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若き元社長の、創造能力。  作者: 大岸 みのる
第一章:五部・若き元社長の、恩人救出。
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若き元社長の、恩人救出。4

 薄暗い洞窟のような地下室最奥部。

 壁に掛けられたランプに灯る炎が、大地の横顔を照らす。

 先へ進むと、謎のカプセルが中央に存在していた。そこから放たれるのは、蒸気のように舞い上がる魔力。中にフフィがいるのは明らかだった。

 大地はすぐにそのカプセルを破壊しようと、四神の剣を振りかぶる。

 だが、一瞬の殺気を感じ、大地はすぐにカプセルから離れた。

 瞬間、大地がさっきまでいた場所に走るのは空間を割る雷鳴。

 大地は剣を構えながら、雷鳴が飛んできた方へと視線を移した。


「ボス自らお出迎えだなんて、このギルドも底辺に落ちたもんだな」

「いやいや、底辺だなんてとんでもない。これから最上位に向かうところなんだよ。一番上にあるギルドを倒してね」


 現れたのは、ビキニアーマーを着用したバジリーナ。へらへらと笑っている顔は、いつもよりも険しく、大地を排除しようとしている考えが見え見えだった。

 大地はバジリーナに恩義を感じているわけではない。ギルドの本部に寝泊まりさせてくれたのはレイであり、バジリーナではないのだ。その為、バジリーナに対して大地の感情は黒いものしかない。


「一番上を排除して、頂点に君臨する。そういう考えって古臭いと思うけど」

「古臭かろうがなんだろうが、アタシはアタシのやり方で頂点に行くの。邪魔しないでもらえるかな大ちゃん」

「そういう割には、俺のことあだ名で呼ぶんだな」

「そりゃあ、もちろんだよ。だって≪十能の皇帝≫のうちの一人だし、アタシとしてはいつまでも仲良くしていたい存在だからね」


 バジリーナは陽気に笑う。

 それだけ言うと、片手を差し伸べてくる。

 だが、聞きなれない単語に大地は首を傾げるだけだ。


「≪十能の皇帝≫? 聞いたことないな」

「あらら、自分の血筋を知らないんだ。幻獣種の間じゃ、当たり前のように知られてるんだけどなぁ」

「何を言っているんだ」


 訳が分からない大地は、バジリーナを睨む。


「まぁまぁ、一応教えといてあげるよ。≪十能の皇帝≫っていうのは、この世界にまつわる伝説だよ。名前に数字がつく者、すなわち、世界の理を覆しかねない者である、ってね」

「世界の理を覆す?」

「意味がわかってないようだね。でも、大ちゃんは世界の理を既に覆してるよ。スキルを造るスキル――――『創造能力スキル・クリエイティブ』でね」

「……なるほど、俺がこの力を持っているのは、その≪十能の皇帝≫とやらだからって言いたいのか」

「そそ、だから、アタシとしては大ちゃんをサファリ・ラジーナの副団長にしたいのよ! いいでしょ? なんならアタシが恋人になってあげてもいいよ。大ちゃん好みだし!」


 大地は笑った。

 ここまで馬鹿を演じる(・・・)者は初めてだった。それが、暗殺ギルドを第二位にまで昇格させ、国一つを滅ぼそうとする奴なのだ。


「面白そうだな。それに君の恋人になるっていうのも悪くない」

「へぇ、大ちゃんアタシの事好きなの?」

「ん、好きか嫌いかと問われれば、見た目は割と好きなほうだ」

「んじゃ、交渉成立だね!」


 バジリーナは心底嬉しそうに握手を求める。

 だが、大地はその手を振り払う。


「え? 握手いやなの?」

「何言ってるんだ。俺が言ったのは君の見た目の話だ。見た目だけが良い女と付き合うのなら間に合ってる。それに、俺は君の中身は嫌いだ。過去に何があったか知らないけど、他人を巻き込んでまでやっていいことと悪いことがある。見境ないのは嫌われるぞ、バジリーナ。いやアジル」

「………………」


 大地は人の機嫌を取るのが苦手な性格である。

 だからか、最悪の返事をした。

 だが、後悔も反省もない。あるのはただ、バジリーナを今すぐ倒して恩人のフフィを救いたいという思いのみ。

 やがて、バジリーナは笑った。


「あはははは! なんだ、大ちゃんわかってるじゃん。あのクリティリィム族を最初から、この国を滅ぼす道具だって知ってたんじゃん!」

「どうやら、君は俺がこの世界の住人ではない、と気づいているようだしな」

「ご名答! 大ちゃんも案外性格悪いね」

「君ほどじゃないがな」


 アジルとバジリーナが同一人物だと、大地はすぐにわかっていた。依頼人がどうとか、そういうわけではない。初めからこの計画を練っていれば、クリティリィム族の一人を監視し、時が来て道具として扱えばいいだけのことだ。

 それに一人に仕事・家賃を与えるのは、それなりに資金がある者のすることだ。ギルド第二位のボスであるならば、それくらいの資金を払うのは容易い。

 初めから仕組まれていたのだ。


「で、どうするの? あの子を助ける、とか言うんじゃないよね」

「君の言うとおり、フフィを助ける。俺は受けた恩義は死ぬまで返す主義でね」

「ふぅん、それってアタシにも恩義ってないの」

「ない」

「そっか」

 

 バジリーナは残念そうに溜息を吐いた。

 そして、両手を広げる。


「じゃあ敵同士だね! 例え大ちゃんであっても殺すからね!」

「上等だ。俺を殺せるなら殺してみな」

「言ったね! 『空間魔法(スペリィシア・アート)』!」


 その瞬間。

 バジリーナの足元から空間を切り裂く雷鳴が現れる。

 走る雷鳴の先にいるのは大地だ。

 だが、大地は四神の剣を一振りし、空間を引き裂く雷鳴を散らす。

 バジリーナは一撃の【空間雷鳴】が返されたというのに、一瞬の隙も見せずにポケットに忍ばせていたクナイを大地に投げつける。

 大地はそのクナイを剣で弾く。

 そして、地面を踏み込み、『天界速度(ゴット・スピード)』を使用して一瞬でバジリーナの正面にまで辿り着く。

 四神の剣の刃はバジリーナの心臓をめがけている。

 すぐにバジリーナは後方に一回転し、躱しながらクナイを投げる。

 大地はバジリーナを突き刺そうとしていた剣でクナイを振り払い、再び距離を詰める。


「そんなにアタシに近づきたいの?」

「ん、そういうことだ」

「なら、プレゼントをあげるよ!」


 走り出した足を止め、大地は足元を見つめる。

 そこには巨大な空間の穴が広がっている。

 罠が仕掛けられていたのだ。この薄暗い空間ではわかりようもない。

 ニヤっと笑ったバジリーナは叫んだ。


「『空間魔法』【空間地雷(スペリィシア・マイン)】!」


 瞬間、爆発音ではなく、ガラスが割れるような音が響く。

 大地は足を踏み外しそうになる。

 空間魔法は別の空間と空間をつなぐ魔法だ。ダメージは与えられないに等しいが、空間魔法に相手がかかってしまえば、逃亡すればいい。

 つまり、逃げる専用の魔法ともいえる。

 だが、大地は空間には落ちない。

 宙に浮く大地に、バジリーナは目を見開いた。


「な!?」

「俺が何で落ちてないのか、って言いたそうな顔をしているね。当然じゃないか、俺は君と同じ空間魔法を使えるんだ」

「そうだったね。まったく、本当に強敵だね!」

「強敵、違うな。俺は強敵じゃなくて例えるのならラスボスだ」


 大地は言い切り、四神の剣に魔力を集中させる。

 フフィが入っていると思われるカプセルからも流れる魔力が、刃に集まる。

 バジリーナは立ち止まり、大地の不思議な行動に視線を釘付けにされる。


「何をしようとしてるの?」

「見てわからないかい、これは、君の命を奪う技だよ」

「いいのかな、簡単に教えちゃって」

「いいさ。どうせ、君の体は吹き飛ぶんだからね」


 四神の剣は魔力を吸引し、やがて、限界まで溜まったと合図をするかのように、一瞬光る。

 そして、大地は剣を振るう。


四属性斬撃(フォース・ブレイバー)ッ!」


 その斬撃は今まで見た中では、一番速く。一番斬撃が巨大で。一番美しかった。

 炎・水・風・雷の四属性を纏った斬撃。通常は不可能であり、対消滅する属性が見事に絡み合っている。

 それは四神の剣だからなせる業ではある。だが、かといって使用者がいい加減な使い方をしても、ここまで美しくはないだろう。

 斬撃に乗る炎は勇ましく。

 斬撃に乗る水は安らかで。

 斬撃に乗る風は麗らかで。

 斬撃に乗る雷は滾っていて。

 すべてが四分の一ずつ綺麗に重なる。


「こ、これが≪十能の皇帝≫……」


 バジリーナは魅了されていた。あまりにも完璧過ぎる、四属性が重なる斬撃に。

 しかし、魅了されていなかったとしても避けられはしなかっただろう。何せ、この斬撃はこの部屋一帯を斬ろうとしている。


 ――――やむを得ない。

 

 バジリーナは笑った。


「ここまで本気にさせてくれたのは大ちゃんが初めてだよ!」

「それはどうも」

「だから、本当の本気を見せてあげるッ!」


 バジリーナは斬撃を目前に、叫んだ。


「『究極黒炎(メガ・フレア)』!」


 瞬間。

 大地は目を疑った。

 四属性斬撃を、まるで紙切れのように吹き飛ばし、一瞬にして薄暗かったこの部屋を照らす炎。

 赤い炎を飲み込み、黒い炎で覆い尽くされる空間。

 黒い炎に燃やされたものは、すべて消し炭どころか気体となって宙を彷徨う。

 バジリーナの姿は黒い炎によって、一瞬見えなくなる。

 だが、黒炎の向こう側にバジリーナはいた。


 翼を生やし、角を伸ばしたバジリーナ。

 手足の爪が異常なほど長くなり、体を纏うのはドラゴンの黒いオーラ。

 例えるのなら、バハムートと人間を半々にした感じだろう。

 尋常ならざる姿のバジリーナを視界に入れ、大地は思わず呟いていた。


「バハムートの亜人種……」


 そう呟くと、バジリーナの姿をした化け物は囁いた。


「違うよ、アタシはバハムート――――幻獣種の竜王と人間の子。亜人じゃない」

「……なるほど、ハーフってわけか」


 ハーバンの話は本当だったわけか。と大地は睨んでいた。

 灼熱を超える黒炎の温度に耐えるが、大地のスーツは汗でびしょびしょになっていた。水分補給をしなければ、命の危機に陥る可能性すら出ているほどだ。

 だが、大地はそんなことを気にしている場合ではなかった。

 スキル『究極黒炎(メガ・フレア)』は、すべてを焼き尽くす魔法だ。先刻の四属性斬撃すらも簡単に打ち消してしまったスキル。

 もちろん、このスキルは多分消費魔力が凄まじく多く、人間の大地では使えないだろう。


「じゃあ、第二ラウンドと行こうか、大ちゃん!」


 瞬間、バジリーナが消える。


「かはっ!?」


 かと思えば、大地の身体は既に宙に浮いていた。

 そして、視界が真っ白になりそうなほど、身体が高速で移動をする。

 上空に投げられた、否、殴り飛ばされたと思えば、叩きつけられ、壁に激突させられたかと思えば、気が付けば宙にいる。

 一秒間の間に、攻撃を貰った事に気がつかないほど、高速で殴られ続け、最後に床に叩けつけられた。

 その瞬間に、今まで何が起こっていたのか判明する。


「あぁ……があぁぁぁっ!? げほっ!」


 大地は殴られ続けていた。

 視界が高速で移動していたように感じていたのは、それだけ強い力で殴られていたということ。

 痛みが追い付かないほどの速度で殴られていた。

 ハーバンが買ってくれた白いスーツが汚れてしまった。

 あまりの痛みに、しばらく大地は床に背を預けたまま、呼吸をしていた。

 その近くにバジリーナがやってくる。


「もう終わり? 大ちゃんなら楽しませてくれるって思ってたのに」

「そ、その……い、意見は…………ボツ、だ」

「何言ってるのか分かんなーい! 命乞いでもする? しないよねー!」


 バジリーナはいつもの調子で笑い、掌を倒れている大地に向ける。


「これは感謝だよ、大ちゃん。楽しませてくれたお礼。一瞬で燃えてなくなるから、痛みも何もないと思うんだ」

「……はぁ……はぁ……」


 大地はバジリーナの顔を見つめる。

 その表情はとても爽快な笑顔だった。

 

 ――――俺は今、どんな顔してるんだろうな。


 だが、バジリーナはそんな大地の胸中の呟きにこたえるかのように口を開いた。


「楽しそうだね、大ちゃん。そんなに死ぬのが楽しいの?」


 ――――楽しい、か。

 死ぬのは別に楽しいことじゃない。

 今まで縛り付けられてたから自由になりたくて、俺は死んだんだ。

 そうだ、俺は逃げたんだ。

 死ぬっていうのは逃げるってことなんだな。

 逃げる? 誰が? 俺が? 誰から?

 バジリーナ? 違う。

 

 大地は目を見開いた。

 その先にいるのはカプセル。

 だが、自然と今の大地にはカプセルの中にいるフフィが泣いて見えた。

 涙を垂れ流しながら、大地の名前を呼ぶフフィ。


 そう、大地はこたえなければならない。


「そろそろ、いいでしょ。アタシも忙しいからね! 今までありがと! 大ちゃん! 愛してる!」


 バジリーナの掌が黒い炎に埋め尽くされる。

 そして、叫んだ。


「【黒炎(フレア)】!」


 だが、黒い炎は発動しない。

 バジリーナの掌は、大地に握られている。


「これって……交渉成立?」

「どうだろうなぁ」


 大地は笑って、言った。


「アビリティ『破壊(バースト)』!」

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