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幻想世界の残酷少年  作者: ヤマダ リーチ
第一章:辺境の村・アルル
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11話:薬師は割に合わない

――翌朝、村の西のはずれにある酒場の2階で目覚めた。

 ここは西のギャング団の溜まり場で一階が酒場、2階が宿屋になっている。

 

 ギャング団は総勢28名で驚いたことに、昨日俺が伸したゲロまみれの男が連中のボスだった。

 ギャングと言っても見ヶ〆料を取ったり村人を脅迫したり怪しい薬を捌いたりしているわけではなく結局の所、教会騎士団の使いっぱしりでしかなかった。

 そこで俺は東と西のギャング団を根こそぎ潰すという当初の目的を変更しコイツ等を真っ当に仕立てようと思う。

 勿論連中のためではない。あくまで俺の目的のために利用するためだ。

 連中も真っ当に稼げるようになるし、俺も目的を達成出来る。

 お互いwinーwinの関係だ。問題あるまい。

 ボスの名前はゴルドー、元農民だったが戦争で行き場をなくし、アルル村に流れ着いたらしい。

 戦争、また戦争だ、まったくコノ世界の奴らは他にやることが無いのだろうか?

 そして、俺の質問に答え用心棒の交渉をしたのがジンと呼ばれる男で、ゴルドーの補佐役をしているらしい。

 ついでに挙動不審の新人君がケン、コイツについては特に語ることはない。

 俺のことを知っているのはこの3人だけで、他の奴らには秘密にしておくように堅く口止めをしておいた。

 少々やりすぎて新人君が涙目になっていたが、まぁご愛嬌だ。

 とにかく俺の目的を達成するには圧倒的に情報が足りない。

 あいつ等は騎士団に言われたことを言われたとおりにこなす傀儡に過ぎない。

 その為自分たちが何をしているのかろくすっぽ理解していないのだ。

 その現状にホトホト呆れたがグチっても仕方がないので、自分たちが今後見聞きしたことをキチンと文章としてまとめ、後日報告するように指示を出しておくことにした。

 

「――ふわぁ~、よく寝た。ベッドで寝たの何て久し振りだなぁ」

 

「コンコンコンッ」

 

「カラスの旦那、起きてやすかい?」

 

「ジンか、入れ」

 

「へい、失礼しやす」

 

 昨日の夜4人で緊急会議を開いたのだが、俺は出来る限り素性を隠すため偽名を名乗ることにしたのだ。

 その名が”カラス”である。

 

「で?首尾は?」


 ぶっきらぼうにそう問いかけるとジンは仰々しく頷き小声で言った。

 

「情報の共有は全員に徹底させやした。一貫して情報を管理する役をケンに任せたいのですが……、いいですかい?」

 

「あぁ、あの新人君か。出来るのか?」

 

「へい、実はあいつ聖都の学校を卒業してやして、頭の方は以外と出来がいいんでさぁ」

 

「へぇ、そんな奴が何でこんな辺境の村に来てまでギャングなんてやってんだ?」


「さぁ?あっしらはみんなあまり過去は詮索しないようにしてますから。」

 

(なるほど、わざわざギャングに成ろうなんて奴は、多かれ少なかれすねに傷を持っているって事か……)

 

「まぁ、出来るなら構わんさ。じゃぁ、俺はそろそろ行くぞ」


 唯一の財産である麻袋を担ぎ部屋のドアノブに手をかける。

 

「旦那、一体どちらへ?」

 

しばらくは俺が出来ることは何もないからな、一週間後にまた来るよ。それまでに言われたことをキチンとやっておけ」

 

「へい、わかりやした」

 

 

 

 

==============

 

 

 

 

――いつものように慣れた道を通りいつものようにオン婆の元へ向かうと、玄関先で何やら言い争う声が聞こえてきた。

 

「あたしゃヤダね、帰えっとくれ。」

 

「いや、そこを何とか頼むよオンディーヌさん、このとーり」

 

 腕を組みふてくされたように睨むオン婆の前に一際立派な鎧を身に纏った騎士風の5人の男達が深々と頭を下げていた。

 

「ん?何事だ?まさか昨日の一件で俺を訪ねて来たとか?だとしても、とくに捕まるようなことをした訳でもないし問題はないか……」

 

 男の中の一人がチラリとコチラを見るがすぐに興味がないとばかりにオン婆に向き直る。

 

(あら?俺に用じゃないのね……。なら一体オン婆に何の用が?)

 

 騎士達の興味が自分に無いと分かるとほっと息を吐きオン婆に話しかけた。

 

「オン婆、来た」

 

「あぁ、ノエルかい?家に入って待っておいで。このバカどもを追い返したらすぐにあたしも行くさね」

 

 オン婆の物言いに後ろに控えていた若い騎士の一人が、業を煮やしたように詰め寄る。

 

「婆さん、いい加減にしろよ?我々も別に無理難題を言っているわけでは無いはずだ。

 ただ薬を売ってくれと言っているだけなんだ、そうだろ?一体、何がそんなに気に入らないって言うんだ」


 全身にプレートを着込み腰にバスタードソードを差した大男を前にして、オン婆は眉一つ動かさず平然とした態度をとっている。


「気に入らないに決まっているだろう?1本や2本の薬を売ってくれってんなら何の問題もないさね。

 だが、あんたらが要求したのは”上級ポーション1000本”だ。

 これだけの物を一体何に使うつもりだい?

 あぁ、いいよ言わなくて。どうせ大方、戦争でもおっぱじめるつもりなんだろ?あたしゃ戦争なんて大っ嫌いだよ」

 

 言われた若い騎士は苦々しい顔になり更に詰め寄ろうとするが、先程深々と頭を下げていた騎士が左手で制した。

 

「止めよランドルフ、薬師へ手を出してはならないというのがこの国の不文律、それはお前も知っているだろう?」


(そんな不文律があったのか……。だからオン婆はあんなに平然としていられたのか)

 

「しかしジャスパー団長、薬が手に入らなければ一体どれほどの死人がで「分かっている!」っ……」

 

 ランドルフを一喝したジャスパーは険しい顔で、また深々と頭を下げた。

 

「オンディーヌ殿、あなたが度重なる戦争で心を悼まれていることは、私も重々承知している。

 しかし、帝国は待ってはくれぬのだ。北の獣王国が攻め落とされれば、次は必ずこの国に攻め入ってくるだろう。

 そうなった時、少なくとも我々は罪なき民草が逃げおおせるまでの間、この国の盾となって戦わねばならない。

 その為にはどうしても我らにはあなたが作ったポーションが必要なのだ。どうかこの通り伏してお願いする」

 

「団長……」

 

 深々と頭を下げる自分たちの上官を見て騎士達は次々に頭を下げていく。

 

(なるほどね。見ている限り悪い連中じゃなさそうだ。

 それにいざと言う時に盾になってくれるってんなら、むしろありがたい話だしな。

 ただ上級1000本はきついな、村の分がなくなっちまう。)

 

「んっ、オン婆。いじめ、よくない」

 

「なっ、何言ってんだい?あたしゃ別にいじめてなんかいやしないよ」

 

 ノエルの素っ頓狂な発言にその場にいた面々は目を丸くする。

 

「いいかい?ノエル坊。上級ポーションを1000本も渡しちまったら、いざというとき村の分が無くなっちまうだろ?

 そうなったら助かる筈の命も助からなくなっちまうのさ。だから別に意地悪で言っている訳じゃないさね」

 

 騎士達もその事は分かっていた。だからこそ強引な手段にはでれないでいたのだ。

 

「んっ。俺、手伝う」

 

「ん~、そうかい?でもやるとなったら、かなりの重労働だよ?あんたにやれるのかい?」

 

「んっ、問題ない」

 

「まったく、しょうがないねぇ……。あんたらノエル坊に感謝しな」

 

「ま、待ってくれオンディーヌさんこの子は一体……そもそもこんな子供にポーションが作れるのですか?」

 

 ジャスパーは、慌ててオンディーヌに説明を求めた。

 ポーションが手に入るのは願ってもない事だが、誰ともしれない子供が作った不良品など掴まされては元も子もないのである。

 

「なんだい不満かい?ノエル坊はあたしの直弟子だよ?

 このオンディーヌの言う事が信じられないって言うのかい?

 そもそもノエル坊がやるのはあくまであたしのも手伝いだ。仕上げは全てあたしがやるんだ何の問題もないだろう?」

 

「そ、そうでしたか……、確かにそれなら問題はないですね。しかし、そうですか……あのオンディーヌさんが弟子を……」

 

 ジャスパーは屈んで目線を合わすと、ニッコリと笑いノエルの頭をクシャクシャッと撫でた。

 

「ありがとうノエル君、君のおかげでポーションが手に入った。これで部下達を死なせずにすむ」

 

「んっ、問題ない」


 そう言ってノエルはドヤ顔で胸を張る。

 こう言う時は少し調子に乗った振りをする方が子供らしく見える。

 はかりごとが苦手なノエルがここ6年で学んだ知恵である。

  

 そんな二人のやり取りを眺めていたオンディーヌはふと何かを思いついたように手を叩きジャスパーに言った。

 

「そう言えばまだ報酬の話をしていなかったねぇ、ジャスパー?」


 今の今まで憮然とした態度をとっていたオン婆が、突然ニヤリと笑う姿を見て、ジャスパーは思わず半歩ほど後退する。 


「それはいったい……」

 

「それはも何もないだろう?ノエル坊、何でもいいから今一番欲しい物を言ってごらん」

 

 ジャスパーを制止し、問いかけるとノエルは間髪容れずに答える。

 

「んっ、魔導書!」

 

「アハハハ、そうかい魔導書かい。ジャスパー、聞いたね?魔導書だよ魔導書を持っておいで」

 

 ジャスパーは唐突な無理難題に思わずオン婆に詰め寄る。

 

「ま、待ってください。彼への報酬はそもそもオンディーヌさんがポーションの売上金から支払うのが筋では?」


 至極(もっと)もなジャスパーの意見をオン婆は「ふっ」と鼻で笑う。

 ノエルにはその様子が絵本で読んだ悪い魔女そのものに見えた。

 

「はっ、甘えるんじゃないよ。そもそも今回はあんたらが無茶な要求をしたからいけないんじゃないか。

 それがどうにかなったのはノエル坊のお陰だろ?あんたも少しは無茶をしな!

 そうだねぇ……水魔法だ。水魔法の魔導書を持っておいで」

 

「なっ、そんな……魔導書なんて……。いや、まてよ……。そうか、そう言うことか……」

 

 ジャスパーはぶつぶつと呟やきチラリとノエルを見た後、オンディーヌに言った。

 

「分かりました、何とかしましょう」

 

「団長!いくら何でもそれはボッタクられすぎでは?」

 

 問いかけるランドルフに団長はニヤリと笑った。

 

「それが、そうでもないんだ。まぁ訳は後で話そう。それでは、オンディーヌさん報酬の件も含め早急に手配しておきます。それで、よろしいですか?」

 

 オンディーヌは腕を組み満足そうに頷いた。

 

「それならいいさね。用意しておくから5日後にまた出直しておいで」

 

「はい、それでは5日後にまた」

 

 そう言うとジャスパーは部下を連れ村の中央にある教会へと向かう。

 




――アルル村の大通りを中央へ向けて行進する騎士の一団。

 その先頭を行く騎士に後ろの騎士が声を掛ける。

 


「――団長、さっきのは一体どういう意味なんです?」

 

「あぁ、魔導書の事か?」

 

「はい。薬師とはいえ彼はまだ見習いの子供でしょう?報酬にしては破格過ぎます」


 ランドルフの言う事は正しい。魔導書は尤も安いもので金貨30枚、日本円にして300万円もするのだ。とても子供に渡す報酬とは思えない。

  

「まぁ、確かにそうだな……。しかし、彼はあのオンディーヌさんの弟子だ。間違いなく将来一流の薬師になる。

 これはそのための投資だな」

 

「はぁ…」

 

 未だ納得行かないと頭を捻るランドルフに更に説明を続ける。

 

「薬師が調合をするには、どうしたって水魔法が必要になる。それに一流と言われる薬師は極端に数が少ない。何故か分かるか?」


「いえ、なぜですか?」

 

「それはな、洗練された魔力操作と、膨大な魔力を兼ね備えてなければ一流の薬師には成れない。

 しかしそのような才能のある者は皆、こぞって魔導師を目指す。理由はわかるな?」

 

「はい、金と地位と名声ですね……」

 

「そう、だからこその投資なのだ。一人でも多く薬師が増えれば民の為になり、ひいては国のためになるのだ。わかったか?」

 

「はいっ、理解しました。ありがとうございます」

 

 ジャスパーは満足そうに頷いた。


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