5-3 創村祭に感謝を捧げ ~開幕~
男衆が何日もかけて作り上げた舞台は、祭が終わったら取り壊してしまうのがもったいないくらいに完成度が高い。
全体的に木製の手作り感あふれる作りだけれど、柱の一本一本には村の職人によって彫刻が施されている。更に装飾として絡ませている葡萄のつるは、実は本物。すぐ手の届く場所にあるその葡萄も、もちろん本物だ。
小さな村とはいえ、年に一度のお祭りは、やっぱり賑やかだ。田舎だ田舎だと思っていたけれど、村民が一箇所に集まるとものすごい人だかり。
その人だかりにくっついている目という目のすべてが自分を見ているのを感じ、あたしの心臓はこれ以上ないというくらいにスピードアップした。
うわぁん、何言えばいいんだよー、決まってないよー、あたし以外の実行委員さんたちゴメンナサイ。
俯いてぎゅっと目を瞑る。ふわんと香るフィーアの匂いに少しだけ落ち着きを取り戻したあたしは、深く息を吸った。
「えぇと」
口にした途端、しんと静まり返る。せっかく取り戻した落ち着きがどこかへわらわらと散っていくのを感じながら、あたしは相変わらずうるさい心臓をどうにかしようと胸に手を当てた。
「今日は、むかーしむかし、まだ領主制の頃にこのスピリーツェができた日です」
創村祭っていうんだから当たり前じゃん! 思わず自分にツッコミを入れたくなる。極度の緊張と混乱にクラクラしながら、あたしは必死に言葉を紡いだ。
「あたしはこの村の生まれじゃないけど、この日がとっても好きです」
あたしの意見を言ってどうする! またもセルフツッコミ。挨拶、既に意味わかんないことになってる。もう泣き出しそうだ。思わず俯いたあたしは、けれどほのかな香りに勇気付けられ顔を上げる。
「むかーしむかし、この村を作ってくれた人がいたから、あたしたちはこうやってこの場所にいられるんだと思います。当たり前のことだけど」
顔を上げると、視界の隅に飛んでいくミルッヒの翼が見えた。胸に当てた手を、そっと握りしめる。
「当たり前のことだけど、この村がなかったら、郵便局長になることもなかった。もちろん、ここにいる皆さんとも会えなかった。祖父がこの村の人間なんだもの、もしかしたら、そもそも生まれてなかったかもしれない」
とにかく、一生懸命言葉を紡ぐ。こうなりゃ、ヤケだ。アドリブでその場の勢いで乗り切ってしまおう。どうせ、あたしに素晴らしい演説を期待している人なんていないだろう。素晴らしくて高尚な話が欲しいなら、村長さんにでも頼んでいるはずだ。
だから、あたしはあたしの言葉で続けた。
「あたし、自分の居場所だからスピリーツェの村が好きです。だから、この村を作ってくれた人に感謝。今、この村で生きてここを一緒に維持している皆さんに感謝。個人的に、こんなお祭りの日にも頑張って仕事している誰かさんたちには超感謝!」
最後のは、ここにいる人たちにはどうせわからないだろうけれど。
すぅっと息を吸って、あたしは少し大きめの声で高らかに言い放つ。
「ありがとうの気持ちをいっぱい込めて! スピリーツェ創村祭、開催を宣言します!」
思いっきり言い放つと、わぁっと歓声が上がる。同時に背後でばばんと花火が上がり、広場はもうものすごい騒ぎ。
上手でも感動的でもなかったけれど、まぁ、失敗しなかったからよしとしてもらおう。
深々とお辞儀をして、あたしは舞台を降りた。実行委員の面々が、すぐにあたしを取り囲んだ。おっさんたちのその顔は、こころなしか興奮したように上気している。
「時間ぎりぎりになっても来ないから、どうしようかと思っていたぞ」
「お疲れさん、すごい演出だったじゃないか」
口々に言われるけれど、あたしは既にそれどころではなかった。
創村祭の挨拶を終えたら急に緊張がなくなったのはいいけど、なんだかベイシス・バイブルのことで気が気じゃなくなってきたのだ。
そもそも、綿密とはいえないかもしれないけれど、一応今日の流れは作戦を立ててある。だから、あたし一人がここでもたもたするわけにはいかない。
「ごめんなさい――すいません、実は郵便局、今日も営業日なんですよ。仕事があるんで、戻ります。じゃ、また後ほど」
「おや、大変だ。せっかくの創村祭なんだから、早く終わらせて一緒に楽しもうじゃないか」
楽しめるだろうか。
あたしたちは楽しめるのだろうか。
浮かんできそうな不安を振り払う。別に、不安になることはない。これは仕事だ。いつも通りに始まって、いつも通りに終わらせよう。で、おいしいごはんをただでいっぱい食べるのだ!
「はい!」
駆け出したあたし、とりあえず作戦通りディアンと落ち合うために村はずれに向かった。




