仮面の誘惑
『個室にいる女子高生の様子を、マジックミラー越しに見れちゃう♪』的なトコが、近所にできたらしい。
表向きは、超健全、法に触れるようなコトは一切ございません、らしい。
で・す・が!
風のウワサで聞いたんです。
『個室にいる女子高生が下着を見せてくれる』んですって!
いけませんっ! いけませんねぇ、これは!
ですが、所詮はウワサ。
これが真実であるというウラはとれていません。
ここは1つ、確かめてみたいと思います。
己の目で。
やだなぁ、決していやらしい気持ちで見に行こうってワケじゃないですよ?
もし、本当にそんな場所が近所にあったら、なんて言うんですか、ほら、そのー……
けしからん! そう、けしからんコトでしょ!?
と、言うワケで、行ってまいります!
……来ちゃいました。
そして、
本当に存在しました、パラダイス……あ、いえ、けしからん施設。
マジックミラー1枚隔てて、個室にいる女子高生の様子が丸見えです。
僕好みの女の子が……
可愛らしいクッションを抱いてベッドに腰掛け……
延々とスマホをいじっております。
その状態のまま1時間近く経ちます。
下着の「し」の字も見せる気配はありません。
いやはや、実に健全ですね。
……チクショウ
ん?
動きがありました。
女の子が立ち上がり、僕のほうへ向かってきます。
そして、ペタンと横座りし、近くに置いてある箱をゴソゴソ。
取り出したそれを僕の目の前に。
お……おお、こ、これは……
穢れを知らない
純白の
ブリーーーフっ!
って、なんでやねんっ!
親指と人差し指で、触れる部分を極力少なくするように、まあ要するに、汚いモノをつまむような感じで、男性用の白いブリーフをヒラヒラさせ、ポイッと投げ捨てる女の子。
すっげぇイヤそうな顔してんですけど……
ん?
別の箱をゴソゴソし始めました。
先ほどと同じように、取り出したそれを僕の目の前に。
赤いリボンが特徴の
白いニャンコのキャラクターがプリントされた
トラーーーンクスっ! やはり男性用ーーーっ!
何? なんなの?
どういう施設でしたっけ? ここ?
『個室にいる女子高生の様子を、マジックミラー越しに見れちゃう♪』
まあ、間違いないですね。
『個室にいる女子高生が下着を見せてくれる(風のウワサ)』
……うん。間違いない。
間違いないけどっ!
違うよね?
風のウワサさんが運んできた甘美なフレーズから連想されるのって、こういうシチュエーションじゃないよね?
男が男性用下着見て何が楽しい!?
100歩譲って、女性用でしょ!?
僕、何かおかしいコト言ってますかっ?
「失礼致します。」
目元だけを隠す仮面を着けた燕尾服姿の人がやって来て、深く一礼する。
「終了のお時間となりましたが、いかが致しましょう。延長なさいますか?」
なさらねーっ!
やんわりと断って帰ろうとすると、仮面の人は口元に妖しげな笑みを浮かべ、僕の耳元で囁いた。
「……ここからが、いいトコなんですが。」
気が付くと、僕の元から樋口一葉さんが去っていた。
ブリーフとトランクスを投げ捨てたまま、女の子はベッドに戻り、再びスマホタイム。
よく見ると、スカートは超ロングで、紺ソックス(おそらくハイソックス丈)装備。
下着どころか、肌の露出も最小限。
おいおい、こちとら樋口一葉さんとさよならして、君を選んだんだよ?
スマホにかかりっきりで動きさえも最小限て、勘弁してよ~
あ、立ち上がった。
ベッドサイドの引き出しをゴソゴソ。
このパターンはあまりいい予感しないんですが……
いやいや、一葉さんと引き換えたんだから、今度こそ。
むむっ?
妖艶な緋色……
和の情緒漂う……
F・U・N・D・O・S・Iーーーっ!
&
汚いモノ持ちーーーっっ!!
&
超不快顔ーーーっっっ!!!
たなびく赤い長い布を見て、全力で樋口一葉さんに土下座したい衝動に駆られる。
「失礼致します。終了のお時間となりましたが、おや、お帰りで御座いますか?」
「お帰りで御座いますっ!」
「然様で御座いますか。」
仮面の人は、僕の進路を塞ぐように立ち、壁際へと追い詰めてきた。
「ちょっ、なにを……」
「諭吉様をご提供戴けましたら……」
仮面の人は、壁にドンッと手を着き、グッと顔を寄せ、
「……最上の贈り物を御用意させて戴きますが?」
ああんっ! なんなの、この人っ!
いっそ、この人のために諭吉様捧げちゃうっ!
鏡の向こうの女の子が立ちあがり、こちらに背中を向ける。
女の子は背中に手を回し、セーラー服のすそからその手を入れ、セーラー服の中の何かを外すような動きを見せる。
えっ、ちょっ、まさか……っ!?
さすがにそれはマズいでしょ?
贈り物、って仮面の人言ってたけど、まさか、そんな……っ!
女の子は無駄のない動きで一切肌を見せず、器用にセーラー服の中から脱ぎ去ったそれを僕に差し出してみせる。
……フッ
フフフフフフ……
まさか、現実世界にこれが存在するなんてね。
そうか。
そのせいで、動きも最小限だったんだね。
お疲れさま。ありがとう。
でも、いらないかな。
大リーガー育成ギプスーーーーーっ!
程なくして、あの店は姿を消した。
摘発とかでなく、フツーに客来なくて。