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若き元社長の、創造能力。  作者: 大岸 みのる
第一章:二部・若き元社長の、迷宮。
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若き元社長の、迷宮。1

 闇が広がる草原。

 歩いて、どれくらい経っただろうか。

 大地は草原が続く丘にて、アブソーションを眺めていた。


 現在、コンプリートしているのは『採取』と、あるスキルのみ。


 つまり、フフィの手伝いをしていたように、薬草の採取をしていれば生活はできる。だが、もっと効率の良い仕事をしなければ、と考えていた。

 そんな中、アブソーションにて気になるスキルがあったのを思い出し、再び手にアブソーションを点灯させる。


 人差し指に止まるのはスキル『人界魔法ヒューマン・ブラック・アート』。


 説明書きがあるので、そのまま大地は読んだ。


『人界魔法』とは、誰でも扱える普通の魔法である。このスキルは完成させる事によって、派生する。その先は『火焔魔法(フレイム・アート)』や『水星魔法(アクア・アート)』と言った属性系にクラスチェンジする。


 つまり、人界魔法とは、簡単に言えば日常生活で使えるレベルの魔法スキルなわけである。

 

 結局大した事ないな、と思い、大地は溜息を吐いた。

 だが、この先、どこに行けばいいのかも分からないし、何よりも夕食を食べ損ねたせいで、腹が減っていた。

 どうするかなーと考えていると、突然、大地の視界が光る。


「……眩しいな」


 呑気に呟きながらも、目を隠す。

 すると、新たに別の声が聞こえる。


「魔物……じゃないですね」

「ん、そりゃそうだ」


 視界を覆うほどの光は止み、そこに現れたのは腰まで黒髪を下した青年だった。彼は、七色に光る鎧を着用し、尚且つ剣なのか槍なのか分からない武器を握っていた。

 彼には猫耳が生えておらず、普通の人間もいるんだな、と大地は思った。


「いや、この時間に一般人は出歩かないから、つい閃光魔法を使っちゃったんです……。すいません」

「その件は良いよ。それより、ここら辺で無一文でも泊めてくれるような場所、知らないかな」

「む、無一文!?」

「ん、ちょっとトラブルがあってね」


 色々と説明を省いたところもあるが、大地は記憶喪失で、突然目が覚めたらここにいた、と告げた。


「……それは御気の毒というか、なんというか……」

「で、あるかな」

「条件付きで良ければ紹介しますよ」

「ありがとう」


 大地は出会った青年に頭を下げた。

 それから夜の草原の中を青年が走り、その後を大地が追う形になって草原を抜けた。


 ◇


 草原を走る事一時間。

 ずっとスーツを着用しているせいか、動きにくかったが息が上がらずに街へと辿り着いた。

 その街は夜だというのに、人が出入りしていた。

 街灯がオレンジの光を醸し出し、住宅と思しき建物は石煉瓦で詰まれて建造されている。

 最奥には巨大なサーカス場のようにテントが張られており、街並みを一言で表すのなら、砂漠の街風であった。


「……ここには街灯があるんだな」

「当たり前ですよ、ここは僕達の所属するサファリ・ラジーナのギルド本部があるところですしね」

「ギルド?」


 聞きなれない言葉に大地は首を傾げた。

 しかし、その質問に答える間もなく、青年は話を続ける。


「そういえば名乗っていなかったですね。僕の名前はレイ・キサラギ。レイって呼んでください」

「俺は九星 大地。それよりギルドっていうのは――――」


 質問を再度しようとした瞬間、レイちゃーんっと呼ぶ声が鼓膜を突いた。


「あ、ごめん、お話中だった!?」

「いいえ、大丈夫ですよ団長」

「そうかそうか! 良かった良かったァッ!」


 豪快に笑う女性。

 年齢的には大地より少し上くらいだろうか。ビキニのような衣服を纏い、もふもふしている毛皮を腕に巻きつけている。

 髪は短めであり、色は街の色彩にも似たオレンジ。瞳は紅玉の如く赤である。中々のナイスバディな美女である。

 しかし、性格がサバサバしているのだろう、と大地は一瞬にして読み取った。

 彼女がサファリ・ラジーナの団長だと判断するのに時間はかからなかった。


「それより、レイちゃん。この子は?」

「あ、この人は東サファリ草原で途方に暮れていたので連れてきました。なんでも記憶障害みたいで……」 

「ふぅん……。あ、初めまして、アタシはサファリ・ラジーナの団長のバジリーナだよ!」

「こちらこそ、初めまして。俺は九星 大地です」

「そっか! 大ちゃんね!」


 フレンドリーな対応のバジリーナ。だが、大地は世界を相手にビジネスをしていた為、こういったアメリカ人のようなフレンドリーな対応にも長けていた。なので、バジリーナを遠ざけるような真似はしなかった。

 しかし、露出狂的な格好は如何なものなのだろうか、と密かに考えていた。


「で、僕に何か用事があったんじゃないんですか?」

「んー、あ! そうだった! 実はね、レイちゃんにお願いしたい事があったんだった!」


 夜なのに随分テンションが高いな、と大地は思いながら二人の話を黙々と聞いた。


「お願い、ですか」

「うんうん! 実はね、この前サファリ西草原に〝渦巻き〝が現れたの!」

「渦巻きですか!?」


 渦巻き。それはこの世界に存在する、不思議なダンジョンの事である。誰が名付けたのかは不明。

 しかし、その奥には最強と謳われる武器やスキルが眠る、と噂されているのだ。もちろん、その渦巻きは多くのギルドが完全踏破を狙い、潜るのだが、大体の者は二度と地上には戻ってこない。それに通常は、一度入ったらクリアするまで出られないのだ。


 大地は渦巻きについては何も知らない為、当然首を傾げていた。

 その反応に気付いていたレイは、渦巻きについて説明してくれた。


「……なるほど。それが現れたから、レイに潜ってもらいたい、とそういう事ですよね、バジリーナさん」

「バジリーナ、もしくは、バジって呼んでもいいのに! でもそういう事!」


 あだ名で呼ぶ事を強制させられたが、それでも大地はバジリーナと呼ぶ事を統一させようと決めていた。


「……ですが、僕にそんな重荷を背負えるでしょうか」

「大丈夫大丈夫! レイちゃんなら絶対踏破できるって!」

「少々不安ですが、やってみましょうか」


 レイが頷くと、バジリーナは嬉しそうに背中を撫でた。

 しかし、大地は何故バジリーナが潜らないのか怪訝に思った。


「ん、どうやら大ちゃんは何故アタシが行かないのか、って聞きたそうな顔をしてるね!」

「ええ、最強と言われる装備やスキルがあるのなら、団長自ら潜った方が、踏破成功率が上がるんじゃないですか」

「とは言ってもね、アタシ明日約束があるのよ!」

「明日約束があるからいけない、っていう事は明日行け、という事なんですか」

「そうだよー!」


 バジリーナは撫でたかと思うと、レイの背中を今度は軽く叩いた。

 だが、さすがに急ぎ過ぎだろうと大地は思った。それはレイも同じようで、早速文句を言った。


「どうしていつも急なんですか!? 僕にだって準備が――――」

「でもでもー、善は急げって言うじゃん? だから頼むよー!」

「はぁ……」


 半ば諦めたようにレイは溜息を吐いた。

 傲慢な上司を持つと大変だな、と大地は内心で呟いていた。

 そんな中、バジリーナは大地を見つめる。


「なら、せっかくだから大ちゃんも一緒に行けば?」

「俺も、ですか」

「うんうんー! だってその方が楽しいでしょ?」

「あの、俺は――――」

「分かりました。連れて行くまで団長は帰らないとか言いますものね」

「お、おい、レイ……」

「仕方ないんですよ、団長は一度言ったら曲げないタイプなんですから」

「そうなのか」


 大地は弱ったな、と思いながら現在の格好で大丈夫だろうか、と確認した。

 現在着ているのはスーツだ。これでは魔物に出会った時大変だろうな、と考えていた。


「おーしっ! んじゃ、決まりだね! レイちゃん大ちゃん! 明日は頼んだよぉ!」

「はい」

「はぁ……団長は無茶振りが激しいですよ……」


 レイは文句を言いながら項垂れていた。


 ◇


 昼過ぎ。

 大地はレイに装備を整えようと言われ、自らの防具を買いに来ていた。

 予算はサファリ・ラジーナ団長のバジリーナが出してくれるようで、一番良い物を次々購入してもらった。

 現在の格好は、王国騎士顔負けの、ごつごつの兵士である。

 だが、あまりにも重い為、レイやバジリーナには悪いが、途中で装備を解除させてもらっていた。結局、大地にとってベストな服装は、今も昔もスーツなのだ。

 

 サファリ西草原を渡り、三十分くらい歩いたところに不思議な渦巻きを発見した。

 七色に光る渦は、中心部はまるで蟻地獄のように底が見えない。

 思わず息を飲む大地。


「ここから先は何があるか分かりません。大地さんもそれ相応の覚悟で臨んでください」

「わかった」


 レイから見て、大地は冷静でいるように見えた。

 その姿から、渦巻きに入れば何か思い出すかもしれない、と微かな希望を抱いていた。

 しかし、当の本人である大地は、歓喜していた。

 自らのスキルが強いわけでもなく、ましてや装備がスーツだ。強いわけでもない。

 そして、未知なる魔物と出会えるかもしれない。

 フルダイブオンラインゲームでは味わえないスリルが、そこにはあった。底だけに。


 いざ潜ろうとした瞬間、バジリーナが「おーい」という掛け声を出しながら近づいてきた。

 団長が好きなのか、レイは一瞬で緊張を解き、バジリーナに笑顔を向ける。


「団長! 一緒に潜ってくれるんですか!?」

「いんや、ただ餞別を送ろうと思ってね」

「餞別、ですか」

「おんや、大ちゃん、昨日と同じ格好だけど」

「ええ、折角ですが動きにくかったので、スーツのままにしたんです」

「そかそか!」


 嬉しそうに頷くと、バジリーナはサンタクロースが持っているかのような大きさの袋を渦巻きの中に放り投げた。

 あっという間に大きな布袋は渦に呑み込まれる。

 不思議に思った大地は、バジリーナに視線を向ける。


「何故、渦巻きの中に?」

「んー、まぁ中身は開けてからのお楽しみってわけさ! 大ちゃんにとっては()として使えるかもね!」

「はぁ、ありがとうございます」


 生返事をした大地は、気になった。


 ――盾になる物、か。


 レイはバジリーナに敬礼をすると、何の躊躇いもなく渦巻きに入って行った。

 考えてしまっていた大地も、渦巻きの中へと後を追うように進んだ。

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