03.最強の武器と地獄の教練
「以上が大体基本的なことで、次は種族の説明をしましょうか。」
「ちょっと待った。さっきから気になってたんだが、あのカッツェとかいうヤツはグルガ族なんだろ?で、グルガの国はこの隣りなんだろ?なんでこんなとこで廷臣やってんだよ?」
俺はアルヴィンを遮って、さっき説明を聞いてからずっと疑問に思っていたことを吐き出した。
いつまでも疑問を腹の中に溜めておけるような性分ではないし、なにより今聞かなければまず間違いなく二度と聞くチャンスは訪れないだろう。
かなりの確率でどうでもよくなって、そのまま忘れそうだし。
それにしても、当たり前なのだが何もかもが知っている世界とは違う。
このぶんだと、こっちのことを知るだけで大分時間がかかりそうだ。
アルヴィンは俺に説明を遮られたのを気にするふうもなく、説明を開始した。
「ああ、それはグルガの性質の問題ですね。ラドキアは一応グルガの国ということになっているんですが、元来彼らは守護を得る動物の性質を濃く受け継ぐため、群れて暮らすのを好まないところがあるんです。ですから、一族単位で集落を作って生活していたり、完全に孤立して個人で暮らしていたりします。政治なんて彼らには関係ないんですね。一応王政ですが、国の全体的で大まかな方針を決めるくらいのことしかしてらっしゃいません。
それに、グルガ自体が非常に数が少ないんです。国土こそ我が国と同じくらい広大ですが、そこに住む民は我が国の半分にも足りません。
そうは言っても、国の存亡が危ぶまれるような事態になれば、彼らは他のどの国の民よりもよくまとまり、力をあわせて危機を脱するので、いままで国は存続してきているのです。
もともと個人の戦闘能力が高い国ですから、今までほとんど負け知らずの強国ですよ。外交についてはかなりアバウトですが、危機に強いと言うか、なんせ6カ国中でもかなり異彩を放つ国ではありますね。」
「ふーん・・・。じゃあさ、政治に感心がないなら、統一主国家だっけ?それの王のナントカってのにも興味ないわけ?」
俺が再び疑問を口にすると、アルヴィンはちょっと困ったように眉根を寄せた。
「それがそうもいかないんですよ・・・。彼らが闘争を好むことは前に言いましたよね?で、その結果、彼らの中でも特に純粋に闘争を好む人々が参加してくるんです。もちろん彼らの王をファリアにしようだとか、この簒奪の本来の意味が主な目的ではなくて、どちらかというと各国の凄腕と腕試しがしたいというか、戦うことそれ自体が主な目的のようです。」
「・・・不純な動機で一番の強敵が参加してくるってことか。ついでにもう一つ聞いていいか?」
「ええ、どうぞ。」
「グルガは他所の王に仕えたりしちゃってもいいのか?」
「それは全く問題ありません。さっきも言った通り、彼らは超のつく個人主義者ですから、同胞がどこで何をしてようとあまり注意を払わないようです。さすがに故国の危機に戻らないということなら非難を受けるでしょうが、むしろ他国に出ている同胞と、それこそ今回みたいな機会に刃を交えるのを楽しみにしているようですらあります。」
「・・・へぇ。なんか平和主義者でハーモニストな俺としては、そういう人々と友達になれる気がしないんだけど・・・。意識のベクトルがアグレッシブなほうに一直線じゃねぇか。」
「ま、まぁ、他国の人と直接どうこうというのがあるのは、簒奪の最後のほうですから・・・。それにグルガは一度心を許した相手---友達や仲間は絶対に裏切りませんから、そう敬遠することもありませんよ」
「いや、そこまでたどり着く前にきっとあの世へ先に着くだろう。お前の語り口を聞いてる分には、多分トモダチってのは、死地を乗り越えた先にしかありえない。」
アルヴィンが今日一番のぎこちない作り笑いで場を誤魔化そうと必死になっているとき、俺たちが入って来たあのドアが再び外から開かれた。
そして、王の執務室だというのに、断りも入れずに一人の女が堂々とした足取りで入ってきた。
俺は驚いて入り口のほうを見やったが、他の者は慣れているらしく、アルヴィンは僅かに苦笑し、リズリアは入って来た女に目礼し、王はソファからぴょんと飛び降りると、女のほうへ屈託なく近づいた。
女は曇り空のような灰色の髪と、ルビーのように赤い目をしていた。
アルヴィンに習ったさっきの色の法則からいくと、灰色は職人で赤は攻撃性、もしくは力の象徴である。
灰色の髪は短く、服装は女とは思えないほど飾り気がなかった。
「わざわざ呼び寄せてすまなかったな、アームズメーカー。よく来てくれた。」
王が女をねぎらうと、女は灰色の短髪を掻き上げてにっと笑い、王の頭をくしゃくしゃと撫でた。
どうやらこの女が、さっきちらっと話題に上った“究極の武器職人”アームズメーカーであるらしかった。
「ふうん、このボウヤが異界からの来訪者かい。随分とまぁかわいいのを呼んだんだねぇ、大賢者?」
女は王から視線を上げて、俺を真っ直ぐに見つめながらハスキーな声で言った。外見から判断するに、俺よりちょっと上かそれくらいの女からボウヤなどと言われて色々複雑だったが、アルヴィンの表情が妙に硬かったので俺はとりあえず反撃を保留して様子を見ることにした。
「ええ・・・。これでも結構頑張ったんですよ。私たちとできるだけ似た生態系の異界の生き物を探すのはなかなか骨が折れるんです。しかも見つけ出した生き物が、私の召喚に必ず応じてくれるとも限りませんし。」
「そうかい。まぁアタシにゃどうでもいいことだけどね。ところであんた、ギルダの姿が見えないが、どうしたんだい?」
「え?あれなら部屋に置いてきました。別になくても城の中はそんなに危険じゃありませんし。あったところで魔術の触媒なりになったりもしませんし・・・」
「そりゃあそうさね。魔術師のくせに杖じゃなかったのは、長年やっててアンタが初めてだよ。」
「ほっといてくださいよ。私も結構気にしてるんですから・・・。ところでライルさんは?」
なにか話が別方向にズレはじめたが、俺はとにかく根気よく待つことにした。
アルヴィンが部屋に置いてきたと言った“ギルダ”という人(?)のことがちょっと引っかかったが、いま会話に割り込むよりは後で聞いたほうがいいだろう。
どうも俺は、こっちのことがまだよくわからなくて、一人で取り残されている気がする。
「ああ、あれなら魔導器の“もと”を運ばせてるとこさ。それにしても、今まで異界の者の魔導器を創ったアームズメーカーなんていやしないよ。まったく、こんな妙な仕事が転がり込むなんて、長生きはするもんだねぇ。」
言って女は、初めて俺をまともに見た。
燃えるようなルビーの瞳に真っ直ぐに見つめられると、カッツェとはまた違った迫力を感じる。
それでも俺はなんとか彼女から目をそらさなかった。
「ふうん。いい目をしてるじゃないか。こんな黒い目や髪なんて初めて見たけど、案外悪くないねぇ?さて、どうやら“もと”が届いたようだ。」
言って俺から目をそらしたアームズメーカーは、半身だけ振り返って開け放った扉のほうを見やった。
彼女の言った通り、そこにはちょうど、大きな木箱を抱えたさっきの騎士の姿が見えた。
彼は木箱を抱えた不自由な姿勢で精一杯礼をとると、王に断ってから執務室へと入って来た。そして、大きな木箱を慎重な手つきで俺たちの前に据えられた木製のテーブルへと降ろした。
「よしよし。もういいよ。あとはこっちでやるから。」
ねぎらいの言葉もなく箱の前からライルを追いたて、アームズメーカーが木箱を開け始める。
後ろではライルが苦笑いをして、王に一度礼をしてから再び出て行った。
「さて。このなかから好きなのを選びな。あんたのもう一つの“魂の器”だよ。」アームズメーカーが箱の中身を俺たちに晒し、好戦的とでも形容するしかない不敵な笑みを浮かべて言った。
俺は彼女の笑顔に一瞬我が身の行く末を案じたが、しかし今更遅すぎる。
そしておとなしく箱の中身を検分にかかった。
中に一杯に詰っていたのは、そこらの硝子球みたいなものだった。
テニスボールくらいの大きさで、丸くて透明で、どこからどう見てもガラス球にしか見えない。
しかもそれが、箱一杯詰っているのである。
選べと言われてもみんな同じにしか見えない。
俺は部屋の中にいる全員の視線が俺を注視しているのをひしひしと感じながら、しかしこんなガラス玉相手に特にもったいぶる気にもなれず、一番上にあった一つを無造作に手にとった。
触ってみた感じも、普通のガラス玉である。
「・・・あっさり決めるんだねぇ。それでいいのかい?」
アームズメーカーが俺の最終意思確認をしてくるが、別にどれでも一緒だろうと思い、深く考えもせずに頷くと、俺はそのガラス玉を彼女に手渡した。
彼女はしばらく手の中のガラス玉をころころと弄び、眺め回してから小さく頷いた。
「じゃあ始めようかい。立ちな。」
言われるまま俺が立ち上がると、彼女は俺のつま先から頭まで材料でも検分するように見回して、そしてガラス玉を胸の高さまで掲げ、意識を集中し始めた。俺はなにやら急に不安になり、横目でちらりとアルヴィンを見た。
彼の表情は真剣そのもので、ますます不安感が募る。
そもそも彼らと俺とは似たような生き物であることは確かだが、完全に同じ生き物ではない。
“彼らのやり方”が“異界から来た俺”に通用するのだろうか・・・?
・・・・かなり手遅れ風味だが、生きてここから帰れるのだろうか?
俺の不安や安否を気にする成分が空気中のどこにも見当たらないなか、着々と状況は進んでいた。
意識を集中させたアームズメーカーの身体に、刺青のような模様が浮き上がり始める。
始点はガラス球を乗せた手のひら。
そこから放射状に青く光る蔦のような模様が、蔦のように彼女の腕を這い上がり、青い模様は手の平、二の腕、鎖骨に首を経由して顔にまで達する。
そしてそれに呼応するように、彼女の掌中に収まったガラス玉が内側から白く輝き始めた。
神秘的な光景だったが、これから一体何をされるのか分からないこの状況では、悠長にそんなもんに見とれてもいられない。
俺の不安が最高潮に達し、アームズメーカーの体がくまなく刺青に覆われると彼女は閉じていた目を開けて真っ直ぐに俺を見た。
先ほどまでの状況を楽しむような色はもうなく、彼女の瞳は刃物のように鬼気を宿して真っ直ぐに俺を射抜いていた。
「いいかい?いくよ。」
言って俺の返事も待たず、彼女はガラス玉を俺の胸へと押し当てた。
瞬間、息が詰るような圧迫感を感じ、全身が硬直する。
後ろへ倒れそうだったが、それすらも許さないというように、身体はガチガチになっていた。
アームズメーカーの手や腕の刺青が青白い光を帯び、ガラス球はまるで白熱電球のような光を放つ。
そしてそれは、少しずつだが確実に、俺の中に侵入してきていた。
アームズメーカーが少しずつ俺へと腕を伸ばすにつれ、まるで沈むように、ガラス玉はその姿を消した。
同時に、金縛りのような硬直と圧迫感が消える。
アームズメーカーの手が俺から離れると、俺は糸が切れたように座り込んでしまった。
先ほどの金縛りの反動らしく、全身から力が抜ける。
「ふう・・・なんとか成功したみたいだね。正直ダメかと思ったよ。」
全てが終ってしまい、刺青が消えて元に戻ったアームズメーカーが今更のように怖いことを言う。
俺としては、ダメかなとか少しでも思った時点で止めて欲しかったが・・・。
「・・・それはそうと、なんか明らかに異物が俺の中に入っちゃいましたけど、あれは人体に無害なんでしょうね?」
ムダかな、とも思ったが、一応聞いてみた。
RPGの王道パターンが頭の隅にちらっと思い浮かんだのだ。
伝説の武器(最強の武器でも可)を手に入れるためには、命をかけて試練に挑む、というやつだ。
俺の場合、のっけから明らかに後手に回ってばかりだが、せめて自分の命が風前の灯火でない確信くらいは欲しい。
なんと言うか、今現在は突然余命が一週間だと宣告された患者の気分なのだ。
「・・・ま、アタシも異界の者の魔導器なんて初めてつくるんだし、そこはアンタの寛大な心を要求するわ。何事もチャレンジってね。」
「頼むから俺の命で宣告なしに勝手にチャレンジせんでくれっ!!世の中の誰より寛大でも命まではやれんわいっ!!」
「もう済んじまったことじゃないか。なんとかなりそうだし、そんなに心配するもんじゃないよ。じゃあ、しばらくたって魂の情報が器に蓄積された頃に取りに来るから、あんたはあのグルガの旦那とでも戦闘訓練してな。主人が戦えもしないんじゃ、魔導器がかわいそうだからね。」
アームズメーカーはにやりと笑ってからかうように言い、来た時と同じく飄々とした足取りで執務室から出て行ってしまった。
どうやら俺は、当分このまま腹に異物を抱えている羽目になるようだ。
アームズメーカーを見送った後、俺はアルヴィンに向き直り、視線で奴を詰問した。
俺の視線の意味を察した彼が、すぐに説明を始める。
「あ、えっと今のはですね、魔導器の“核”に魂の情報を蓄積させる作業で、一応これまでのところは我々と同じ反応しか出ていませんので、今すぐどうこうなることはないと思います。この後の予定としては、さっきの核を取り出して、アームズメーカーがその核に相応しい武器を鍛え、それに核をはめ込んで完成です。武器が剣なのか槍なのか、それとももっと違うものなのかは全て核が決めます。魂の情報というのは、つまり魔導器の設計図みたいなもので、アームズメーカーはその設計図に従って武器を鍛えます。だいたいご理解いただけましたか?」
俺は己の視線にありったけの非難の気持ちを込めたはずだったのだが、どうやら彼にはそれが通じなかったらしい。
よく分からん説明だったが、事前に聞くのと事後に聞くのとでは心理的なものが色々と違っただろう。
俺が彼にもきちんと直球で伝わるように、先に説明すらしなかった彼の落ち度を責めようと口を開きかけると、開きっぱなしだった部屋の扉口にカッツェがあらわれて、奇しくもアルヴィンを俺の非難から救った。
「こんなものしか見当たらなかったが、とりあえずこれに着替えろ。それと、さっきそこでアームズメーカーに会ってな。お前を鍛えろと言われた。」
俺のほうになにやら衣服と思しき布を放り投げながら、ため息混じりにカッツェが言う。
俺は飛んできた布の塊をキャッチして、それがよく見えるように広げながら、複雑な心境にため息を返した。
なんせ普通の高校生たるこの俺と、戦うことこそ人生!な戦闘種族が一緒に“戦闘訓練”なのである。なんかもう簒奪どうこう以前に、この辺りで重度の怪我のためリタイア(もしくは強制送還)に陥りそうだ。
オマケに彼が持って来てくれた服は、どう見ても俺には馴染みのないもので、果たして一人で着れるのかどうかすら怪しい。
俺のげんなりした表情を読み取ってか、アルヴィンがいち早く手伝いを申し出てくれた。
「お手伝いしますよ。どうやら服飾の文化も結構違うようですから。とりあえず、ここでは具合が悪いので私の部屋へ行きましょうか。――カッツェさん、用意が整い次第行きますから、中庭の教練場で待っていてください。」
カッツェは俺のほうを横目で一瞥してからうなずいた。
「ひとつ聞くが、戦闘経験はあるのか?」
一度出て行きかけ、戸口で振り返った彼は、ついで、というように言った。
俺の顔が、嫌でも引きつる。
「・・・おおいなる誤解っていうか、異文化間の隔たりがあるようだからあらかじめ言っておくが、俺んとこはまずまず平和なんだ。で、俺はそん中でも一等平和な国の生まれで。一応軍隊はもってるけど、防衛専門で国民皆兵制でもない。戦争なんてとんと縁がないし、他国と直接陸続きで国境を接してるってわけでもないからそういう小競り合いもない。・・・厳密に言うと領土問題とか、さっき言った軍隊の定義の問題とか、色々とあるんだけど、でもやっぱり戦争には発展しないし、平和ボケしてる、なんていわれてるような国なんだ。
もちろん、俺の世界全部がそんな風に平和なわけじゃない。今現在戦争してるところもあるし、内紛もテロも根絶には程遠い。けど、俺は目の前で誰かが殺されるところを見たことなんてないし、殺した事ももちろんない。
銃やナイフや、そんなのに触った事もない。それが、俺の国だ。俺はただの非力な学生で、自慢じゃないが陸上以外からっきしだ。陸上にしてみたところで、世界で一番速いわけでもない。ついでに言うと、ここで役に立つ自信もまったくない。・・・どうだ?のし付けて還したくなってきただろ?」
ちょっと自嘲気味に言ってやると、カッツェは呆れたような表情をなんとか引っ込めた。
そしてなんどか小さく頷き、これは骨が折れそうだと呟いてから執務室を去って行った。
「今の話は本当か!?」
カッツェの背中を見送ると、今度は背後からかん高い声が上がった。
振り向くと、真摯な表情の王が俺を見上げていた。
「嘘はつかないよ。最悪の人選だったって事をしっかり認識してもらいたいからな。」
そう言うと、王は大きく首を横にふった。
「そうではない!平和が続いているという事だ!一体どうすればそんなことができるのだ?史上最高の賢王と讃えられた先王の治世でも、どうしても国境付近は争い事が絶えなかったし、それに町から外にでるとまだまだ異貌の者どもがはびこっている・・・。私も、民たちに平和を享受させたいのだ。できることなら、詳しい話を聞かせてくれないか?」
少年の青い瞳は子供の面影を潜め、いまやすっかり王のそれへと変貌していた。
俺は何かを言おうとして、何を言っていいのか分からずに結局は開きかけた口を閉じた。
政治のシステムについてもたいして知っているわけではないし、王政のここと俺の国とでは色々なものが違いすぎる。
最初に民主主義から説明しなければどうにもならないが、はっきり言って、民主主義を分かり易く説明する自信もない。
「陛下、とにかく今は簒奪です。時間はあるとは言い難いですから…全てが終ってから・・・もしくは、少なくともカッツェさんとの訓練が終ってからでもよろしいのでは?もっとも、カッツェさんと訓練した後で、まだなにかできる力が残っていたら賞賛ものですけど・・・」
アルヴィンが俺と王の間に割って入ってくれたが、後半をもごもごと口の中で続け、俺としては聞き取れなかったその部分の内容が非常に気になった。
「・・・そうだな。私が悪かった。カッツェは厳しいが、耐えてくれ。それから、もしよかったら、もう少しそちらのことを教えて欲しい。」
王がうつむき加減に申し訳なさそうに誤ったので、俺は微妙に気の毒になって“訓練”とやらを耐え忍び(もしくは上手く生き残れれば)、さらにその後余力があるようならもう少し俺の世界について話すことを約束した。
民主主義の問題は、今は頭の隅に追いやっておこう。
王の執務室から出ると、アルヴィンは元来た道とは違う道を行き始めた。
俺はてっきりまたあの最初の部屋に戻ると思っていたので、少し面食らった。
「え、おい、あの最初の部屋に戻るんじゃないのか?」
「ん?ああ、ええ。あれは魔方陣を形成する時に、私の守護星の力を借りるのに一番都合がいい場所を選んで、異界の者を召喚するためだけに使っている部屋です。あのベッドは、いつも夜中まで缶詰なので、どうせならとカッツェさんがわざわざ持ってきてくださったんですよ。本当の居室はこっちにあるんです。そういえば最近こっちには来てませんねぇ・・・。」
「ふーん・・・。あんたも色々大変なんだな・・・。あ、そういえば、かなり今更なんだけど、あんたのこと呼び捨てにしてていいものなのかな?なんか大賢者とか呼ばれてたけど…」
俺のかなり今更なこの質問に、アルヴィンはおかしそうに笑った。
「構いませんよ、そんなこと。呼び捨てでも、カッツェさんみたいに“アル”と呼んでくださっても。私はダイチ様のことをなんとお呼びしましょう?救い主様?勇者様?それとも名前でお呼びしても構いませんか?」
「あ!その“様”ってのは全面的にカットで。なんか様付けで呼ばれると、体がムズガユイと言うか、なんとも形容し難い妙な気分になるから。あと勇者とか救い主とか、そんなご大層なもんでもないから、普通に大地でいいよ。」
俺がそう言うと、アルヴィンは再び笑って、ではダイチさんとお呼びしますね、と言った。
そして立ち止まると、綺麗な木製の飾り扉を示してここです、と言った。
王の執務室より一階上で、少し離れている感じがあるが、中庭に面しており、確かに殺風景な最初の部屋よりは居住に向いていそうだ。
アルヴィンが扉を開け、俺を招じ入れてくれた。
中は広々としており、―――下手をすると王の執務室よりも広いかもしれない―――家具調度の類は、大きくて寝心地がよさそうなベッドに、たくさん本が積まれた大きな机、ゆったりとした椅子が何脚か。飾り棚の上には、甘い芳香を放つ名も知らぬ花がたっぷりと生けられた花瓶も見える。
そして、両側の壁は大きな本棚で占められていた。
もちろん、ぎっしりと本がつまっている。
「すみませんね、散らかってまして・・・。メイドさんたちに掃除は頼んであるので、埃っぽくて敵わないということはないんですが、何分ひとに書類や本を片付けられると、何がどこにあるのか分からなくなってしまうもので・・・」
俺に椅子を勧めながら、アルヴィンが申し訳なさそうに笑った。
どちらかというと、俺もきちんとしすぎるよりはある程度とっ散らかっているほうが落ち着けるタイプなので、この部屋の雰囲気は堅苦しくなく、ありがたかった。
「それじゃあ着替えましょうか。」
アルヴィンに促され、とりあえず観念して着替えることにした。
制服のブレザーを脱いで、こちらの服に袖を通す。
最初にシャツを着て、それからよく分からない形状の上着を、アルヴィンに手伝ってもらって着る。
ボタンが無く、代わりにあちこちから紐が垂れており、構造を理解しないと手間取りそうだ。
そして、上からなにかの革でできたジャケットを羽織る。
別に寒くないのだが、ジャケットを着てみたところで、軽いし風通しもよく、そんなに分厚くもないしで、たいして不自由な思いもしなかった。
ポケットがたくさんついた、中世風カーゴパンツとでもいうしかないズボンに履き替え、靴も皮製のショートブーツに替える。
ベルトに妙な金具がついていたので、アルヴィンに聞いてみたところ、それは剣やなんかをぶら下げるのに使うとの事だった。
「うん、大丈夫そうですね。あとは鍛冶屋に依頼して、あなたの寸法で防具一式を作ってもらえば。」
こっち風になった俺を少し離れた位置から検分して、アルヴィンが満足そうに言った。
「防具って鎧とか兜とかそんなんの事だよな?」
やっぱり鎧も着けるのか・・・とは思いつつ、一応聞いてみる。
できれば重いものを着けたくないのだ。
なにせ、あまり身体が重いと逃げ足にも影響してくる。
「そうですね。一応戦争の代理行為に行くわけですから・・・。でも平気ですよ。そのドラゴン革のジャケットだけでも、結構な防御力がありますし、重いのが嫌なら揃いのドラゴン革で革鎧にすればいいだけですから。私みたいに、部分鎧だけで済ませるという手もあります。」
「え!?・・・俺の聞き違いじゃなければ、今ドラゴンとか言わなかったか?」
おもわず、自分が着ている革のジャケットを見下ろす。
確かに革にしては驚くほど軽く、動きを妨げるようなものでもない。
しかも、どうして!?と思うくらいに薄い。にわかには信じがたかった。
ファンタジー界の住人の皮を己の身に纏っているという実感も、イマイチ湧かない。
「そうです。ドラゴンですよ。防御力は他の追随を許さないダントツで、しかも軽くて伸縮も自在です。・・・ダイチさんの世界にもドラゴンはいるんですか?」
「いや、いない…けど、なぜかみんな知ってる。モンスターの大御所ってやつ。もしかして、これから行くその“簒奪”でドラゴンと戦ったり・・・とかするのか?」
「うーん・・・それは保障できませんね。いる時はいるし、運がよければ当たらない。その程度です。ま、カッツェさんがいれば大抵どうにかなると思いますが・・・おっと、あまりカッツェさんをお待たせしないほうがいいですね。さ、中庭の教練場へ降りましょうか。」
言ってアルヴィンが微笑んで、俺は地獄を予感した。
中庭は広大で、やはり案内人なしに迷い込んだら絶対泣く羽目になるだろうと思うほどだった。
木々が生い茂り、花が咲き乱れ、庭園と躊躇なく呼べるほど、手入れがきちんとなされている。
アルヴィンに先導されて歩いて行くと、突然美しいエデンの箱庭は途切れ、地面が剥き出しになった運動場のような場所に出た。
城の石壁を背にしており、広さも学校の運動場くらいのものである。
中庭を通らずに、城内からダイレクトにここまで来る道もあるらしく、石壁についた重そうな木の扉にもたれてカッツェが待っていた。
木戸の隣りには、城と同じ石でできた、小さな納屋か掘っ立て小屋のようなものが建っていた。
俺たちが彼に近づいて行くと、彼の方でもこっちに気付き、アルヴィンがしたように俺の姿を検分して肉食獣の笑みを浮かべた。
「とりあえずはそれで間に合いそうだな。・・・さて、その中に教練用の刃のたっていない武器が入っている。鍵は開いているから、好きなものを取れ。」
言われて俺は少し戸惑ったが、アルヴィンが重そうに小屋の木戸を押し開けてくれたので、とりあえずその中に入った。
石造りだというのに、内部は思ったほど暗くはなかった。
いくつか窓が設けられていたことと、どうやら人が入って来たのを感知するらしい、“魔法”としか呼びようがない明かりがすぐに白い光を放ったからだ。
しかしやはり石造りらしく、外と比べるとひんやりとして少し湿っぽい。
「どれでもお好きなのをどうぞ。カッツェさんが言ったように、どれも真剣ではないので、怪我をする心配もありません。本当は魔導器の形状が分かってから、それと同じ型の武器で訓練するほうがいいんですが、そんなのん気なことも言ってられませんので・・・。」
続いて入って来たアルヴィンに勧められ、俺は武器の選別にかかった。
はっきり言って、槍だろうが剣だろうが初めて持つことに変わりはないし、どれをもってもたいして変わらないことも事実だ。
触るのもまったく初めての武器を持って、百戦錬磨の老練な戦士と武術の訓練をするなど、ひよっこ戦士が爪楊枝持ってドラゴンに挑んで行くよりもまだ、無謀だと言えよう。
そういうわけで、魔導器の核のときと同じく、俺はたいして考えもせずに手近なロングソードを手に取った。
アルヴィンの研究室にあった謎のレプリカよりも少し刀身が短く、代わりに少し幅が広い。しかも、あのレプリカの剣よりもこちらのほうが遥かに軽い。
「それでいいですか?」
アルヴィンに背後から問われ、俺は振り向いて曖昧に頷いた。
別に何でも一緒、と言ってやりたかったが、なんとかこらえて小屋から出た。
外では、カッツェが両手から生えた鋼鉄の爪、彼のデヴァインに目の粗い布を巻きつけているところだった。
どうやらド初心者の俺のために、デヴァインの攻撃力をゼロに等しくしてくれていたようだ。
「決まったか。じゃあ始めるぞ。教えることは何もない。実戦で身につけるのみだ。」
布を皮ひもでがっちりと縛りながら、カッツェが笑みを見せる。
唇の端から鋭利な犬歯が見えて、俺の本能は無意識ながら、とりあえず逃げる算段を考え始めた。
「ちょ、ちょっといいか?」
地獄の時間を少しでも先延ばしにしようと、俺は口を開いた。
「なんだ?まさか剣を鞘から抜くのもどうすればいいか分からぬなどと言うのか?」
毒気を抜かれたように、カッツェの顔が情けない表情になる。
しかしこれで一端、処刑は先延ばしにできそうだ。
「あの・・・今更で悪いけど、アンタのことをなんて呼べばいい?アルヴィンは“カッツェさん”って呼んでるけど、それでいいのか?」
我ながらマヌケな質問。
けれど、緊張でガチガチの脳みそに、これ以上マトモな質問を考えろというほうが無理である。
カッツェは一瞬面食らったような表情を作り、それから答えた。
「レグルスとでもシェンとでもカッツェとでも、好きに呼べばいい。別に呼び捨てでも構わない。それとも師匠とでも呼ぶか?」
どうやら冗談らしいので、俺はなんとか笑みらしきものを浮かべる努力をした。
「じゃあ・・・レグルス?」
「ああ。私もお前をダイチと呼ばせてもらおう。遠慮をしながら他人と付き合うのは性に合わない。・・・さぁ、時間もないことだ、どこからでも打ち込んで来い。私はお前の弱いところを攻めて、その物騒なものの振り回し方を教えてやる。」
レグルスは再び肉食獣の笑みを浮かべ、俺と間合いを取って低く構えた。
急に空気が変わり、まるでネコが獲物の隙をうかがうような、圧迫感に似たものが感じられた。
彼の目は真っ直ぐに俺だけを注視しており、俺はできるだけ身体を動かさずに偽物の剣の鞘を払った。
そして、邪魔なだけだと判断して鞘を投げ捨てる。
低くて鈍いギンという音が一度だけして、それきり鞘のことは俺の頭から消え去った。
抜き放った剣を、剣道の型に構える。
正眼とかいう、身体の前に刀身を立てるような構え方だ。
と言っても剣道なんて体育の授業で少しやったくらいだし、しかも竹刀を振り回して遊んだ記憶しかない。
こんなことなら、もうちょっと真面目に授業を受けておくべきだった。
俺が場所も状況もわきまえずに後悔に沈んでいると、明らかに隙だらけに見えたらしく、レグルスが鋭く打ち込んできた。
ほとんど反射神経のみが働いて、剣で進路を防ぐように前に突き出す。
しかし、素人そのままのそんな動きなど意に介さず、レグルスは一撃のもとに俺の手から剣を弾き飛ばしていた。そしてもう一方の腰溜めにしたデヴァインを突き出してくる。
反射的に首を右にかしげて爪をかわすが、レグルスは引き手で正確に俺の頚動脈を撫ぜた。
もしも布がなければ、確実に致命傷を負っていただろう。
ざらついた粗い布と、その下の闘志を含んだ金属の感触に、俺の肌は粟立った。
「さあ!もう一回死んだぞ!!」
レグルスが厳しい声で俺を鼓舞したが、もうすでに、俺の中で次の行動は全会一致で決定していた。
レグルスが仕切りなおしに一端間合いを取ったのをいい事に、俺はすぐに身を翻した。
背後には、レグルスの僅かに戸惑う気配。
「敵に背を向けるのはご法度だぞ!相手の士気を上げてしまう!」
わざわざアドバイスを投げから、レグルスは再び間合いを詰めてきた。
まるで狩をする肉食獣さながらの鋭い気配。
俺は非常な努力でもって精神を統一して、それらを全て心の外へ追いやった。
そして、去年のことを思い出す。
県大会でのことだった。
隣りのレーンには高校に上がる前からのライバル、藤原健二の姿が見える。
審判の合図で、俺は体を屈めてクラウチングスタートの姿勢をとる。
身体の上を一陣の風。
多分、突然しゃがんだ俺に対応しきれなかったレグルスの一撃の残滓だ。
避けようと思って避けたのではないから、対応が難しかったのだろう。
突然の発砲音。
スタートの合図だ。
俺は記憶の中のその音に、反射的に駆け出していた。
今こそ、先ほど全会一致で可決された俺の逃げ足を異界の住人たちに披露する時だ。
全力で駆け始めた俺の横を、景色が凄い速さで流れ始める。
あっという間に教練場の赤茶けた地面は姿を消し、変わりに石畳が敷かれた庭園が現れる。
耳元で風が唸るのを聞きながら、緑の間を駆け抜ける。
一瞬で景色が後方へ消え去り、俺は目の前に城を囲う城壁を見た。
ちょっと待て。
なんか俺、あり得ない速さで走ってないか?
今までそれに気付かなかったのは、レグルスの恐怖と、どう考えても飛躍的に上がっている動体視力のせいらしかった。
第一、レグルスの最初の一撃から首をそらすこと自体、できるはずなどなかった。
俺は全力疾走から並足にペースを落として、漠然とした不安を感じながら考えた。
かなり手加減気味の並足に落とした今でも、風景は車に乗って5〜60キロ出した時と同じくらいの速度で動いている。
すぐに、眼前に城壁が迫ってきた。
石造りの高い城壁で、上の通路に番兵が立っているのが見える。
このままの速度で走っていたら、間もなく城壁へ達してしまうだろう。
止まろうとしたが、スピードに乗った身体は思いっきり滑っていき、なんとか両手をついてやっと止まることができた。
しかも、綺麗な白い石畳に、まるで車が急ブレーキをかけたような黒い跡が残っていた。
もちろん、それが途切れているのは俺の足元である。
俺は酷く疲れを感じて、その場にしゃがみ込んだ。
それも精神的な疲れで、肉体的には、あれだけ走ったにも関わらず、息も上がっていない。
摩擦で生じた熱が靴底の形を変えているのを見て、ますます気分が暗くなる。
この靴こそが、俺が人間じゃないスピードで突っ走った何よりの証拠なのだ。
10分ほど人生に疲れを覚えてから、俺はやっとの思いで立ち上がった。
精神的にはかなり行くところまで行ってしまっていたが、身体は元気そのものである。
そしてふらふらと、並足以下に落とした速度で再び教練場を目指した。
スピードを落としたのは現実を再認識するのが嫌だったのももちろん、突然消えた俺を探しに来たレグルスかアルヴィンを轢き殺さないための配慮だった。
車と違って動体視力の飛躍的に上がった、かつ機動力のある俺ならば、人を見つけた時点で衝突を回避する手段を講じることもできるだろう。
すぐに城壁は背後に消え、変わりに庭園が姿を現す。
そして遠くで俺を呼ばわる声が聞こえてきた。
俺は人身事故を起さないために、更に速度を落とした。
そして庭を突っ切り、教練場へ出た。
途中、庭園の木々の間に、ちらりと燃えるような赤を見た気がした。
今度はそう苦労せずに止まる事ができ、そして庭園のほうを振り返った。
あれは多分、レグルスの髪の赤だったのだろう。
丁度、俺に気付いたレグルスがアルヴィンと共に戻ってくるところだった。
「だ、ダイチさん、あなたそんな能力があったんですね・・・」
近くまで戻って来たアルヴィンが驚愕を通り越して呆けたような表情で、呟くように言った。
「いや、なんか俺、自分が人間だって事に自信がなくなってきた・・・。普通の人間は、あんな新幹線みたいな速度で突っ走ったりしないし・・・。むしろ韋駄天?やっぱ俺人間じゃない・・・?」
「という事は、あれはお前の世界でも普通ではないんだな?」
レグルスが、やはり信じられないものを見た、という顔で言う。
俺だって、自分がたった今やらかしたことが信じられない。
「当たり前じゃん・・・。あんな速度で走れたら、車も新幹線も要らないだろ?俺、もしかしてどっかの悪の組織に改造された改造人間だったのかな・・・?いや、でも向こうでは普通だったよな?」
「・・・もしかしたら、あなたの世界とこちらとでは何かが決定的に違っていて、そんな風に外見は変わらないものの、爆発的な力が備わるのかも知れません。」
混迷を続ける俺の考えに、腕を組んで考え込んだアルヴィンが光を投げ入れてくれた。
彼が脱出の糸口を与えてくれなければ、かなり本格的に改造人間説について考えてしまっただろう。
「つまり重力みたいなもんか?地球を1だとすれば月は・・・ってこんな事言っても分かんないのか。要するに、地球では運動は一定のエネルギーと引き換えに実現してるけど、宇宙に出ればエネルギーが消費されずに等速直線運動になるってことなんだよな?いや、この例えも分からんな。えーっと・・・」
「チキュウやツキやジュウリョクはよく分かりませんが、要するに異界からの来訪者へ、創造主が特別の配慮をしてくださったとでも考えておけば、混乱は少しは収まるでしょう」
俺の定義付けをアルヴィンが引き継いで、なんとか共通認識で統一してくれた。そもそもここが惑星であるかすら怪しいのに、宇宙の例えなど持ち出しても無意味だ。
「か、カミサマの贈り物、ね・・・。せめて他人を轢き殺す心配のない能力にして欲しかったと思うのは、俺の単なる贅沢なんだろうか・・・?あっ!!こんなことしてる場合じゃないな!」
俺が言葉尻で大声を上げると、二人が驚いたように身を引いた。
「どこか、かなり広くて、少々走っても簡単には他所の国に侵入しなくて、かつ滅多に・・・て言うか人が来る事が絶無な場所ってないか?できれば地平線まで障害物がないほうがより好ましい。」
俺がかなり無茶だと分かりつつの注文を出すと、アルヴィンとレグルスはお互いに顔を見合わせた。
「・・・そんな所へ行ってどうされるんですか?」
「そりゃもちろん、限界を知っておきたいんだよ。自分の身体のな。」
もしもなんらかの拍子にひどく混乱して、理性さんが逃亡してしまった時のために、己の身体に備わった破壊エネルギーの上限を知っておく事は、この身体の所有者として当然の務めだ。
と言う事はつまり、広くて人を轢く危険性のないところをひたすら走ってみるしかない。
なんとも悠長な話だが、地道な努力が一番確実だ。