奪われたライガードラゴンturn1
総駕は結衣を連れ暫く歩くと口を開く
「ここら辺まで来れば十分だろ」
華奢な手を放すとタイミングを待っていたかのように結衣は話し始める
「さっきは助かったよ。ありがとう」
ホッとした様子を見て総駕はうなずく
「まさか総駕もこっちに来てるとはねー」
2人は適当に歩きながら会話を続ける。
「他に知ってる人はいなかったか?」
「ううん総駕だけ」
「そっか、けどよく無事だったな」
「まあね 私ゲームつよいからねー」
結衣は胸を張って得意げに言った。
昔を思い出して笑顔になる。
2人で格闘ゲームからレースゲームとかをやっても
中々強くて暫く貸したら勝てなくなった事がある。
「確かに才能あるよ結衣は」。
ニカっと総駕は笑うと、疑問に思っていた事を聞いた
「でさっきは何でアイツに追われてたんだよ」
「えぇ分かんないよ…小学生だから簡単に倒せるとか考えたんじゃない⁇あーヤダヤダ」
「危なそうな奴だったな…」
「だって死刑囚らしよ」
「えっ」
「だってあのヤバい犯罪者の大野崎だよ⁇」
大野崎の名前を聞いて総駕はそこで初めてハッとする
「そおだよなぁ。。。」
抜けてる総駕をジト目で見る結衣
「総駕もしかして、知らないであんな事したの!!」
大きい声を上げる結衣に思わず耳を塞ぎたくなる
「しょーがねえだろ
知らなかったけど!
結果オーライだ」
結衣は嘆息した
「ニュースくらい見た方がいいよ」
「うっ…」
小学生に的確な事を言われ、たじろぐ
ショックだ…
しかし、それ程の危険人物を呼び寄せたパラパラは異常だ、何を考えてやがる。
眉間に皺を寄せる総駕に顔色を伺うように訊ねる
「もしかして怒った??」
「違うって」
「ふーん」
難しい顔をした総駕をジッと観る。
「これから結衣はどうする?」
「んー、さっさと5回戦っておきたい」
「せっかちだな」
「そういう総駕は?」
「俺は大会に出て試合数を稼ぐよ
この世界で出来た仲間も来るからな」
結衣は驚いた表情をして立ち止まる
「仲間が…」。
「ん?」
「総駕なんだか変わったね」
落ち着いた様子で結衣は言った。
「そうかな?」
「うん自信が有るって言うのかな
この世界に慣れてるよね」
「あぁ色々あったからな」
感傷に浸るように過去の戦いを思い返す。
切ない表情の総駕に結衣はぎこちなく笑った
「そっか、何回も戦ってきたんだね」
「そうだな…」。
再び2人は歩き出すと、結衣は指差しながら案内する
「こっち、今の家はここなんだよ」
「寄って行けってか?」
「そうだよ!話したい事もあるでしょ」
結衣は総駕の手を取ると部屋まで案内する。
部屋に上がると、総駕の部屋同様に無駄な物は無いビジネスホテルのような作りだった、
結衣は靴を脱ぐと手洗い場に直行する。
しばし玄関で立ち止まる。
借り物とは言え、とてもじゃないが小学6年生の部屋じゃ無い。
「こんな場所で一人で…」。
約10日間とは言え、女の子が1人で訳の分からない世界でやって来た事に心打たれる。
バックグラウンドを想像すると涙がじんわりする。
突っ立っていると洗面所から声が聞こえる
「何してんの!早く手洗って勝負するよ!」。
「あ、ああ!」。
「って、ダブルディティーで戦うのかよ⁉︎」
咄嗟の勝負に総駕は驚く
「ステージを使わなきゃなんも起きないでしょ?」
「そうだけど」
「じゃあどっちが強いのか気になるし戦うよ」。
元気そうな結衣を見ると要らない心配だったと思える。
カードの準備をしてテーブルを挟んで勝負をするとあの頃を思い出す、それに一緒にゲームをしたのはだいぶ前だったからか懐かしい。
ゲームが始まると結衣のカード捌きには驚きの連続だった。
「タイムスペルのカウンターかよ」
「じゃあ総駕のモンスターは破壊されるよ」
小悪魔の様に結衣は笑う。
総駕が攻撃すると、そのモンスターのパワーを上回るように上手く立ち回ってカードを無駄にして無い。
「そろそろディメンションモンスター行くよ!」。
結衣は先制してディメンションモンスターを呼び出す。
「サディスティックサキュバスをディメンションサモン」
サディスティックサキュバス
パワー2000
奇抜な衣装に、豊満な身体。
悪魔をイメージさせるツノと羽根と先端がハート形な尻尾。
意外なカードの登場に総駕は如何わしい物を見る目を向ける。
「可愛いし強いんだよ」
能力でディメンションソウルを使って、
総駕のシックスペードラゴンのパワーを500奪い
そのままバトルで破壊されてしまう。
「確かにやるな…」
サキュバスのパワーは2500。
「だったら!」
総駕もゲートカードを2枚揃えるとディメンションサモンを繰り出す。
「アトミックバーンライガードラゴン」。
「ライガードラゴンで攻撃する時、
こいつよりパワーが低いモンスターを破壊」
総駕はサキュバスを指さす。
「えっ!ディメンションモンスターも効果で倒せるの⁉︎」
「そうだ、こいつは強いんだよ」
得意げに総駕は言った。
「ディメンションソウルを取り除いて守るよ」
サキュバスのソウルは0になる。
「じゃあライガードラゴンでそのまま攻撃で破壊するぜ」
ディメンションソウルが無いサキュバスはライガードラゴンの攻撃を受けて破壊される。
結衣はムッとしながらディメンションモンスターを退かすと打つ手無しの様子だ。
そのまま総駕は押し切り勝つ事となる。
「ちょっとーライガードラゴン強いよ!」
「ハハッ」
繰り返し勝負をするが、結衣は中々総駕に勝つ事は出来なかった。
「ぶーー!!ズルじゃん!!」
「そう怒んなよ」
笑いながら総駕は宥めると結衣は息をつく。
「強いね結構戦ってきたの分かるよ」
「結構ギリギリの勝負ばっかだったけどな」
2人はこの数日間の事をお互い話し合った。
その中で結衣は1試合だけじゃ無く、何度か戦いを挑まれた事を知った。
いたたまれない気持ちになった。
そして時間はあっという間に過ぎて行き、
食事もして、夜が更けて行く。
結衣が眠るのをウトウトしながら見守り、総駕も目蓋が重くなり寄り添うように眠った。
x月4日…。
日が差して総駕は目を覚ます。
「ん…あれ…」
総駕の腕の近くで寝てたはずの結衣は居ない。
先に起きているのか、
辺りを見渡すとやけに静かで姿はない。
洗面所にもトイレにも居る様子は無い。
「どこ行ったんだ」。
総駕はある事に気がつく
「あいつデッキ持っていったな…」
昨晩テーブルにデッキを置いて眠った記憶がある。
「何で1人で」。
考え込む総駕の視界にランドセルが目に入る。
中を開けると、カードが大量に入っていた。
「マジかよ」
5人分ぐらいはあるぞ…
総駕はホルダーを手に取り部屋を出る準備をする。
そこで最近習慣になっている電子ホルダーからカードを1枚抜く為にケースを開ける。
ホルダーからカードを1枚抜くのは、電子ホルダーが誤作動を起こして以前ディザスターと戦う事になったからだ。
「おいッ!結衣の奴」
ホルダーを開けた総駕は頭に手を当てる。
デッキの1番前にしてたカードが無くなっているからだ。
「ライガードラゴンを持って行きやがった…」。
切り札、AtomicBurnLIGERDragonが持ち去られてしまった。
奪われて帰って来たと思ったらまた直ぐに持ってかれるとは想像もしてなかった…。
総駕は焦る様にステージがある場所へ走り出す。