彼女に対する俺の考え
家で唯一の女子の姿がいつもと違ってテレビに釘付けになっていた。
「どうしたの?」
「あ、いえ。仕事に戻ります」
俺の言葉に反応して少し彼女は慌てるように立ち上がる。
「いいよ。見てな。いつも任せてばっかりだし」
こんなに真剣にテレビを見ている彼女を見たことがなく、面白そうなものがみれるかもと許可をしてみた。
「では、お言葉に甘えて」
台所から見える彼女越しのテレビ画面には、三・四世代前の家庭用ロボットの供養と言うのが行われていた。
最近増えているらしいロボットの葬儀。昔はもっとニュースとして取り上げられていた気がする。色々な意見はあるものの家族としての機械は増えてきた。ペット、ハウスキーパー、介護諸々。人の生活に機械が浸透してきた。
「ねえ、あなたは、私が使えなくなったらどうしますか?」
呟く程度の言葉が彼女の方から聞こえてきた。
突然の彼女からの問いに驚いたが、テレビから動かなかった理由がわかった気がした。そして、その背中が寂しく見えた。
いつも楽しそうにしているあいつに似合わないような雰囲気だ。
「お前の希望を汲みたいと思うけど。もし言えないまま動けなくなったら葬式みたいにするかな?お前がわかるものは遺したいかな。遺骨みたいなものってこれってものもないし……」
何をいってるんだろう。
「頭部を残しますか?」
いつもの平らな口調で訪ねてくる。
不自然な単語とその平らな言葉が一瞬気持ちが悪くなる。
「生首は勘弁。基盤とかメモリの部品とかかな。そういうのを飾れるようにしたいな。お前を他の機械のドナーにさせたくないから。動かなくなっても手元にいてほしいよ」
「え?」
「お前自身を完全に失いたくないっかな」
「…………」
何か、勢いで臭いことをいってしまった。あー。忘れてほしい。
自分がいる台所からだから彼女の表情は見えない。どんな表情をしているのだろう。
「そろそろ時間だしいいか?」
「はい。失礼しました」
学校に行く準備のために彼女からの離れていった。
そうか、あいつも機械なんだもんな。下手すると人より短い間で動かなくなるかもしれないのか。そんな感じでいつもよりしっとりとした朝になった。
学校に行ってぼんやりとでも向かい合わないことなんだとずっと考えていた。
「ただいま」
玄関を開けるととても良い匂いがする。
彼女がもう夕食を作っているようだ。
「お帰りなさい」
いつものように彼女が台所に立っている。
「ご飯にしますか?」
「うん、そうする」
荷物を部屋に置くとテーブルの上に夕飯が並んでいた。
やっぱり、今朝のことが気になる。
「落ち着いた?」
「何がですか?」
「今朝のなんだけどずいぶん気になっていたみたいだから」
流れるように彼女が動いているのを見るとそんなに大きなことではないようだったみたいだ。
一日考えてた自分が、バカみたいだ。
「あぁ。そうですね。問題はないです」
「そっか」
彼女が作ってくれた夕飯に箸をつける。
「でも、今朝の言葉はうれしかったです」
いつも通り、平らな口調なのに少し声色が変わった気がした。
「っえ」
「私が要らなくなったとき、他の女に乗り移るのかと思っていました」
とても悪い言い方でなんか目が覚めたような、冷めてしまったというか。そんな感じになってしまった。
さて、飯を食べようかな。
女って。家事を基本としたいろいろとできるロボットでいいと思うんだけど。
ガイノイドにするかどうかなんてそんなのその時のあるものだからな。
こいつのご飯は本当においしい。
「本当に変なものにあなたを捕られないようにしたいんですよ。私が動いてる間は悪い虫一匹たりとも近づけさせません」
「なんか言った?」
「いえ、早く食べちゃってください」