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RECORD1:目覚めの朝

「当機は間もなく目的地に到着します。皆様、お手元のシートベルトをしっかりとお締め下さい」

機内に業務口調のアナウンスが響く。

ある者は耳につけていたイヤホンを取り、ある者はノートパソコンを閉じ、またある者はカップの残りを飲み干し、銘銘めいめい着陸の準備を始めだす。

「ねぇ母さん!あの雲見てよ!」

「ねぇねぇ母さん!あの小さい島に降りるの?」

「ねぇねぇ…」

そんな中、嬉しそうな幼い声がする。

十二・三歳くらいだろうか、少年がシートの上に膝立ちになって外の景色を見ながら、そばにいる若い女性にしきりに話しかけている。その声にはフライトの疲れは全くなく、かれこれ十数分ははしゃぎっぱなしだ。そんな少年に微笑んで相槌を打ちながら、ベルトを着ける 母子(おやこ)の風景は周りの空気を和ませていた。


しかし、その和やかなムードは簡単に崩れ去ってしまう。


「本日は、当エアラインを御利用いただき、誠にっ…」

アナウンスが唐突に切れる。

何が起こったのか理解する前に、耳をつんざく激しい爆発音。

そして、世界が大きく揺れる。

視界が一瞬暗転した後眩しく光り、上も下もわからなくなる。

混濁した意識の中で人の叫び声が聞こえる…




「っ!!」

男が飛び起きる。が、そこは機内ではなく部屋の中、無駄に硬い安物ベッドの上。叫び声もしなければ、自分以外誰もいない。聞こえるのは真下にある錆びたスプリングの軋む音だけ。

その髪はあちこちに飛び跳ね、蒼い瞳はくっきりと見開かれている。

男の名前はリース・レイナード、年齢は23。

職業──傭兵。


「ん……」

首を捻り、時計を見る。

…早朝4時。いつもより1時間も早く起きたことになる。

早春のこの時間はまだまだ暗い。さらに今日は日曜日、ほとんどの人がまだ夢の中だ。

(……夢…か)

顔に片手を押し当てて、鉛を吐くような重いため息をつく。

夢の余韻か、まだ息が荒い。こころなしか手も震えている気がする。

それにしても…

「──随分寝覚めの悪い夢だったな」

誰にともなく呟く。

まだあの光景が頭に焼き付いて離れない。叫ぶ声、飛び散る破片、目も眩む光…。


自慢じゃないが、傭兵という職業柄短時間しか睡眠が取れない為、短時間でも夢を見ずにぐっすりと眠れ、起きたい時間に起きられるようになっていた。そんな中で夢を、それも飛びっきりの悪夢を見たのはそれこそ数年ぶりかもしれない。

「…シャワーでも浴びるか」

頭が冷えてくるにつれて、今度は肌に張り付く不快感が大きくなってきていた。

着ているシャツの濡れ具合が悪夢の影響を雄弁に語っている。

着替えを用意して、オート開閉のドアから外に出る。


ここは傭兵会社サボーディネーション・コープス、通称SC直轄の傭兵用施設である。中には居住スペース、浴場、食堂、娯楽施設と食う・寝る意外にも結構充実している。

SCに所属していれば誰でも無条件に施設が利用でき、値段も破格なので利用する傭兵は多い。

共同のシャワールームに行き、脱衣所に入る。まだ早いせいだろう、そのだだっ広い空間には誰もいない。

服を脱いで中に入り、冷水を浴びる。春の早朝に水は肌を切るように冷たい。だがお湯よりもこっちの方が目が覚めるし、身体は丈夫な方だからこれで風邪をひいたこともない。


俺は傭兵になって2年になる。だがこの業界で2年と言うのは非常に浅い部類に入る。

理由は、「2年ではまぐれか実力か分からない」から。

大国の正規軍にも匹敵する兵を持つSCでは、今や傭兵と一口に言ってもその依頼内容は多種多様で、紛争地の白兵戦に放り込まれる事もあれば、「要人の護衛をして下さい」というものだったり、はたまた「戦闘スキルのレクチャーをしてくれ」なんてのもあるからだ。

俺みたいな若造は普通なら即刻依頼を受けて前線真っ只中に飛んでいくのだろうが、俺がこなす仕事はもっぱら後方支援、輸送機での救援物資輸送。そしてその他雑用各種。

前線での依頼が無い理由は俺の能力テストの結果。SCでは定期的に傭兵の質を数値化して顧客に見せるのでこのようなテストが年二回ほど行われる。

そのテストで銃の扱いはかなり評価されたが、いかんせん近接戦闘全般が散々だった。

他にも特技はあるのだが、ばれたらまず死と隣り合わせの過酷な依頼をご丁寧にも最優先で回されることになりかねない。

もちろん、見返りに莫大な報酬が約束されているのだが、俺が傭兵になったのは報酬の為じゃない。傭兵になったのはあくまで目的の為の一手段であって、みすみす死に急ぐのは極力遠慮している。

よって過酷な依頼を避けるため、俺の名前は何千とある顧客リストで下から数えた方が早い位置を常にキープしている。

ちなみに近接戦闘のテストの際に手を抜いたのは対戦相手と俺だけの秘密である。

…まあ、そんなこんなで俺は今のヒマな状態に収まっているわけである。


──5〜6分たっぷり冷水を浴びた後、まだ誰もいない脱衣所に出る。

…そりゃそうか、こんな朝っぱらからシャワー浴びる奴なんて俺ぐらいだよな、と一人合点する。

「ふぅ〜、スッキリした」

バスタオルで髪を拭きながら鏡の前に立つ。

「……」

そこには、普段はまじまじと見ることは無い自分の姿が映っている。

恐らく、彼を知らない人が見ればとても痛々しい表情をするであろう、その姿。

その左胸には肩から脇にかけていびつな曲線の生々しい手術の跡がのぞいている。

「っ…」

ほんの一瞬、目を凝らさないと分からないほど一瞬だけ、傷痕を見る表情が険しくなる。よく見ればその表情は痛みからではなく、憎悪からのそれだと分かる。

無言のままで着替えを済ませ、脱衣所を出る。


「あ、鍵…」

出ようとしたところで部屋の鍵が無い事に気付く。

振り返ると数メートル先の棚に鍵を置きっぱなしにしてあった。

(誰もいないよな…)

二〜三度辺りを見渡して、周囲に人がいないことを確認する。

(よし…)

誰にも見られていないことを確認すると、棚にある鍵に右手を向ける。


ヒュッ。


すると空気が一瞬震えた後、あっさりと棚から鍵が離れリースの右手に収まった。

「よし、好調好調」

そしてリースはわずかな笑みを浮かべてポケットに鍵をしまい、少し早めの朝食をとるために食堂へと向かった…



男の名前はリース・レイナード、年齢は23。職業、傭兵。

彼の特技──AP「アビリティ・パーソン」として色々と特殊な力が使えること。



※ここからは作者の見るに耐えない駄文ですので読み飛ばして下さってもなんら問題ありません。と言うより読んだ方が時間の無駄かもしれません。


どうも、acruxです。

一話目は何とか無事に終りました。

これからどんどん連載して行こうと思いますので、どうぞ気楽に見守ってやってください。

あと、登録カテゴリにシリアスのほかにコメディにもチェックを入れてますが、堅い話で終始進むのもなんなので時折交ぜて行きたいと思ってます。

ではでは、第二話に続きます。

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