手紙と後悔を、俺はまだ何一つ知らない
いつも通り、金曜日に行きつけの場所へ行った。
丁度、一年前。
その時から、この関係は続いてる。
ネオンの光るホテルに、慣れた様子で腕を絡ませる女。
無駄にプライドは高いし、彼女づらして癪にさわるがまぁそこそこ上玉ではあった。
『浮気してもいいけど、俺はもういいよ』
つい先日の飲み会で、部長が言っていた言葉を思い出す。
その部長は社内でも“愛妻家”であることで有名な為、部長の一言は驚いた。
『痛い目合うから、この辺で止めておきなさい。
そのうち、取り返しのつかない事になるし、
何より、罪悪感が大きいぞ』
部長は笑いながら、でも真剣な目をして話した。
確かに、彼女が嫌いなわけでは無い。
入社して間も無い頃の必死に覚えようとしたのが過ぎ、新人も卒業した後から、俺は余裕が出てきた。
精神的にも、時間的にも。
彼女との距離も新人の時から変わるはずも無く、むしろ、彼女の方が忙しいくらいだ。
電話も変わらない。
メールも変わらない。
そう、何もかもが変わらなかった。
そんな時に出会った女。
彼女とは真反対の女に、つい出来心で手を出した。
最初は、大人しめだった女も、一年も経てば煩わしくなった。
最低なのはわかってる。
だからこそ、部長の話が心に突き刺さった。
『もう、終わりにしよう』
俺はそう、胸に誓って女と歩いた。
ベッドの上の置き手紙の存在と、その後の後悔を、俺はまだ何一つ知らない。