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第十三話


「フィランさん!レイジさん!クリム!」


目を閉じたクリムを抱え、地下から外へ出る為に階段を上がる。

未だに煙が燻っている教会に出ると、ついさっき起きたであろうアリアが自分達を見つけ、こっちに走り寄ってきた。


「クリム………?」


自分は何も言わず、クリムを慎重に地面に降ろす。


勿論、クリムはアリアの言葉に応えない。

揺すったり、軽く頬を叩くが目を開けない。


「あぁ………あぁ、そうですか。全てはそう言う事なのですね………何と……何と残酷な………クリム………辛かったでしょうね………」


黒いローブを着て、今は黒く染まった呪いを見る。

それで全てを察したであろう彼女はクリムの亡骸を抱き寄せ、悪い子供を優しく諭すように何度も何度もクリムの名を呼ぶ。


それを一瞥したフィランは無言で出口へと向かいだした。


「何も言わないのか?」


自分が不幸を呼ぶことを改めて認識したフィランは孤児院には居られない。

おそらく、二度と孤児院には帰らないだろう。

これが最後になってしまう。


「何を言えば良いのよ。何を言っても何も変わらないわ」


「そっか」


目だけを動かし彼女の方を見ると、彼女は唇を噛み締め、ペンダントを握った手は震えていた。

本当は何か言いたいのだろうに。

だが、彼女は決してアリアの方へ振り向かず出口へと走って行った。


フィランさんの背中を見ながら、自分は背後にいるアリアに声をかける。


「アリアさん、早く逃げろ。もうすぐ魔王軍がここを襲う」


「レイジさん………」


「クリムは俺が殺した。恨んでもいい。殺したいと思ってもいい。だけど、逃げてくれ。自分の為に、子供達の未来の為に、さ」


「レイジさん!」


そして、俺は振り向かず走る。

遠くなっていくアリアの声を背中に受けながら出口へと。


もう、あのご飯を食べられなくなる。

悪戯好きなあの子達とも一緒に居られない。

そう思うと背中が後ろへと引かれる感覚がした。


だが、戻れない。

後ろに道は無いのだ。

ただ、前を向いて突き進むしかない。


自分はひたすら足を動かした。






♠︎






前へと走るフィランに追いつき、並走しながら道に溢れる人に気をつけ上を見る。


いつもなら薄らと見えていた結界が完全にヒビが入っている。

これだと魔物達による攻撃に耐えられはしないだろう。


人々は今にも崩れそうな結界を目の当たりにして、口を開き棒立ちになる者、頭を抱え慌てる者、大声を出し泣き叫ぶ者と分かれていた。


「完璧に混乱してるわね」


「それが普通だろうな」


大通りの人混みを右左へと避けつつ、何とか城壁へと辿り着いた。

門の近くには門番が一人、自分達を見ると短めの槍を横にして通せなくする。


「止まれ!!今はここから出られない!ギルドから魔王軍がこちらに向かっているという情報があった!今からここを閉めるからさっさと戻れ!」


「そうなの?それは怖いわね。じゃあ、行くわ」


「ちょっと待てぇ!!話聞いてる!?魔王軍来てるの!危ないの!出ちゃ駄目なの!」


「そうだね。卵白だね」


「適当!?だから聞けって言ってんだろ!?馬鹿なの!?死ぬの!?つーか、何で卵白ッ!?」


因みに卵白はカヤクを作っていた場所で偶然聞いた話だと、人にとって大事な構成物質が沢山あるそうだ。


「ごちゃごちゃ言ってないでさっさと通しなさい。その髭を剃ってダンディからハンサムにされたくなければ、ね」


「だから通せないって………え?俺ってダンディ………?可愛い子にダンディって言われちゃったよ………」


軽く頬を染めながら満更でもない顔をする門番。

キモい。


しかし、門番は依然として槍を横にしたまま自分達を通そうとはしない。

おそらくこのまま話しても平行線だろう。


どうするか、困っている自分に背後から歩いて来る足音がしたので振り返る。

そこには背中に大盾、腰に片手剣と出会った時と同じ姿をしたテレシアがいた。


「通してあげて。その二人は私と共に魔王軍を止めてくれる人よ」


「巡察官殿!?わ、分かりました!ご武運をッ!!」


テレシアの一言で態度が一変した門番。

直ぐに横にした槍を立てるとその場から退いた。


「全く………人が治療していたら結界はヒビ入るわ、勝手に教会出て行って走って行くし………ちょっと何よ、その目………」


自分達はテレシアを睨む。

自称ベンベルグ教会の人じゃないシスター、地獄耳、涙目、三角座り、酒乱、腹だし、おっぱい。


「「いや、世の中理不尽だなって………」」


「どういう意味よっ!?」






♠︎





ベンベルグの近くにある森の奥。

そこは太陽の陽が差さない暗闇だった。

本来なら静けさが支配するはずの森は獣の鳴き声により充満していた。

人を地獄へと落とさんとする低い鳴き声、人を今すぐに蹂躙せんとする熱気を帯びた高い声。

負同士が混じりあった不協和音が向ける先には二体の姿が。


二本足で立ち、腕を組むその影は正に人だった。

だが、その肌は色白さを越し青に近くなっている。

普通の人間ならば死人かと思うが二体の体からは溢れんばかりの活力を感じることができた。


人とは明らかに異なりながら人間と言う存在するを遥かに超越した存在。

これが魔族である。


一体は中肉中背ながら引き締まった筋肉を持っている。

ふくろはぎまで伸ばした緑の髪は一つに纏められていた。

その知性を感じられる穏やかな目からは怒りに、悲しみに、憂いに満ちた感情が混じっている。


「全く………心が重いですよ………」


溜息と同時に今の心の中の心境を吐く。


「■■■■■■■………」


もう一体が気遣う様に低い声を出す。

その声は理性を持った獣の鳴き声だった。


言葉とは言えない声を受け、思わず笑みが零れるが直ぐに元へと戻る。


「友よ、新しき友よ。魂を吸い、ここまで至った強者がこのような場所で命を散らすとは………全く、心が重い………そして、腹立たしい。あ奴らに、この場から離脱する自分に………」


眼目にいるのはベンベルグを破壊せんとする先鋭達。


だが、この魔族は分かっていた。


これだと足りない。

おそらくもう直ぐログナス王国軍が着く。

この程度の軍勢など容易く蹴散らされる。

ここにいる同胞も無残に殺されてしまうだろう。


今すぐにでも撤退を指示したい。


「あぁ、だが、従わないといけない。従わないと全てが無駄になってしまう」


今すぐ吐き出したい感情を無理矢理抑え込め、木の枝に覆われた空を仰ぐ。


「我らの全ては姫様の為に」


その言葉はまるで忠義の騎士の如く重く使命を帯びていた。






♠︎






ベンベルグと森の中間辺りに自分達はいる。

目の前には千を超える魔物がわらわらと森から現れてきた。

三十を超えた辺りから数えるのを止めたが、おそらく三千以上はあると見た。


自分とフィランは横に並びながら、進行して来る魔物達を眺める。


「なぁ、俺達と敵の総数が全く合わないんだけど」


「我慢しなさい。男の子でしょ?」


「何でも男の子で片付けるのは良くないと思います。と言うより俺はもう男の子って歳じゃないぞ。もう二十歳だしな」


「え?あんたって私より五歳上だったの………?」


「え?フィランさんって十五歳なの………?」


「「……………」」


出会った時から自分と同い年か少し下程度に思っていたが、まさか五歳も歳下とは思いもしなかった。

反対に彼女は自分が歳上だと思っていなかったらしく、自分をジッと見ている。


「あー、俺、年下でもさん付けするタイプだから」


「心底どうでもいいわよ」


一蹴され、苦笑しながらまた眼目の敵へと顔を向ける。

敵との距離はさほど離れていたかった。


「ねぇ、別に逃げてもいいのよ?アンタは巻き込まれただけなんだから」


「言っただろ?俺は宛もなく旅をしているんだぜ。やることも無い、ただ歩くだけ。なら、今、やるべき事に突っ走るだけだ」


「死んでも知らないわよ」


自分はハハハ、と軽く笑う。


「どうせここで死んだらここまで。生きたらいつか死ぬまで。それだけさ」


「それもそうね………」


フィランも口角を上げ、薄く笑った。


刀を、メイスを構える。


敵は魔物の先鋭、魔王軍三千以上。

こちらはたったの二人。


だが、勝率は零じゃない。


「征くわよ、レイジ(・・・)。相手の大将を潰す」


「あぁ、征こうぜ。フィランさん!」



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