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若き元社長の、創造能力。  作者: 大岸 みのる
第一章:三部・若き元社長の、戦い。
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若き元社長の、戦い。3

 朝日がサファリ西草原を照らす。

 今、一人の男が宙に浮き、太陽を背面にして二百人の人間を相手に牙をむく。

 飛び跳ねたかと思えば、すぐに視界から消える。

 その光景を見たレイは、弓や魔法使いに命じる。


「今すぐに、あの人を撃ってください!」


 レイ副団長の命令を受けた、杖を持つ魔法使いと弓を持つメンバーは、一斉に攻撃を始める。

 目標の姿が見えない以上、適格に相手を捉える事は難しい。

 大地は、スキル『天界速度』を使用し、目にも止まらぬ速さで草原を駆け抜ける。

 狙いを定められない遠距離攻撃のサファリ・ラジーナメンバーは、先刻まで大地がいた場所に魔法と矢を放つ。

 そのほとんどが外れではあるのだが、少なからず大地に当たりそうなモノもある。

 大地は、迫る数本の矢を片手で薙ぎ払い、魔法を避ける。

 連射するサファリ・ラジーナのメンバー。

 だが、そのうちの一人が突然呻き声を上げる。


「うがぁっ!」


 弓矢を装備していた男が吹き飛ばされる。

 さらに、次から次へと魔法使いの者達も、まるで大型の魔物、オーガに投げ飛ばされるかの如く吹き飛ぶ。

 レイは冷静に大地が現在、どこにいるのかを思考した。

 すぐにでも、バジリーナ団長を襲いそうなものではあるが、実際は下っ端を次々と薙ぎ払うだけ。

 一番最初にバジリーナ団長を狙わないあたり、大地は冷静に行動しているのだろう。


「副団長! 敵が見えません!」

「わかってる、皆一度攻撃を止め!」


 一人のギルドメンバーの文句めいた報告に、レイは一度攻撃を停止させる。

 事実、この時点で大地は二百人中、五十人を遠くへと投げ飛ばしていた。

 移動速度は目に見えないほどだし、何のスキルを使っているか謎ではあるが、人を投げ続けるのは尋常とは思えない。

 これ以上、メンバーが削られるのは避けたい。

 レイはアブソーションを操作して、槍と剣を備えた武器を顕現させる。


「僕も参加する」


 今も、メンバーが消えるように投げ飛ばされている。

 好き勝手にはさせない、と内心で叫び、レイは走り出す。


「バジリーナ団長! ここは僕に任せてください!」

「んー、それは無理かな」


 レイはバジリーナに視線を向けると、そこには目に見えない筈の天敵、大地が立っていた。

 その様子はいつもと随分違っていた。

 余裕がある、と言わんばかりにポケットにしまっている筈の手が抜かれていて、常時笑顔なのだが、現在は怒りが溢れ出んばかりの真剣な表情だ。

 不覚なことに、大地をバジリーナ団長の前にまで食い止める事はできなかった。


「バジリーナさん、フフィを返してもらえませんか」


 至極真剣に声をかける大地。

 その先にいるのは、ビキニを着ているバジリーナとフフィ。

 バジリーナも大地に負けず、真剣な顔をしており、フフィは今にも泣きそうな顔をしていた。

 フフィとの距離を遮るかのように、前に出るバジリーナ。

 その手には、クナイが握られている。


「……これで、やっと夢が叶うんだ。邪魔はしないでもらいたいんだけど」

「夢? それは人の命を奪い続ける事か? それとも(とうと)い命を消す事か? 所詮、君はそれだけしかできない人間なのだろ、バジリーナさん」

「言うねぇ。でも、何と言われようが、アタシの夢は譲らない」


 バジリーナは両手にクナイを握り、その矛先を大地に向ける。


「アタシは誰にも負けない強い組織のトップになる。そうすれば、誰もがアタシを崇め、尊敬し、憧れるようになる」


 大地はアブソーションを取り出し、バジリーナを睨み付ける。


「その為だったら、誰であろうと、殺す。そう言っているのか。そんな意見はボツだ」


 大地のアブソーションが光りを上げると、その手には四つの宝石のような物が埋め込まれた剣が現れる。

 レイも、バジリーナも、その仲間達は、その剣を見て動きを止めた。


「ふ、四神の剣(フォース・ソード)……!?」


 誰かが言った。

 その剣は、世界を炎の海に変えると。

 その剣は、世界を深海に沈めると。

 その剣は、世界に雷鳴の嵐を起こすと。

 その剣は、世界を竜巻で包むと。

 全ての力を備えた剣、四神の剣である。


 伝説中の伝説であり、多くの冒険者はその剣を求める。


 サファリ・ラジーナのメンバーもとい幹部達は、大地が伝説の剣を握っているのを目に入れて、畏怖する。


「ば、バカな……!? スキルを造るスキルを持ち、果ては伝説の剣まで!? あの男……どんな強運――いや天運を持って生まれたというのだ!!」


 驚きのあまり、幹部の一人が叫ぶ。

 驚いた者の中には当然、レイも存在する。

 しかし、一人だけ平然としている者がいた。


「……それを持ってるって事は蒼炎ミノタウロスを倒した、って事でいいんだよね」

「ああ、中々良い奴だったがな」


 大地は剣に付着した埃を振り払うように、振り回す。

 相手はバジリーナ。だが、バジリーナはクナイを舌で舐めながら、大地を睨み付ける。

 一発触発の雰囲気に、フフィが割り込む。


「ば、バジリーナさん! 私との約束は!」

「うん、もちろん叶えるつもりだよ」

「約束? 大丈夫だフフィ。君は必ず助ける」


 そう言うと、大地は剣を一薙ぎする。

 誰もが目を見開いた。

 一振りの斬撃が、炎の円刃となって周囲にいた者達を薙ぎ払った。


「……どうやら、相手に不足はないみたいだね」

 

 しかし、バジリーナはフフィを守りながら、クナイだけで防いだようだ。

 大地としては、レイ以上の実力を秘めているので、全力を出さなければ殺される、と感じていた。

 これは真剣勝負。

 先に動いたのは大地だ。

『天界速度』を使用しているからか、その移動速度は常人の目には止まらない。

 だが相手は全ギルドランクを統合したうちの第二位のボス。

 常人である筈がない。

 大地は宙に浮き、兜割りを放つように、剣を振り下ろす。

 しかし、バジリーナは攻撃を受けるわけではなく、上手く躱す。

 地面に剣を突き刺した大地は、すぐにバジリーナへと攻撃を当てる為に、横薙ぎを放つ。

 だが、それも、バジリーナは宙返りしながら避けてしまう。

 刃の射程距離から逃げたと思った大地だが、着地をしたバジリーナはクナイを投げつけてくる。

 その一つを弾く。

 再び、バジリーナに向かって走ると、バジリーナは尻ポケットからアブソーションを取り出し、叫んだ。


「『道具召喚(アイテム・バース)』!」


 スキルを発動したバジリーナ。

 そのスキルは、派手な属性攻撃系ではなく、ただのアイテムを召喚するものだ。

 召喚されたアイテムは、まきびし。

 大地の視界には現在、まきびしが大量に映る。

 咄嗟に宙へと跳び、まきびしの山を超える。

 しかし、バジリーナは同時に十本ものクナイを召喚していた。

 その全てを、大地に投げつける。

 だが、大地は全てを薙ぎ払い、バジリーナに刃を向ける。

 しかし、その刃もバジリーナは避ける。

 大地は着地し、再び刃を走らせる。

 バジリーナはその刃を躱し、上体を逸らしながら回避する。

 一定の距離が空いた大地とバジリーナ。


「……レイよりも上だと聞いて、どんな戦い方をするか気になってみれば、案外普通だな」

「そっちこそ、スキルも使わなければ、四神の剣本来の力も、あまり使わないじゃない」


 軽いジャブの打ち合いが終わり、二人の眼光が交差する。

 しかし、この軽いジャブの打ち合いにおいて、大地の方が多少負けてたかもしれない。

 バジリーナはフフィを抱えながら、全てを躱し続けていたのだ。

 やはり、第二位ギルドの団長というのは伊達ではないようだ。

 大地は生唾呑み込み、ここからは本気でいかないと負ける、と直感した。

 近くにいた団員に、フフィを任せるとバジリーナは口を開く。


「んじゃ、お望みに応えようか。アタシの本気を見せてあげる『空間魔法(スペリィシア・アート)』」

「ッ!?」


 大地は驚く事が少ない人間である。

 しかし、今、バジリーナの発動したスキルには目を見張るほど、驚愕した。

 空間が歪んでいるのだ。

 

 大地の持つスキルは、まだ世界にとってイレギュラーなものではない。

 つまり、神の世界に行ったり、前世に戻ったりと、そういう次元的に違う事はできない。

 けれど、空間を歪ませるというのは、人間の技でも神の技でもない。

 そういう意味では、バジリーナは人間を超越した存在と言えるだろう。


「ま、これを見せたのは、大ちゃんで二回目なんだけどね」

「それは光栄だな」

「でもね、この能力を見た敵は、みーんな」


 バジリーナは笑う。


「死んじゃうんだよ」


 その瞬間、空間のひび割れが大地の元にまで伸びる。

 空間が切り裂かれる。まるでガラスにヒビが入るかのような現象が、今、現実世界に起きている。

 バジリーナは人間を超越しているのか!? 不意にそう感じた大地。

 これは攻撃などと呼べる代物ではない、一つの災厄だ。

 大地はひび割れる空間に呑み込まれないように、『天界速度』を維持する。

 しかし、どこに行っても追ってくるのは空間のひび割れ。


「あはははは! 大ちゃんが、いくらスキルを造るスキルの持ち主でも、これは無理でしょ!」


 大笑いするバジリーナに、大地は少なからず苛立ちを感じる。

 恩には恩を。

 剣には剣を。

 そして、空間には空間を。

 大地は立ち止まり、叫んだ。


「『創造能力スキル・クリエイティブ』、『空間魔法(スぺリィシア・アート)』!」


 叫んだ瞬間、大地の背後も空間が割れる。

 大地はすぐにアブソーションを取り出し、スキルポイントを『空間魔法』にふる。

 そして、大地は地面に手を当て叫ぶ。


「バジリーナ。君の野望もここまでだ。見たところ、君のそのスキルは完成していないね」

「ん、よく知ってるね」

「なら、俺の勝ちだ」


 大地はある魔法を発動させようとしていた。

 スキル『空間魔法』にコンプリートする事によって習得できる魔法だ。名前は【空間爆撃スペリィシア・ラージボム】。だが、やはり、というべきか、その魔法の消費魔力は現在の大地が持つ魔力量である。

 だが、魔力を確認する術を持たない大地は、発動しようとする。


「【空間爆――――」

『ダメです! 大地さん!!』


 しかし、ずっと上から見ていたハーバンが上空から降りてくる。

 顔にのしかかるハーバン。


「……何で邪魔をするんだ」

『大地さん、その魔法を使えば魔力を失いますよ!?』

「意味が分からない、だって現に彼女は『空間魔法』を使っても平然としているじゃないか」

『違うんです、大地さん、あの人は人間じゃないんです』

「……は?」


 突然現れたハーバンに、空気を濁される。

 大地はハーバンを退かして、視線を前に向ける。そこには余裕の笑みを浮かべながら、腕組をしている。


 ――――人間じゃない?

 

 大地は『空間魔法』を解除した。

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