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若き元社長の、創造能力。  作者: 大岸 みのる
第一章:三部・若き元社長の、戦い。
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若き元社長の、戦い。1


「痛たたた。君はもっと優しくするという事ができないのかい?」

「大地さんが無茶するからいけないんですよね」

「俺は無茶なんてしていない、ただあの魔法がそこまで体力を持っていくとは思わなかっただけだって」

「そんな事言ってると、ここに置いていきますよ」

「その意見はボツだ」


 腐敗したダンジョン。

 幾千年もの間、未踏破の土地と思われていたダンジョンは、実は人の足が何度か踏まれていて、現在は大地の手によって腐り果てていた。

 光るキノコも、珍しい草も、全てを密かに持ち帰ろうと思っていた大地にとって、珍しく後悔していた。

 ミノタウロスも腐敗したかと思えば、その姿を完全に消していた。


 大地が眠ってから数時間。

 目を覚ましてみれば、そこにはフフィとハーバンが一緒に眠っていた。

 大地を膝枕して寝ているフフィが、涎を垂らしそうになっていたのに危機を察して、急いで一人と一匹を起こしたのだ。

 それから話し合った結果、とりあえず外に出ようという事になった。

 けれど、大地としては、最後にボス部屋を散策しておきたかったのだ。


「大地さんって、ずっと思っていたんですけど、結構頑固で子供でワガママですよね」

「ん、そう感じるならば、君はまだまだ子供だという事だ。いや、子供か」


 大地が皮肉に言うと、フフィは怒ったのか。担いでいた大地を地面に叩きつける。


「痛ッ!? き、君は恩を仇で返すタイプだったっけ?」

「この際言っておきますけど、私、二十歳なんですけど」

『え』


 カーバンクルのハーバンが声を漏らした。

 同時に大地も、目を丸くした。しかし、すぐにフフィお得意の冗談だと思い、話を逸らす。


「いやぁ、ハーバン。君も一緒に外に出るのかい?」

「ちょ、大地さん! 話を逸らさないでください!」

「いやいや、話を逸らさないでほしいのはこっちだよ。君が二十歳? 申し訳ないけど、俺と同い年のようには見えない。いや、子供の嘘は大目に見てあげろと言われているので、俺は大人の対応として華麗にスルーしただけさ」

「信じてない、と?」

「ん、信じていないか信じると言ったら、俺は断然前者だけど」

「もういいですッ!」

「ゴフッ!?」


 大地はフフィに腹を殴られる。

 全く、子供とは面倒なものだ、と大地は腹を抑えながらフフィを見ていた。

 宙に浮くハーバンは大地の肩に乗る。


『二十歳って本当なんですかね』

「いや、確実に嘘だろ。俺は信じない。所詮子供の戯言さ」


 その瞬間、フフィが足を止める。

 踵を返し、フフィの今までに見たことがないくらいの怒り顔を、大地とハーバンに見せる。


「な・ん・で・す・ってぇぇぇえええええええ!」


 忘れていた事だが、フフィは猫耳があった。

 つまり、地獄耳なのだ。

 大地は、思い出したようにフフィから逃げようとした。だが、フフィの足は意外に素早く、すぐに追い詰められて、頭を殴られた。

 同時にハーバンまで頭を殴られていた。ハーバンは不憫だ、と思いながら笑っていた。


 フフィをからかうのを終え、大地とフフィ、そしてハーバンはダンジョンの最奥にあるボス部屋の扉を見つめた。その扉はボス部屋の奥にある物である。

 扉は入口のように錆ついているわけではなく、むしろ、新品に近い状態だ。

 しかし、二人と一匹の視線を集めるのは、その扉ではない。

 その扉の前にある、一本の剣である。

 四つの宝石を詰め込んだ剣。宝石の色は赤、青、緑、黄色。


「何でしょうか、この剣」

「ん、多分、この剣は報酬なんじゃないかな、このダンジョンのね」

『大地さんが正解だと思います、大体ダンジョンに潜る人は、こういうお宝目当てですから』


 ふむ、と大地は頷く。


「なら、俺が取って行っても問題はないよね」

「はい、大地さんがミノタウロスを倒したので、問題はないと思います。倒し方に問題はありましたけど」

『ボクも大地さんのやり方には些か問題があると思いますが、宝を持ち帰っても、誰も文句は言わないでしょう』

「二人とも散々な言いようだな」


 大地は苦笑いしながら、目の前の剣を引き抜く。

 剣は四色の光に包まれる。

 そして、大地の脳内に言葉が響く。


『汝、この迷宮を制覇した報酬として、四神の剣(フォース・ソード)の主として認めよう』

「……四神の剣、か」

「どうかしたんですか?」

「いや、なんでもない」


 この声は、多分剣を引き抜いた者にしか聞こえないのだろう。大地はあえて、一人と一匹に現在聞こえた声の話をするのはやめた。

 すぐに、大地はアブソーションを取り出して、以前、薬草採取をしていた頃に作った『鑑定』スキルを使用する。

 情報が仮想ウィンドゥになって、大地とフフィとハーバンの前に現れる。


 四神の剣。

 品質【かなり良い】

 効果:世界七属性のうち、四属性を扱う事ができる。


 そのウィンドゥを眺め、大地はなるほど、と思った。

 つまり、この剣はスキル発動なしで、四属性を扱う事ができるのだ。大変便利な武器である。

 大地は、この世界に来てからまだ日が浅い。その為、この剣がどれほどの強さや、珍しさを持っているか知らなかった。

 

 とりあえず、スーツ姿の大地には剣を収める場所もないので、『納刀』スキルを造って、アブソーションに剣をデータ化してしまった。

 その光景を見ていたフフィが呟いた。


「大地さんって……今、どれくらいスキル持ってるんですか」

「ん、百個くらい? 分からない、数えないから」

「どうして、そう無駄使いするんですか?」

「別にスキルポイントも余ってるし、俺の自由だ」

「はぁ……どうせなら、スキルを売るスキルとか作って商売でも始めたら、どうですか?」

「あー」


 大地は、名案だと思った。

 場所は何とかして確保(力づくで)するとして、問題は店員である。大地は自分の性格を分かっているので、接客は非常に向いていないというのを自覚しているのだ。

 店員確保が先だな、なんて思いながらフフィを見つめ返す。


「それなら、フフィ。君が店員になってくれないか」

「え!? わ、私ですか?」

「ああ、どうせ無職系口うるさい少女だしな」

「……その肩書いらないんですが」


 フフィは、ジト目で睨み付けてくる。

 だが、大地の勧誘に溜息を吐いて、考えた。


「でも、折角何年も続けてきた薬草採取も、結果的には終わったので良いですよ」

「それはありがたい。じゃあ、地上に帰ったら早速場所を探すか」

「はい!」


 フフィは笑顔で答えた。

 すると、大地の肩に乗っていたハーバンが寂しそうに呟いた。


『ボクはのけ者ですか』

「ん、別にそういうわけじゃ――――」

『どうせボクはのけ者ですか』

「いや、だから――――」

『はいはい、どうせお二人の間にボクは邪魔なんですよね。分かってますよ、そういうキャラなんで!』


 なぜか拗ねるハーバン。

 その様子を見ながら、大地とフフィは笑っていた。

 何とかハーバンの機嫌を直して、二人と一匹は、ようやくダンジョンから脱出する扉の前に立つ。

 新品を思わせる鉄の扉を、大地、フフィ、ハーバンの二人と一匹で同時に押した。


 ――――この世界は面白い、いや、フフィがいるから面白いのかな。


 大地は不思議とそう思っていた。

 戻ったら、場所を探して、スキル売りをしながら暮らす。

 それもまた、いいのかもしれない。

 大地はそう感じながら、扉の向こう側へと歩いた。




 ◆




 ダンジョン内で大地がミノタウロスと戦闘を終え、仮眠を摂っていた頃。

 サファリ・ラジーナの本部では、二度目の会議が開かれていた。

 幹部のうち五人は、口を堅く閉じ、一人に至っては右腕が折れてしまい、まともに戦線へ赴く事すら不可能のようであった。


「レイ副団長、これは一体どういう事か説明してもらおうか!」

「皆様も身をもってご体験なされたので、良かったと思いますが」


 レイはニッコリと笑顔で幹部の一人に言葉を返す。

 その様子を、いつも笑顔の筈のバジリーナは真剣な瞳をして見ていた。

 今回の報告を受けたバジリーナは、感じていた事が一つある。

 まず一つは、バジリーナのユニークスキルだと思っていた『迷宮帰路ダンジョン・リスタート』とレイのユニークスキルであった『(ゼロ)』は既にユニークではなくなっていた事。

 サファリ・ラジーナの団長と副団長は、その二つのスキルを己だけが使える、いわばある意味最強のスキルだと思っていた。けれども、あの九星 大地という男は、簡単に使ってしまっていたのだ。

『零』については多分、使用しているだろう。でなければ、素手でボスモンスターを倒すのは容易ではない筈だ。

 バジリーナは新たに現れた九星 大地という存在の危険性を本当の意味で分かっていなかった。


 ――――これは早急に対処、もしくは計画(・・)を実行するしかないな。


 バジリーナは幹部達の貧弱さに溜息を吐きながら、心の中で呟いていた。

 この計画は、弱小ギルドの頃から抱いていた夢であり、バジリーナの本当の意味での復讐だったのだ。

 その為には、どんな命も厭わない。だからこそ、ギルドの仕事が暗殺であり、一番名が知れ渡り易く、仕事内容も顧客からは認められ易いから、暗殺なのだ。


 バジリーナは席を立ち、レイに文句を言いたい放題の幹部連中に告げる。


「そんなに悔しかったらさ、やり返せばいいじゃん!」

「そ、そうは言ってもですね……」


 第三席、クサカベがやる気のない様子を醸し出す。

 それに苛立ちを感じつつも、それはそれで仕方がない事なのかもしれないと、バジリーナは半ば彼に関しては同情すら抱いていた。何せ腕が一本折られたのだから。

 だが、バジリーナはここまでギルドを育てたのだ。ただの一般人に、ましてやクリティリィム族を奪われてしまっては困ると思っていた。


「倍返しだよ! 草りん!」

「ば、倍返しですか」


 クサカベが呟く。


「そう、一やられたら百で返す。百やられたら一万で返す。一万でやられたら一億で返す。それがアタシ達サファリ・ラジーナでしょ!」


 まるで血も知らないような無邪気な笑顔。

 それを向けられた幹部達はチョロイのか、すぐに活気を取り戻す。

 活気を取り戻した幹部達は、席を立ち、サファリ・ラジーナのメンバーが集まるテントに走り去る。

 レイは幹部が全員いなくなったテントで、バジリーナに話しかける。


「……バジリーナさん、本当に大丈夫でしょうか」

「うんうん! 大丈夫だよ! 個々で勝てない時は、数で勝れって言うじゃん!」

「はぁ……」


 レイは気のない返事をしてしまった。

 けれどもバジリーナは気にしていなかった。いや、気にする余裕がなかったのだ。自分の夢まで、あと一歩のところで邪魔が入ったのだ。

 ここで道を踏み間違えるような事は避けたかった。


 その夜、サファリ・ラジーナのメンバーおよそ二百人は、サファリ西草原のダンジョンゲートである渦巻きに向かった。

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