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若き元社長の、創造能力。  作者: 大岸 みのる
第一章:二部・若き元社長の、迷宮。
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若き元社長の、迷宮。5


「あ、アジルって……」

『知っているんですか?』

「知ってるも何も……」


 フフィは全身を震わせ、何かを思い出したかのように、足をもつれさせて転ぶ。


「どうしたんだい」

「……わ、私は大地さんに謝らなきゃいけないんです」


 震えた声でフフィは大地に頭を下げた。

 怪訝に思ったハーバンと大地は、フフィが落ち着くのを待った。

 やがて、フフィは深呼吸をして、話を始めた。


 昨夜、大地と喧嘩したフフィは、薬草を纏めてとある人物に売りに行こうと準備をしていた。

 喧嘩をしていた理由は、己の恩人をバカにされたからだ。フフィは大地を追い出してしまった負い目と、恩人を悪人呼ばわりする大地への怒りを半々に感じていた。

 大地が去ってから一時間くらいした頃、フフィの恩人が夜分遅くにやってきた。

 翌日、薬草を渡そうと思っていたフフィはタイミングが良いと思い、薬草を詰めた袋を手渡した。

 その恩人は、全身を豪華なドレスに包み、上品な言葉を使う女性だ。

 何故、このタイミングで家に来たのか不思議に思ったフフィは遂に聞いてしまったのだ。


 私を監視なんかしてないですよね、と。


 彼女は、監視などしていない、と告げた。その後は薬草の入った袋を持ち帰ったのだが、いざ睡眠を摂ろうとした時。フフィは何者かに袋詰めにされた。

 その人物は無論、アジルであったという。

 袋の中には、眠くなるような魔法が仕掛けられており、そのまま眠ってしまったようだ。

 いざ、目を覚ますと、ここにいたようだ。


 よほど袋詰めにされたのが怖かったのか、フフィは肩を震わせていた。

 大地は少なからず、フフィに対して大人気(おとなげ)ない行為をしてしまった事に関して、反省した。


『つまるところ、フフィさん。あなたはアジルさんに誘拐された、と』

「……はい」

「それは断定できるのかな、昨日は君の恩人を責めたが、ハッキリと本人だという証拠はあるのかな」


 フフィは耳をしょんぼりと、しならせて言った。


「はい、アジルさんと同じ声をしていました。それに、腕についているアクセサリーも、暗闇でしたけど、見えたんです」

「そうか。物的証拠はないけれど、君の証言を信じてくれ、そう言っているんだね」

「はい」


 大地はやはり、と考えていた。

 アジルという依頼人が黒幕であり、フフィの恩人だというのは繋がった。さらに、昨晩大地が口にした事は、事実だったというわけでもある。

 しかし、気になるのは、暗殺ギルドの依頼を受けたバジリーナ団長自らがフフィを誘拐したわけではない、という事だ。

 上品な言葉を使うような人間、ましてや金持ちの悪人ならば己の手が汚れることは避けたい筈だ。

 しかし、アジルとやらは自分でフフィを誘拐した。普通ならば、暗殺ギルドに依頼しても良い筈だろう。

 仕事内容が少し変わっているのか、それとも……。


「大地さん、昨晩は本当にすいませんでした。大地さんの言うことを信じていれば……」


 思考を停止し、大地はフフィに向き直る。

 自分の世界に入っていた為、少し驚いたが、すぐにいつものような笑顔を作る。


「いや、こればっかりは仕方ないさ。俺もよく考えれば、助けた人間に恩人をバカにされたら、怒っていたと思うしね」

「……でも、あそこで呼び止めていれば……」

「呼び止められても、俺は君にお世話になるのは悪いと思っていたから、多分家を出てたと思うよ」

「そうですか……」


 フフィの耳と尻尾が更に垂れた。

 落ち込んでいるのが大地にはすぐに分かった。分かり易いな、と感じていた。

 励ますわけではないが、大地はフフィの頭を撫でる。


「でも、君は災難だったかもしれないけれど、俺と君はもう一度巡り会えたんだ。そこは感謝しようよ、そのアジルとやらに」

「ふぇ!?」


 急に耳と尻尾が覇気を取り戻し、ピョコピョコと動いている。

 顔を見ると、茹でタコのように赤くなっていた。


 ――これは初めて見るフフィだな。


 もじもじと指を動かすフフィは呟いた。


「え、えっと、そ、それはその……」

「ん、君と俺は運命で結ばれてるのかもしれないね」

「ひぇ!?」

「んー、例えるなら、腐れ縁的なものかな」


 その瞬間、赤くなっていた筈のフフィだったが、すぐに真顔に戻った。

 熱があったような顔色だったのに、今は極寒の地にでもいるかのように冷めている。

 本当に表情がコロコロ変わるんだな、と大地は思っていた。


「……大地さんって残念ですよね」

「残念って言うけど、これでも俺は最高峰の人間だと思うけど」

「そういう意味じゃなくて、です!」


 怒ったフフィに何故か、腹を殴られる大地。

 その後、フフィは顔を大地から逸らす。

 女の子は難しい。と大地は女子についてという永遠の謎を解くのをやめた。

 ハーバンは大地をじーっと見つめて、呆れたように溜息を吐いていた。


『それよりも、このダンジョンをクリアしてもらえますか?』

「クリアしてくれとは、君も随分偉くなったものだね」

『いえ、そういうわけじゃないんです。急いでクリアした方が良さそうなので……』

「ふむ」


 大地はアブソーションを取り出して、このダンジョンのマップを表示させる。

 このマップには三種類の点が存在する。まず白は自分、赤は魔物。緑が他の人間である。

 何故か、ハーバンは緑なのだが、魔物とは若干性質が違うような気がするので、大地はスルーしておくことにした。

 現在、マップには、赤点が五つ。魔物が五体いる。

 白点(大地)の周りには緑点が二つ。ハーバンとフフィの二人。

 だが、出入り口には緑点が六つ存在している。

 それを確認して、大地は別のスキルも発動させた。


「ん、確かによろしくないね」

「どうかしたんですか?」


 怒っていたフフィではあるが、ハーバンと大地の会話が気になる様子だ。


『今、新たに人が六人入ってきたのです』

「六人!? もしかして私と……」


 大地は答えた。


「いや違う。このダンジョンに入ってきたのは、君と同じような事情を持つ者じゃない。多分、さっきいたレイとその仲間だと思う」


 マップで確認すると、敵の証である赤点と緑の点が衝突する。

 しばらく大地はマップを眺めると、赤点が消滅し、緑の点は大地達の集う場所に向かってくる。

 どうやら急いでいるのか、緑の点であるサファリ・ラジーナのメンバーは走っているようだ。でなければ、この移動速度は変だ。

 やがて、ハーバンが身を震わせた。


「ハーバン?」

『……や、奴らが来る……』


 フフィの問いかけに、身を震わせるハーバン。怪我を負わせられたのは、もしかしたらサファリ・ラジーナの連中の仕業なのかもしれない。

 大地は震えるハーバンの頭を撫でる。


「安心しなよ、この俺がいるんだからさ」

「大地さん、どうするつもりなんですか?」


 フフィの問いかけに、大地は答えない。

 しかし、マップを見ながら、大地はアブソーションを操作する。


「決まってるでしょ。恩人を傷つけたんだから、恩を売られた側の俺はケジメをつけにいく。それが残念ながら俺という人間だからね」


 大地はアブソーションの操作を終えると、彼の身体から蒸気のようにオーラが浮き上がる。


「『天界速度(ゴッド・スピード)』【神速】」


 呟く大地。

 言葉にアブソーションが反応し、大地の身体を水のような色のオーラが包む。

 フフィは、大地が何をするのか、すぐに気付いたが止められない、と感じる。

 この一週間過ごして、大地について少し分かった事がある。彼は何かをやると決めたら、テコでも動かない性格の持ち主なのだ、と。

 ハーバンも声をかけられなかった。

 その理由は彼が呟いた言葉にある。『天界速度』というスキルは、予想するに目に見えないほどの速度で動くスキルだ。

 もしかしたら、奴ら――ハーバンを攻撃したサファリ・ラジーナに対して仕返しができるかもしれない、と思っていた。

 だが、それは大きな勘違いである。

 大地はスーツのポッケに片手を突っ込み、溢れ出るオーラを纏い、立つ。その姿は、油断しているわせではなく、大地なりに相手との戦闘を準備しているのだ。

 マップを閉じると、五、六人の足音が鼓膜を突く。

 ハーバンをぬいぐるみのように抱えたフフィは、大地の背中に隠れる。


 そして、奴らは現れた。


「やぁ、折角一度入ったら出られなさそうなダンジョンから出してあげたのに、また来る命知らずさん」


 大地は陽気に歌うように言った。

 フフィとハーバンは、完全に喧嘩を売っているな、と思った。

 どうやら、このダンジョンに入ってきたのは本当に六人のようで、全員が大地を睨む。その先頭には、七色の鎧を纏った≪黒髪の死神≫、レイ・キサラギがいた。

 戦闘準備は万全のようで、既に武器を握っていた。


「ええ、僕は命知らず、というより負け知らずなので、また潜りに来たんです。それより大地さん、その子をこちらに渡してください」


 レイは手招きをする。

 彼の言う、その子とはフフィの事である。

 しかし、フフィは大地のスーツの裾を握り締め、顔を横に振る。

 大地はそんなフフィの様子を見て、溜息を吐いた。


「……だそうだ、悪いけどお引き取り願えますかね」

「こちらも仕事なんで、それは無理です」


 レイの眼光が鋭くなる。

 だが、睨みつけてくるレイ達を見て、大地は笑った。

 ただでさえ、ギルドの仕事を邪魔しているというのに、レイの後方に存在している幹部達の機嫌は悪くなる一方だ。

 その内の一人である白髪の男が言った。


「ギルドの仕事を邪魔するのなら容赦はしないぞ、青年」

「容赦しない、と言うとまるで君が、いつでもお前を殺せるんだぞ、と言っているように聞こえるね」


 大地は一度、顔を俯かせる。

 しかし、一秒も経たずに顔を上げた。


「逆上せるなよ、引退間際のジジィ」


 その一言。

 本来ならば、ギルドランク二位の第三席という強さを持つ白髪の男は、怖気ついたりしないだろう。

 しかし、大地の一言は、彼を圧力だけで押し倒すほどの力があった。

 実際に、白髪の男は尻もちを着き、冷や汗が額から溢れ出ていた。

 彼は瞬時に、この男はヤバイ、と判断した。

 すぐに、大地は笑顔に戻り、レイに向かって歩き出す。


「じゃ、始めようか。サファリ・ラジーナの皆さん」

「言われなくても、そうするつもりですよ」


 レイは剣を握り締め、刃に付着した埃を振り払う。

 サファリ・ラジーナの幹部は、目の前の化け物とも言える大地に萎縮している。だが、レイはただ一人、委縮せずに目前の強敵に笑みを溢す。

 そして、光るキノコが徐々に光りを薄める。それは外が夜になった証拠でもあった。

 大地は地面を蹴り飛ばし、レイも同じように地面を蹴る。

 大地は拳を、レイは剣を。

 二人の衝突が、ダンジョン内に響いた。

 

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