前兆
日付もとっくに変わっていた。
x月29日
パラレルワールドに来て5日目、時刻は5時を過ぎ、総駕のいる会場では紫宴が見事決勝に駒を進め 今正に試合の真っ只中だった。
紫宴の対戦相手は褐色のマッチョな男、大田。
見た目通り、大田の操るディメンションモンスターは、パワー3千とパワー重視だ。
タイムスペルのカウンターを駆使し、相手のアタックをより強い力でねじ伏せる戦術を見せていたので決勝にまで来た実力は本物だろう…。しかし、カウンターを狙った戦術にパワー任せのアタックは紫宴には通用せず、…序盤から既に効果破壊やアタックを封じる手段で根本的に戦略を崩されペースを握られていた。
既に勝負は見えていたのかも知れない…。
第7ターン目紫宴の操る2体目のディメンションモンスター、パープル・リムーブとノーマルモンスターにて決着した…。
パープル・リムーブ
《ディメンションモンスター》
コスト5/パワー1500
このカードのディメンションソウルを二つまで取り除き、相手のディメンションモンスターはこの時取り除いた数までディメンションソウルを破棄する。自身がディメンションソウルを二つ取り除いた場合この効果を受けたカードのパワーが倍以上ならそのカードのパワーは半分になり半分の数値を得る。
紫宴の2体目のディメンションモンスターは元のステータスは低いモノの、大田のパワーモンスターのパワーをしっかりと超えていて、連戦の中でも揺るぎない相手の土俵ですら勝つ圧倒的な実力を見せた。
優勝者が決まると残っていたプレイヤーが出口に流れ始める…。
● ● ● ● ●
紫宴の優勝で終えた大会を見届けた 。
ディザスター、慶次、伊達も出口に向かっていた。
15時間以上も続く戦いだったが100名以上は残って試合を最後まで見届けていた、どこの会場でも決勝に近い戦いになればなるほど他のプレイヤーに与える影響力は大きい。
眠さに目を擦る慶次が呟く
「あの紫の人、物凄く強かったね〜」。
決勝の試合に影響を受けた伊達は真剣な面持ちをして慶次に続く
「圧倒的だった、他のプレイヤーも二回戦からは理解を深めプレイや構築の完成度を上げてくるだろうな…より気を引き締めないとマズいぜ」
「だね」
一方ディザスターは賞品を授与されたタイミングまで見ていてタブレットにて検索を掛けていた。
「他の会場で配られたカードは其々違うらしいな、能力も勿体ぶってかsecretを掛けてきてる」
調べた画面を慶次、伊達も覗き込みリアクションを取る
「うわっ!ほんとだ‼︎」
「厄介な能力なんだろうな」
タブレットをディザスターはポケットにしまう
「他のプレイヤーとは違うパワーカードか…」。
出口付近に差し掛かり手を上に伸ばしながら伊達があくびをしながら言った
「アドしかない」
そんな伊達をからかう慶次
「伊達君覚えたばっかの言葉使うよね!」
「うっせぇ慶次!」
「フッ」
そんな日常のやり取りを見て笑うディザスター、だが刻一刻と状況は変化を始めていた…。
伊達の横でニカッと笑った慶次の脇に不意に通りすがる人がぶつかる。
「痛っ」
へらっと脇をさする慶次
「どおした?」
いきなり声を出した慶次に伊達は聞く、だが大した事はなくいつも通りに慶次は笑って出口を抜ける
「誰かぶつかったみたい?」
「そうか」。
そのまま3人は会場を背後に帰路を進む中、慶次はパーカーのポケットに手を入れると違和感に気が付く、紙のような手触りがして何かと思い出そうとする、デッキでもカードでもない事は分かって心当たりが無く、ちらっとその紙の端をポケットから出す。
「ふーとー?」
覚えの無い封筒がポケットに入っていたのだった。
キョトンとする慶次に伊達が再び声をかける
「おいおい僕ちゃん、眠くてもあと少しだから我慢しろよ」
子供扱いする伊達にちょっとムキになりつつ慶次は答える
「違うよ!」。
覚えの無い封筒の心当たりと言えばついさっき打つかられた時だろうか?慶次は妙な胸騒ぎがして、さっとポケットからはみ出した封筒を再び仕舞うのだった…。
● ● ● ● ●
そのころ優勝を決めた紫宴は、決勝の対戦相手だった大田に声を掛けている最中で大田は難しい顔をしながら紫宴の話に聞き入っていた…、紫宴が一部話を終えると大田は飛びつく様に反応する
「本当かっ…その話‼︎」
紫宴は真剣な顔をしながら頷く
「ああ、本当だ」
「そうか…元の世界に戻れる可能性があるなら 俺も協力するぜ」。
大田は力強く紫宴の策に協力する事に決めると紫宴は本気な目をする。
「じゃあよろしく頼む、追って連絡する」
「分かった!」。
交渉を終えた大田は背を向け出口に向かう、
それを見届けた紫宴は無意識の内に一息吐く…
「…フゥゥー…」
一息吐くと左手で目頭を押さえ右手でステージに手を付いていた…、長時間続く連戦の中でその内一回は命がけ、そして決勝まで進みその最後まで勝ち抜いた。
その過程で決勝の大田と2回戦の相手だった高田の様に他のプレイヤーと交渉をしていた事も原因だ。
この会場に居た全プレイヤーの中で誰よりも集中し同時に疲弊しているのは、優勝者である事が何よりの証拠だろう…。
それを支えている、精神力、根底にある物は愛…手足を奮い立たせ力強い眼光を放つのは光郷院への復讐心…!。
目を開き大きく深呼吸をして紫宴は歩き出す…その先に現れる男、天流寺総駕…。
この大会では様々な事があり、紫宴にとって片付いていない問題が一つ、それは総駕との関係だ。
一度関係が破綻したと紫宴は思っていたその彼が最後まで残っていた事に驚く
「っ総駕!」
紫宴の事を否定した総駕の表情は、怒りでも悲しみでもなく、決意を固めた表情をしている、総駕の決意の固まった表情を見た紫宴は直感的にだが戦う意思を感じて覚悟を決める。
「僕と戦いに来たのかい?…」
近づく総駕に紫宴は問う… 。
問われた総駕は紫宴の三歩程手前で止まる。
対峙した二人は端から見れば緊迫した雰囲気に見える、そして総駕は問いに対し否定
「違う」
「そうか、、フフ 確かに僕には今貰ったコイツもあるからね」
総駕に戦う意思が無い事に紫宴は心当たりが有った。
賞品として渡されたHELHEIMδράκωνのカードを見せつける…。
イラストは紫のドラゴンでディメンションモンスターでは無いが紫宴の自信から見ても相当の強さを汲み取れる、だが総駕に恐れた様子は無く動じてはいない。
「俺はお前と戦わなくちゃ行けない時になったら戦う、そのカードが有っても!けど今じゃ無い」
総駕は紫宴の目を真っ直ぐ見ていたヘルドラゴンや紫宴の決勝までの戦いを見ていたが恐れる事無く。
その様子から紫宴は敵意が無い事に気がつく
「何か別の事を伝えに来たって事か…」
「ああ俺はお前がこれ以上関係ない人を巻き込む様な戦いをしたら止める!色々考えたけど今はこの答えしか出せなかった」。
「あの時僕に協力出来ないのは、そのやり方をする僕が許せなかったからだろ?僕を否定するワケだ、だったら、今から戦ってもいいよ」
紫宴の目は好戦的になるが総駕は拒む
「確かに紫宴のやり方は否定する、だけど俺はお前とは戦いたく無いのも本当なんだ!窮地の俺を、理由は有ってもお前は救ってくれた!そして光郷院に対するお前の憎しみも知ってそれが他の人を巻き込む理由で妹を助けたいお前の思いも!」。
自分の思い通りにならない総駕に紫宴は苛立ちを隠せ無かった
「だったら何で僕に黙って協力してくれないんだ!!」
総駕は今までの事を振り返った、
2回戦の戦いを見た俺は紫宴に対し疑心暗鬼になっていた、だけど自分とお前を見つめ直して分かったんだ。
紫宴から総駕は目を逸らさないで答える
「お前が誰かを救える優しい奴だからだ!
そんなお前に関係無い人を倒さないで欲しい」
「っ…言っとくけど君を救ったのは利用する為だったんだぞ⁉︎
全部一人の子の為に僕はやって来たんだ」
「確かにそうなんだろう、けど優しいお前も嘘じゃ無い!」。
「違うさ、僕は嘘だらけさ」
「なぁ紫宴…助けた理由は俺を利用する為か、、?
お前が俺に目を付けた理由は真っ直ぐだったって言ったのを思い出した、そんな人を見透かしたお前が俺が他者を巻き込む事を肯定すると思ったか?」
「単純そうだからちょっと優しくすればその気になると思ったのさ」
「抜け目無い様に見えて抜け目あるよな紫宴」
「何を馬鹿な」
「お前、俺の一回目の戦いを見てたんだよな」
「っ⁉︎」
「俺が他のプレイヤーが消える事に否定的だったのはあの試合でも言っていた、だから人の事をよく見ているお前がそれを計算しないハズが無いんだ、計算が狂ったのは俺は次の日拉致されて付けてたお前は予定より早く接触する事にしたから…だろ?」。
矛盾点に気が付いた紫宴は行動を振り返った…
目の前の事にぶつかって、カードを変える力を持つ総駕を見て、光郷院を倒せる可能性を見た。
そんな彼と協力ができればと思っていたが、大会の前日に彼は捕まって機を待ってた僕にタイミングはここしか無かった。
しかし、大会に出れば本来の僕を見せてしまう、だが優勝賞品のカードがあれば僕だけでも光郷院を倒せるかも知れない、同時に彼を手元に置き友好な関係を築くには行動を共にしたい。
…総駕とは時間を掛けて光郷院までたどり着く予定だった…。
「君を知った上で接触したのに、僕のやり方に協力させるのは矛盾になってる…見透かされたのは僕か」。
自分を利用した上、否定的な考えの僕と敵対して戦うかも知れない、だけど君は戦わず僕を認めた、それは僕以上に人を見抜く力があるのからかも知れない…。
「優しいお前も本当のお前なんだ!そんなお前と戦いたく無い
だからやり方を変えよう…」
「やり方…か」
「俺はまだ目の前の事にしか手が付けられないだから今はお前から変わってほしい」
「だが僕は光郷院が死ぬ程に憎い…」
「光郷院の所まで俺も行く。
自分の目で見て何が正しいか見極めたいんだ…」
総駕の今の発言で紫宴は何かが取れたように普段の物腰になっていた
「君が来てくれるならカード集めも必要無いか…」
「ああ、お前はちょっと強引過ぎたよ」
二人の周りの緊迫した雰囲気はいつの間にか消え去り、
胸の内を明かした事で総駕は絆が強さを増したように感じた。