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若き元社長の、創造能力。  作者: 大岸 みのる
第二章:三部・スキル屋店員の、奮闘。
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スキル屋店員の、奮闘。1

 何枚目かも分からない扉のセキュリティコードを入力するハーバン。大地の誕生日を入力すると、何かを思いついたかのように手を止めた。

 その行動を怪訝に思ったフフィは、首を傾げながらハーバンに問い詰めた。


「どうしたんですか?」


 いつも通りに聞いたフフィではあったが、その前にある顔――――ハーバンの表情は硬くなっていた。まるで、この先に足を踏み入れるのを恐れるように、扉を開ける事を拒んでいるようにも見える。


「この先に、何かおるようじゃのう」


 フフィの背後にいた水色の髪を揺らす幼女が、独り言を呟くように言った。その言葉を耳に入れたハーバンは首を静かに、頷かせた。

 何か、とはなんだろう。そう思いながら、フフィはハーバンの顔を覗く。


「……フフィさん。今すぐに武装(・・)しておいた方が良いですわよ」

「え?」


 真剣な表情でハーバンはフフィに忠告をすると、静かに呟いた。


「『女神の騎士(ヴァルキリー)』降臨」


 呟いたと同時に、ハーバンの身が光出す。

 着用しているメイド服は、光に溶けるように消える。一瞬だけ丸裸になるが、すぐにその身には白銀の鎧が纏われる。

 微弱の光に照らされた鎧。それはまるで、女神を守るナイトそのものだ。左手には同じく白銀の盾。右手には両刃のプラチナにも負けぬ輝きを放つ剣が握られている。前髪には白金のティアラが神々しく乗っている。

 その姿に、セシファーは目を見開いた。


「お、お主……その姿は!?」


 この世界、リーファウスには≪十能の皇帝≫以外にも伝説は存在する。

 かつて、女神が下界に降臨きたときに求婚を申し出た男達、一万人を一人で倒した者がいる。それがハーバンの現在身につけている装備を使っていた者だ。

 通常、そういった伝説装備は、ダンジョンの奥深くに眠っているし、一つ一つを集めるのに命が幾つあっても足りないのだ。それを全て揃えているハーバンに驚いたのだ。

 だが、そんな高待遇を持っているのはハーバンだけではない。

 女神の騎士のフル装備をしたハーバンを見たフフィも同じように呟いた。


「『暁の竜騎士(ナイト・ドラグネス)』生誕」


 呟くと同時に、ハーバンとは違い炎がフフィのメイド服を焼き尽くすように消していく。丸裸まではいかなくとも、色々と目のやり場に困るような姿になるフフィ。だが、炎は勢いを増しながら、フフィの身体を包み込んだ。

 瞬間、ハーバンとは違い、真紅の鎧を纏い、身の丈以上の大槍を握る。その色は鎧と同じく夕焼けのような真紅。

 その姿もまた、伝説だった。


「お、お主らは……一体……」


 セシファーの見た予知では、二人はただの力もない女だった。それが原因で大地が死んでしまうのだったが、今目の前にいるのは伝説の完全装備状態の二人。

 もしかしたら、セシファーの予知は外れるかもしれなかった。

 フフィとハーバンはセシファーの疑問に応えるように言った。


「これは社員旅行で、大地さんから貰ったものです」

「ええ、何でも大地様はダンジョン探索ツアーが社員旅行とかなんとかで、合計五十回くらい渦巻きダンジョンに潜りましたわよね」


 二人は楽しげに話している。多分、大地の性格を考えると、ダンジョンに潜ってあれこれしたに違いない。この話はまた別。

 少しだけ気を抜いたが、フフィとハーバンは改めて扉に視線を移す。


「……フフィさん、聞こえてますよね」

「はい。さっきまでは分からなかったですけど、どうやらここには大地さんと、あの女性がいるようですね」


 二人は目を細めて、武器を構える。


「……フフィさんは地獄耳ですからね。大地様がいる場所はどうですか?」

「ここは今地下で、大地さんは二階にいるみたいです。急ぎましょ」


 喧嘩ばかりして仲が悪いと思っていたセシファーだったが、戦いなら気が合うのかもしれないな、と感じていた。

 そして、ハーバンは扉のセキュリティコードを入力する。ピピッという音が響き、ギギギっという木が軋む音を上げながら、ゆっくりと重厚な扉が開かれる。

 ゆっくりと開かれる扉。


 瞬間、銃弾が発砲される。


「ハーバンッ!」

「わかっていますわ!」


 ハーバンは白銀の盾を構え、セシファーの前に立つ。数瞬後、響くのは盾が銃弾を防ぐ音。連続で発砲される銃弾を白銀の盾で防ぐハーバン。その一瞬の出来事に、驚き腰を抜かすセシファー。


「う、うわァァッ!?」

「大丈夫ですわ。ちょっとだけ待ってください」


 優しい、まるで母のような笑顔を向けるハーバン。その優しさと言ったら、男ならば誰でも好きになってしまいそうなほど、美しく暖かいものだった。

 セシファーを安心させたハーバンは、叫んだ。


「フフィさん!」

「わかってますっ!」


 フフィはさっきまでいた場所から、消えていた。

 セシファーからは見えない位置に跳び、フフィは大槍を握り締め、拳銃を撃ってきた黒服達、約十人にめがけて、天井から槍を地面に突き刺した。


飛竜の角(ハイウィンド)ッ!」


 槍が床に突き刺さると、まるで地面が爆発したかのように吹き飛び、発砲していた黒服達が一斉に宙に浮き上がる。

 フフィはその一瞬を見逃さず、宙に浮いたまま、突き刺さった槍を握り、大振りな横薙ぎを放つ。

 浮いていた男達は、フフィの振るった槍に攻撃され、壁に激突する。

 ダメージを負った黒服達は次々と倒れ、山積みになる。

 槍を宙で一振りしたフフィは、殺気を感じ、視線を巡らせる。

 煌めく光に視線を移すと、そこには隠れていた黒服達。彼らは銃口をフフィに向けていた。

 光ったものが銃口だと判断したフフィ。だが、着地するまでは、一度大振りをしてしまったが為に身体が流れるし、再び攻撃できそうもなかった。

 しかし、フフィは死ぬだなんて一ミリも思っていない。

 発砲される拳銃。

 弾丸がフフィの身体を穿つ為、走ってくる。

 螺旋を描くように回転する弾丸。

 だが、弾丸はフフィを通らない。


「……全く、ライバルを信用しているのも考え物ですわね」

「違いますよ、ハーバンだからこそ、信用してるんですよ」

「仕方がない人ですね」


 放たれた弾丸は、ハーバンの盾によって防がれる。

 ハーバンは弾丸を全て防ぐと、地面を蹴り、黒服達の元へと走るように飛ぶ。その速度は銃弾と遜色ない。

 僅かな明かりに照らされた白銀の刃は、まるで流れる水のように黒服達の間をすり抜ける。

 拳銃を構えていた黒服達は、ハーバンの姿が見えなかったのか、唖然としていた。

 そして、背後を確認する事無く、黒服達の身体から鮮血が垂れる。


「流れること水の如し。明鏡止水」


 溜息を吐くように呟いたハーバン。

 次の瞬間、黒服のスーツは斬り裂かれ、斬り傷から血が溢れ出す。

 自らの血液を瞳孔に入れると、気絶するかのように黒服達は倒れて行く。

 まさに一撃必殺。ハーバンは剣に付着した埃を振り払うように、空振りするとフフィに視線を移した。


「油断は禁物ですわよ、フフィさん」

「何言ってるんですか? まだ一人残っていますよ、ハーバン」


 フフィの視線は倒れている男に向けられる。

 倒れている黒服達と同じように、傷を負っているのだが浅いようで意識を保っていた。

 上品なことで、口元に手を当てながらハーバンは笑った。


「うふふ、これは残しておいたんですよ」

「はぁ……。ハーバン、大地さんの真似はしちゃ駄目ですよ」

「ふふ、どんな顔を見せてくれるのかしら」


 ハーバンは大地の真似をしようとしていた。その真似というのは、相手に恐怖の底を見せる技である。以前、大地達と社員旅行に行った際に「この魔物の怯える顔が見てみたい」の一言で始まった魔物イジメである。それを実行しようとしてるのだろう。

 いくら大地が好きだと言っても、そこまで露骨に真似しなくてもいいような気もする。

 フフィは両腰に手を当て、呆れるように溜息を吐いた。


「はぁ……。まぁ、ほどほどにしてくださいね」

「はい」


 それからハーバンは嬉しそうに、意識が残っている黒服の男に向かって歩く。腰を抜かす男と視線を合わせる為に屈むと、男は顔を真っ青にさせてハーバンを恐れる。

 楽しげに男を直視するハーバンは、白銀の剣の刃を首元に向けて問う。


「さて、あなた達は誰に指示されて攻撃したんですか?」

「な、何もし、知らねぇっ!」


 どうやら口を割るつもりはないようだ。

 一瞬苛立ったハーバンは、腰を抜かす黒服の首元を極浅く斬った。


「ひ、ひぃぃぃいいいいっ!?」

「早く言った方が身の安全は保証できますわよ?」

「ゆ、許してくれぇ!」

「なら知っている事を話さないと、どんどん剣が首元を斬り裂きますわよ」

「あ、あぁぁ…………」


 拷問を楽しむハーバンを見つめながら、セシファーは呟いた。


「悪女じゃな……」


 呆れたセシファーに半目で見られても、気にしないハーバン。そんな彼女に恐喝される黒服は、ようやく口を割った。


「ぼ、ボスに言われたんだ! あんた達を殺せって!」

「そう、知ってるのはそれだけですか?」


 笑顔のハーバンが握る剣の刃が、徐々に黒服の男の首に刺さっていく。


「ぼ、ぼぼぼぼ、ボスの名前なら知ってる! で、でもそれだけしか知らない! 本当なんだ! だ、だから殺さないでくれぇぇぇええ!」

「なら、さっさと答えなさい」


 首を傾けるハーバンは嬉しそうだ。セシファーの言った通り、完全に悪女である。

 しかし、その男の言葉にフフィとハーバンは目を見開いた。




「ぼ、ボスの名前は………………九星 一花だ」





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