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若き元社長の、創造能力。  作者: 大岸 みのる
第一章:一部・若き元社長の、自由。
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若き元社長の、自由。3

 フフィの仕事を手伝い始めてから一週間が経過した。

 仕事内容は薬草集め。

 その方法というのも、スキルの『採取』を使っての進行なので案外楽だ。だからか、それとも大地が元から完璧を超越したスーパー人間だからか、薬草を集める作業はすぐに呑み込めたし、採取スキルも完成してしまった。

 スキルには、スキルポイントというものが存在し、そのポイントは大地で一日で約2ポイント自然供給される。それを使う事によって、スキルは完成するのだ。ちなみにスキル『採取』は最大で50ポイント使わなければならない。だが、ある方法を使って、既に完成していたのだ。

 薬草には種類があり、通常の薬草、上位薬草、最上位薬草と三タイプある。だが、フフィが探し回るフィールドでは最上位はおろか、上位薬草すら発見する事はない。

 さらに品質も存在し、物の多くは【普通】か【やや普通】のどちらかである。品質の確認は同じくスキルで実行する事ができる。

 フフィの家周辺のフィールドで採取できる薬草は、およそ、10リーで取引されているのだと大地は聞いた。

 ちなみに、この世界での通貨は1円=1リーである。


 大地は薬草採取を始めてから二日、三日でフフィに何故薬草を集めているのか聞いたが、答える事はなく、流されるばかりであった。

 何となく言いにくい理由があるとは知りつつも、大地は一週間経った頃に聞こうと思っていた。


 フフィ・クリティリィムの朝は早い。

 起床は太陽が昇り始めるのと同じくらいだ。

 それから『採取』をアブソーションから簡単に呼び出す為に、音声操作で自動発動するように準備をし、お昼の弁当を作ってから出かける。

 大体、朝早くから始め、昼食を摂り、夕方頃に帰宅して、食事を摂って寝る。このループが一ヶ月続いているようだ。

 大して不満があるわけでもなく、フフィは薬草採取を楽しんでいた。

 道中に咲いている花(もちろん、大地は花の種類は知らない)を見て、楽しんだりと、中々見た目相応の感覚もあるようだ。

 

 この一週間、大地が楽しみだったのは昼食と夕食だ。

 フフィの作る料理は、機械的でもなく、作業的でもない、何か暖かさを感じていた。

 元々、生まれも育ちもお坊ちゃまであった大地にとって、母の手作り料理など口にする機会はなかった。だからだろうか、母の味というのを知らないばかりに、フフィの心温まる料理を口にして、最初は感激のあまり笑ってしまったものだ。


 寝る時は、ツールームなので別々の部屋で睡眠を摂っていた。

 しかし、相手が子供だからか、それとも女性に対して興味が薄いからなのか、あまり気にせず寝る事ができた。


 大地の中に空いてる穴を埋めるかのように、フフィと過ごした一週間は楽しかった。


 一週間が経った今。夕食時に大地は集めた薬草の個数を数えていた。


「どれくらい集まりましたか?」

「ん、一万個くらいだね。これだけ集めたら、多少は贅沢できるんじゃない」

「そうですね、本当に助かりました」


 猫耳と尻尾まで同時にお辞儀するフフィ。

 その姿を見て笑い出しそうになってしまったが、彼女なりの感謝なのだと思い、ちゃんと笑わずに答えた。


「お世話になっているのは俺の方だよ。お金もないし、身元も分からないのに、一緒に生活させてもらって……。こちらこそ、君にお礼を言いたいくらいだ」

「いえ、充分ですよ。これだけあれば、後もう少しなので」


 ニッコリと笑ったフフィ。その笑顔は、ヒマワリ顔負けだった。

 しかし、いつまでも世話になっているわけにはいかない、と大地は思っている。けれど、この暖かさから、中々抜け出せずにいた。

 その正体を大地はまだ知らない。だが、いつまでもここにいたい、という思いと、長く世話になっているのは悪いという思いが相反していた。

 大地は、そんな己の中にある葛藤をもみ消すように、新たな話題をフフィに振る事にした。


「この一万個の薬草は、どうするんだ?」

「これは……その……」


 突然、笑顔を消し、口籠るフフィ。

 一週間も一緒に暮らしたのだ、大地にはフフィが何か事情を隠しているのが分かっていた。

 だが、同時に一週間経っていたのだ。

 何故、こんな仕事を小さいうちから始めているのかを聞こうと決めていた。

 聞けば、もしかしたら、いられなくなるかもしれない。そう考えた大地ではあったが、そろそろ厄介になるのも卒業してもいいだろう、と考え直した。


「そろそろ、良いでしょ。今まで流されてきたけど、俺は知りたい。君がどうしてこんな仕事をしているのか」

「……分かりました」


 フフィは床に正座して、大地とは視線を合わせずに、華奢な口を動かした。


「私、フフィ・クリティリィムは、この家よりだいぶ北にある雪国にて生まれました。そこでは家族にも一族にも愛されて育ってきました。寒さが厳しいところではありましたが、私は満足していました」


 大地は黙って話を聞いた。


「ですが、私が五歳の頃。奴隷狩りが始まったのです」

「奴隷狩り?」

「はい、私達クリティリィム族はスキルポイントに恵まれているとか、なんとかで、標的にされました」

「……」


 この世界での奴隷とは、言葉の通り、無給料・最低限の食事・住宅を与え、無期限雇用の意味もある。

 しかし、スキルという概念が存在するこの世界では、別の奴隷もいた。

 魔法の実験台となる奴隷、スキルから魔法を習得する為に必要なスキルポイントの強奪及びスキルポイントを上げさせる為に働かせ、そのポイントを奴隷使用者の元に配給する、などなど。

 アブソーションを他人に操作される事はない。だが、誰が生み出したのか、スキル『奴隷扱い師』なるものが存在し、それを使用する事によって、通常は不可能であるスキルポイントの強奪も可能になるのだ。


 大地は、前の世界でも存在している奴隷に対し嫌悪していた。

 だからか、本人は気付かずに眉根が半分上がっていた。

 彼の人生において、奴隷という言葉はトップ10に入るほど嫌いな言葉であった。

 その理由として、働いた者に対しての敬意がなかったり、社会に貢献したのにそれ相応の報酬を受理できないのは理不尽だと考えるからだ。

 さらに言うのならば、大地はサービス残業という言葉も嫌いである。時間外勤務をして、給料を渡さないとは冗談ではないと考えている。

 その為、彼が社長として勤めていたアストロナイト株式会社では、高待遇・高給料・ホワイトイメージとして世間に名を知らしめていた。


 若干の嫌悪が湧き出る中、大地は静かに話を聞く事に専念した。


「……私と一緒に住んでいた家族も、一族も全員が奴隷狩りに遭い、皆バラバラに散りました」

「……辛かっただろうな」


 フフィは小さく溜息を吐き、話を再開させた。


「それから十年間。私は幸いとも言うべきか、屋敷の庭掃除や、別荘の草むしりなどが本業だったので、そこまで辛くはありませんでした。さらに、私の主は、病を患っていたようで亡くなってしまったのです」

「……」


 何とも言えない話だな、と大地は思った。

 これも奴隷を雇った者へと与えられる、神からの罰なのか。それとも他の奴隷を酷く扱って闇討ちされたのか。大地が知る術はないが、どちらにしろ主人がろくでもない奴だと認識していた。

 それと、この時点でフフィが十五歳だという事実に、大地は気付いていなかった。


「奴隷解放となった私は、帰る家もなければ故郷もありません。なので、私はスラム街を彷徨い、ただひたすらクリティリィム族を狙う奴隷狩りから逃げました」


 話している当時の記憶が蘇っているのか、フフィの顔色は優れない。


「そんな私にも救いの手が伸びました。その人は私に『願いは何か』と聞きました。なので、私は『一族の復興と、家と仕事が欲しいです』と答えました。そしたら、その人は『薬草一億個を集める仕事を与えよう、もちろん、集めた分のお金も渡す』と好条件を出してくれたのです」


 嬉しそうに語るフフィ。

 しかし、大地にはその恩人とやらを信用するわけにはいかなかった。

 世の中都合良く行くほうが珍しい。これは大地にとって無関係な言葉であったが、覚えておいて損はしなかった。

 その恩人とやらが、どのような者なのか知らないが、家と仕事(仕事と言えるのか曖昧だが)と目標を達成すれば一族の復興を与えると言った。

 そんな美味い話があるのなら、他の奴隷はどうなるのだろう。それに、この家も監視されているのかもしれない。


 フフィの恩人が何故、この環境にフフィを閉じ込めたのか。大地は脳を高速で回転させ、考えた。

 

 相手の狙い。

 それは多分、スキルポイントだ。もちろん、フフィのだ。

 クリティリム族は、スキルポイントの上昇率が高いと現在フフィが言っていた。

 だとしたら、魔物が出現する地帯にフフィを野放しにしておけば、彼女は恐らくスキルポイントを戦闘系に振るって力をつけるだろう。だが、薬草集めだけさせていれば。


 答えは採取スキルだけにスキルポイントを振る事になる。

 採取スキルは、数間で完成するほど、スキルポイントが不必要なスキルである。事実、大地は二日で完成させていた。

 さらに一億個もの薬草集め。

 これは延々と作業をさせ続ける為だろう。

 

 大地は狙いが見えてきた。


 話を終えたと言わんばかりに、フフィは苦笑いをした。


「あまり、人には言っちゃいけないって言われてるんで内緒ですよ?」

「ああ、分かった」


 しかし、大地は笑った。


「なら、なんで内緒なんだろうな」


 大地の声に、フフィは答えた。


「なんでって、当たり前じゃないですか。クリティリィム族の復興なんて一般人からしたら、笑われるような話ですよ?」

「果たしてそうなのかな、俺としては、君が騙されているようにしか思えないけど」

「……何が言いたいんですか」


 フフィの猫耳と尻尾が立ち上がり、彼女の眼光は真っ直ぐ大地を捉える。

 しかし、そんなフフィに気圧される事なく、大地は床から立ち上がる。


「もし、君が騙されているとしたら、どうするんだ、っていう事」

「私の恩人さんが嘘を吐いているとでも言いたいんですか」

「あまり言いたくはないが、そういう事」

「なんでそういう事言うんですかッ!」


 同じく座っていたフフィも立ち上がる。

 だが、大地は言葉を続ける。


「考えて見なよ、その恩人とやらが君に家を与え、仕事も与え、金も与え、そして、最後は夢までくれる。こんな話本当に信じているのか?」

「信じています! だって、この家をくれたんですよ? 普通ならそんな事できません! きっとどこかの王様とか――――」

「いい加減にしろ、夢を見るな。今からでも遅くない、その恩人とやらに俺を会わせてくれないか」


 大地は、フフィに目を覚ましてもらいたかった。

 もちろん、フフィが恩人を信じたくなる気持ちは分かる。自分の世話をしてくれたのなら、尚更、信じてしまっても仕方がない。

 しかし、大地にとってフフィが恩人なのだ。恩人が騙されるところなんて見たくないし、騙されてほしくなんてなかった。

 だから、大地は必死になった。

 だが。


「いい加減にするのは大地さんですッ! 私の恩人を悪く言うのはやめてくださいッ! そんな事言う人は大っ嫌いですッ! 出てってください!」

「…………」


 大地の心を埋めていた何かが割れる音がした。

 必死に燃えていた何かが、急激に冷えていく。

 大地は、瞳を閉じて、踵を返した。


「……分かった」

「……え……」


 フフィは怒りに任せて叫んでしまった為、いつの間にか無責任な言葉を投げていた事に気付く。

 そして、それに気が付いた頃には、後戻りができなくなっていた。


「……確かに、恩人の恩人は俺にとっても恩人、なのかもしれない」

「あ、あ……」

「だけど、俺は気付いてほしかった。それは恩人だからなのか、フフィだからなのか、分からないけど」

「ちょ、ちょっと待ってくださ――――」

「でも、君がその人を信じるのなら、勝手にしてくれ」

「待ってください!」


 いつの間にか、出て行ってと叫んだフフィが呼び止めていた。

 彼女もまた、一人ぼっちでずっと薬草採取をしていたせいか、二人でいる事の暖かさを知った一人なのだ。

 その彼女の心の隙間を埋めていた何かも、崩れ始めていた。

 しかし、冷静に見える大地の口から、言葉が響く。


「一週間だけお世話になって、悪かったよ」

「ま、まっ――――」


 その言葉は恐ろしいくらい、真っ直ぐにフフィの心臓を突き刺した。



「さようなら」



 

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