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BL小説の世界に転生したら、主人公は自分の父でした。

作者: 桜

宜しくお願いします。

私には前世の記憶がある。





その事に気づいたときはまだ小さい時で最初は怖くて堪らなかった。

自分とは違う人格があり怖くて良く泣いていたのを救ってくれたのは私の両親だった。


何も言わずに泣く私を慰め抱きしめてくれた両親が私は大好きだった。



私が小学生にあがり前世の記憶も落ち着き今までの私に少しだけ大人な考えが生まれることで落ち着きを取り戻し、魘される事もなくなり平和に過ごしていたある日、母が亡くなった。飲酒運転の車が母に突っ込み即死だったそうだ。



病院で母を愛していた父は泣き喚き、私は静かに涙をながした。父が泣く姿を見たのは後にも先にもその時だけだった。しかし、通夜や葬儀が行われている時でも泣くのを必死で我慢している父をみて、私は母にはなれなくても少しでも父の支えになろうと決意した。



それから、数年。私は高校生になった。



仕事で忙しい父に代わり家のことは私がするようになった。父の負担を減らすために家から近くて特待生制度がある学校を受けて見事合格を貰い、父と一緒にささやかなお祝いをした。



その1年後。私は高校2年生になっていた。





「藤崎、卒業式にかかった費用の詳細はどこにある?」


「それでしたら、もう処理を済ませて先生の提出を済ませていますが。」


「そうか・・、スマナイ俺の仕事なのに。」


「会長は別の仕事がありますのでお気になさらないで下さい。」






「藤崎さん、野球部から講堂施設の許可書があったと思うんですが・・。」


「それでしたら、希望動機が不明だったので再度提出していただくように野球部主将へと戻しておきました。再度提出されたらまたご報告します。」


「ありがとうございます。」


「いえ、副会長はこちらの書類の確認をお願いします。」


「分かりました。」








「藤ちゃ~ん、この部活予算案の合計がどうしても合わないんだけど~なんでかなぁ~」


「あぁ、ここの弓道部の桁が一桁おかしいですね、あと、この科学部の予算が今年の予算より半減される予定のはずですが。」


「あ~そうか。あ、これなら合うかも~ありがとう藤ちゃん~」


「いえ、会計の仕事が大変ですからお気になさらないでください。」








「先輩・・。」


「この書類を確認すればよろしいですか?」


「(コクり)」


「分かりました、添削してお渡しします。急ぎますか?」


「明日・・。」


「では、今日中には仕上げて机に置いておきます。」


「・・・どうも。」


「いえ、書記の仕事はたくさんありますから、お役に立てるなら構いませんよ。」







「藤崎、L教室のマイクの修理いつ戻ってくる予定だ?」


「マイクの修理の他にスピーカーが少し音割れするのが気になったので一緒に修理に出しています。戻ってくるのは明日の予定ですが、急ぎですか?」


「いや、明後日の発表会で使うそうなんだが、明日なら大丈夫だ。」


「では、再度業者に確認しておきます。」


「スマンが頼む。」


「いえ、先生方が急に教室を変えることは良くありますから、先生が気にすることではありません。」





彼らはこの学校の人気生徒会の皆様で、会長を務める3年 海堂かいどう 貴明たかあき成績は常に3年トップ、運動神経は各運動部から助っ人を頼まれるほどの優秀さ、家は大手商業デパートなどを扱う海堂グループの御曹司でもある。カリスマ性に優れ、今でもグループ内の子会社を任されているとの噂もある。黒髪に目鼻のはっきりしたお顔はイケメンと呼ぶのも奢がまし位ほどの美形である。



その海堂会長の右腕的なポジションは副会長の3年 新谷しんたに 雅史まさし成績は海堂会長が主席を譲らないので次席だが、3位との差は20点以上あると聞く。読書家で読んだ本の数は1万冊を超えるという噂もあるほどの読書家だ。国一番の病院の御子息で10ヵ国語をマスターしているという。少し色素の薄い茶に近い髪にメガネをかけており、小顔の中性的な美人である。一度女に間違うと冷たい眼差しで睨みつけられた挙句、凍たように動けなくなると聞く。



会計を担当するのは2年の吉祥寺きちじょうじ 奏多かなた成績は30番内に入り、スポーツも万能、明るくクラスの人気者で女性の人気は凄まじい。赤い髪にピアスも何個かついていることでチャラいイメージもあるが、本人は恋人がいる間は絶対に女と二人で会わない!ときちんとケジメはつけているそうだ。身長も高く女子にも男子しも人気があるムードーメーカー的な存在だ。彼は海外でも人気の有名デザイナーの息子で彼自身もオシャレは好きらしく、彼自身もモデルをしていたりする。



書記のかえで 翔陽しょうようは1年生で無口な子である。成績は学年5位以内に必ず名前があり、元々は将軍御用達の忍者の末裔らしく、今でも武術においては楓家は名門らしい。本人は100年に一人の逸材らしく、門下生への指南役をしており、名門な家柄の人たちも彼の指南を受けたいと予約が殺到しているという。黒髪に体は小柄だがその分瞬発力もあり、無表情であるが強い男に憧れる男子に絶大な人気を得ている。彼もイケメンだが無口で無愛想なところがたまに傷である。



最後に水嶋みずしま 理央りお生徒会の顧問であり英語教師である。フランス人とのクオーターらしく金髪に長身という見た目王子様的美形である。だが、口が少々悪く少しだけ横暴さがあるため、女生徒には人気はあるが、告白したものならスッパリと断られ泣く女生徒が年々増加しているらしい。彼もいいとこボンボンで世界的有名な大手玩具メーカーの御曹司でなぜ高校教師をしているのかは一切の不明である。



この学校は国中の御曹司、ご令嬢が集まるほどの有名私立学校で幼等部、小等部、中等部、高等部があるマンモス校だ。県外からの生徒もいるので中等部からは寮も完備されている。


その中でも一際人気がある生徒が生徒会へと入っており、生徒会はこの学校の華であり誇

りだそうだ。





しかし、私が高校入学し半年が過ぎた頃に思い出した前世の記憶にはとても残念なお知らせがあった。


この世界がBL小説の世界であるということだ。




前世では所謂オタクで腐女子というものだった私。漫画も好きだったが、BL小説ではご飯が3杯いけるほどの熱中ぶりだった。

しかし、大人になり異性との結婚もし、幸せな家庭に入るにつれてBL小説も読まなくなった。旦那に隠れて読むのも大変だったので面倒になったのもあるが。

たくさんのBL小説を読んだ中で一際嵌った小説があった。それが『禁断の世界。娘の学校関係者との恋。』という背徳感満載の小説だった。



主人公はある大人の男性だった。普通に結婚し子供もいるような男性が妻を亡くし娘と強く生きていこうと決めていた生活が一変したのだ。娘の先輩、同級生、後輩、担任などの男性にアプローチをかけられ同性との恋。そして、娘との関係に悩みつつも禁断の恋をしていくのだ。




現実ではありえない設定に加え人気イラストレーターの挿絵の綺麗さに私は嵌まりこんだのだ。



お分かり頂けただろうか?主人公は私の父だ。



私の父は優しくそれはもう年を感じさせないほどの美形だ。再婚話も周りから進められているが母を愛しているからと断り続けている父がBL小説の主人公・・・。


再婚だって父を取られるような気がして淋しいが、それでも父がどうしてもと言うなら応援するつもりだった。再婚するなら一人暮らしをしてもいいし、迷惑かけないように一人で生きてもいいとも思っていた。だが、なぜ男・・・。


男に、しかも、私と年がそんなに変わらない同級生などになぜ父をあげなくてはいけないのか!!男でも年上で包容力があって父を任せられる美形ならまだしも、なぜ高校生や新任の教師なんだ!!!ありえないだろう!?



私は徹底的に邪魔することにした。彼らとはなるべく関わらないようにするつもりだった。それなのになぜ私が攻略対象者ばかりの生徒会に居るのか・・。






あれは去年の入学式の日のことだ。入学式で新入生挨拶を済ませて教室に入ればまず同じクラスだった吉祥寺に話しかけられた。最初は攻略対象者の一人とは気づかず、外部から特待生として入学し新入生代表を務めた私が珍しかったのか色々と親切に学校のことを教えてもらい、あれよあれよと友人になった。


そこまでは良かったのだ。


だが、1年の時から生徒会に入っている吉祥寺は会計の仕事と高校生活の勉強と最近始めたモデルの仕事に頭を抱えていた。やるべきことが多すぎるのだ。会計の仕事もあるし学校の課題もある。モデルの仕事はドンドン増えていき寝る間も惜しんでいる状態だった。なので、眠たくなって授業中寝ることが増え課題が増えるという悪循環に苛まれていた。


なんだか哀れになった私は、気まぐれに手を差し伸べてしまった。


会計の仕事を代わりに片付けてやり、課題も短期集中で教えてやり、寝る時間を確保した。モデル業がない日はぐっすりと寝て学校に来てからまた勉強をしながら課題を終わらせる。会計の仕事は勉強を教えながら合間に私が片付ける。


そんなことを繰り返していれば、吉祥寺と一緒に生徒会に呼ばれたのだ。





「なんのご要件でしょうか?」


「お前が藤崎ふじさき 真琴まことか。」


「あなたが、奏多の代わりに生徒会の仕事をしていると聞いたものですから。」


生徒会室に通され目の前の生徒会長と副会長、そして、吉祥寺が並んだ瞬間に、この世界がBL小説の世界であることを思い出し、色々と世話を焼いてしまった吉祥寺を始め目の前の会長も副会長も父に恋をする予定の一人だということに気がついたのだ。


その事に唖然としながらもなんとか平静を装いながらもさっさと帰ることを決意し、話を進めることにした


「別に他意はないです。ただ目の前でグズグズと泣き言言われて面倒だと思っただけですから。別に生徒会の書類を手伝ったことに関しては誰かに口外したこともありませんし、するつもりもありません。しかし、勝手に手伝ったことは軽率でした。もう二度と手伝いませんのでご容赦ください。」


頭を下げて言い逃げしようと思えば吉祥寺に泣きつかれた。


「待って!!藤ちゃん!!お願い見捨てないで!!」


腕を掴まれたので前に進めない。セクハラだぞこれは。先程までは友人と思えていたが父に惚れるのならば彼は今から敵だ。


「離してください。生徒会の仕事には一般生徒には内密にしなければいけないものもありますし、私がもし私情を挟んだら生徒会の信用にも関わります。会計の仕事と勉強、モデルと色々するのは構いませんが、自分の許容量も理解してください。生徒会にしてもモデルにしても安請け合いしすぎです。自分で処理できないなら、辞めるなり仕事量を減らしてもらうなりちゃんと自分で調整しなさい。メンドくさい。」


私の言葉に吉祥寺は項垂れながらも腕を離してくれない。反省するなら一人でしろ。私を解放するんだ。


「クックック。お前面白いな。」


そんな中で笑っているのは生徒会長だ。


「そうですね、奏多は自分の能力を過信しすぎです。」


「・・スミマセン。」


副会長の言葉に吉祥寺は項垂れながらも謝る。


「藤崎コイツが迷惑をかけたな。」


「いえ、今後は解放されるんです。いい経験をさせて頂いたと思います。」


「そうか・・。お前が作る書類は見事なものだった。正確さもだが見やすくて、とても勉強になった。」


「・・そうですか。」


「流石、我が校の特待生で学年主席と言うところか?」


なんだか嫌な予感がするのは私の気のせいだろうか?


「先ほどお前が言ったように奏多には補佐をつけようと思う。こいつがモデルをするのは家のこともあるしな、辞めることは出来ない。かと言って生徒会を辞めてもらうわけにもいかない。なので奏太の仕事を補佐する人間をつくろうと思う。」


「そうですか、頑張ってください。では、私はこれで。」


嫌な予感しかしない。吉祥寺の手を無理やり剥がし生徒会室の扉に手をかける。


「藤崎真琴。お前を生徒会雑務に任命する。」


「お断りします。」


生徒会長の言葉を即座に拒否し扉を開けると、目の前にはうちのクラスの担任であり、父に恋する予定の一人でもある水嶋先生が立っていた。


「あれ?藤崎?」


水嶋先生は私が生徒会室にいることに驚いているが、それを説明する時間さえ惜しい。


「先生。彼女が生徒会の雑務を引き受けてくれる藤崎さんです。」


副会長は意地悪い笑みをしつつも笑顔で嘘を言い放つ。


「藤崎はしっかり者で優秀だからこれで安心だな。俺はほかの先生方に報告しとくから来週の学校集会で一般生徒へのお披露目だな。」


先生も嬉しそうにそう言うとさっさと生徒会室を出て行ってしまった。


「待ってください!先生!?」


出て行った先生を追い誤解を解こうとするが腰に回った腕によって阻まれる。


「藤ちゃん!!一緒に頑張ろうね!!」


悪びれもなく笑顔でいう吉祥寺に廻し蹴りを食らわし正座させつつ説教をした私は悪くない。








その後嫌がる私を無理やり生徒会に引き込み、放課後は会長か副会長か吉祥寺が必ず私を生徒会室まで連行する。一人で行くと言っても逃げるだろうと言って聞き入れることはない。それから1年が経ち新入生が入ってきてその中に無口で無愛想な新人が入ってきた。彼も父に恋する一人だと気づき関わらないようにしたいが生徒会の書記に任命されたので最低限は関わることとなる。


「はぁ・・。」


父を守りたいと言いながらも生徒会に入ってしまい、なぜか仕事が終わり次第みんなが家まで送ってくれるので、父との出会いイベントが終わってしまっていた。その後も送ってくれなくてもいいと言っても聞かないメンバーに押し切られ、結局父との交流を持たせてしまっている私は大馬鹿だ。


自分の不甲斐なさにため息を吐くと、なぜか視線を感じた。


周りを見ればなぜか全員の視線がこちらに向いていた。



「なにか?」


「いや、藤崎がため息なんて珍しいからな・・。」


「藤崎さんなにかあったんですか?」


「大丈夫~?藤ちゃん元気ないの?」


「・・平気?」


「なにかあるなら力になるぞ。」



会長、副会長、会計、書記、顧問に心配されつつも『あなた達が父に惚れないかどうかが心配だ。』なんか言えない。



「なんでもないです。スイマセン。」



ひとまず片付けないことには家に帰ることも出来ない。早めに終われば送ってくれなくても大丈夫だと言い張れるだろう。今日こそ一人で帰ろうと目の前の仕事を片付けることに専念する。


その後、頑張って仕事を終わらせたが、急な仕事が入り結局いつも通りの時間になってしまった。


一人で帰ると言い張っても結局みんな聞いてくれないので歩いて家まで帰る私の後をついてくる。




「本当に一人で大丈夫ですよ?まだ18時半ですし。皆さんお迎えの車が来るんでしょ?」


「大丈夫だ。連絡をしたら藤崎の家に迎えに来るように言ってある。ほかの奴らも今日はうちの車で帰ることになっているから平気だ。」


会長の言葉にもう諦めのため息しか出ない。生徒ならまだしもなんで先生まで・・。仕事はどうした、仕事は・・・。


「・・今日もスーパーには寄りますからね。」


スーパーに寄るのを口実に断ってみたが、なぜか庶民のスーパーに興味津々で着いてきた。荷物を持ってくれるし個数制限があるのは助かるがとにかく目立つ。値引きシールを貼るオバさんなんてイケメンに笑顔を向けられるだけでシールを張ってくれるので家計は助かっているが、周りの目が痛すぎる。




スーパーに寄って家に帰ると仕事が終わった父と出会った。



「おかえり真琴、あ、皆さんも真琴を送ってくださってありがとうございます。」


お父さんに駆け寄りことで忘れていた存在に気づき、またお父さんとの交流をさせてしまったと後悔する。


「こんばんは、藤崎さん。こんな時間まで娘さんをお借りして申し訳ありません。」


先生の言葉にみんな軽く会釈をする。


「いえ、構いませんよ。あ、よかったら家でご飯でも食べて行きませんか?今日は鍋だと真琴が言っていたので。」


お父さんの言葉に私はフリーズする。


「では、ご迷惑でなければ」


会長は上がる気満々のようで、みんなを見ても食べていくようだ。

父が言い出したことなので私が止めることも出来ずに、結局7人で鍋をつつく事になった。


彼らが家に上がるのは初めてではない。今日のように父が早く帰宅した際に送ってもらった皆さんを父がお茶に誘ったのだ。家がお金持ちの皆様にとっては我が家はとても狭いのだろうが文句を言うことなく父とのんびり話していた。


なので、みんなをリビングで待ってもらうようにいい。お茶の準備をしながら服を着替えに自室に戻る。


お茶を入れるだけなら制服でもいいが、キッチンに立つ時に制服では居たくない。簡単に動きやすい短パンにラフなTシャツを来て、髪をまとめてキッチンに戻る。お茶を入れつつも昨日作ったクッキーをお茶請けに準備していると会長がキッチンに入ってきた。




「なにか手伝うか?」


「ではこれを運んでいただけますか?お茶請けは昨日作ったクッキーで申し訳ないのですが、すぐに夕飯の支度をしますので。」


「あぁ・・お前が作ったのか?」


「クッキーですか?はい、でも口に合わないかもしないのでやっぱり下げましょうか。」


「いや、食う。それにしても・・お前のその格好は・・。」


「家では普通ですが・・変ですか?」


「そうではないが・・目のやり場に困る・・。」


「え?なにかいいました?」


「なんでもない。これは持っていく。」


「?お願いします。」




最後になんかブツブツ言った言葉を聞き取ることは出来なかったが、まぁいいと思い鍋の準備を進める。



父と二人では小さな鍋でいいが、7人もいると大きい鍋を出さなくてはいけない。



「上の棚の奥に仕舞ったはず。」



椅子の上に乗り棚を開けると10人前の鍋があり、それを取ろうと背伸びをする。


「おい、何やってんだ!?」


今度キッチンに入ってきたのは先生で私がイスに乗って背伸びをしていることに驚いているのかすぐに体を支えてくれた。



「あの棚の奥に大きな鍋があるので取ろうかと。」


「そういう時は呼べよ」


「お話の邪魔しちゃいけないので。」



せっかくの父とのラブトークを邪魔されたら困るでしょ?と嫌味を込めて言っても先生は首を傾げるだけだった。



「まぁいい、あの鍋をとればいんだな?お前は椅子を支えとけ。」



そう言いながら先生は私を抱き抱え椅子から降ろし、代わりに椅子にあがり棚の奥にある鍋を取ってくれた。



「ありがとうございます。」


「結構危なっかしんだな、今度からはちゃんと呼べよ?」


「はい、さっきは支えてくださってありがとうございます。」


「いや、ある意味役得だったからな。」


「??」



意味がわからない言葉に首を傾げると先生は笑みを深くし頭を撫でてキッチンを後にした。




その後、副会長がキッチンに来たのでカセットコンロを準備してもらい、会計が来たのでお茶と器、箸などを準備してもらい、書記が来たのでご飯がいる人はその人の分を継いでもらい、ある程度はガスコンロで作った鍋をカセットコンロがあるリビングに運ぼうとした時に、父が代わってくれた。




「「「「「いただきます」」」」」




皆が食べる姿を見ながら口に合った様子にホッとしながら無くなった食材を足していく。

一応鍋以外にも作った一品料理を出しながら、和やかに夕食は過ぎていった。


片付けを手伝うという皆を残し、一人キッチンに戻り洗い物をしていく。



やっぱりみんながいると父は楽しそうだ。今のところ誰かに恋をしている雰囲気はないし、それは皆にも言えることだけど、本当にまだ恋になってないのか、それとも隠しているかは分からない。


ここ最近よく思うのは、邪魔するのは父の幸せの邪魔になるのではないかということだ。母を亡くし、私を育ててくれた父には幸せになって欲しい。その相手が年下で私の関係者だとしても、父を幸せに出来るのならそれでもいいのかもしれない。


あの小説のラストは誰かと両思いになってイチャコラするだけで、将来のことは書かれていない。


誰と両思いになるかは珍しくも選択式だった。全メンバーでアンケートを取って最後に両思いになるはずだったが、全員分のラストを書いて欲しいという要望が一番多く、結局全員分とのハッピーエンドを書き上げた原作者をあの時は神だと思った。



現実でも恋をする全員は名家と言える程の家柄で、跡取りだったりする。各家からすれば男で庶民なんか受け入れられないだろう。小説ではそこまで書かれていなくても、現実ではハッピーエンドの先ももちろんあって、家の反対や圧力だって必ずあるだろう。それでもいいと父が選んだら?苦難の道でもいいと父がそこまで惚れ込んだ人ならきっと私は反対できない。



面倒な家庭環境な人でも、同性でも、年齢差が合ったとしても父には好きな人と一緒に幸せになって欲しい・・。




「好きな人か・・。」




ポツリと呟いた言葉になぜかリビングで大きな音がした。


「え?どうかしたの??」


慌ててリビングに行くとテーブルにお茶とお菓子の容器が転がっており唖然とした顔の皆が私を凝視していた。


「布巾持ってきますね。」


固まる皆の間に入りテーブルを片付けていく。お菓子の容器にはなにも入っていなかったので、空の容器と倒れているコップを片付けテーブルを拭いていると、隣にいた父に両肩を掴まれて真剣な顔をされた。


「真琴・・好きな人がいるのか・・。」


父の言葉になにを言われているのか分からず周りを見渡せばなぜか皆此方を睨みつけるように凝視している。


「一体何の話?」


「正直に答えてくれ。真琴、好きな人がいるのか?」


父の剣幕に呆れながらも大きくため息を吐くと父の手がピクリと震えた。


「いませんよ、好きな人なんて。」


「本当か?お父さんに気を使っているんじゃないのか?」


「本当にいませんよ。お父さんに気を使っているわけでもないです。」


「・・本当に?」


「しつこいですよ。本当にいませんし、初恋すらまだです。」


もう父の質問に面倒になりどうでもいいことまで答えてしまった。


「そっか・・真琴はまだお父さんのものだな!!」


「はいはい、そうですね。」


面倒なので投げやりに返事をしながらテーブルの片付けを再開する。


その後お茶を入れ直そうとするが、皆さんが帰るというので、お見送りをする。




「では皆さんまた明日学校で。」




会長の家の車がお迎えに来たので外まで父とお見送りにきた。


「あ、真琴リビングに忘れ物がないか見てくてくれる?」


「??分かりました。」


このタイミングで?と思ったが有っても困るので一度家に戻る。リビングを見渡して忘れ物がないことを確認して外に戻ると、父はなぜか嬉しそうで、皆はなぜか顔色が悪かった。


「皆さん顔色悪いですよ?お腹でも痛いですか?」


庶民の料理はみなさんのお腹には合わなかったのではないかと不安になる。


「いや、少し寒気がしただけだ・・。」


会長の言葉に皆は青褪めたままで、風邪でも引いたのかと少し心配になる。


「では、今日はゆっくりと寝てくださいね。風邪の引きはじめかもしれませんし。」


「あぁ、分かった。」


「今日は、ごちそうさまでした。」


「藤ちゃん、また明日ね~」


「・・美味しかった。」


「また明日学校でな。」


会長、副会長、会計、書記、顧問は一言づつ言って車に乗り込んでいった。


「大丈夫でしょうか?」


「平気だよきっと。さてお風呂入って真琴も暖かくして寝るんだよ」


父の言葉に頷きながら家に入っていく。









「大事な娘を生半可な奴に渡すわけねーだろーが、ガキが。」



「??お父さんなにか言った?」


「ん~ん、なんでもない~、真琴お茶入れて~」


「はい。」


父の言葉に素直に返事しお風呂の準備をしつつお茶を入れてあげる準備も済ますのであった。



父には幸せになって欲しいけど、まだまだ、父はあげないんだから!!














真琴が家に忘れ物がないかをチェックしている間の会話






父「真琴に変な虫はついていねぇーだろうな。」


顧問「勿論です、お義父さん。」


父「てめぇにお義父さん呼ばわりして欲しくねぇよ。」


会計「藤ちゃんの周りには俺らがいるから心配ないよ~」


父「てめぇらすら俺は側にいて欲しくねぇがな。」


副会長「しかし、私たちが側にいれば藤崎さんに近づこうとする輩など現れませんよ。」


父「チィッ、ちゃんとガードしろよ。」


会長「勿論です。」


父「学校では仕方がなくてめぇらが真琴に近づくことを許してやるが、真琴を下の名前で呼んだり、無駄に連絡しようとしたり、仕事を言い訳に二人で出かけたりしたら、てめぇらの家のセキュリティぶっ壊してパソコンの全データ消えるウイルス送りつけるからな。もちろん治すのは不可能だ。治そうもんなら他のパソコンもぶっ壊れるウイルスにしてやるからな。」


父のあくどい笑みに青褪める皆でした。




父→ BL小説の主人公だが現実では娘ラブの親バカ。娘の前では優しいいいパパでいるが本当は腹黒。娘のためなら犯罪も厭わない(但し証拠は100%残さない)パソコンが得意で天才的。SEの仕事をしている。社内では『鬼の藤崎』と上司にも部下にも恐れられている。娘の写真を仕事机に飾っており、他の社員が娘を紹介して欲しいと言われるとブチギレる。

本当は女子高に通って欲しかったが家から近いほうがいいからと娘に説得されて共学の学校に通うことを許している。学校での生活が気になり、真琴を送ってきた生徒会のメンバーを集め、護衛、報告させている。



生徒会メンバー→ 一応父公認の護衛として側にいることを許されてる。真琴に恋愛感情を抱いているがなかなか気づいてもらえない不憫な人たち。なんとか親密になろうものなら真琴の父から電話がありブチギレられる。とても残念なイケメン達。



藤崎真琴→ 本編主人公。転生者。成績優秀でいつも学年トップの特待生。ファザコンで父を大事にしている。スポーツは苦手だが、基本お人好しなので人望がある。たまに毒を吐く。美形の両親から生まれたのでもちろん美人ではあるが、本人は父の恋愛が気になりそれどころではない。父に知らないあいだに邪魔されており、いまだに初恋なし。

父は優しくて美形で非の打ち所がないと本気で思っている。生徒会から好意を持たれていても、父に恋していると思っているので、自分に向けたものではないと思ってる。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 面白いし長編にして欲しい
[一言] 面白かったです!なので連載して欲しいです! 父LOVEで終わっても面白い気がww
[気になる点] 誤字らしきものが。 >真琴が家に忘れ物がないかをチャックしている間の会話 ”チェック”かなぁとw [一言] 面白かったです! あまりない設定で、短編でサクサク読めたのもよかったです。…
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