ストレートドロー
燃え広がる戦火がメラメラと揺れる。
総駕は焼き払われたフィールドに倒れていた。
総駕 TC残り7➡️5へ。
「なぜだ…∞No.の道化師はDsゼロでフィールドから消えるはず…」
シフトの瞳には炎の中で輝く総駕のタイムクリスタルが映っていた。…そして、∞No.の道化師が総駕を見下ろし佇む。
「何をした…?!天流寺総駕」。
砕けたタイムクリスタルの破片は赤色の輝きを反射しながらゆっくりと流れる…
「起き上がらなければ私のターン総攻撃を仕掛け本当に終わりです」。
うつ伏せで倒れた総駕に動きは無く、時間が過ぎ去ってゆく、そして、冷酷にもターンは切り替わる…
「時間だッ 私のターン」
シフトは確実に仕留めるというプレッシャーを放ちカードを引く。
総駕の腰元のデッキホルダーからはバイブレーションの振動が繰り返されるが、ピクリとも動きは無い。
「残念ですよ貴方の悔しがる姿が見れないのは。気付かないまま楽になれるとは随分と幸せだ」
シフトは引いたカードを場に投げる。
「サモン クラブレードフォース」
覇気を纏ったクラブレードが総駕を睨む。
「くふふ先程のターンなぜジョーカーが場に残ったかは不明ですが、私のDMは2体…何方かのアタックがヒットすればいい事」
シフトは手を前に突き出す
「バトル!ライガーメテオドラゴンよ
∞No.ジョーカーにアタックだ‼︎」
パワーは2700の互角…!
「私はメテオのDSを取り除き破壊を免れる。
となれば破壊されるのはDS0のジョーカーのみ」
ライガーメテオドラゴンのDSが残り1つになる。
荒ぶるマグマ竜をジョーカーの長剣が受け止める…そして、総駕のTCが1つ砕かれる…!
総駕…TC残り5≫4
シフトTC残り9≫8へ。
依然倒れたままの総駕…、傷つきながらも腕を組み立ち添うジョーカーは仮面の下からその黄色い眼光で主人の目覚めを孤独に待つ。
対するシフトは優位な状況だが、童謡していた
「なぜヤツのジョーカーは消えない…
天流寺総駕⁉︎一体奴は何をした!」。
このまま私はABRDで再度同士討ちを仕掛けても良いが、ジョーカーが場に残り続ける理由は不明。となれば反射ダメージを大きく負う可能性は高い!…ここは
「ターンエンドだ…」
それに…天流寺が目覚めなければ私がこのまま勝つ事は容易い。
総駕にターンが回る。一枚のカードがホルダーから総駕の手にフワリと移動する。
ジッと場のジョーカーは時を待つ。
「またダメなのか…俺は」
深い意識の底で総駕は嘆く…。直前のターン、圧倒的なパワー差が鮮明に浮かび上がる。
「いつもそうだった…。諦めて諦めた
何もかも。」
総駕の過去の記憶が1つ1つ流れ出す。
−中途半端な毎日が繰り返されていた…
やりたい事も見つからず目標も、生きる意味さえ分からなかった。
−ただ何となく毎日が過ぎた。
高校に入れば何かやりたい事は見つかる、高校に行けと周りに流されるがままに入学した。
そんなもんだと思って俺は通った。
−部活にも入った、バスケ部。
強くも、弱くもない普通の、けど、どこか全力に成れなかった。何をやっても理由をつけて、そこから先に本気になって無い冷めた俺が居る。
そして、また−俺は俺を諦めている−。
総駕のターンは終わる…
そして、タイムクリスタルが2つ砕ける…!。
総駕 TC4≫残り2へ。
このクリスタルの減少によりシフトがハッとした表情をする。
「成る程わかったぞ‼︎天流寺総駕…
お前のジョーカーが場になぜ残り続けるかが」。
「TS タイムパスト…特定の状況下で使用できるカード、恐らくオールインドライブのバトル判定時に発動していたのだろう。
ダメージを受けたその時を飛ばすカード、
しかし必ず時は1つの時へと流れる…
不自然に時の流れを歪めてもやがては正しい時の流れに戻ると言うわけだ…」
タイムパストの効力で次のターンにまたTCは2つ砕かれ天流寺は今度こそ敗北するだろう。
しかし、ここは確実にこのターン私のカードによってトドメを刺す‼︎。
「バトルだメテオライガードラゴンで
∞No.の道化師にアタック」
メテオライガーはジョーカーに飛びかかる。
長剣で鋭利な牙をジョーカーは防ぐが、ジリジリと伸し掛る重圧に次第に身体は悲鳴をあげる。
[クッウォォォ…ォ]
平静なジョーカーだが今回のアタックでその仮面に亀裂が入る…!
ボンヤリと、倒れた総駕の耳にはその苦しげなジョーカーの声が聞こえる…
「∞No.の道化師?…」
目を細めた先に、歯をくいしばるジョーカーの姿が映る。
表情は見えなくとも総駕には伝わっていた。
総駕のTCがまた1つ砕ける。
メテオライガードラゴンのDsは0に。
総駕TC…残り 1。
シフトTC残り7。
そして、高笑いと共にシフトの最後の攻撃宣言が轟く。
「ふふふABRDのアタック‼︎死ねぇぇ天流寺総駕!」
ABRDは空高く飛び上がりジョーカーに向い降下する…[グロオォーン]。
向かい打つジョーカーは覚悟を決め、力強く長剣を握り締め飛び上がる。[フォォォォ‼︎]
パワーは同じく、ジョーカーとライガーは激しく衝突する。
「何故なんだ…何で彼奴はあんなに全力で、
圧倒的力差に俺達は敗れた。なのにジョーカーは何度も傷つきそして闘うんだ」
総駕は自問し思考する。
パワーが1万差を超えたバトルに圧倒的な敗北をし、勝負すら負けたと心折れた瞬間…、また、諦めた、絶望する。
その状況下で、ジョーカーが戦うのはただのゲームのモンスターだからじゃない何かが総駕を震わせる。
ABRDの剛爪がジョーカーを地上に叩きつける。そして、首まわりの複数のキャノンと大きく開けた口に炎が充填される。
身を叩き付けられたジョーカーに火炎弾が迫り来る。
「TS…蜃気楼!」
総駕は手元に落ちた1枚のカードを拾い上げる、
火炎弾は蜃気楼によって狙いを外す。
「バ、バカな…」
驚愕するシフト。
総駕は片膝をつき立ち上がったジョーカーを見上げ言った「ありがとな…」。
「お前は圧倒的力差に心折れたはずだ!そしてこの状況、何故敗北を受け入れない⁉︎」
「確かに俺は心が折れた、この世界で何度も。
今回は特別もっとダメな気がした、敗北を受け入れる気にもなった」
総駕はジョーカーに立ち添うようにして立ち上がる。
「なら何故立ち上がる!」
「理由何ていらなかったんだ!」
俺がこの世界でまた立ち上がった時、答えは常にそうだった
「今に全力になる、ただ…それだけでいい…」
「今に全力だと?馬鹿馬鹿しいッならば
この後お前はどうするつもりだ?現実を物見た方がいい」。
確かにシフトが言うように、俺の場にはジョーカーのみTCは1つ、しかもタイムパストで次のターンの敗北は決定的。けれど、俺が今を全力で生きた事で次のターンは生まれた!。
「私はタイムカウンターを7つ除きカードをドローする、更にTSアウトラン!私がバトルに勝ったターン相手の手札を削ることが出来る」
「次のターンすら何もさせはしない、
私は私の手札を二枚捨てお前の手札を二枚破壊する!」
「うっ」
「ターンエンド」
あざ笑いシフトはターンを終了する。
そして、最後のターンが始まる…
「ドロー!」
このカードだけではダメだ…、けどまだ手は残されている。
「俺はタイムカウンターを7つ取り除き、
ゲームルールによってカードをドローする‼︎」
ホルダーを勢いよく叩く!
「来た…。」
「これが俺の勝利の一枚だ」
総駕は言った。
「バカな最後の1枚が揃ったということか!」。
「ストレートに決めるぜ!俺は手札のスペードランパーテンを棄て場のジョーカーでプレイヤーにダイレクトアタック出来るようにする」
スペードランパーテン
コスト10,パワー1000
互いのターン数が5ターンを超えている場合、場のトランナイトDMをプレイヤーアタック可能にする。
「インフィニティナンバージョーカーでシフトにダイレクトアタックだ!」
「クッ!その程度のアタックがどうした」
シフトTC残り5つ。
シフトは汗ばむ…
「だが奴は確かにインサイドストレートドローと言った、ポーカーではストレート完成に最後の1枚を持った状態を言うが…この状況で果たして私のタイムクリスタルを削り切る手段が有るのか⁉︎」
「俺のバトルはまだ終わりじゃない、
TSソウルミラー!」
TSソウルミラー
相手の場にDMが2体いて自分の場に一方とパワーが同じDMがいる場合、このターンのみ何方かのコントロールを得る。そしてこのカードは対象カードのDsに移動する。
「俺が選ぶのはアトミックバーンライガードラゴン‼︎」
光の鏡はジョーカーとライガードラゴンの姿を写し、2体のモンスターが共鳴し光がライガードラゴンを包む!。
遂に2体のエースDMが総駕の場に並ぶ。
「こんな事が…、その為の布石を天流寺総駕は最後まで。だが、私のタイムクリスタルは削り切ることは出来ないはず」
「ソウルミラーは自信を奪取したモンスターのDSに出来る」
「ABRDの能力を使用するにはDSが2つ必要だ!」
「トラッシュの蜃気楼はカードをDSに入れる事が出来る!」
「あの蜃気楼⁉︎…が」
TS蜃気楼
前のターン自分が攻撃を行わなかった場合の相手のバトル時に発動出来る。ダメージを無効にする。そして場と手札のカードをDMのDsに加える事ができる。その場合相手のTCは加えた1枚につき1つ修復する。この時DsにDMを加えたならパワーをその分加える。
「俺は場のジョーカーをライガードラゴンのDsに追加する」
ライガードラゴンが力強い叫び声を挙げる。
シフトTC 5>>6つ。
「そうか、天流寺総駕…お前はこれを狙って」。
「バトル!アトミックバーンライガードラゴンでライガーメテオドラゴンにアタック‼︎」
2体の龍が衝突する。
ABRD
/パワー2700+2700=5400VSライガーメテオドラゴン/パワー2700。
アトミックバーンライガードラゴンにジョーカーの影が重なる!
「アトミックバーンの蜃気楼シュート‼︎」
ライガーメテオドラゴンは砕け散り、シフトのタイムクリスタルが破壊される。
シフトTC6≫5
「DMが破壊されたことによりディメンションゾーンの表の枚数のダメージを受けてもらうぜ」。
シフトのタイムクリスタルが更に削られる…
バキンッ!バキンッ!バキンッ!…TC残り2。
「…私は確実に優位だった、それが…なぜだ
最後にお前を変えたものは何だ?」
シフトは静かに尋ねる
「今を本気になって生きるこいつらの姿だ。
今を本気になれば必ず開ける未来がある、俺はこの戦いの中で気が付いた…。」
「…そうか」
「あんたや、レルやドゥクスそしてパラパラは他者や世界にすら絶望してる。けど、まだ、
やりようはいくらでも有るんじゃないか?」。
アトミックバーンライガードラゴンのエフェクトはシフトの魂を浄化するように。
最後のタイムクリスタルは砕かれる…。
戦いが終わり、シフトが敗北してもパラパラの仲間だからか奴は消えないようだ。
「…教えてくれ、パラパラの目的とそしてこの世界は何なのかを」
総駕は切り出した。
「ふっ今なら答えてもいい気がしてきましたよ」
この少年ならば…、初めはただの何も出来ないガキとしか見えなかった、だが彼ら若者達には未来を変える力は十分に有ると私は知った。
シフトが口を開こうとしたその時… だった。
「年寄りに時間を与えると無駄話をされるから困りますねぇ…」
総駕とシフトの間に立って突如現れたのは、
シルクハットにタキシード、怪しい仮面の男
パラパラだった。
「パラパラなぜ貴方がここに⁉︎」。
姿を見るや否や総駕はパラパラに向かって走り出す
「パラパラッ‼︎」
心身は既に疲労していたが総駕は電子ホルダーに手をかける。
「うぉおぉぉタイムクリスタルセットアップ!」
腰元のホルダーからタイムクリスタルがパラパラに向い直線的に放射される。
パラパラは実体あるタイムクリスタルに直撃寸前にも関わらず帽子のつばの位置を気にする
「フッやれやれ」
鼻で笑うパラパラ、そして、その身体をタイムクリスタルは通過する。
「なっ何…」
言葉を失う総駕…。
-ジジジジジ -ジリリ-
タイムクリスタルが貫通した体は音を立てる。
「今貴方と戦うつもりは有りませんよ。
天流寺総駕…」
パラパラの仮面の下から覗く、黄色く鋭い眼光は総駕に威圧感を与え一歩後退させる。
「ホログラムだ…」
シフトが言った。
「その通り!、私が戦うのは来るべき時まで無いのですから…」。
「俺と戦えパラパラ」
震える心を押し殺し総駕は言った。
「残念ながらここには実体がありません
ですがもし望むなら近い未来一番に戦ってあげましょう」。
シフトは額に汗を掻きながらパラパラを指さす
「お前が直接姿を見せたという事はわ私…を」
パラパラは細く笑う
「えぇ…貴方をデリートする為に…!!」。
血相を変えたシフトはパラパラを指差し総駕に事を伝える
「いいか天流寺総駕、奴とはまだ戦ってはならない!絶対にだ!」
「っ⁉︎なぜ俺にそんな事を!」
「聞けぇっ彼奴には創世竜のカードがある‼︎」
ピクリとパラパラと総駕の耳が震える
「創世竜…レルも言っていた、パラパラの持つ何か絶対的な力…」
「創世竜の能力それは-」
シフトが言いかけた瞬間だった…。-パチン-
パラパラの右手の指を鳴らす音が空虚な地に響く。そして…左手には一枚のカード。
「私をお前呼ばわりした上秘密を守らないとはね…」
シフトの体が光に包まれる!
「そんな!やめろッ…ヤメロ‼︎」
総駕は叫びシフトの元へ詰め寄る
「私の名は…亀井純一郎だ。時が来れば、お前ならば…創世竜…を超える力を」
「オイッ!待てよ消えちゃダメだ!」。
シフトは最後に名前を残すと体が消え去る…
「亀井純一郎…⁉︎何処かで聞いたような名前だ」
総駕は思考する。
「自分の素性まで明かすとは許しがたい」
吐き捨てるようにパラパラは言った
「お前…自分の仲間だったんじゃ無いのかよ⁉︎」
震える声で総駕は言った。
パラパラはワザとらしい素振りで首を傾げる
「仲間?はて、そんなもの存在しませんよ…」
「なんだと」
「彼等は単なる私のカードでしか無いんですから」
「カード?人を弄んで物のように扱って…
おかしいだろそんな事⁉︎」
総駕の心を影が覆う。
「貴方様もその1人、いや…1枚だ」
「ふざけんな。お前だけは…絶対に
絶対に俺が倒す‼︎」
「おやおや彼の最後の忠告も頭に残っていないとは報われない…。勝てないんですよ私に、貴方がた全てのプレイヤーは!」。
「その自信の訳が創世竜にあるって言うのか?」
「えぇ」
総駕の問いにパラパラは手に持つ1枚のカードを翳す。
「あれが…創世竜…」
ディメンションモンスターか!能力までは分からない、だけど…何か途轍もない雰囲気なのは確かだ…。
「貴方にはまだ戦って貰いますよ総駕様」
「お前の思い通りにはならねぇ」
「貴方には少々予定外の力が有りました、ですが結果的にはその力すら私のメリットになっている…やはり私がこの世界唯一のプレイヤーだ」
「唯一のプレイヤー?…」
「そう貴方方は駒、そして唯一の支配者である私がプレイヤーと言う意味です
貴方はただ戦い続けるしか無いのです!」
「…お前は勘違いしてる、ゲームってのはプレイヤーが2人いて成り立つもんだ。戦った先にお前がいるなら俺がもう1人のプレイヤーになっている!例えどんなカードでも俺が倒す‼︎」
総駕は取り戻したABRDを振り翳す。
「やはり貴方は私の切り札になってくれそうな気がしますね」
「何⁉︎っ…」
パラパラが仮面の下で笑ったのが分かる。
そして、パラパラの身体が歪み消え始める
「ではまた会いましょう総駕様」
「待てッ!」
広い大地で総駕は一人、拳を握り締める…。
「創世竜を超える力…今のままじゃ俺は勝てないのか?それに、亀井純一郎…テレビか何処かで聞いた名前だ、だけど思い出せねぇ…これがパラパラの正体に近づくヒントなのか?」。
・ ・ ・ ・ ・ ・
監視ルームでパラパラは椅子に深々と腰掛ける。
「道化師の仮面に何故涙が描かれているか。
それは貴族に飼われ身体の不自由な様などの理由から笑い物としての対象になったからだ。そして自分の置かれた状況を知った道化は深く悲しみ絶望する」
「その今一度手にしたカードすら私の思惑とも知らず、
掌の上で踊る哀れな道化よ…ムフフ」。