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RECORD11:疑問と発見

「メイベルさん。前診断の結果は早めに出すようにって言われてるじゃないですかー」

「あ、ごめん!すっかり忘れてたわ」

「まあ、特に異常が無かったから良かったですけどー」

部屋の前で同僚のナースに平謝りするメイベル。

リースに惚けていたせいで、検温などの前診断の結果を提出してなかったことを指摘されたのだ。

間延びした声で話すナースのもとには、宙に浮いたストレッチャーに横になったおばさんがいる。

27世紀の産業革命の賜物、バルジウムを使った機具はこんな所にも利用されているのだ。

「あ、もうこんな時間ですね。じゃあそろそろ行きますんでー」

「はい、お疲れ様。母さんも頑張ってよ!」

「頑張ってください!」

「また今度お話でもしましょう」


遠ざかっていくおばさんに手を振る三人。

これから行う目の手術は、医師によれば、「初歩的なので大きな危険は無い」ものらしい。

ただ唯一の問題は、おばさんの体力が持つかどうかだそうだ。

この後二時間ほどの手術を施して、翌朝元気なら、一週間ほどでその目は光を取り戻すと医師は言っていた。

どちらにしろ、今のリース達にはただ祈る事しか出来ない。


そんなおばさんが見えなくなったところで、メイベルが急に慌てだした。

「あぁーっ!」

「ど、どうしたんですか?」

「あ、あのさ、フィノール。悪いんだけど、食堂の席取りを私の代わりにやってくれないかしら?」

「席取り…ですか?」

「ええ、さっきの診断の結果を届けに行かなくちゃならないのよ。でもこの時間帯、行きたくても食堂が混んじゃうから」

お願い!と両手を合わせて懇願するメイベル。


なんでも、この病院には食堂は一箇所しかなく、食事持参や部屋から出ることの出来ない人を除き、医師、看護師、患者、ほとんど全ての人がそこで食事を取るそうだ。

そのため食堂の混み具合はすさまじく、この時間帯は特に熾烈を極めるらしい。

更に、座席は患者優先になっているので何かあればすぐに席を譲らなければならず、メイベルのような一看護師はとても食事を取りにくいのだそうだ。

“患者の席を取っていいのか?”というリースの問いには、“取るのは患者ではなく同僚の席。自分が食べられず同僚だけが食事を取るのは許せないから”ととてもストレートな返事を返してくれた。


もちろん、頭を深く下げて頼むメイベルに、フィノールは当然の如く快諾した。

「分かりました。あ、リースさんも行きませんか?あそこなら夕食も済ませられますよ?」

「あー…ごめんフィノール。輸送機の修理を手伝おうと思ってるから……」

案内するというメイベルに、リースがすまなさそうに答える。

院内を一周しているときに見かけたのだが、中庭の北端では既に輸送機の修理が始まっていたのだ。

あの種類の機体はパイロット本人にしか修理が施せない部分もあるので、リースが行かなければ修理が終らなくなってしまうのである。

「あ…そうでしたね。じゃあ私一人で行ってきます」

「頼んだわ。十分ほどで終わるから!」

パタパタと階段のほうへ消えていくフィノールを、メイベルが手を振って見送る。

やがて角を曲がったフィノールは、リース達の方から見えなくなった。



「……彼女は、人を疑うことを知らない人なんですね」

フィノールが消えた廊下を見つめながら、リースがポツリと呟いた。

「ええ。誰にもたぶらかされる事なく、純粋に育った子だから」

メイベルが少し誇らしげに言う。

「それなら今の嘘、少し言い辛かったんじゃないですか?」

「あ、私が診断結果をあのナースにこっそり手渡してたの、見えてたのね」

「いいえ。ただの勘です」

リースの答えにメイベルが目を丸くする。

「まあそんなことより、これであなたがご所望の一対一の会話が出来ます」

「……」

再び静かになった廊下で、リースはメイベルと向かい合った。

窓の外は既に日が暮れており、二人を照らすのは頭上の古い蛍光灯だけだった。

「よく気付いたわね。私が二人だけで話がしたかったって事」

「…他人の心は目を見れば大体分かります」

「へぇ。中々便利な特技ね」

「はい。これが無ければ、自分は生きていけませんでしたから……」

そう言ったリースの表情が少し暗くなる。

が、それも一瞬の事。すぐに元の表情に戻った。

「で、用件の方は?」

「まずはお礼よ」

メイベルはそう言って微笑んだ。

「母さんを助けてくれてありがとう。とても感謝しているわ」

「いえ、そんな」

頭を下げようとするメイベルをリースが慌てて止める。

「エレメントについて学んだとはいえ、まさかあんなに効果があるとは思わなかったわ。あれほど落ち着いた母さんの顔を見るの、久しぶりだもの」

「そうですか」

笑顔で話すメイベルに、リースは複雑な表情を浮かべる。

「確かにあれは、ケースの中の石でも最も強いものの一つでしたから…」

「え?」

「あ、いえ、何でもないです」

そう言って、リースは慌ててメイベルから視線を離した。


(……)

思わず心の声を表へ出してしまったことを、リースは少し後悔した。

恐る恐る横目でメイベルを見てみると、少々訝しむ様な顔はしているが、何とかさっきの言葉は誤魔化せたようで、リースはホッと胸をなでおろした。


リースの心情を複雑にさせている、乳白色の“治癒の石”。

正直に言えば、あれはとても大切なものだったりする。

だが、リースは決して石を使ったことを後悔しているわけではなかった。

あの時の判断はリース自身がつけたものだし、今でもあれで良かった、正しかったと思っている。


ただ……あの石には、余りにもリースの想い出が詰まり過ぎているのだ。

APとしての力があるせいで暗闇の中だったリースの過去に、一条の光を生んだ幸福の石であり……

そして同時に、彼の家族を失うきっかけを作った不幸の石でもある。

そんな様々な想いが詰まった石だから、リースは少し寂しかったのだ。

例えるなら、小さい頃にはしゃいで見ていたテレビ番組の最終回を見るようなもの。

見終わってしまうと、なんだか胸にポッカリと穴が空いたような、寂しい、悲しい気分になってしまうが、だれもが見たことを後悔したりはしない。


リースは今、そんな気分なのであった。


「それよりも、早く本題に入りましょう。メイベルさんも色々と都合があるでしょう?」

「ん…それもそうね」

大体聞かれることの目星はついているが、リースはメイベルに本題に入るよう勧めた。

それを聞いたメイベルも、何か差し迫った予定があるのか、苦笑いで頷く。

「私の用件は、他でもないあなたよ。あなたについて、色々と聞かせてほしい事があるのよ」

「と言うと?」

「簡単なことよ」

メイベルは探るような視線をリースの碧の瞳に向けた。


「あなた、一体何者なの?」


暫し訪れる、静寂の時間。

最上階のためか、ここには他の人間はいない。

階下から聞こえてくる喧騒が、酷く離れて感じられた。

「……ご存知の通り、ただの一傭兵です」

「そういう意味じゃない」

リースの答えをメイベルが手を振って遮った。

「なら、質問の意味が分かりかねます」


「石よ」


古びた蛍光灯が不規則に明滅する中、メイベルがキッパリ言い放った。

「どこの世の中に、それだけの数の石を持った人間がいるっていうのよ。不自然だわ」

そう言いながらリースの手に掴まれているケースを指差す。

「フィノールには言わなかったけど、そのエレメント、並みの人間では生きてる間に拝むことすら叶わないわ」

私だってビックリしたんだから、とメイベルは言う。

「あなたもその石を持ってるんなら、価値ぐらいは分かってるんでしょう?」

「……ええ」

リースは冴えない声で答えた。

そして、懐からさっきの透明な石を取り出す。

メイベルに見えるように手のひらに置いたそれは、明かりを受けてキラキラと光っていた。

「本来、APしか使えないはずのアビリティを凝縮したこの結晶は、特殊な状況下でしか生成できない、希少価値の高いものです。それに加えて、利便性も高く、十分に信頼できる代物なので、自分の持っているサイズの結晶なら、半分に割っても家が建てられるくらいの値打ちがあるでしょうね」

「その通り」


アビリティの能力を結晶化させた石、エレメント。

その不思議な存在が発見されたのは今からほんの数十年前だ。

よって、未だ解明されていない部分の方が目立つ石だが、APでない人間もアビリティが扱えるようになる石であること、その力の蓄積量には上限があること、石が自然発生する確率が限りなくゼロであること等は、近年の研究の結果で判明している。


「そんな今では金持ちのクレジットカード代わりに使われるようなものを、どうして傭兵のあなたが大量に持ってるのよ」

納得いかないといった表情でメイベルが詰め寄る。


そう。今の時代、エレメントは少しずつ金持ちの道楽と化しているのだ。

世界中を探し回ったとしてもほんの僅かしか見つからないその貴重さ。

宝石と見紛うばかりの美しい結晶でありながら、アビリティも発揮できるその能力。

余りに複雑な特性故に、決して偽造物が出回らないその信頼性。


金やプラチナよりも希少価値があり、見た目ばかりの宝石よりも需要があり、そしてクレジットカードに勝る信用もある。

三拍子揃ったこの魔法の石は、今や世界中で利用され始めているのだ。

最も研究の進んでいる「治癒」の石は病院などで重宝され、そのほかの石も実用化に向けて日夜研究が重ねられている。

だが、今の所は石の保有者のほとんどが上流階級の富豪であり、多様な可能性を持った石もインテリアや小切手程度にしか扱われていないのが現状である。


「やっぱり変ですか? 傭兵がこんなにエレメントを持っているのは?」

「傭兵じゃなくても、そんなにたくさん持ってたら誰でもおかしいと思うわよ」

「それもそうですね」

そう言ってリースは寂しく笑った。

そして、もう一度手に持ったケースを見つめる。

「実は、この中の石のほとんどは、昔に自分が貰い受けたものなんです」

「貰ったぁ?」


リースの言葉にメイベルが眉を吊り上げ、目を細くする。

その表情はまさに「信じられない」を体現していた。

汚い手を使ったとしても入手困難な量なのに、それを買うでもなく、報酬として手に入れるでもなく、ただ貰ったとなれば、とても信じられる話ではなかった。


「…思いっきり信じてませんね」

「そりゃそうよ。そんな豪邸がスパスパ建っちゃうような量の石、一体誰がタダでくれるって言うのよ?」

「そういう人がいたからここにあるんですよ」

そんなの不条理よ、と不機嫌になるメイベルに、リースがケースを持ち上げて苦笑する。

「じゃあ、一体誰なの?そんな物をパッとくれちゃった人は?」

「それが……自分にも分からないんです」

「はぁ!?」

頭を掻いて答えるリースにメイベルが素っ頓狂な声を上げた。

「じゃ、じゃあ何?それだけ高価な物をそれだけたくさんくれた人の、名前すら知らないってわけ?」

「まあ、そういうことになりますね」

「はぁ……ある意味大物ね、あなた」

メイベルが呆れ顔で盛大なため息を吐いた。


(自分に莫大な出費をしてくれた人の名前すら覚えて無いだなんて……)

私なら絶対にありえないことだわ、とメイベルはつくづく思う。

もし自分にも同じことが起これば、名前はもとより、顔や性格、その人の好みの一つ一つまで覚えていられるだろう。

それは記憶力云々よりも、その人のモラルの問題なのだ。

たとえ貰った物が高価でなくとも、便利でなくとも、その人について出来うる限りの事を頭に入れておくのは至極当然の事のはずだ。


メイベルのそんな気持ちを察したのか、リースが表情を少し暗くした。

「顔なら覚えているんですけどね」

「え?」

視線を下げて話すリースの顔は、どこか物憂げだ。

片手に乗せた透明な石を、持て余し気味に指で転がしている。

「あの時は、お互いに知り合う時間さえありませんでしたから……」

その後もリースはしばらく石を転がしていたが、やがてそれを再び懐へと仕舞い込んだ。

「すいませんね。なんだか話を逸らせてしまったみたいで」

「まあいいわ。とりあえず、あなたがそれだけの石を持っているのは、あなたが特別なんじゃなくて、ただのどこかの大富豪の気まぐれだったってことは分かったから」

「……今の言葉、微妙に棘がなかったですか?」

「気のせいよ」

そう言ってメイベルが笑う。

どうやら、彼女は欲しかった答えを無事に得られたようだ。

「あ、そうだ。あなたにもう一つ言いたい事があったのよ」

「何ですか?」

「診断の事なんだけどね」

今更言う必要も無いとは思うんだけど、とメイベル。

「あなたがここに運ばれてきた時、検査をしたのは知ってるわよね?」

「はい。それで自分がAPだってことも分かったんでしょう?」

「そ。…で、その検査なんだけど、実はまだ大型の機械を使った検査は一つもしてないのよ」

「レントゲン撮影とか?」

リースの問いに頷いたメイベルは更に続ける。

「その通り。他にも、X線CTスキャンとか、MRIなんかもまだやってないわね。あなた、見たところ骨折や内臓の損傷も無さそうだったから、そういった検査を省いたのよ」

メイベルが話しながらリースの腕や腹の辺りを指差す。

「でも、万が一ってこともあるでしょ?だから、『もし望むならそういった検査を受けさせてやりなさい』ってあの町長さんからありがたいお言葉を頂戴してるのよ」

そう言ってメイベルはリースに一歩近づいた。

「で、どうする?大した予定は入ってないから、今からでも検査は受けられるけど?」

しかし、メイベルの誘いにリースは首を横に振った。

「お気持ちだけ受け取らせてもらいます。自分の体の事は自分が一番良く知っていますから」

「あらそう…」

こころなしか残念そうな表情のメイベル。

だが、すぐに持ち前の明るい顔に戻った。

「ま、いいわ。検査を受けたくなったらいつでも言って頂戴。すぐに準備するから」

「ありがとうございます」

リースがお礼の言葉と共に深々と頭を下げる。

こういう心遣いができるのも、町長が信頼を集められる理由の一つなのだろう。

「これで話したかったことは全部よ。付き合ってくれてありがとう」

「いえ、こちらも色々話せてよかったです」

「じゃあ輸送機の修理、がんばってね」

「はい」

走り去るメイベルにリースが手を振って応える。

やがて、彼女もまたフィノールと同じ場所で曲がり、リースの方からは見えなくなった。



古びた蛍光灯が明滅する、六階の寂れた廊下。

今そこには、リース一人しかいない。

「……検査、か」

下に降りる階段のある、皆が消えていった曲がり角を見つめながら、リースはポツリと呟いた。

そして、さっき懐に石をしまった自分の左手をもう一度持ち上げる。


「もし全部の検査を受けてたら、尋問くらいはされてたかもな……」


蛍光灯の眩い光にかざした左手は、一切の光を通していなかった。








ミレースの町外れにある、ほんの少し前まで閉鎖されていた工場。

その中の、徐々に機能を取り戻しつつある司令室では、再びいざこざが起きていた。

「何だと!それは本当なのか!?」

「計測の結果、まず間違いありません」

計器以外の明かりがほとんど無い、薄暗い司令室。

いざこざの渦中にあるのは、くわえた煙草を噛み千切らんほどに歯軋りするボテイン隊長と、今現在彼の部下である黒髪の青年、エイリエスだ。

他の物は皆、そのいざこざに興味を示すでもなく、それぞれの仕事に着手している。

そんな司令室に、再び隊長の罵声が飛んだ。

「施設が稼動できないだと?Lv.4区域の調査結果は既に出ているはずだ。なのにどうして稼動できん!?」

辺りに唾を撒き散らしながら隊長が吼える。


ボテインは今、非常に焦っていた。

彼は今、逃げ場の無い袋小路に徐々に追い詰められているのだ。

工場の建設資金を私用に使ったことは、明日の夜幹部プライマリがやってきた時に全てばれてしまう。

それを阻止する為には、秘密を知った者を全て始末すればよい、というのが彼の考えだったが、それは同時に施設の生命線を司る目の前の黒服達全員を始末する事に繋がる。

施設が無事に稼動してから彼らを特に放射線が強い貯蔵庫に放り込んだとしても、間違いなく数日は生き延びてしまうだろうし、それでは間に合わない。

おまけに、彼らを全員首尾よく始末したとしても、それを幹部のハマルが不審に思わないはずが無い。


そして今、元来の目的であった施設の起動すらままならない状況に陥っている。

これでは完全な八方塞だ。

だから彼は思考を張り巡らし、幾つかの手を打った。

もしその策が上手く運べば、これらの心配は一切必要無くなる。

しかし、もし失敗すれば、彼の末路が悲惨なものになるのは火を見るより明らかだった。


「施設が稼動できない原因は、端的に言えば電力不足によるものです」

「電力不足?」

ボテインが眉をひそめる。

「しかし、ワシの部下が計測を行った時は電力不足なぞ無かったぞ」

「それは、彼らが行ったのが試験稼動だったからです。試験稼動なら通常の電力の半分以下の量で動かすことが可能ですから」

「…では、ここの奴らは一体どうやって施設を動かしていたのだ?」

ボテインが更に質問を重ねる。

そう、この施設は一ヶ月前まで確かに稼動していたのだ。

司令室の管理はこちらの人間が行っていたが、電力が不足したなどという話は一度たりとも耳に入った覚えが無い。

「ミレースには、つい昨日まで正常に機能していた発電施設がありました」

ボテイン隊長の目を見つめながら、エイリエスが語り始める。

「その施設は、この工場に十分な量の電力をずっと供給し続けていたのです」

「まさか……」

ボテインの表情が恐れに歪む。

しかし、エイリエスの話は止まらなかった。

「そう。昨日とある部隊が『捜索』と銘打って町の数々の建造物を破壊しました。その中の一つが例の発電施設です」

エイリエスはそこで視線を外し、コンソールに向き直った。

「発電施設は全壊こそ免れましたが、現在では以前の六割程の出力しか出せない状況です」

「で、では一体どうするというのだ!?」

案の定、隊長がエイリエスに向けて怒鳴り散らす。

自分のミスを他人を怒鳴り散らす事で紛らわそうとする、この男らしい反応であった。

「……幸いな事に、この施設のLv.4区域にある精製プラントは全部で四基あります。フル稼働は不可能ですが、二基程度なら現在の電力量でも十分に機能するでしょう」

「その場合、作業工程はどのくらい遅れるのだ?」

「そうですね……」


ピーッ ピーッ ピーッ


エイリエスがおおまかな計算を始めた時、司令室の無線機が連絡が来たことを知らせるアラーム音を発した。

ボテインはそこで一旦話を切り、無線機の元へ歩みを進める。

「何だ?」

少し威圧的な、ドスの聞いた声だ。

「……そうか、無事に完了したか………施設の方はどうした……?」

どうやら、数時間ほど前に通信施設を爆破するように命令を出した彼の部下かららしい。

「…ならいい。今すぐ戻って……、何だ?」

帰還の命令を出そうとしたボテインが、無線越しに何かを言われて黙り込んだ。

「…何だと?それは本当か?」

エイリエスに言ったものとは明らかに違う口調だ。

「……ああ、とりあえずそこへ向かえ………そうだ、必要なら殺しても構わん」

無線で話す隊長の顔が醜く歪んだのが、エイリエスの方から見えた。

知らせはどうやら彼にとって吉報だったようで、隊長は嬉々とした表情で通信を切った。

「エイリエス。一つ調べ物をして貰いたい」

隊長は歪んだ笑顔のままでエイリエスの元へ歩み寄ってきた。

自分に対して妙に優しい口調になった彼に、エイリエスが悪寒を覚える。

「何を、調べるのですか?」

「通信施設の近くには川があってな。ワシの部下がその近くでダムを発見したらしい。発電機構があるかは分からんが、一度調べてくれ」

「…了解しました」

エイリエスは胸に残る悪寒に耐えながら、発電所のシステムへのアクセスを開始した。

簡単なプロテクトを突破し、発電施設の管理プログラムへ侵入する。


答えは五分とかからずに出た。


「……今使っている発電施設以外にも、もう一基稼動している発電施設があります」

そう言いながら、検索結果を表示したモニターを隊長に見せる。

すると、彼の顔はみるみるうちに狂気のそれへと変貌していった。

「よし、いいぞ!電力をこっちに回せば四基全てのプラントが稼動できる!それに見てみろ、奴らのねぐらまで突き止めたぞ!」

「しかし隊長!この発電施設は……!」

「黙れ!!悪いのはあんなところに避難した奴らの方だ。大人しく従っていれば医療ぐらいは保障してやったものを!」

吐き捨てるようにそう言った後、隊長はダムの接収が済むまでの間、二基だけでも今すぐ起動するように周りに命令を出した。

その姿に向けて、黒髪の青年が憎しみの込もった一瞥を投げかける。

「悪く思わないでくれよ……」

再び向き合ったモニターに向かって、黒髪の青年が懺悔の言葉を吐いた。



モニターに映し出された、ミレース一帯の地図。

町の近くを流れる川には、現在も稼働中である一基のダムが表示されていた。


……森の中の病院へと一直線に続く、送電を意味する赤い線と共に。




すみません。投稿が大幅に遅れてしまいました。

とは言っても読者の方は余り多くは無いのですが…


今や執筆に取れる時間がほとんど無く、一日に十分ほど×3回分ほどしか書ける時間が取れない状況です。

故に、以降の投稿も遅れる可能性がありますが、できる限り頑張りますのでどうか気長にお待ち下さい。

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