける…。
結衣TC1➡️0。
力が抜けたように、結衣の身体は真後ろに倒れて行く…
電子デッキホルダーからカードがこぼれ落ちる。
「君の力貰うよ」
落ちたカードの元へ淡々と紫宴は進み、それを手に取る…。
ーー拾い上げたカードを見て目を見開く。
「っ…まさか」
紫宴の目に映るは-ライガードラゴン。
後方から声が聞こえる…
その声が真横を通り過ぎる。
声の主は結衣に駆け寄る。
'--総駕⁉︎'
「結衣、おいっ結衣!」
総駕が倒れた結衣に寄り添う。
絞り出すような、か細い声で答える
「叫ばなくても聞こえてるよ。そうが…」。
「どうして⁉︎…まだ…」
'.結衣はこれで負けても2敗'…なのに、なんで、身体がおかしいんだよ⁉︎…。
「ほんとはね、総駕と会う前に負けてたの…
だから…」。
結衣の身体が粒子となり、転送が始まる。
総駕の瞳が揺れる。
頭では分かってる…それなのに…追い付かない…。
「俺はただ結衣と…」
言葉に詰まる、総駕の身体が震える。
その背中を見た紫宴は初めて、悲痛な気持ちを感じ、罪悪感でその場に立ち尽くす。
結衣の手が総駕の頬に伸ばされる、
小さい掌が頬を触れた。
「…大好きだよ…総駕」
涙を流すも、結衣は笑っていた。
小さな手を握り返そうとした時、光の粒子が総駕の掌を抜けてゆく。
指の隙間から、粒子が散って行く…
「っアァ」
喉が締め付けられたような声が漏れる。
悲しみが胸を震わせると同時に、止め処無い怒りが身体を動かす。
首を回し、後方に立つ紫宴を睨むように見る。
「紫宴」
眉間に皺を寄せ、威圧的な声で彼の心情を直ぐに理解した。
紫宴は何も言わない…。
どんな言葉を紡いでも、言い訳にしかならない事を知っているからだ。
'今の総駕には過程は重要じゃ無い、結果が全てなんだ…'
「結衣は、…家族同然だったんだよ…」
「あぁ、、終わってから気付いた」
「なんでだよ」
総駕が立ち上がり身体を向ける。
「泣いてただろ!!…小学生の女の子が…
お前はなんとも思わねぇのかよ!!」
感情が爆発した総駕が怒鳴る。
「…僕は悪いと思わなかった」
紫宴は拳を握りしめ答えた。
「お前は狂ってる!お前のせいで結衣が消えた!お前は自分が良ければそれで良いと思ってんだ!」
総駕が浴びせるように言葉を吐く。
「そこまで言うのか?だったらなんであの子は僕以外に2度も負けてるんだ!」
紫宴が堪えていた感情を吐き出す。
「っそれは…」
「君だって知らなかったんだろ!
君が弱いのに、あれもこれも手を伸ばすから
どれも中途半端なんじゃ無いのか⁉︎」。
「僕は、手が届く目の前の君を救いたかっただけだ」
「お前の本質は自分より弱い者を殺すクズだ、
泣いてる女の子を平気な顔して傷付けて、
何が俺を救いたいだ!!笑わせんなよ」。
「僕達は余裕がある立場じゃ無い、何故分からない⁉︎」
「人の心が無いお前には虫唾が走る…」。
総駕の話が通じない様子を見て、紫宴の顔つきが鋭く変わる。
今の総駕の表情は、まるで鏡に映る自分を見ているようだ。
ーー光郷院への復讐を誓った表情と重なる。
--復讐者の顔だ。
「結局か…」
紫宴は言った。
「表に出よう…君もそれを望んでいるんだろ」
暗い瞳で総駕を見る。
直後、紫宴は結衣から奪ったライガードラゴンのカードを投げ渡す。
「何のつもりだ」
'俺に塩を送りやがった'。
「後味が悪いだろ…」
鼻で笑い紫宴は背を向ける。
「後悔するぞ」
総駕は殺意を目に宿す。