表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
若き元社長の、創造能力。  作者: 大岸 みのる
第一章:五部・若き元社長の、恩人救出。
21/60

若き元社長の、恩人救出。1

 早朝のサファリ城下町。

 連なる民間人の住宅の屋根に立つ者が一人いた。

 サファリ・ラジーナ副団長。レイ・キサラギ。彼は、魔物が街に侵入しているというのに、表情は静かだった。

 大地は目を見開き、すぐにスーツのジャケットを羽織ろうとする。しかし、そこにジャケットはない。


「大地様っ!」


 突然、ハーバンが何かを投げた。

 それはユラユラと揺れながら大地に握られる。


「これは……」

「大地様、いつも同じスーツですよね。私、昨日は大地様の目を盗んで買ってきたんです」


 記憶を遡ると、確かにハーバンは大地の周囲をうろちょろしたかと思えば、戻ってきたりと、落ち着きがなかった。

 新しいスーツを作ってくれていたのだとしたら、確かに落ち着きがなかったのにも納得がいく。多分、サイズを計っていたのだろう。

 大地は白色のスーツを羽織る。


「大地様……」

「ありがとう、ハーバン。感謝するよ」


 大地は、けど、と付け足す。


「君は少し自分を大切にした方が良い。風邪でもひいたら大変だぞ」

「大地様こそ、私に頬ずりしながら寝てましたよ。甘えん坊さんですね」

「かもな。じゃあ、ハーバン。俺は行くぞ」

「はい!」


 大地は白スーツ姿で宿屋ハルバスの窓を開く。そこから身を乗り出し、レイを見つめる。


「おはよう、副団長」

「ッ!?」


 レイは大地の姿を発見し、その身体を硬直させる。驚いたのだろう、それくらいは大地にでも予想がつく。

 しかし、驚くべきはそこじゃない。

 大地は呟く。


「『創造能力スキル・クリエイティブ』『跳躍(ハイジャンプ)』」


 大地は全身を窓から覗かせる。

 そして、跳ねる。

 高く飛び跳ねた大地は、レイの前に立つ。

 その手には四神の剣が握られている。

 大地は、レイを捕まえて拷問するつもりだ。

 刃を向ける大地。それに応えるように、レイも刃を大地に向ける。


「久しぶりですね、大地さん」

「そうだね。俺は君達を探していたんだけど」

「そうですか。でも、僕達はある計画を必ず実行する為に隠れていたんです。悪いですけど、大地さんには邪魔させません」

「望むところだ。俺だって恩人を見殺しにできるほど、性格が悪いわけじゃない。君には必ずフフィの居場所を吐いてもらう」


 両者が睨みあい、その眼光が火花を散らす。

 静かに武器を構えた二人は、そのまま時を待つ。

 そして、一瞬強い風が吹くと、両者の足は屋根を飛び跳ねる。

 大地は飛び跳ねながら、レイに縦斬りを放つ。それを防ぐかのように、レイは大地の太刀筋に対して、横薙ぎで応戦する。

 刃と刃が衝突し、小さな火花が散る。

 一度距離を取る二人。

 レイはスキルを発動させる。


「『火焔魔法(フレイム・アート)』【火炎砲(ファイア・ストリーム)】!」


 掌に炎が集まり、徐々に収縮する。その掌を大地に向かって掲げると、炎は意志を与えられたかのように素早く動く。

 その炎を相手に、大地は四神の剣で対応する。

 まるで、剣道で面打ちをするかのように、炎を縦に一刀両断する。

 しかし、炎によって一瞬視界を遮られただけで、レイの姿を見失う。

 大地は周囲に視線を送るが、彼の姿はない。

 と思ったそのとき。


「ここですッ!」


 上空から隕石の如く、刃を大地に向けて降下してきたレイ。

 回避したとしても、一つ家が壊れ、尚且つダメージを負う可能性があると、察した大地は避けずに、四神の剣を振るった。

 再び重なる刃。

 しかし、上空からの急降下により、威力を数倍増したレイの攻撃は思った以上に重く、大地は吹き飛ばされる。

 軽く三メートルほど飛ばされたが、大地はすぐに起き上がる。

 攻撃をヒットさせるまでいかなくても、ダメージを軽く負わせたレイは、すぐに大地に向かって走る。


「これでチェックメイトですッ!」

「随分と甘く見られたな」


 レイの剣は光を帯びている。しかし、それは一撃必殺の『(ゼロ)』ではない。だとすると、新たなスキルを所持していることが明らかである。

 大地は突進するレイの剣を見つめ、何かしら危険なスキルであると予期した 。

 ここ数日、四神の剣を使う回数が多かった大地は、能力を大方分かっていた。

 この剣は一振りで四属性の斬撃を発動する事ができる。

 大地はレイの足元に向かって、斬撃を走らせる。


「はっ!」


 レイは短く、気合を込めたかのように飛び、斬撃を避ける。

 飛びながらも、レイの刃は大地を殺す為に、振り上げられている。

 一際、レイの握る剣が光を増す。その輝きは太陽と遜色ない。

 あまりの眩しさに顔をしかめそうになる大地。

 瞳を閉じた大地は、空を斬り、火、水、雷、風の斬撃を呼び起こす。

 天変地異にも見える四神の剣一振りに、レイは構わずに突っ込む。

 四属性の斬撃ごと斬るように、レイは剣を振るう。


「『光剣(ライト・ブレイド)』【巨光(ライト・バン)】!」


 レイは新たなスキルを手にしていた。さらに武器も新しい。それは多分、大地に負け、自分の弱さを自覚したので、ダンジョンに潜ったのだろう。だが、相変わらず、剣か槍なのか分からない。


 レイが叫ぶと、まるで巨大なレーザーの如く、四属性斬撃という壁を穿つ光。

 その奥にいた筈の大地は、存在していなかった。


「甘いよ」


 すぐ背後から漏れる声。

 レイが振り返ると、そこには大地が剣を振りかぶりながら迫っていた。

 反射運動を利用して武器を横向きに構え、防御体制を取るレイ。

 しかし、そこに大地はあえて、刃を叩きつけた。

 大地の剣は、予想以上に重く、レイが今度は吹き飛ばされる。


「ぐあっ!」


 屋根の瓦礫ごと吹き飛ぶレイ。

 大地が三メートル吹き飛んだのに対して、レイは百メートルほどは飛ばされていた。

 一軒家に背中から突っ込んだレイは、大地の強さ、地力、能力、武器の全てを改めて恐れた。

 だが、すぐに立ち上がり、レイは再び武器を構える。


 レイにも、必ず成し遂げたい事があるのだ。それは恩人バジリーナの計画を成功させること。そして、その計画は自分の利害とも一致しているので、なんとか功績を上げたい。

 その為には、白スーツの男。九星大地を倒す、または動きを制限するしかない。

 大地は、計画に必要なクリティリィム族の女の子を恩人とし、彼女を助ける為に必死なのだ。

 お互い、負けられないのだ。


 大地はすぐにレイの近くにやってくる。


「これで、お互い様かな。最初に攻撃を食らったのは俺だけど」

「ええ、ここまではお互い様です。ですが、ここから先は僕の独壇場です!」


 レイは武器を槍モードに変形させる。

 その刃には『零』の光が纏われている。

 この戦いをレイは、早々と片付けるつもりだ。彼には、王国騎士と≪聖剣騎士≫の両方の組織をサファリ城下町から引き出す仕事があるのだ。

 その為には、魔物を操らなければいけない。

 モタモタしている場合ではない。


「君はせっかちだね、長生きできないよ」

「僕は長生きしてもしなくても、どちらでもいい。ただ、僕の復讐を果たせれば、それだけでいいんです」

「ん、復讐、ね」


 大地は復讐という言葉に何か言いたそうにしていた。

 復讐は復讐しか生まない。

 誰かが殺されたから、そいつを殺す。

 そいつを殺されたから、その誰かを殺す。

 誰かを殺されたから、その誰かを殺した奴を殺す。

 大地は負の連鎖だな、と思った。

 レイは一応、剣を交え、命の奪い合いをしている相手であるが、大地は彼の事を嫌いじゃない。

 その理由としては、一晩世話になったからだ。大地にとって恩を受けた相手は、どんな小さい事も、大きい事も、恩は恩だと感じている。

 復讐に囚われたレイを、ただ倒すだけではダメだと感じる。


「君は、誰に何をされたから復讐するんだ」


 レイは驚いたように目を見開き、呟いた。


「……僕は、この世界に来て親が盗賊に殺されたんだ」

「ん、なら盗賊を殺すのが妥当な判断だと思うけど」

「違うんです、僕はスラムの生まれで、両親は僕が生まれるまでは普通の国民だったんです。ですが、国王が変わってから税金が異常に高く跳ね上がって……スラムの住人になったんです」

「なるほど」


 大地は話の流れで、レイの復讐相手が誰なのか確信した。

 つまり、スラムの住人になっていなければ、親は殺されていなかったと。そう言いたいのだ。

 だが、その結論に至るのには、少々考えが足りない気もする。

 レイには申し訳ないが、盗賊を全滅させることの方が先だろ、と大地は考えた。

 いや、もしかしたら盗賊は既に殺したのかもしれない。


「それでその計画とやらで、国を滅ぼす、と」

「はい、その為に大地さん、あなたを倒させてもらいます!」


 駆け出すレイ。

 過去の話をしたレイに、さっきまでの迫力はない。昔話をしてしまったことにより、少しだけ力が抜けたようだった。

 大地は瞳を閉じた。


 恩人と恩人。どちらを選ぶだなんて大地にはできない。助けてもらった人に優劣なんて関係ない。

 だが、どちらか一人しか助けられないとなったら。

 大地は迷わず――――。


「どちらも助ける。俺は恩義には厚い男なんだ」


 屋根に手を触れる大地。

 駆け出すレイは武器を構えながら、大地に槍を突き刺そうとしている。

 だが、全てを吹き飛ばすように大地は叫んだ。


「『空間魔法(スペリィシア・アート)』【空間(スペリィシア)雷鳴(・サンダ-)】」

「その技は!?」


 時空が割れる。

 大地は時空を割り、レイは走る足を止める事ができず、そのまま時空に飛び込む。

 大地も、時空の裂け目に入る。


 時空が引き裂かれ、出た先はコロシアムの舞台。地面は砂であり、周囲には多くの人間が観戦している。

 闘技場。レイ達、サファリ・ラジーナが第二位ギルドにまで力づくで戦い抜いた場所である。

 懐かしき匂いを感じながら、レイは大型モニターに映る、主役を見た。

 名前は極炎ケルベロスと、機甲ドラゴン。どちらも、討伐ランクが高い魔物である。

 レイは視線を魔物の檻を見つめる。

 そこから出てくるのは、極炎ケルベロスでもなく、機甲ドラゴンでもない。

 白いスーツ姿の男――――大地である。


「君には恩義を返さなければ、ならない。その為には、大きいステージの方がいいと思ってね」

「わざわざ、こんな所でやらなくても、僕は逃げませんよ」

「逃げるとは思ってない。けど、君にはちゃんとした復讐について教えないといけないんだ。救われた身としてはね。恩人にはしっかりと正しい道を歩んでもらいたい。それが現在の俺の心境さ」


 レイは少しだけ笑った。

 この九星 大地というのは、よほどお人好しと見える。小さな恩でも、受ければ恩人とみなし、その人の為に力を尽くす。

 例えば、ギルドランク二位のサファリ・ラジーナに連れ去られた少女を助けようと奮闘したり、寝泊まりさせてあげただけの人に説教じみた戦いを挑んだり。

 心の中にあった迷い――――城下町一帯を巻き込んだ計画に疑問を感じていたレイ。だが、今は一人の戦士として、大地の前に立ちはだかる。


「わかりました、僕は今から、正義の為、あなたの敵としてではなく、己の意志で戦います。それが口うるさいあなたを、救ってしまった僕の責任です」

「いい顔になったね」


 大地はポケットから両手を取り出す。

 武器は移動最中にアブソーションに納刀したようだ。


『まもなく、本日のメインイベント、極炎ケルベロス対機甲ドラゴンのバトルを行います』


 闘技場のアナウンスが鳴り響く。

 戸惑う観戦客。

 大地とレイが場内に侵入したのだが、どうやら闘技場での戦いは普通に実行されるらしい。

 魔物の檻が開く。

 大地とレイはお互いを強く睨み合う。だが、そこに悪意はない。

 大地の左側から現れるのは、サイボーグのドラゴン。全身を覆っているのは、鉄。

 レイの左側から現れるのは、全身を炎に包んだ、三つの顔がある大型の狼。


 そして、コングは鳴り響く。


 走り出す両魔物。その先にいるのは、大地やレイ。

 だが、二人はお互いから視線を逸らさずに、横からやってくる魔物に見向きもしない。

 やがて、観戦客が人間の死を間近に叫びをあげる。

 観戦客の誰もが、彼らは魔物の餌となると思っているだろう。

 だが、二人は餌になるどころか。


「邪魔だ」

「邪魔です」


 大地に迫った機甲ドラゴンは、スキル『零』を纏った拳に触れ、一撃で倒れる。

 レイに迫った極炎ケルベロスも、スキル『零』を纏った槍に穿かれ、一撃で倒れる。

 その様子を見た者たちは、一瞬静寂する。


 そして、強い風が吹かれ、二人は拳と剣を交えた。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ