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若き元社長の、創造能力。  作者: 大岸 みのる
第一章:四部・若き元社長の、金稼ぎ。
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若き元社長の、金稼ぎ。4


 酒場〈フル・スライム〉。酒の種類が豊富であり、その中でもドロっとした、のど越しが有名なスライムビールを販売している直営店だ。

 店内には、カップルや仕事帰りの王国騎士達が酒を静かに飲んでいる。

 木材で建てられた店は、案外広く、人が最大で五十名ほど収容できるだろう。

 そこに、サファリ・ラジーナの団長と副団長はいた。

 カウンターにて、腰を掛けると、バジリーナはレイに言った。


「明日の昼、サファリ東草原に魔獣を四体配置するから」

「明日、ですか」

「うん、明後日には始めるつもり」

「そう、ですか……」


 未だにレイは迷っていた。

 自分がスラムに住んでいて、盗賊に親を殺された恨みを晴らす為に、サファリ・ラジーナに入団した。しかし、王国全域を巻き込む作戦が本当に自分の決意と関係があるのだろうか、と悩んでいた。

 さらに悩みを上げるのは、昼間に出会ってしまった宝石顔負けのプロポーションを誇る女性である。

 この城がある街一帯を巻き込めば、必ず、彼女も巻き添えを食らってしまう。ならば、先に彼女に何かしらメッセージを残したほうがいいんじゃないかと考えている。

 現在のレイは、昼間に会った女性のことで頭がいっぱいだった。


「でも、王国騎士に魔物を倒されたりとかしませんかね」

「うん、心配はいらないと思うよ、そもそも相手にならないと思うし」

「そうですか」


 レイは王国騎士が魔物を倒してくれれば、計画自体が遅延する可能性があるのに、と思っていた。


 酒場〈フル・スライム〉の前に立つ大地とハーバン。

 大地はお腹を空かしているので、早く何かを食べたいと急いでいる。しかし、この≪フル・スライム≫には食事が少なく、酒のメニューしかない。

 こうなれば次の店に行くしかない、と考えていた。


「ハーバン、別の店でもいいか」

「ええ、いいですよ。できれば女性がいない店でお願いします」

「その意見はボツだ」

「そんなに叩かれたいんですか?」

「いや、女性がいる店に行きたいわけじゃないけど、無理があるだろう、という意味だ」

「……なるべく女性がいない店で……」

「仕方ないな……」


 大地達は結局〈フル・スライム〉には入らずに、近くにあった男臭そうな焼肉屋に入った。

 昨日も肉で今日も肉なのは、やはり大地がまだ若い証拠でもある。

 焼肉店の名前は〈ロース・バースト〉。変な名前だな、と思ったが店内は綺麗に清掃されていて、店員もどちらかというとイケメンしかいなかった。

 つまり、店員は男しかいないのだが、客は女性ばかりである。


「いらっしゃいませ! お二人様でしょうか?」

「ん、一人と一匹だ」

「え、えーっと、そちらのお客様は……」

「間違えた、二人だ」

「大地様、わざとだったら怒りますよ」


 そんなやり取りを交わして、四人掛け用のテーブル席へと通される。

 さっそく肉を頼もうとしたところ、ハーバンが不思議そうな顔をしてメニューを見ていた。


「どうした、ハーバン」

「いえ、三十分ほど前に沢山食べたんですが」

「うん」

「またお腹空きました」

「成長期か」

「ええ、主にお腹の中の子が」

「俺は君にそういった行為をした覚えはない」


 というわけで、ハーバンに二度目のご褒美として、好きなものを好きなだけ頼んでも良いといった結果。


「お待たせしました! 豚・牛・鳥肉です! 一応全部持ってきました!」

「ありがとうございます」

「……食べれなかったら、ただの迷惑行為だぞ」

「大丈夫です。これだけ食べても多分、一割も足しになりませんから」

「異常にして異質だな、君のお腹は」


 この日の稼ぎは約一千万リー。宿屋の借金も軽く返せる額を稼いだ。

 だが、現在ハーバンが頼んだ肉の量は、この店にある在庫すべて。

 つまり千人前を軽く超えた量である。ハーバンのお腹はどうやらブラックホール以外の何物でもないらしい。

 ちなみに大地は十人前でお腹いっぱいになるくらいである。

 お酒を飲む、といった手前大地はワインを一本頼んでいた。


「それはなんですか?」

「ん、これはワインといって、お酒なんだ」

「そうなんですか、少しだけ興味があります」

「それ全部食べたら良いぞ」

「わかりました」


 それからの肉の減り方は早かった。

 数分前まであった千人前がみるみる減っていく。

 店員さんも仲間同士で賭けていたのか知らないけれど、ハーバンが消費している姿を見て、目を見開いていた。

 もちろん、大地も驚きである。


 十分後。


 皿の上にあった肉は綺麗に消え、野菜まで在庫すべて頼み、食した。

 結果、この〈ロース・バースト〉から食品は消えた。


「ふぅ、大地様ご馳走様でした」

「う、うん……噛んで食べてるよね?」

「はい! これで一割半くらいはお腹いっぱいになりました!」

「ん、君の胃袋を満足させられる主人はきっと、王様くらいだろうね」


 二千人前くらい食べた筈なのに、ハーバンのお腹は膨らんでいない。それどころか、沢山食事を摂ったことによる満足感で美しさが増している気すらする。

 イケメン店員もハーバンの虜である。

 大地は店員にワイングラスを貰い、そのグラスにワインを注ぐ。


「紅い色が血みたいですね」

「そういうこと言うな。でも、飲んでみたら」

「はい、いただきます!」


 ハーバンはワインを口に含んだ。

 大地は昔っからお酒が強かったわけではなく、むしろ弱かった。だが、多くの会社と取引する際に、酒を多く飲まされ、結果的に大地は異常なほど酒は強くなっていた。

 今となっては酔うという感覚すら忘れている。

 そういえば、酒といえば父親はどうしてるだろうか、と大地は思い出しながら飲んでいた。


「ひっく」

「………………」


 嫌な予感しかしなかった。

 大地は回想を停止させ、目前の美女に視線を向ける。

 顔が真っ赤になるハーバン。

 よろしくない状態なのは一目瞭然である。

 即座に逃げようとした大地は、席を立ちあがる。

 だが、逃がさない、と言わんばかりに大地の腕をハーバンが掴んだ。


「帰る」

「待ってくださぁい、大地様は~私のご主人様ですよねぇ?」

「酒癖が悪いな、俺は君のご主人様に正式になったわけじゃない」

「そういう事言うと~」


 ハーバンは真っ赤な顔をしながら言った。


「大地様の初めて、貰っちゃいますよぉ~?」

「その意見はボツだ。水を飲むといい」

「大地様大地様、私も初めてなんで、優しくしてくださいね?」

「……店員さん。すまない、お会計を頼む」


 大地はこの状態のハーバンを店にいさせるのはマズイと考え、すぐに精算してもらった。お会計は見るまでもなく高額である。売上を半分以上持って行かれるとは、考えてもいなかった。

 すぐにハーバンをお姫様抱っこして、宿屋〈ハルバス〉に向かう。

 歩いたりするよりも、『天界速度』を使ったほうが早いと感じた大地は、宿屋まで超速度で走った。


「いらっしゃいませ……ってあんた!」

「すまない、泊めてもらってもいいか?」

「つ、ついにハーバンちゃんを……くぅぅぅ……人生負け組は辛いよ!」

「いいから部屋を用意してくれ!」

「……お金は?」

「ここに借金返済用と、その他いくらでもある」

「かしこまりました!」


 宿屋〈ハルバス〉に到着し、部屋を早急に用意させる。

 一分くらいで部屋を用意できたみたいなので、大地はそこにハーバンを連れて行き、ベットに放り投げた。


「だ、大地様ったら酷~い」

「君をここまで担ぐのは大変だったんだ。これくらいはいいだろう」

「投げるなんて、罪ですね!」

「……ダメだ、ぶん殴りたくなってくる」


 大地はイライラしてしまうが、ハーバンは何かを呟くと、そのまま寝た。

 なんて自由なペットなのだろうか。ご主人様が必死に担いできたのに、何のお礼もなく睡眠とはタチが悪すぎる。

 大地は内心で、こんなペット飼いたくない、と思いながらも、一応は恩人だから見捨てられない、と考え直して大目に見ることにする。

 それから、大地は風呂に入った。

 水が大地の髪の毛や筋肉が張れ上がる身体を濡らす中。

 大地は考えていた。


 ――――目覚めてから二日。何の情報も得られないまま、借金だけは返せた。だが、フフィに関しての情報は早く手に入れなければ、彼女の身に危険が及ぶ。


 ここ数日。ハーバンに振り回されながらも、大地は決してフフィのことを考えなかった日はない。

 もっと本気になってバジリーナと戦っていれば、守れたかもしれない。

 いや、まだ諦めるのは早い。

 だが、これといって手がかりもない。

 大地は壁を軽く殴った。


「……フフィ……」


 恩人に対しての、この感情は恋愛か友情なのか。大地にはわかっていない。







 目覚めると、大地の隣には裸のハーバンが眠っていた。


「……俺は間違いを犯したのか?」


 いや、でも正常に記憶はあるし、寝るベットも別々だった筈だ。

 だが、ハーバンは眠っている。しかもちゃっかりお風呂に入っている。どんだけ風呂が好きなんだよ、静ちゃんかよ。と大地は思った。

 しかし、その瞬間。 

 轟音が響く。

 大地はすぐに起き上がり、宿の窓から外を見つめる。


「何だ、あれ……」

 

 黒い猪のような魔物。しかし、猪と違うのは角が生えているところだ。

 路上を攻め込む魔物だったが、その魔物を追い返す者達がいた。

 銀の鎧に身を包んだ男達。

 昨日、スキルを買っていった者までいる。


「あれは王国騎士団ですよ」

「ハーバン、起きたのか。大丈夫なのか?」

「ええ、基本的に王国騎士はギルドにしたらサファリ・ラジーナに並ぶほどの強さを持っているって言われてますから」


 ハーバンは掛布団を身に纏いながら、魔物と王国騎士の戦いを見守る。

 大地は、この国の警備は手厚いな、と感じていた。

 任せても大丈夫だろう、そう感じ、踵を返そうとした大地。

 だが、それは目に入った。


 黒く艶のある長い髪の毛。

 剣と槍を自由自在に変形できる武器。

 七色の鎧。


 大地は目を疑った。

 窓の外――――城下町の一軒家の屋根にいる人物は、失踪したはずのサファリ・ラジーナの副団長のレイ・キサラギだった。

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