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若き元社長の、創造能力。  作者: 大岸 みのる
第二章:四部・スキル屋店員の、天空迷宮。
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スキル屋店員の、天空迷宮。6

 階段を駆け上がるレイと優とセシファーとミチチ。彼らは、先ほどフフィとハーバンに指示を出されて上層部へと向かっていた。途中聞こえる爆発音に誰もが彼女達を心配するが、今は九星大地を探すことだけに意識を集中させる。

 優は一花の事を考えていた。さっき会ったときに放たれた笑顔。あれは一花が優の前では決して見せなかったものだ。学校に通っていた頃、一花は笑わなかった。ゆえに氷の女王などと呼ばれていたのだが、さきほどの表情をした一花は年相応の少女そのものだ。

 これが一花の幸せなのか。そう考えると優達は余計な事をしているんじゃないかと考えてしまった。

 優はこの先、どうすればいいのか迷い始める。そんな中、隣を走るセシファーがぶつぶつと呟いている。


「……あの女……」

「どうしたんですか?」


 セシファーの呟きに疑問を感じたのか、レイが問う。


「……あの女が、なんでワシらを連れに来たのかわかったぞい。簡単に言うとワシらを殺す為ではない。奴は、ある事をしようとしておるのじゃ」

「ある事?」

「ああ。あの女がしようとしている事。それは結婚式じゃ」


 レイ、優、ミチチの三人は口を開いて目を見開く。


「「「はぁ!?」」」

「いや、今の予言ではそうなっとるんじゃ。奴は、皆を結婚式に招待しようと上層部から降りて来ただけなのじゃ」

「招待? 僕達がですか?」

「とは言っても、招待とかいう生易しいものではないがな。つまり、このまま立ち止まっていれば、ワシらは半殺し状態で最上層部に連れて行かれるのじゃ」


 最上層部には大地が待っている。だが、そこに辿り着く為には、ミチチのような魔物を相手しなければならなかった。ミチチだけでも強いのだが、走り途中に聞いた話ではミチチの数倍は強い魔物が存在するらしい。そんな魔物を瞬殺できるのなら苦労はしないし、そんな奴の相手を辛うじてできるのは十能の皇帝である優一人だけだ。

 なんとしても、一花よりも早く上層部に行くことがレイ達の目標であった。だが、フフィとハーバンが足止めしてくれているし、二人が負けるとは思えない。ならば、早く先に行くことに越したことはないとレイは考えていた。


「とりあえず、なるべく魔物に遭わないルートで先に進もう!」

「わかった……」


 ミチチは犬耳を項垂れさせ、何故か悲しげに頷く。何が悲しいのかは分からない。だが、何かを知ってしまったかのような顔した。

 そのまま、階段を駆け上がり続ける一行。その中で希望を持っているのはレイだけであった。他の三人は、絶望に晒された顔をし、上層部が近くなるにつれ、ペースを落として行く。何があるのか分からない以上、レイが必要以上に問うのは失礼だし、詮索も良くないと感じて何も聞かなかった。

 だが、セシファーは口を開く。


「……お主、覚悟しておくといいぞい」

「なんですか、急に」

「今回、お主達スキル屋は皆、店長を追い求めてここまで来た。じゃがな、お主らの知っている店長はおらぬし、そもそも刃を向けるかもしれん。そうなった場合、お主は牙を剥けるのか?」


 セシファーの真面目な顔から、放たれる大地と戦わなければいけないかもしれない、と語る瞳。多分、セシファーはレイが大地と戦うことを嫌がっていると考えているのだろう。しかし、レイは違う。戦う相手がハーバンであれば、辛かったかもしれないが、相手は大地だ。毎晩、剣の稽古を付き合い、レイの想い人の想い人である。斬れないわけがない。

 レイが不気味な笑みをあげると、セシファーはそこらへんに関しての心配はいらないなと感じた。

 だが、問題は別にある。


「その様子ならお主は平気じゃろうが、以前、ワシがあの男を占った時、奴には死相が出ておったのじゃ。このまま、お主が奴を仕留めるのは難しいし、他に可能性があるとすれば……」

「優君、ですか」

「……ああ。優は十能の皇帝じゃし、一花とかいうあの女を異常に好んでおる。このままじゃと」


 レイは深い溜息を吐いた。


「……結局、セシファーさんは優君との仲を邪魔されたくないだけなんですか?」

「う、それもあるのじゃが……」

「本当に大地さんを殺すとでも思っているんですか?」

「じゃが、優以外にはおらんじゃろうが! 一花とかいう女はあの男と結婚までしようとするほど好きなのじゃろうし、そこまで考えると優以外に殺せる者はいないじゃろう……」

「待ってください」


 そこで、レイはセシファーからの言葉を止めた。


「なんで、僕やハーバンさんやフフィさんが大地さんを殺すっていう考えがないんですか?」


 今ここにいるレイが力及ばずと言えど、ハーバンやフフィに大地が殺される可能性は充分過ぎるほどある。特に彼女達の必殺技は、ダンジョン一つ崩壊に持ち込むほど凄まじいのだ。特にレイの持つ装備では、ある条件が必要とはいえ、その条件を満たせば大地でも殺せるかもしれない。

 能力的な面で言えば、レイやハーバン、フフィも劣ってはいない筈だ。それなのに大地殺害に関して名前が出てこないのが不思議だった。

 黙っていたセシファーは、重く口を開く。


「お主らは、何もできん。無力じゃからな」

「無力? でも僕達は――――」

「無力じゃ。お主らは十能の皇帝と対等に戦えると思っておるのじゃろうが、それは不可能じゃ。いくら、伝説の人間が装備していたものを使っても結局は人間から逸脱することは無理じゃ。それに、その伝説を倒したのは他でもない。過去の十能の皇帝達じゃ。お主らじゃ、足元にも及ばないどころか、本気になった十能の皇帝には触れさえしないじゃらう。それに……」


 セシファーは、口を小さく動かした。


「足止めしに入ったフフィとかいう女とハーバンとかいう女はもう……」

「なんっ……!?」


 レイは目を見開く。セシファーが口を濁したのは、フフィとハーバンが負けたと言いにくかったからだろう。社員旅行の時、フフィとハーバンには伝説の装備が贈られた。それを着用し、スキルポイントを上げた二人は以前(・・)のレイならば容易に倒せるくらい強くなったのだ。簡単に負けるとは思いたくなかったし、ハーバンとフフィをやはり置いてなど来なければ良かったとレイは悔やむ。

 話を理解したレイにの肩を叩き、セシファーは優しげな瞳を向ける。


「案ずるな。あの二人ならば己の運命さえ捻じ曲げて蘇る。それが乙女の強さというものじゃ」

「は、はぁ……」

「それに、ミチチのおかげで、他の魔物に遭遇することなく辿り着けそうではあるがな」


 ミチチは一花との対峙後、普段通りに戻っていた。それが強がりなのか、それとも一花の存在を忘れたのかは分からない。この空気の中、魔物と遭遇しなかったのは強運でもある。

 優は未だに何かを考えているようでもあった。セシファーもレイも黙り、重苦しい空気になりながら一行が歩く。そんな中、遂に我慢ができなかったのか、ミチチはレイに話しかける。


「あの……なんで、皆暗い空気なの?」

「あ、ごめんね。ちょっと考え事してるからかな?」

「考え事?」

「うん……」


 冷静になって考えると、一花の目的がなんなのか理解に難しかった。最初に会ったのは後片付けをしている時。それから大地は殴り込みに行き行方不明で、後を追うごとに一花と大地は結婚しようとしていた。さらに言うのならば、レイやフフィ達はその結婚式に招待されようとしている。なぜ、ここまで強引なのだろうか。それに大地を以前から知っているような口ぶりだ。

 ならば普段の大地は一花を嫌っていたのだろうか。記憶消去までしたと言っていたし、なぜ、そこまで大地との結婚に拘るのだろう。レイの中で疑問は深まるばかりだ。


「れ、レイ……?」

「ん、ああ、ごめんね。何?」

「……ごめんなさい。ミチチ、レイに怪我させちゃったから……」

「え?」


 ミチチは犬耳をしょんぼりと垂れさせ、涙目になっていた。どうやら、レイはミチチに対してどのような処置をしようかと悩んでるように、ミチチには見えたのだ。だから、申し訳なく思っているのだろう。

 しかし、そんなことをすぐ忘れていたレイは微笑みながらミチチの頭をポンと置いた。


「大丈夫です。僕のこれしきの怪我ならハーバンさんが治してくれますから」

「でも……ハーバンっていう人、いないよ?」

「…………」


 レイは険しい表情になり、来た道を振り返る。そこには大理石のような真っ白い階段。それを下っていくと、レイ達が最初にいたフロアだ。そこにハーバン達はいた筈なのだが、今は爆発音すら聞こえない。

 心配じゃないと言えば大嘘になる。レイはハーバンの事が大好きで、フフィとハーバンを置いてきたことを凄まじく後悔しているのだ。だけど、ハーバンを信じた以上、今は彼女を待つだけ。

 レイはミチチに視線を移して、微笑む。


「大丈夫。ちゃんとまた合流するから」

「そ、そうだよね! ハーバンなら、あんな女やっつけちゃうもんね!」

「うん! ハーバンさんは強いからね! なんて言ったって、こーんなに大きいオーガを倒しちゃうんですから!」

「ほぇ……。そんなに大きなオーガを……」


 レイは身体を使って、かつて倒したオーガの全身を再現する。それを見てミチチも子供らしく、ほぇ……、と呟いていた。

 そんな二人を眺めて、セシファーは敵が減ったなと感じ、優はクスリと笑っている。二人の視線を感じ取ったレイは顔を赤くさせながら優を睨む。


「な、何か問題でもあるんですか」

「いや、レイさんって可愛いところあるんだなって」

「むぅ、レイは可愛くない! カッコイイの!」

「おいおい、それはレディーに失礼だぜ!」


 未だに優はレイを女性だと勘違いしているようだ。なんで気がつかないのだろうかとセシファーとレイは同じくらい深い溜息を吐いた。




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