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第十一話


テレシア、フィランと情報を共有し、貴重なフィランの自然な笑顔を見れた日から数日。


殺人鬼はそれからも殺人を行った、とテレシアから聞いた。

魔憑きの呪いがかけられた殺人鬼の狙いはアイギスであることだが、一体いつ狙って来るか分からない。


教会も警備は強化しているが、油断ならないのが現状である。


自分とフィランは殺人鬼が孤児院の子供達が狙われない為に出かける際は付いて行っていたりしていた。


そして、今、自分達はアリアお手製の昼食を食べていた。

大きなテーブルに孤児院の子供達、アリア、フィラン、そして、自分が並んで座り、昼食をとっていた。


そこで皆と様子が違うのがアリアだった。


「あらあらあら」


先ずは自分に視線を向け、次に隣にいるフィランに視線を動かす。

すると、微笑みながら意味あり気な声を出し始めた。


「何よ、アリア………」


「いえいえ、フィランさんも気が許せる殿方を見つけられたのですね」


「はぁ?殿方ってコイツの事?コイツを殿方とするのならゴブリンと結婚した方がまだマシよ」


「酷い」


「あらあら、『気が許せる』という言葉は否定しないんですね」


口を手で隠しフフフ、と笑うアリアにフィランは無言で顔を隠すようにスプーンを忙しなく動かしながら食事を再開する。

そんな様子のフィランにもアリアはあらあらあら、と声を出していた。


意外とアリアは手強いかもしれないと思った。

そして、クリム、そんな親の仇のような目で自分を睨まないで欲しい。






♠︎






食事が終わり食器を片付けたアリア達はいそいそと外出の準備を始めていた。


「お?アリアさん達、どこか行くのか?」


「今日は一ヶ月に一回の祈祷の日なのです。私達は聖女教の信者ですから義務付けられているのですよ」


「私達は無宗教だから教会に入れないわよ。一応、私は教会まで付いていくけど」


殺人鬼が教会を狙っているから気をつけろ。

そう言うことはできず、自分は見送るしかできなかった。


「兄ちゃん………兄ちゃん……!」


「おぉう?クリム、どうした?」


「今日さ、フィラン姉ちゃんに物を上げようと思って買ってきたんだけどさ………」


「あー、どう言って渡せばいいか分からないってか?」


自分がそう言うとコクリ、と頷くクリム。

何と初々しい少年なのだろう。


そんなクリムに自分なりに助言をすることにした。


「『日々面倒見てくれている事に感謝だよ』って言っとけ。まぁ、フィランさんが受け取るかは分からないけど」


「だよなぁ………」


「まぁ、やらないよりはマシだろ。当たって砕けろ、だ」


「いや、兄ちゃん、それ死んでる」






♠︎






アリア達を見送ってから自分は外へと出て、露店で買った果物を齧りながら、宛もなくぶらぶらと歩いていた。

街が壊れるかもしれない時に、ギルドの依頼を受ける気になれない。


自分はこの事態に巻き込まれた者だが、孤児院にはお世話になった。

せめてこの危機が納まるまで待つのが道理だろう。


そう考えながら歩いていると、いつの間にか自分はこの街を一望できる場所に来ていた様だ。


元は小高い丘を舗装したのだろう、この道にある脇にもたれかかる。

小さくなった活気あるベンベルグを眺めながら果物を一口齧る。

甘酸っぱい味が果汁と共に口一杯に広がる。


この街が壊されそうになっている。

明日、街の住民に避難勧告を出す予定だが、皆はおそらく結界を信じて離れる者はいない筈だ。

長年守り続けてきた結界も考え物である。


「あら、こんな所にいたんだ」


声をかけられ振り向くとテレシアがそこにいた。


その後ろにはアリア達を見送ったであろうフィランもいる。

おそらく教会で会ったのだろう。


「テレシアさん、貴女は教会を守らなくていいのか?」


「教会は冒険者や修道士が警備でガチガチに固めているから外からは入れないわよ。私は殺人鬼を探す為に歩いているんだけどね」


「その割には貴女方の手に巨大な鶏肉があるのですが」


「「女子力よ」」


「もう何も突っ込まんぞ………」


己の中で女子という単語があやふやになっている今日この日。


「調査の方は変わりなし、みたいだな」


「本当よ。何一つかすりさえもしないわ」


テレシアは溜息を吐きながら肩を竦める。

殺人鬼の突然現れ、殺して直ぐに去っていく手口に手を焼いているようだ。


「なぁ、他に殺された人に共通点とか手がかりになりそうな物は何も無いのか?」


「共通点じゃないけど、殺された修道士だけ盗まれた物があったわ」


「盗まれた?」


魔憑きの呪いを受けた者は魂を吸うだけでいい。

なので物を盗む必要なんてない。


「炎の魔法札よ。その修道士は剣の使い手と共に魔法札を合わせて戦うのが得意だったらしいわ」


──魔法札。

紙に魔法の力が込められた魔法陣を書くことによりできあがる札の事である。

使用者の血を付けることにより任意に発動することができる。


その言葉を聞いた時、自分の頭の中にある無数の紙の断片が繋がり合い、一つの物語になる感覚がした。


「まさか──」




その瞬間、雷が落ちたような音が耳を劈く。




一瞬だけ体が硬直したが、直ぐに音がした方向へ目を向ける。


煙が出ている場所は教会だった。


「教会へ行くわ!!」


走り出すテレシア。

それを追いかけるように自分達も走り始めた。


脳裏に思い浮かべるのはアリアや子供達。

あそこには孤児院の皆がいる。

隣を見ると焦燥に駆られる表情を顕にしたフィランが。


無我夢中で走り中央通りに出ると、街の皆が何が起こったのかと一斉に教会の方を見ていた。

突っ立っている人の間を通り抜けながら教会へと向かう。


「成程な。やっとモヤモヤしていた物が晴れたぜ」


自分の言葉に隣にいるフィランとテレシアは同時にこちらに振り向く。

自分は考えている全てを話すことにした。


「殺人鬼が魔憑きの呪いがかけられたのは予想するに大分前だ。奴は何度も教会に出向きながらカヤクを入れた球を隠した。そして、今の実力だと警備に返り討ちにされるので、住民を襲い魂の吸収を始める」


「あのカヤクはどこで手に入れたのよ。アンタの話だと別の所で作られているのでしょ?」


「魔王軍だ。得体は知れない奴らだが、しっかりとした文明がある。どこからか漏れたカヤクの製造方法を手に入れて作ったんだろう。そして、殺人鬼に渡した。カヤクは意外と簡単に作れるからな」


その学者以外にもカヤクの研究をしている人達は至る所にいた。

それを見ると情報が漏れるのは必然だろう。


「だが、奴に足りなかったのはカヤクを爆発させる方法。全てを一気に火を付ける事は出来ない。だから、何度も行く内に剣の腕、魔法札、そして、アイギスがある場所を知る絶好の餌を見つけた。奇襲という形でそいつを殺し魂を吸収すると共に炎の魔法札を手に入れた。後は爆発と共に警備の奴らを殺せればいいだけだ」


「でも、教会は常に人がいるからカヤクを積めた球何て見つかるはずよ」


「子供だったらどうだ?今まで見た聖女教の教会は複雑な造りに細かい造形がされている像もある。なぁ、テレシアさん。小さな体の子供だったら入れる場所は幾つもあるだろ?」


「えぇ、ベンベルグ教会はそう言う所もあるから掃除がしにくいけど………」


そうこう言っている内にベンベルグ教会の前に着く。

至る所にから煙が漏れ出し、前見た神々しさは失われていた。


周りにはカヤクが詰められた球により鉄片が突き刺さり死んだ者、火傷により呻いてる者がいる。


「『痛みは人を殺す(ヒール)』」


テレシアは直ぐに生きている者達の所へ行き、患部に手を当てると回復の魔法を発動させた。

淡い緑の光と共に傷が時を遡るかのように治っていく。


「本当なら行きたいし、私の任務なんだけどこの人達を放っては置けない。だから──」


「分かってる。俺達は回復の魔法は使えないからな。殺人鬼は俺達が何とかする」


「報酬、弾みなさいよ」


「任せなさい。終わったらすぐに向かうわ」


俺達はテレシアと別れ、教会の中へと入る。

教会の中でもカヤクが爆発した後に出てくる煙が充満しており、無理矢理鼻へと入ってくる。

フィランは顔を顰め、腕で鼻を押さえる。


辺りを見渡すと端の方に見慣れた人の影が見えた。


「アリア!」


アリアの周りには子供達も倒れており、フィランと自分は耳を口に近づけ、呼吸を確認する。

ここは煙が通っていないのか安定した呼吸をしていた。


「全員いるか?」


「あの子………クリムがいない………!」


「そっか………なぁ、フィランさん………」


立ち上がりクリムを探そうとするフィランの手を掴み留まらせる。

何をするんだ、と睨みつけるフィランに自分は少し上を見る。


これはフィランだけに聞かせてやりたかった。


「俺が最後に引っかかっていたのは殺人鬼の体捌きだ。アイツの最初の一撃をフィランさんに受け止められた時の後の動き。フィランさん、どこか見たことないか?」


そう、それは殺人鬼が掴んだフィランの手を無理矢理下げた動作の事だった。

前にもそんな動作を見て、思わず賞賛を送ったのを覚えている。


「………嘘でしょ?」


「あぁ、俺もそうじゃないと信じてぇよ。だが、子供で警戒されずに教会へ入れるのなら………殺人鬼の正体はアイツしかいない………!」


この教会の象徴であろう巨大な聖女の像。

だが造形は後ろへとズレており、その像の足元には地下へと通ずる階段があった。

これは球を吸収する事で情報を得たのだろう。


辿り着いた殺人鬼の正体に否定の願いを込めながら階段を下りていく。


長い螺旋型の階段を下りた先は、あまりにも広い円形の空間。

薄暗い場所に明かりは松明だけで頼りない。


中央には簡素な石の台座があり、そこには前に見た黒いローブの男──殺人鬼だ。

殺人鬼はこちらに気づいたのかこちらに視線を向ける。


「なぁ、そうだろ──」


殺人鬼はゆっくりとフードを外す。

そして、自分は殺人鬼の名前を呼んだ。

















「──クリム………!」






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