桜紫咲紫宴
暗い夜の街に紫色の髪をなびかせDDTステージ台で勝ち誇ったように鼻で笑い、最後の攻撃を告げる男がいた…。
「フッ」
静かに、静かに…タイムクリスタルが散ってゆく…
タイムクリスタルが月の光に照らされ破片がキラキラと輝く…。
男は勝利しそれが当然の様な顔をする。
紫色の髪を月夜になびかせ、ステージ台を背に闇の街に姿をくらます。
・・・
×月27日 午前9時
天流寺総駕はやけに難しい表情でタブレット端末を凝視している。
同時刻…DDTの世界にいる他の人達も一斉にタブレットを片手に驚きや疑問の表情をする…。ある者はタブレットに表示された文章を読むと、青ざめた表情をしていた。
・・・
「パラパラ一体どういう事だこれは?」
薄暗い部屋に、水色の髪を揺らしながら慌ただしく入ってくる、レル。
そんなレルにパラパラは冷静に対応をする。
「あぁ、あれの事ですか…。今朝全てのテストプレイヤーの皆様に、一回戦でまだ一度も対戦をなさってない方向けに大会へご案内のメールを送ったのですが、問題でも?」
「別に大会は問題ない…ただ、あのカードを優勝商品にするのが間違いだ」。
「ふふふ、、やはりそれ…ですかHELHEIMδράκωνのカード。あれを賞品にする事によって、既に対戦を済ませて一回戦の突破条件を満たした者達を大会へ参加させ意欲を向上させる」。
「大会は全く対戦していない者の為と思わせておきなかがら、カード経験者を釣り大会に仕向けるという訳か…なかなかエグい事をするなパラパラ」
レルは少し笑うと、先の展開を想像した。
「そうでしょうね…何せ、大抵が初心者の中に体験者を混ぜ込むのですから、まだゲームをした事が無い者は確実というまでに敗退しますからね、これによって、今後の計画がはかどる…」 。
・・・
「ふぅーん、面白そうだな」
ディザスターも同時間にタブレットに受信したメールを読んでいた。
伊達はそんなディザスターを見て慌てて止めようとする。
「ディザスターさん、大会には出ない方がいい!」
心配した伊達を横目に慶次は言った
「でもこの大会の賞品気になるよね!ディザスターさんっ」
「ああ、そうだな確かに気になる」。
伊達は2人を観て危機感を覚えた
「慶次までッ!よしてくれ二人とも…
もう一回戦突破の条件はクリアしてるんだ危険を犯す事はない!大会に出ない方が身の為だ」
慌てる伊達にディザスターは笑いながら言った。
「心配性だぜ全くな、大丈夫だ大会には出ない
恐らくこれは、奴らが仕組んだ奴らの為の大会
何か…理由ありだな」。
・・・
×月27日午後。
パラレルワールドに来てから3日目の午後。
天流寺総駕はカードを収集出来るか街を探索していた。
「やっぱり、何処もカードを大量に配布され一枚も無い」。
…今の構築に手を加えて戦術に少しでも幅を出したかったが、新しいカードが無ければ意味はない。
途方に暮れてると、向かいから水色の髪の無表情な女が此方に歩いて来るのが見える…。
「まさか!DDTで戦う事になるのか⁉︎」
心臓の鼓動がバクン、バクンと女が近づくたび児玉する。
…遂に目の前にまで迫る⁉︎
『この女!まるでパラパラの様なオーラを感じる』
総駕と水色の髪の女がすれ違う!
『これが。天流寺総駕ね…ただの高校生だわ』
女は総駕の横を通り過ぎる。
そのまま姿が遠ざかってゆく
「何だったんだ⁉︎あの異様な雰囲気は。」
総駕はそのままホテルに帰ろうと帰路を進む…何故ならあの水色の髪の女に会ってからとても嫌な予感がするからだ。
「天流寺総駕…Atomic Burn LIGER Dragon、パラパラが何を考えているのかは知らないけど、あのドラゴンは消すべき…」。
総駕は急ぎ気味で歩を進める。
「今日は何か嫌な予感がする…」
そして、近道をしようとビルとビルの路地に入ると2人のイカつい男が立っていた…。
「待っていたぜ…」
一人のフードを被った男極道が総駕の目の前に立ちふさがる。
すると突然、前後を塞がれる。
「なッ!何をしやがる、返せッ」
総駕の背後の男がポケットのデッキケースを奪い、ケースから一枚だけカードを抜き取る…。
「コッチは返してやるよ」
デッキを奪った男久本はそう言うとデッキケースを総駕に投げる、ケース内に入っていたカードがコンクリートにブチ巻かれる。
「ッ!?」
総駕は慌てて散らばったカードを掻き集める
「なんでこんな事を…」
全て集め終わった所で"あのカードが無い"事に気づく!。
「コレの事か。」
カードを抜き取った久本がAtomic Burn LIGER Dragonのカードを総駕に見せつける。
「返せよ…」
総駕は睨みつける様に言った。
するとフードを被った極道が口を開く
「返して欲しければついて来い…」
総駕は極道と久本にカードを奪われ仕方なくついて行く。
・・・
歩く事…15分。暗い路地に入り、地下へ続く階段を下りる。
そして廃墟にたどり着く。
「ついたぞ」。
極道はフードを脱ぐ…見た目は黒髪を逆立てやたらデカいピアス…服装はなんだかビリビリしたヘビィメタル系の人っぽい感じだ。
「LIGER Dragonをどうするつもりだ…」。
久本がカードを取り出す
「ムフフフ…こうしようか?」。
カチッ
ライターをポケットから取り出すと火を近づける…。
「⁉︎」
そのまさかだった、そしてライターの火がAtomic Burn LIGER Dragonのカードに触れる。
・・・
「んっ?総駕様の反応がマップから消えましたねぇ…」
パラパラは薄暗い部屋の巨大なモニターに目を通す。
「まさか…『ほう、、確かにそれは珍しいな、なら速い内に消すべきだと思うがな…私は』 あの時の言葉どうり…」
レルのセリフがパラパラの脳裏によぎる。
「レルの仕業ですかね? これは少し困りますね
しかし、どうしますかね…総駕様はフフフ」。
パラパラは右手の人差し指と親指を顎に当て考えこむ。
一方… レル。
『パラパラは天流寺総駕をやたら気に入っているが、私はあのカードは危険だと思う…よって男達2人にAtomic Burn LIGER Dragonを消す事を依頼した。あそこはパラパラのいるモニタールームにも唯一分からない裏DDTステージ台がある…誰にも邪魔させない』
・・・
ライターの炎がメラメラとカードに触れては離す久本。
「よせぇーーーーーやめろぉぉ」
総駕が叫ぶ…。
「おっと近づいたら 燃やすぞ」
「しっかし良い表情するねぇそんな顔みてるとたまんねぇよ」
久本は後退して距離をとる。
「…なんであのカードの事を知ってた…意味がわからねぇ…
いきなり標的にされて奪われて…」
唇を噛み締めながら総駕は漏らす。
「頼まれたのさ、ある奴にAtomic Burn LIGER Dragonと天流寺総駕お前の特徴を教え込まれてなぁッ。そしてこの場所はマップにも表示されないステージなのさ」
「なんだよそれ⁉︎」
「だからカードを燃やしても誰もわかりゃしねぇんだよパラパラでもなぁ。」
久本は捻くれた様に言った。
「そんな…全て仕組まれた…終わりだ…何もかも…」
総駕は四肢を付いて愕然とする、そんな時、極道が久本に言った。
「しゃべり過ぎだ…貴様。」
「なんだと?偉そうに
まぁいいやAtomic Burn LIGER Dragonを燃やせば報酬も手にはいるしよ…」
カードに炎が点火される
「やめろぉぉおーーーーーー」
「ひぃぃぃいひゃっはあああ」
久本は狂い叫びながらカードを燃やす…。
総駕の両目から涙がこぼれる
『あのカードは託された希望 …俺が変われた…切り札…』。
「クソぉ…クソぉチキショ…なんでだよ戦えも、戦う事すら許されねぇのかよ…」
総駕は両手の拳で床を叩く…悔しくて、何度も。
Atomic Burn LIGER Dragonのカードの角は焼け焦げ…
テキストと絵柄はカードとして使えるものではないと見た目が物語る…。
「腹痛いネェ総駕くぅーん」
煽られる総駕。
だがもはや戦意すら失い、顔すら挙げられない…総駕の前にAtomic Burn LIGER Dragonの燃えた後の黒いカードがひらりと落ちて来る…そして燃えカスがサラサラと流れてゆく…。
涙がカードにひたひたと落ちる。
総駕にはカード、目の前すら涙で見えなかった…
すると、極道は久本に対して威圧しながら言った
「テメエ…俺と今から戦え報酬は分配したくねぇんだよ」
すると久本は気に障ったのかキレ気味で発言する。
「ふぅー…俺もちょうどお前にはムカついてたんだよね…
報酬のあのカードは俺が頂く‼︎
お前ぇにはこの裏DDTステージで消えてもらう
そして偉そうなその態度も叩けねぇ様に潰す極道」
極道はステージ台に立つ…この廃墟にはDDTのステージが設備されていて対戦の結果も記録される。
「…ッ俺はどうしたら良いんだ…切り札も失い、あの髪の長い怪しげな男かフードの男のどちらか勝った方と恐らく戦わなければならない…」。
総駕の目には希望すらなかった…
総駕にとってライガードラゴンは総駕が自分を変えた唯一の証。
その証が壊された事で挫折感を味わい立ち直る事が出来ずに絶望してしまったのだった。
総駕はフラフラとした足取りで元来た道を戻ろうと、歩き始める…
「あ"ッあの野郎…どこ行く気だ」。
「お前…このステージ台を立ち去るなら敗北扱いだが良いのか…?
あの天流寺総駕はここから出る事は出来ねぇよ」。
極道はポケットから何かのボタンを取り出しボタンを推した…
久本は苛立ちながらゲームを続ける。
足音が地下道に響く…
「もう勝つのは無理だ、この先どうすれば…」。
総駕は完全に諦めていた圧倒的絶望。
最後に知った人間の欲の為になら他人を蹴落とす怖さ醜さ。
自分の醜さも知る…パラパラを倒しDDTで消えた人達と一緒に地球に帰ると宣言したが、結局は口先だけの理想を語る。
…デッキの持ち主に対する申し訳のなさも有る。自分はしかもこうして今現実から逃げようとして今の自分が生きる事だけを考える。結局何か問題があれば自分一人では解決出来ずに他力本願…エゴイストだ…。
そんな事を考える内に地下道から地上に出れる扉に着く…
ドアノブに手を掛ける。
「空か無い」
ガチャガチャとドアノブを捻るが、、空か無い…
ロックが掛けられて居たのだ。
「そんな⁉︎…」
総駕は鉄の冷たい扉に背中を預け項垂れる…魂の抜けた様に…。
この後ここから出れずにいる所をあの二人の勝った方どちらかと戦い消える…容易に想像出来る。
ゲームをしてディメンションモンスターを出されたらディメンションモンスターで無ければ倒せない…。
…そのディメンションモンスターはさっき燃やされた
総駕はAtomic Burn LIGER Dragonの燃えた後の焦げたカードを眺めていると今の自分の姿に重なる。
「燃やされたせいか…元の輝きが"無い様に見える。
今の俺もカードを失って目には希望の光すら無い様に見えるのだろうか…今は何も考えられない…輝きが失われたのは俺もか」
総駕は立ち上がると裏DDTステージの方に足を進める。
「ここから出られないならくよくよしても仕方ない。
最後にあいつらと戦って、 醜くても足掻いてやる」。
総駕は俯きながら進む。
敗れて行った者の顔を思い出し、それだけが戦意を滾らせる。
地下道から裏DDTのステージに行くには中々距離がある、歩いていると向かいから足音がしてきた…。
カツン…カツン…
足音が次第に近づく
『あいつらの勝った方のどちらかが俺を追って来たのか⁉︎
だが俺は逃げない!真っ向から戦って見せる…結果がどうなろうと』
「おっ…人かぁ」
総駕の目の前に現れたのは紫の髪色の男だった。
「⁈お前は…」
紫髪の男は邪気のない笑顔で笑う
「僕は桜紫咲 紫宴。
桜に紫が咲くが苗字で紫の宴で名前…変わってるだろ??」
総駕は紫宴の様子から警戒心を解いて話す
「確かに…な、俺は天流寺総駕」。
紫宴は緩んだ表情で話を続ける
「僕はここの廃棄の当たりを拠点にしてたんだ…誰も使ってなさそうなDDTステージがあったから調べるついでに、そしたら誰か今対戦してるみたいでね」。
「あいつら…」
総駕の顔は憎悪に燃える様に険しかった
「どうしたんだい?一体」
紫宴は俯きニタァッと細く微笑む
「奴らは俺をこの場所まで連れて来て、俺の大切なカードを燃やしたんだ!それで俺は一度逃げ出したが、もう一度奴らに会って戦うつもりだ」
紫宴は少し驚くが何と無く理解した様で親身に答える。
「そうか…大事なカードを失ったのか、ここは人があまりくる様な所では無いから不思議だったけど何と無く理解したよ。
でもその失ったカードが無いと多分苦しい試合を迫られるんじゃないか?」
紫宴は総駕に尋ねる、少し窶れた様子で話した。
「あぁ…でも逃げる訳にはいかない」
「けど、今のままでは敵わない?だろ?」
「あぁ…」
痛感しているのか弱々しく総駕は答えた。
「なら、ここから一度出た方が良い、このまま挑んでも苦しいのは理解してるだろ?」
「でも、どうやって」
「僕はここを自由に出入りしてたんだついて来なよ」
言われるがまま総駕は紫宴の後に着いてゆく。
このまま彼奴らに挑んでも勝率は限りなくゼロに近かったため、やむ終えなかった。
多分、救い船だったと思う。
「ここだ。」
紫宴が止まったのは…
「壁?」。
何気なく行き来していた道中の壁だ。
「そう…でもこうするとね」
壁を紫宴は軽く押すとボタンになっていたのか自動ドアの様に開いた
「まじかよ…」
そこから階段がすぐ目の前にあり登ると直ぐに地上に出る事が出来た。
「…随分簡単に地上に出れたな。
でもなんで紫宴は知っていたんだ?」
「この階段をたまたま下ったら見つけただけさ、それより明日の大会? メールで見ただろ
総駕、君は出るのか?」
紫宴が尋ねる
「あぁ俺は既に一戦交えているから、大会には出ないつもりだよ」
「凄いじゃないか、勝ったんだろ、その一戦」
紫宴は俯きながら聞いた…表情は怪しげに。
「あぁでも勝てたのは、、」
「燃やされたカードのお陰。 そうゆう事か…」
「ここまで案内してくれてありがとな」
総駕はそう言うと紫宴に背を向ける…すると
「待ってくれないか。」
紫宴が話を切り出す。
「⁉︎」
「実はまだ俺はDDTで対戦した事が無いんだ、だからいきなりの明日の大会は厳しいと思うんだ…よければ俺と対戦してくれないか?」
「お前分かってるのか‼︎負けた奴は消えるんだぞ!」
紫宴は少し褪せった素振りを観せ、直ぐに言葉を訂正する
「言い方が悪かった…俺とフリー対戦してくれ、ステージをつかわずに。ステージを使わなければ、カードを並べるだけみたいなものじゃないか…」
総駕は紫宴に恩を感じているため了承した。
この世界に来て初のフリー…
ゲームは楽しむ物だけれどDDTは違った!消すか消されるか…
ゲームの本質を思い出すには良い機会かも知れない…。