09.グルガの好む役立たず
「冗談・・・だったりする?」
ちょっと泣きそうになりつつすがるようにアームズメーカーを見たが、彼女は片眉を跳ね上げていかにも心外そうだった。
オマケに「馬鹿言うんじゃないよ。あんたの寄越した設計図どおりにつくったらそうなったのさ」とごくごく真剣なお答えを頂戴した。
つまり、嫌がらせとか冗談とかではなく、真剣真面目にこの棒切れが俺の魔導器・・・唯一にして最高の武器であるらしい。
こんなもんよりは、それこそそこらの見習い鍛冶師が練習用に作った剣とかのほうが攻撃力はあるだろう。
「・・・こんなもんで俺にどうしろと!?ただの棒引っさげてサンダツへ行って、各国の武芸一筋ウン十年の方々や、ドラゴンや、それよりさらに恐ろしいグルガ族とかと戦えってか!?命がいくつあっても足りんわ!!」
思いのたけを素直にぶちまけると、アームズメーカーは今度は呆れたようにため息をついた。
「魔導器ってのはもう一人の自分なんだよ?よくもまぁそこまで言えるもんだねぇ・・・。長年こんな仕事やってるけどさ、あんたみたいに自分の魔導器をこんなもん呼ばわりした奴は初めてだよ…」
「“こんなもん”じゃん!ただの棒じゃん!!・・・こんなことならケチってないでもっと防犯グッズ持ってくればよかった!一通りは揃えてあるけど、もっと凶悪なやつ持って来れば良かった・・・!!」
“凶悪な防犯グッズ”なんてものがあれば、果たして防犯に使われるのか、それともかえって犯罪に使われるのかとかそんな疑問は今はなしだ。
こっちは命がかかっているのだ。
俺はそれ以降何も話す気になれず、何かしら横合いからレグルスとアームズメーカーが慰めの言葉のようなものをかけてくれていたが、それも全て聞き流してしまった。
小屋を出て王城まで帰るときも、精神的ショックから立ち直りきれておらず、魔導器って言うかただの棒を杖代わりにどうにかこうにか帰ってきた始末である。
そういえば帰り際にアームズメーカーに呼び止められたレグルスが何か耳打ちされていたが、それすら気にもならなかった。
ちょうどその時俺の頭の中では棒切れでサンダツに挑み、各国の武人に笑われてけちょんけちょんにされる未来の自分がリアルに映像化されていたので、それどころではなかったのだ。
もう帰りたい・・・
森を出て城下街を通り、通用門から王城の敷地に入って城までの庭を進んでいると突然レグルスが立ち止まり、彼の後ろを生気の抜けたアンデットみたいにヨロヨロ進んでいた俺は思いっきり彼の背中にぶち当たった。
その衝撃で魂があるべき場所に戻ったようで、我に返った俺は文句を言うべくレグルスを見たが、彼はこっちを見ようともせずに植え込みの一点を凝視していた。
興味をそそられてレグルスの見ている辺りを見てみたが、ただ背の低い木と花の植わった植え込みがあり、それに異常な点は見当たらない。
王城は花で溢れており、この前庭や中庭、裏庭それぞれに違った植物が植えられ、違った花を咲かせていた。
いいにおいが大気に溶けて心地よく風に香りを乗せ、城の堂々たる威容が花と緑に飾られ美しい。
青い空に白壁の城壁、そして緑の木々ととりどりの色彩を競う花々。
それはとても美しい光景だった。
植え込みから関心が離脱した俺とは裏腹に、レグルスは相変わらず植え込みの一点にのみ視線をやって厳しい表情をしていたかと思うと、突然肉食獣が狩をするため走り出すように植え込みに駆け寄った。
「私がいるこの城をのうのうと闊歩できると思うな!!」
突然の雄叫びに俺の注意は勿論平和な光景から引っ剥がされ、慌ててレグルスへと視線を戻す。
しかしその時にはすでに全てが終わっていて、レグルスは植え込みの潅木に突っ込んだ右手を引き抜いたところだった。
デヴァインで切り裂かれ、打撃を受けた植え込みは庭師が見たら軽く泣くような惨劇になっていたが、どうやらレグルスは目的のナニモノカを一撃で仕留めたらしく、不幸中の幸い、被害は広範囲には及んでいない。
植え込みの被害状況を確認してから、平穏の破壊者たるレグルスへと視線をやると、彼は右手に何かを掴んでいるようだった。
そして、それをじっと凝視している。
猫が捕まえるものといえば、ネズミかスズメと相場は決まっている。
俺はそっと近寄って行って彼の手の中に何がいるのか覗き込みたい思いに駆られたが、手の中の生物が生きているのか死んでいるのか定かではないためスプラッタを敬遠して止めておいた。
レグルスは右手に握った何かをしばらくじっと見つめると、突然右手をこちらに差し出してきた。
デヴァインが俺に届きそうになり慌てて後退してから、俺はそっと彼の右手へと視線を戻した。
彼が握っていたのは、なんとも曖昧な動物だった。
白い色の動物で、耳の先だけ黒い。
長くも短くもない微妙な長さの尻尾もあり、やはり先だけ黒い。
ネズミのようでハムスターのようで、リスっぽくもありちょっとオコジョにも似ている。
怯えた黒い目がキョロキョロと左右に動き、俺を不安そうに見上げてくる。
よく見れば、その動物はぷるぷると小刻みに震えていた。
どう考えてもレグルスに捕まってわが身の最期を悟り、恐ろしいのだろう。
・・・そういえば猫は、わが子に狩の練習をさせるためわざと殺さずに獲物を子供のところへ運ぶという。もしかしてそれと同じなのだろうか?
「これはお前にやろう。最近はこの国でもなかなか姿を見なくなった。名前をつけて可愛がれ」
「はぁ!!?」
俺の予想を遥かに超えたレグルスの言に、思わず彼を見返してしまう。
どう考えても猫の習性でこのネズミっぽい生き物を捕まえたのだと思っていたのに、名前をつけて可愛がれという。理解不能の極地だ。
「それはガルガデス・グルガドンという生き物ですよ」
突然前から知った声がかかり、レグルスの脇から前を覗き込むとアルヴィンが立っていた。
視線で助けてくれと言うと、アルヴィンは苦笑と共に俺達のところへやってきて説明を続行してくれた。
「グルガ族の皆さんが愛してやまない生き物で、これと言って特徴がないのが特徴です。カッツェさんはダイチさんにこのガルガデスを下さるとおっしゃったようですが、それはグルガ族流の友情の表現なんですよ。貰ってあげてください」
・・・と、言われても。
このネズミっぽい生き物を貰って一体どうしろというのだろう?まさか食べるのだろうか・・・
仕方なしに手を出すと、レグルスは存外優しい手つきで握ったネズミを俺の手の中に放した。
“がるがです”とかいうイカツイ名前のしょぼいネズミは、逃げるでもなくブルブル震えているだけだ。
「どんな名にするんだ?立派な名前をつけてやってくれ。お前の国の偉人の名などがいいだろう」
俺の手に移ったネズミに優しい視線を送りつつ、用途不明のネズミに名前をつけろと要求してくるレグルスに、ちょっとどうしようかと思っているとアルヴィンが小声で補足説明してくれる。
「このガルガデス・グルガドンというのは学名なんですが、訳すと“グルガ族が好む、役立たずの生き物”というくらいの意味なんです。食べられるほど身はないし、食べても淡白でたいして美味しくない。毛皮も少ないし大したものではない、益獣でも害獣でもなくて、気は小さいし、反面餌さえ貰えれば誰にでも簡単に懐きます。グルガはこれを愛玩用にするんですよ。グルガの国ラドキアでは、愛玩用に狩り尽くされてかなり昔に野生種は滅んだそうで、今は高値で取引されてます。一般的にはグルガの移民が多い国は別ですが、そうでなければ割りとそこらにいる動物です。変な病気を持ってるわけでもありませんし・・・そんなの持ってたら一番に死滅する弱虫ですから。まぁとりあえず害はないので貰ってあげてくださいませんか」
アルヴィンに言われ、レグルスたちなりの友情の示し方であるこの妙な生き物を突っ返すわけにも行かず、俺はポケットに突っ込んでいた飴玉を出して包みを破き、手の上の白いネズミに与えた。
ちょっとくらい警戒しても良さそうなものだが、警戒という言葉とはほぼ無縁らしく(もしくは究極的に開き直っているのかもしれないが…)ネズミはちょっと飴玉に鼻を近づけてにおいを嗅いだかと思うと両手で持って齧り始めた。
そして気に入ったらしく、きゅ、きゅ、と鳴き声をあげて俺を見上げてから、一心不乱に齧り続ける。
しかしまぁこんな弱そうな生き物に信長だとか義経だとかナポレオンだとかいう名前をつける気になるはずがない。完全に名前負けするのが目に見えている。それも、全戦KO負けくらいの完敗だろう。
なんだってグルガはこんな弱そうなネズミもどきを偏愛しているのだろう?
・・・基本的にルール適応外の強さを生来備えているグルガ族だからこそ、それとは正反対のこういう弱っちそうな生物に惹かれるのだろうか?
とはいえ、レグルスが期待の眼差しを向けてくるのが痛いほど感じられるので、とりあえずこのネズミもどきの名前をさっさと提案せねばなるまい。
でも、手の上で飴玉に夢中になっている白い毛玉は強そうな名前や偉そうな名前が似合う手合いではまるでない。
「じゃ・・・ぽちで。」
典型的なペットの名前というと、ぽちかたましか思い浮かばず、ネズミにぽちはおかしいかな・・・と思いつつも俺は投げやりに白い生き物に名前をつけた。
「ぽち・・・それは偉人の名前なのか?何かこう・・・間抜けな響きだが」
レグルスは俺の投げやりな葛藤を知ってか知らずか、ちょっと納得しかねるという表情で聞いてきた。
勿論ぽちなんて名前の偉人がいるはずもない。
一瞬俺の国の初代大統領の名前だ!とか言ってやろうかと思ったが、俺の世界なら一発で冗談だと認識してもらえるその嘘も、こちらではそのまま受け入れられかねない。むしろアルヴィンなどすんなり信じるかもしれない。
そもそも俺の国の政治的なトップが大統領ではなく首相であるということ自体、アルヴィンやレグルスは知らないのだ。
ばれると相手がレグルスなだけに、後々怖いのでそういう冗談は言わないことにする。
「いや、別に偉い人の名前じゃないけど、間抜けは失礼だろ。全国のぽちさんに謝らなきゃ」
全国にどのくらいのぽちさんが生息しているのかは謎だが、これも異世界人たるレグルスには分からないことで、彼は納得しかねるという表情のままそれでもどうにかネズミもどきにぽちという名前をつけることを承諾してくれた。
そして、彼から貰った(別に欲しくはなかった)ネズミはめでたく“ぽち”になった。
どうにか種族名から個体名への切り替え登録が済んだ白い生物、個体名ぽちは、俺たちが自分の事について話し合っていることもまるで知らないように相変わらず飴玉を齧っていたが、突然きーきー鳴き始め、俺は驚いて手の上の生ぬるい生き物に視線を落とした。
レグルスも俺よりも何倍も真剣な表情でぽちを注視する。
ぽちを見ると、どうやら飴玉をしっかりと両手で抱きしめていたのが災いし、腹毛に溶けた飴がくっついて取れなくなってしまったようだ。
そして、助けを求めてか驚いて悲鳴を上げたのか知らないが、きーきー言い始めたのだ。
やっぱりこいつはぽちが関の山だろう。こんな信長がいてたまるか。
腹を上にして白い腹毛に飴玉をくっつけたまま手足をタバタしているぽちを見ながら漠然と間抜けな生き物だなぁと思っていると、レグルスが早く助けてやれ!と悲痛な表情で叫んだ。
別に飴玉が腹毛にくっついたくらいで死にはしないのだが、彼の顔は蒼白である。よほどこの白い生物が心配らしい。
仕方がないのでぽちが乗っていない方の手で飴玉をむしると、ぽちはきゅー!と一際高い声で鳴いた。
よく見れば無理にむしったので飴玉と一緒に腹毛も幾ばくか抜けている。
それが痛かったので、先ほどの悲鳴だったようだ。
「ダイチ!お前は乱暴だな!!もっと丁寧に取ってやれ!」
飴玉と抜けた腹毛を見て、俺よりも何倍も何倍も乱暴かつ凶暴な肉食系民族が俺を乱暴者呼ばわりしてくる。
全くもって心外だ。
飴玉を取ってやったというのに、ぽちはぽちで相変わらず腹を上にしてひっくり返ったままぴくぴく動いており、毛玉愛好家たるレグルスに余計に俺を非難する材料を与えている。
魔導器は役に立たないただの棒、同じく役に立つとは思えない・・・実際役立たずの称号を冠した間抜けなペットまで増えて、この先どうなることやら一寸先どころかすぐ目の前も闇状態。
なんかホントに・・・今すぐ帰りたい・・・
結局、余計なぽち騒動があったせいで迎えに出てきてくれたアルヴィンに俺の魔導器・・・というか棒切れを紹介するのが遅れてしまい、俺に与えられた部屋に戻って一息つくまで棒切れのことは忘れ去っていた。
またアルヴィンの部屋へ戻るのかと思っていたのだが、アルヴィンがやや困ったように笑いながら言うには、彼の部屋は集まっていた人々に占領されて作戦会議室と化してしまったらしい。
俺にあてがわれた部屋はアルヴィンの部屋ほどは広くなかったが、実家の私室よりよほど広い。
その部屋のソファに腰を落ち着けて、やっと一息ついた気がした。
アルヴィンが部屋に備えてあったティーセットでお茶を淹れてくれ、レグルスと俺にカップを回してくれる。
どこからともなく茶菓子まで出てきて、本日何度目かのお茶にありついた。
ぽちは邪魔だったのでテーブルの上に放置。
レグルスが皿に盛られたクッキーをつまんで与えている。
「で、どれがダイチさんの魔導器です?剣だったんですか?それとも槍?」
自分のカップにお茶を注いでからソファに腰を下ろし、アルヴィンが一番聞かれたくない質問をさらっとしてくる。
レグルスもぽちから視線を上げ、俺とソファの背に立てかけた棒切れとを視線で往復。
なんかまた落ち込んできた・・・
「・・・・・これ」
棒切れを指すと、アルヴィンはぽかんとした顔になった。
「・・・え?」
理解できないというように、小首をかしげて問い返してくる。
「だからこれ!!」
親指を立ててびっと後ろの棒切れを指し、アルヴィンを睨んでやったが彼はまだ得心がいかないようで、呆けた表情で俺と棒切れとを見比べている。
「こ・・れ・・って・・・・棒ですか?」
「棒です!!正真正銘ただの棒!!!文句あんのかよチクショー!!」
いい加減俺も腹が立ち、目の前でレグルスから貰ったクッキーをカリカリ齧っていたぽちを掴みアルヴィンに投擲。
しかしクッキーをぽろっと落として投げられたぽちがアルヴィンに衝突する前に、横合いから恐ろしいスピードでレグルスが手を伸ばし、ぽちを受け止める。
別にここまで計算してぽちを投げつけたわけではないが、レグルスのデヴァインがアルヴィンの首筋に正確無比に寄り沿っている。
ぽちが当たるよりよほど恐ろしいその刃物に、アルヴィンも大きく背を反らして紙一重の恐怖に固まってしまった。頬を伝う冷や汗がリアルだ。
「ダイチ!!ぽちを投げるな!!危ないだろうが!!!」
アルヴィンを殺しかけたグルガの男は、それについては全くどうでもいいように俺のぽちの扱いをなじった。
その前にデヴァインを退いてやれよと思ったが、怖いので口には出さない。
「か、カッツェさんも危ないですよ…?」
アルヴィンがかすれた声で主張すると、レグルスもやっとぽち一匹のためにアルヴィンを殺しかけた事実を認識したようで、咳払いひとつしてデヴァインを退けた。
そして手に大事に持っていたぽちを再びテーブルに放す。
ぽちは投げられた恐怖かまたグルガに捕まった恐怖か、もしくは相乗効果かも知れないがカチコチに固まっており、テーブルにぺちょっと転がったままだった。
「・・・で、作戦は決まったのか?」
とりあえず話題をそらそうとすると、レグルスは嫌な顔をしたが何も言わなかった。
アルヴィンもアルヴィンでどうやらやっと棒切れの事には触れないほうがいいと気づいてくれたらしく、俺の話題に乗ってくる。
「大筋は決まったんですが、部隊編成でちょっともめているようです。」
「部隊編成?」
問い返すと、アルヴィンはカップからお茶を一口嚥下して答えた。
「ええ。私たちが立てた作戦では、三つの部隊が必要なんです。まず、正面から攻勢をかける部隊。それから、砦そのものをすっぽりと囲む部隊。最後に砦に裏から忍び込む部隊です。正面の部隊が敵の気を引いて、そのうちに裏からの部隊が忍び込んで使者を確保し、もしも犯人たちが逃げ出しても対応できるように、用心のための防壁部隊も展開しておくというわけです。」
「でもさ、正面から攻めたりしたら、使者に怪我でもさせるんじゃないか?腕の一本くらい・・・とか自棄になって思うかも知れないって意見は最初に出てたよな?」
「攻めると言うより相手の気を引くと言う方が正しいですね。最初は使者の安全を考えて揉め事を起こす程度にしておきます。そして、潜入班が使者を確保してから攻勢に転じるというわけです。」
「なるほどな。で、みんなが潜入班をやりたがってるってことか?」
聞き返すと、アルヴィンはため息と共に頷いた。
軍人たちの中で議論が紛糾しているらしい。
作戦を立てたほうにしてみれば、誰でもいいから隠密行動の適任者がさっさと行ってくれればいいのだが、言わば潜入班は今回の作戦の花形。
取り合い状態で中々落ち着かないらしい。
「ダイチ。初陣に出るか?」
突然レグルスが会話に参入し、じっと俺を見てくる。
彼の指先についたクリームをぽちがベロベロやってなければ、かなりシリアスな雰囲気であることは間違いないのだが、ぽち一匹のためにぶち壊しだった。
クリームを一心不乱になめるぽちが気になってチラチラ見ながら答えに詰まっていると(と言うかむしろぽちが気になって何を言われたのかよく分からなかったのだが…)アルヴィンが渋い表情で反論し始めた。
「ダイチさんを潜入班にするって事ですか!?それはいくらなんでも無茶でしょう!ダイチさんはまだ本当にこちらに来たばかりで右も左も分からないわけですし、それに魔導・・・あ、いえ、何でもありません。とにかく無茶すぎますよ!」
「だがどちらにせよいずれは簒奪へ行かねばならない。実戦経験は一度でも多く早いほうがいいだろう。」
「そうは言っても・・・潜入班は一番重要で失敗は許されないポジションですよ?ダイチさんはルーキーもいいところです。もしも失敗するようなことがあれば・・・私は賛成しかねます!」
ぽちから注意を放して二人の話を聞いていると、どうやら俺が潜入班に入るか入らないかで揉めているらしい。
しかもアルヴィンが微妙に俺の魔導器の話題を避けているあたり、なんか哀しい・・・
「だが、大賢者よ。ダイチを利用した作戦も十分立てられるはずだ。お前ら文人は少々頭が固くて保守的になりがちだ。それは改善すべきだろう。」
レグルスがアルヴィンを“大賢者”と呼び、言外にアルヴィンに冷静になるよう要求した。
「確かにそれは認めます。ダイチさんの特性を利用した作戦を立てられることも、頭が固くて保守的だということも。けれど国の存亡がかかってるんです。どうしても冒険する気になんてなれませんよ・・・」
アルヴィンが消沈したように言い、俺は思わず反論していた。
「冒険が嫌なら最初から異界人なんて呼ぶなよ!!究極の冒険しといていまさらしり込みか!?ちょっと順番が違うだろうが!」
俺の言葉を受けたアルヴィンは黙り込み、酷く辛そうな顔をしていた。
でもまぁ事実だし、あんまり良心は痛まない。
・・・あれ?なんか言っちゃってから気づいたのだが、俺ってばレグルスの援護射撃して自分で自分の首絞めてない?
「ダイチは初陣に異存はないようだ。あとはお前が決めろ、大賢者。ダイチのリスクを取るか可能性に賭けるか。お前次第だ。」
レグルスが言って、カップを持ち上げ静かに会話からの離脱の意思を示す。
ちょっと待て!俺は異存ありまくりだ!!
初陣ってなに!?もしかして敵地へ潜入すんの!?棒切れ持って!!?
頼むアルヴィン!!冷静な判断を下せ!俺は置いていくんだ!!!
俺の必死の祈りを知ってか知らずか、アルヴィンはしばらく真剣に悩んでいるようだった。
視界の端でぽちが今度は小さな木の実をシャリシャリ齧り始め、あまりにも緊張感が欠落したこの動物を指で追い立てて視界から消そうかと思ったが、レグルスが怖いので止めておく。
ぽち以外は非常に緊迫した空気の中、アルヴィンが深くため息をついた。
そして、すっと顔を上げて俺たちを見てから、最後の決断を宣告するために口を開いた。