表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
若き元社長の、創造能力。  作者: 大岸 みのる
第一章:五部・若き元社長の、恩人救出。
22/60

若き元社長の、恩人救出。2

 サファリ城下町地下。

 この施設はサファリ・ラジーナの第二のギルド本部として使用されていた。

 地下室は盗賊が作ったからか、牢屋なども多数存在していた。

 薄暗い一室。明かりは壁にかけられている炎を灯す蝋燭が小さく光る。

 手錠を枷られた少女、フフィは牢屋で最期の時を待つのみである。

 そこに一人の人間がやってくる。


「さて、準備は整ったことだし。始めようか」

「………………」


 始めようか、と言われても返すこともできない。フフィは分かっているのだ。これから始まるのが自分自身の処刑であると。

 最早、走馬灯など終わらせたし、涙もここに来る途中には枯れてしまった。

 大地が生きてるのならば、それでいい。そう願った筈が、彼は渦巻きのダンジョンから出て来た時に、軽い戦闘をして、謎の隕石に巻き込まれた。

 死んだ、とは思っていない。だが、無事であるとも思っていなかった。


「………………」


 牢屋の鉄柵が開かれ、フフィは立ち上がり、そのまま目前の人間、バジリーナの後を追う。

 まるで、奴隷のように歩かされるフフィ。

 この歩行の仕方も随分と慣れてしまったな、と思った。

 歩くこと数分。誰にも遭わずに辿り着いた場所。

 それを見て、フフィは目を見開いた。

 魔力吸引型牢屋。

 魔力を最期の最期まで吸い取られながら、命が尽きるのを待つ処刑道具である。

 酸素カプセルのような半透明な牢屋である。


「さ、入って」


 フフィは何も言わず、ただ黙って足を進める。

 半透明な牢屋に入ったフフィは、バジリーナに視線を移す。


「……大地さんは無事、なんですか」


 心の中を絶望が支配している。だが、その中にも微かな光があった。

 それは大地だ。彼の為に、サファリ・ラジーナに処刑されてもいい。という要件を伝え、ここに連れ去られたのだ。

 フフィは最期の最期まで、大地が気になって仕方がない。

 その質問にバジリーナは俯き、口を開いた。


「……死んだと思うよ」

「死んだ!?」


 フフィは目を見開き、バジリーナを睨みつける。

 その時、フフィは約束したのに! という負の感情が徐々に沸いてくる。

 大地は傷つけない、という約束を破った。

 その想いが次第に強くなる。

 だが、バジリーナは冷静になって返す。


「しょうがないじゃん。大ちゃんが襲いかかってくるんだもん。それにあの隕石に衝突したら、誰だって死ぬよ」

「で、でも、あなたは約束をしてくれたじゃないですか! 大地さんは傷つけないって!」


 激昂したフフィ。

 だが、バジリーナは何も言わずに踵を返す。


「じゃあ、何かできたの? アタシには無理だったな。だって大ちゃんを助けるなんて約束、アタシはしてないもん」

「………………」


 フフィはカプセルから出ようと必死に柵を叩く。しかし、カプセルは尋常じゃないほどの強度を誇り、まるで壊れる気配がない。

 そんなフフィにバジリーナは言った。


「ならアタシを殺してみれば? どうせ死ぬ命なんでしょ? あ、でもクリティリィム族には無理かぁ。だって攻撃系スキルなんてないもんねぇ」


 挑発。バジリーナの笑顔はフフィの怒りを更に掻き立てる。


「そもそも、攻撃系スキルを持ってたって、幼女と変わらないあなたには、無理な話だよね」


 フフィはやがて、カプセルの中から脱出をしようと叩くのをやめる。


「なんだっけ、クリティリィム族って成長するのに、条件が必要なんだよね。馬鹿馬鹿しい一族だよね」


 フフィは遂に怒りが頂点に達した。

 紅い瞳が光り、猫耳と尻尾がピンっと立つ。

 そして、叫んだ。


「『七神魔法セブン・ブラック・アート』ッ! 【七神・(セブン・)爆炎(ゴッド・ブレイズ)】ッ!!」


 クリティリィム族唯一の攻撃魔法。

 そのスキル名を叫ぶと、今まで幼女の姿だったフフィの身長が急激に伸び、胸元は成長し、手足は伸び、誰もが見惚れる美少女に変わった。

 だが、それを見る者はバジリーナしかいない。

 それに、フフィの魔法はバジリーナには届いていないどころか、発動すらしていない、ように見える。

 これが魔力吸引型牢屋だからか、いや、それ以前に魔力は吸引されていなかった。

 それどころか――――。


「あははは! あなたはただそこで魔法を発動し続ければいいだけよ!」

「ぐっ! あなたなんか木っ端微塵にします!」


 フフィは魔法を発動し続けた。




 ◆




『零』を発動した者同士の戦いは、【武器能力・零ウェポンライセンス・ゼロ】や【物質的生命数値・零エクステンション・ゼロ】を使っても、武器が壊れることはない。

 (スキル)は相殺され、通常の刃の撃ち合いとなる。

 槍を突き刺すレイ。

 その槍を素手で威力を殺しながら躱す大地。

 二人の戦いは、一見地味に見えるものの、別目的で闘技場に来ていた客達を魅了していた。


「ハァァァアアアアッ!」


 レイの槍が一際強い光を放つ。スキル『光剣』を発動する。そのうちの技を放つレイの武器は、突き刺す動作モーション中に、槍から剣へと変形し、その刃は大地の心臓へと伸びる。

 速度が光の如く速いスキル技。

 大地はアブソーションを、尋常ならざる速度で弄り、四神の剣を具現化させる。

 光の刃を四神の剣で受け止める。

 だが、高威力かつ、スキル『零』とスキル『光剣』を合わせた技は凄まじく、大地の『絶対防御アブソリュート・ディフェンス』『零』を纏わせている四神の剣でも防ぐことは容易ではなかった。

 その証に、大地は剣で防御しながら、闘技場の壁まで押される。

 奥歯を噛み締めながら、抗う。だが、攻撃を防ごうと、力を込めるたびに剣は軋む音をあげる。

 フィールドに、大地が踏ん張った跡を残しながら、遂に壁に激突する。


「やるね」


 大地は壁に背中を衝突させ、呟いた。

 観戦客のうち、レイを応援している者達は歓喜の声をあげた。

 しかし、大地はレイを讃える歓声の中、剣に付着した砂埃を振り払い、レイを睨みつける。だが、口元は笑っている。


「何が楽しいんですか」


 レイは分からなかった。

 スキルを造るスキルを持ち、どんなスキルをも打ち砕ける能力を持っている大地。もし、レイが大地なら、相手に押されれば笑っていることはおろか、焦るであろう。

 何故、押されているのに笑っていられるのか。大地に対しての謎は深まるばかりである。


「楽しいか、楽しくないか。俺は断然前者だね。俺は俺と同等か、それ以上の存在を待ちわびていた。前の世界には、俺と同等の存在などいないと言われて、凹んだ時期もあった。けど、君という相手を見つけ、本気で戦えるのが何よりも幸せだよ」


 大地は本当に嬉しそうだ。

 レイを粛清するとか言ってたのが嘘みたいである。


「でも、あなたが負ければ、僕の方が強いことになる。それでもいいんですか」

「関係ない、俺を楽しませてくれるんだ。勝ちも負けもあってないようなものさ。恩人に対する感謝を行動で表すとしよう」


 大地は掌を天に掲げる。

 その遥か上空が、まるで竜巻を起こすかのように台風の目が現れる。


「そろそろ、飽きてきたところだろう。終わりにしようか」

「『七神魔法』なら、さっき防いだばかりですよ。僕なら何度でも耐えられますけど」

「確かに耐えられるかもしれないね、肉体的には」


 大地は笑う。


「あなた、一体何をしようと……」

「俺は今、君がやろうとしている事と同じ事をしようとしてるんだ。つまり、この闘技場を覆うほどの雷を落とす」

「な!?」


 レイは目を見開き、大地を信じられないものを見るかのような瞳で見つめる。

 全域を巻き込むだなんて、正気の沙汰とは思えない。

 だが、既に魔法は発動していて、上空には雷を落とす為の積乱雲が出現している。

 極めて危険な行為をしようとしている大地。

 しかし、同じような事をしようとしているレイは、何も言えずに固まる。


「どうしたんだい。君は平気なのだろう。同じ事をこれからしようとしてるんだから」

「ぼ、僕は…………」

「君は自由だな、眩しいくらい。自分は良くて、相手はダメ。自己中心的というか、救いようがないというか」

「で、でも!」


 大地はレイを睨みつける。


「でも、やり過ぎだ、とでも言うのかい。さっきも言ったように、これは君と同じ事をやろうとしているだけだ」

「そ、それでも……」

「俺は恩人には正しい道を歩いてもらいたい。そう言ったね。じゃあ、俺の今の行為は君の目にどう写る? 正しい道を歩いてる人間の行為かな」

「そ、そんなこと……ッ!」


 レイは苦悩する。

 現在のレイの心を映したかのような、光景だった。バジリーナの計画、すなわち王国全域を滅ぼす事に加担するレイ。だが、そこまでしなくても、国王だけ滅ぼせばいい。という考えのレイ。

 どちらも選べない。

 復讐は大事だ。だが、だからといって他人を巻き添えにしては、ならない。

 握るストライク・ソードが震える。

 大地は溜息を吐いて、レイに言った。


「時間切れだ」

「ま、待っ――――」


 大地は本気で、闘技場全域を巻き込もうだなんて思っていなかった。だが、少しでも計画の危険性を知ってもらいたかっただけだった。

 だが、それは突然起きた。

 上空の積乱雲を解放しようとした瞬間、爆撃音が響く。

 大地は目を見開き、視線を彷徨わせる。


「え……」

「爆発か」


 レイは唖然とする。


「ま、まさか……計画は明日からの筈じゃ……」

「どういうことだ」


 レイの視線は城にいっている。その城の一部から火の手が上がり、煙が発生している。

 火事、ではなさそうだ。

 だが、第三者が城に何かしらの行為を働いたのは確かである。

 だが、すぐに爆発音は耳に届く。

 城下町、一帯からランダムに爆発音が響く。

 スラム街、市場、住宅地、その全てが爆発に巻き込まれる。


「……始まったんです、バシリーナさんのサファリ王国壊滅計画が」


 レイは生唾を飲み込んだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ