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若き元社長の、創造能力。  作者: 大岸 みのる
第一章:四部・若き元社長の、金稼ぎ。
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若き元社長の、金稼ぎ。2


 城下町の外、サファリ東草原。

 比較的、魔物が出現することも少なく、この地で大地とハーバンは野宿することとなった。幸い、気温はそこまで低いわけではなく、むしろ、快適であった。

 焚き火が二人の顔を照らす。

 結局、何tもあった豚肉全てを調理した大地だったが、その全てをハーバンが食べてしまった。

 その後、ハーバンは人間フォルムで寝そべろうとした。だが、大地としては美女の姿で寝ていては、人気(ひとけ)はないが変な目で見られそうなので、カーバンクルの姿に戻る、という条件で眠る事を許した。

 大地は焚き火に燃料となる木を投げる。


「ハーバン。これからどうするか」

『とりあえず、フフィさんを探すにしても、毎回料理してたら日が暮れちゃいますよね』

「最も、君が少食でエコロジーな存在だったら、時間はもっとある筈だけど」

『それは無理なお願いというか、ボク的には明日も同じメニューを食べたいわけで』

「無理なお願いだな」


 ハーバンは幻獣種の姿だからか、一人称をボクと呼んでいる。なぜ人間フォルムでは一人称ごと変えるのか気になるが、それよりも聞かなきゃいけないことは沢山ある。

 大地としては、これから何をするにも金が必要だと考えている。

 結論的にはギルドに入るのが一番早い。仕事の依頼を片付ければ、それで金がたんまり入ってくるのだ。

 しかし、依頼を解決する前に、ハーバン自身の燃料切れや、フフィ及びサファリ・ラジーナの情報を集めるのが疎かになってしまう。

 それでは本末転倒であり、大地は最大の目標を果たせなくなる。

 困った事に、情報を集めながら金を稼ぐというのは中々難しいのだ。


『大地様が飲食店を出すっていうのはどうでしょうか』

「その意見はボツだ。食べるのは好きだけど、作るのは元来好きじゃない」

『大地様もボクと一緒じゃないですか』

「君の燃費が異常に悪い胃袋と一緒にするな」


 飲食店を考えなかったわけでもない。折角『料理(クッキング)』スキルを獲得したのだ。それならとも考えたが、どんな飲食店をするにしても、情報を集める時間が足らない。

 それに二人だけでは、仕事量が尋常じゃないほど発生する。飲食店をするのなら、あと四、五人欲しいところだ。


『んー、手っ取り早くて、時間も同時に使える職業なんてあるんですかね……』

「まぁあるっちゃあ、あると思う。だけどなー」


 そんな中、ハーバンが宙に浮く。寝そべるのをやめたようだ。


『そういえば、大地様はあと何のスキルがあるんですか?』

「スキル、か」


 確かにそうだな、と大地は思いながらアブソーションを開く。

 アブソーション内のスキルをハーバンは、じーっと眺める。


『戦闘系ばかりですね。時々変なスキルもありますけど』

「ん、変とは不愉快だ。これでも俺にとっては必要なんだ」

『『植物観察(プラネット・ライブラ)』とか絶対にいらないと思うんですけど』


 ハーバンは微妙な顔をして、大地のスキルを眺めていた。

 しかし、スキルを造るスキル――――『創造能力スキル・クリエイティブ』を持っているにしては、バカみたいにスキルを造っているわけでもないらしい。

 結局は大地も日本人気質で、使わなければもったいないと思ってしまうのだろう。


『これだけスキルがあるなら、いらないのとかないんですか?』

「ん、俺は造る際は必ず捨てる事を考えていない」

『そうなんですか……』


 そこまでハーバンが考えると、突然、何かが閃いたようだ。


「どうしたハーバン」

『……これは使えるかもしれませんね。大地さん。ちょっと市場に戻りましょうよ!』

「だが、夜だぞ?」

『夜だからこそ、ですよ!』


 こうして、大地とハーバンは晩飯を終え、再びサファリ城下町に戻る。

 戻ってきたのは市場。昼の賑わいと真逆で、現在は寂れているといっても過言ではないほど、人気はない。

 さらに付け加えるとすると、野良猫が徘徊しており、それが更なる寂れた姿を助長している。

 ハーバンは人の姿に戻り、市場を歩いて回る。

 昼間のように、露店に食いつくことなく、大地とハーバンは周囲を見ながら進む。

 そうした中、屋台の間に一軒ほどスペースがあった。


「あ、ありましたよ!」

「ん、ありましたって言われても俺は何も聞かされていないのだが」

「まぁまぁ、そう仰らずに」


 ハーバンはその空いたスペースに入り、近くに何かないかと探している。

 そんな中、大地は使われていない長テーブルを発見する。


「ハーバン、君が探しているのはこれか」

「はい! よくわかりましたね!」

「ん、君が何をしようとしているのか、ようやくわかってきたよ」


 ハーバンは露店を出そうとしているのだ。

 何を売るかは知らないが、露店で何かしらを売るほうが手っ取り早いと考えた。露店は基本一人で作業するし、その間に大地かハーバンのどちらかが情報収集に赴けばいいだけの話である。

 大地は長テーブルを運び、足を立たせる。


「これでいいかな」

「はい、テーブルさえあれば良いと思いますよ!」


 笑顔で頷くハーバン。

 しかし、大地は何を売るのかは知らない。


「ハーバン、君は一体何を売るというんだ。君の体か?」


 冗談っぽく言った筈の大地だったが、いつも冷静だからか、中々冗談が通じないことも多々ある。

 ハーバンはジョークだとは受け取らずに、頬を膨らませて大地を、親の仇のように睨み付けた。


「そんなわけないじゃないですか! いい加減にしてください!」

「いや、悪気があったわけじゃ……」

「この体は大地様だけにしか売りません!」

「借金を抱えている俺に言うセリフか?」


 大地に冗談が通じないのは、どの世界でも共通なのだな。と内心で呟いた。

 しかし、ここまで鈍感な大地は、何故ハーバンが執拗に絡んでくるのかを疑問に感じていた。

 大地は自己中心的ではあるが、小さいことから大きいことまで、何かをしてもらったら絶対に恩を感じ、それを返す人間である。それは前も今も変わっていない。

 余談ではあるが、大地が頼んでもいない事をしてやった、という人間は恩を売ってくる人間だと思っており、アストロナイト株式会社へ提携をしてきたのは、それに該当する行為である。その為、他企業の社長とは仲が悪かった。一社を除いて。


「それよりハーバン、俺は君に何かしたわけじゃないのに、どうしてそんなに急に絡んでくるようになった」


 疑問を口にする大地。

 ハーバンは長テーブルを眺めていたが、大地の疑問を耳に入れて真面目な顔をした。


「……大地様は、確かに自己中心的でわがままで子供で、自分は頭が良いとか思ってる大変天然なおバカさんですけど、私が『天空石』の威力操作を間違えても怒りませんでした」

「ん、仕方ないだろ、誰にでもミスはある。猿も木から落ちると言うしね」


 ハーバンの言葉を返した大地だったが、ハーバンがそんな風に大地の事を見ているとは思わなかった。


「それに、操作ミスした私を、逃げられた筈の大地様は身体を張って助けてくれました」

「一応君も恩人であることに変わりはないからね」

「私は、そういう大地様に……」

「うん」


 言葉を途中で止めたハーバン。

 その頬はリンゴのように赤く染まり、熱でも出てきたのかと心配になるほどだった。それ以前に、湯気が出ているのは幻獣種だからだろうか、と大地は不思議に感じていた。

 途中の言葉を中々しゃべらないハーバン。

 もどかしくいな、と思った大地は腕組みをして待つ。


「えーっと……」

「ん」

「うーん……」

「どうした」

「い、言いにくいですね、こういうのって」

「俺は君が何を言おうとしているのか見当はついている」

「え? それじゃ焦らしプレイってやつですか? 大地様って経験者なんです?」

「何の経験者か知らない、けれど、君が言いたいことを当ててやろう」


 大地は、ふんっ、と鼻息をして自信満々な様子で答えた。


「君は俺のことを良いパートナーだと思っている」

「まぁ! 回りくどい言い方ですが、大地様ならではの不素直なところですね!」

「ん、つまりだ」

「はい」


 ハーバンは大地が自分の気持ちについて気づいてくれていると思い、嬉しくなっていた。

 誰もいない市場。二人だけの空間。

 そして、大地は笑顔で自信満々に自分の想いを知っている。

 どんな綺麗な女性とて、期待してしまうだろう。ハーバンは幻獣種であるが。

 大地は人差し指を立てながら答えた。


「ズバリ、君は俺の親友でいたいと思っているんだ!」

「………………」


 瞳を輝かせていたハーバンは、すぐに幻滅する。

 なるほど、大地は鈍感属性まで持っているんだな、とハーバンは盛大な溜息を吐いた。

 ロマンもへったくれもない、大地は完璧にアホ以外の何者でもない。


「違ったか」

「はい、全然違います。罰として、この話は水の泡に帰します」

「ん、それはそれで気になるというか」

「デリカシーがないというか、もう大地様って残念ですよね」

「俺は残念なんかじゃない、ちなみに言うと――――」

「スーパー人間ですか? そんな設定、ボツです」

「設定って言うな。これは俺のアイデンティティなんだぞ」

「ほんと、残念ですね」


 むぅ、と軽く不満げに声を漏らす大地。

 まぁ、そこも可愛いから良しとするか、とハーバンは考え直した。


「この話はいずれ必ず聞くとして、何を売るつもりなんだ」


 今度は現実に話が戻る。

 ハーバンは笑顔で答えた。


「スキルです」




 ◆




 とある領地の地下。

 そこには、かつて世界ランキング二位のギルド、サファリ・ラジーナのメンバーが集まっていた。

 立ち台に乗るのは、リーダーのバジリーナ。その隣にはレイ・キサラギが立つ。

 彼らの前にはおよそ二百名のギルドメンバー達。


「さて、我々のギルドは今何位にあるか知っている者はいるかな?」


 大声でバジリーナが問う。

 全てのメンバーが『順位消滅』と答える。

 うんうん、とバジリーナは頷き、そのままレイに視線を移す。


「これから、我ら、正義の代行者であるサファリ・ラジーナはサファリ城ならびに城下町鎮静に入る。そして、目指すはサファリ城の奪取。さらにはギルドランク一位の≪聖剣騎士≫を叩き、我らのギルドを首位として世界に認めさせることです」


『おおっ!』という完成が響く。


「我ら、サファリ・ラジーナがランキング頂点に君臨する日は近い! 皆の者、戦闘の準備を怠るなよ! 解散!」


 そこはサファリ・ラジーナのメンバーが隠れる地下である。

 以前は盗賊が城にお宝目当てで、潜んでいた場所だったのだが、バジリーナが発見し、一斉に攻め込んだのだ。

 結果はサファリ・ラジーナの圧勝。盗賊達はサファリ城下町スラムへと戻っていった。

 弱者は悪。強者こそが正義。

 レイはバジリーナと牢屋へと向かう。

 電球が心もとないくらい明かりを照らす牢屋。

 その鉄格子の中には、猫耳と尻尾を垂らし、両手首を手錠されて吊るされている少女が一人いた。

 彼女の顔は、絶望に染まりきっている。いや、空っぽと言ったほうがいいだろうか。

 レイは徐々にこの少女が可哀想だと思い始めていた。


「……やっとだよ、もうすぐ、もうすぐアタシの夢が叶うんだ。誰にも邪魔はさせない」

「団長……」


 レイはバジリーナに出会ったときのことを思い出した。

 スラムで生まれ、育ったレイだったが、親は盗賊に殺され、復讐を望んでいたら、バジリーナが力をくれた。

 底から這いあがるように、強くなったレイ。

 最大の敵は貧困だと考えていた。民間人から国は多く税金を納めようとする。

 そんな国を滅ぼそうとするバジリーナについてきた。もちろん、今でも王国を滅ぼす決意は失っていない。

 だが、こんな少女を使ってまで王国を滅ぼしたいのか。レイの決意は揺らいでいた。

 反対に、バジリーナはある理由から、人間・幻獣種に復讐を誓っていた。その為に、自らがギルドランク一位になり、王国を同時に滅ぼせば彼女の名前は知れ渡ることになる。

 もし、これが成功すれば、世界がバジリーナの名前を恐れることになる。そんな世界を彼女は望んでいた。

 計画は用意周到に進んでいるが、万が一の可能性がある。

 邪魔をする連中を上げるとしたら、王国騎士と≪聖剣騎士≫の二組織。

 そして、多分生きているであろう、九星 大地とカーバンクル希少種のハーバンである。

 どれも強力な組織ではあるが、王国騎士と≪聖剣騎士≫の二組織は、バジリーナがサファリ西・東草原にて強力な魔物を発生させることで、誘き寄せる。

 残るは一人と一匹だ。


「レイちゃん、もし大ちゃんが現れたら……」

「わかっています」


 レイはバジリーナの計画自体を疑問に感じているが、この件については迷いがなかった。

 暗くドスの効いた声で言った。


「必ず殺します」

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