strangecommute and meet(奇妙な通学と出会い)2
続きです
修正しました
俺はそうして、想が去った後、強く打った尻をさすりつつ、学校までの道のりを一人寂しく歩いていた。
――地縛霊
なんとしてでも俺は、幼馴染を守ると決めた以上、5人の地縛霊を6ヶ月と言う期間で成仏させなくてはならない。
さもなければ、――人は喰われ、――街は滅ぶのだ。
6ヶ月というのは長いようで短い。だからこそ、俺は焦っていた。なぜなら、現状で地縛霊について、この縁空市に住む数万人の人間の内の5人である、ということしかわかっていないからだ。
今の俺の状態は、いうなれば土俵にすら立っていないというところだろう。
ただ、だからと言ってまったく、勝機がないか?、と聞かれたらそれもまた違った。
というのも、昨日あれから俺たちが家に帰ってきたときにダミアは俺に色々と説明してくれたのだがその時に言っていたことで、地縛霊は、形こそ人間であるものの、その内実は霊魂であるため、体から天使にしか分からないオーラが、滲み出ているらしい。(ちなみに余談として言うが、このオーラは多大な力を持った者――例えば地縛霊で、人を喰って力を得たものとか、に霊力を供給されると隠すことが出来るらしい。)まぁ、でもそんなことはそうそう無いらしいので休日にでもダミアを連れて行けば地縛霊は見つかる可能性が高くなるだろう。
しかしだからといって悠長に休日を待つわけにも行かない。とりあえずは学園にいるかもしれない地縛霊を探してみようと思っているのだがただ探すだけでは能がない。
そこで俺は考えたのだが、地縛霊というのは、何かしらの理由で自殺してそれが未練を感じてこの世界に戻ってきたものなのだから、人間化してもそいつはあまり明るくない奴なのではないかと。そこで、俺は学校で休み時間をフルに使って生徒の中でひとりぼっちの奴とか、浮いている奴とかに積極的に話しかけてみようと画策している。(俺も人のことは言えないが)
そうして俺が大体の方針を決めたとき、突然、どこからかバタッ、という何かが倒れたような音がした。
そこで俺は思考をやめ、とっさに後ろを振り向いた。すると10メートル先ぐらいのところに一人、倒れている者の姿を俺は目に捕らえた。
そして次の瞬間俺は無意識に走り出していた。とにかく意識よりも先に足が動いていた。もちろん何の気まぐれかなんて分からない。
もしかしたらそれは神の思し召しだったかもしれない。と、そこまで大仰に言うのも、いつもの俺だったらそういう光景を見ても、何も思わず、スルーするか全く関与しようとはしない、のどちらかを選択するはずなのに、無意識のうちに倒れている人間を助けようとするなんている正義のヒーローぶった行動を起こして、助けに行ったからだ。
俺は周りに人がいないとはいえ、こんなにも全力になっている自分を恥じた。そうして今すぐにでもこの足を止めたかったがそれとは逆に足はどんどんその速度を増すばかりだった。
それから俺は倒れている人間の元に着いて、近づいた。そうして俺はその人の顔を見た途端、アッ、と、息を呑んだ。
それは俺と同じ修験学園の制服を着た女生徒だったのだ。しかも目を苦しそうに閉じていてもわかるぐらいのかなりの美少女。流れるような肩までの黒髪に苦しそうに震える唇は妙に艶があった。
……って、見とれている場合じゃない!早く助けなくては!
顔はかなり青白くなっていて、呼吸もかなり荒かった。
「おい! 大丈夫か!? 救急車呼ぶか?」
俺は近所迷惑なんて無視するぐらいの大声、を張り上げてその女の子に聞いた。しかしその女の子は何も答えはしなかった。
(これは本格的にまずいな……。もしかしたら意識がない、ということありえるし……。とりあえず、学校の保健室まで連れて行ってやらなくては……!)
ここから学校までの距離はおおよそ150メートル。その距離を女の子一人おぶって全力疾走。
……………………。
「ええい!背に腹は代えられねぇ。 それに、ここでこのままにしておくのは何か後味悪いしな」
そう言って俺は倒れている美少女の体を起こし、そのまま自分の背中にもたれさせた。
(うおおおっ。背中に、柔らかいものが! くそっ。相手は女の子とはいえ、病人なんだぞ。考えるな、俺! ここでそういうことを考えたら、俺は醜悪な人間と、同類になってしまう!)
それから、俺は歯を食いしばり、なんとか理性を保って、おぶることに成功した。それから立つのは簡単だった。
(……へぇ、女の子ってやっぱり軽いんだなぁ)
俺はそんなことを思いつつ、女の子のかばんをもう片方の肩から提げて、保健室までの道のりを走り出した。
それから数分たった後、俺は保健室にたどり着いた。やはり、いくら女の子が軽いとはいえ、150メートルを女の子を負ぶっての全力疾走はかなりきつかった。
しかも、色々とお尻とか、胸とか、俺の男の部分を刺激するものもあって何回か立ち止まってしまったし。
(……もういやだ)
俺は心の中で萎えつつ、その女の子をおぶりながら、保健室のドアを開けた。
「うわっ!……えっ、えっ、ど、どうしたの!?」
そう、授業中であるはずなのにいきなり入ってきた俺に対し、驚いたような顔で保健室の先生は言った。
しかも俺は女の子を背中に負ぶっているのである。そりゃビックリして当然だろう。
「すいません。学校に来る途中でこの学園の女生徒が突然倒れまして、とりあえずここまで運んできたんです」
俺がそう言うと、保健室の先生は、
「へぇぇ……よくここまで運んできたわね」
そう言ってなにやら意味深な笑みを浮かべてきた。
「……どういうことです?」
「どうもこうも、あなたみたいな年頃の男の子が、よく女の子を負ぶって運べたな、っていうこと」
「……! あの時はそういう空気じゃなかったんですよ! やめてください。何か妙な気分になりますから」
「ふーん。へー。ぱちぱち」
そう保健室の先生は、全くの棒読みで、必死の俺の言い訳をスルーしてきたので、
「すいません! もう俺授業の方に行くのでその子のこと頼みます」
「もう1時間目、10分しかないけど?」
「いいんです! 時間はプライスレスなんです!」
と、俺は保健室の先生に意味不明な持論を言い残した。それからくるりと、向きを変えて俺は床においてあった自分のバッグを持ち上げて礼もせずに保健室から出た。
外の空気は室内とは違ってやはり寒かった。そうして俺は4階にある自分の教室へと向かいながら、ため息をついた。
(……はぁ。死にてぇ)
もう朝からハプニング満載過ぎて既に俺は心身ともにつかれきっていた。
(このままじゃ俺、地縛霊を探す前に疲れきってしまう! せめて授業中だけでも平穏であらんことを!)
そう心の中で祈りつつ、俺は授業が終わる前に教室に入るために階段を駆け足で上り、(授業が終わってからだと、教室から出てきたほかの生徒に見られていやな思いをする恐れがあるのだ。)4階にたどり着いた。
俺は2年B組なので階段を上がって真正面のところにある。
俺は教室のドアを開ける前に一呼吸した。というのも、ここで、俺がドアを開けた瞬間の皆の視線に耐えなくてはいけないからだ。なんせ俺は、B組では、いや、高2全体で普通に浮いている生徒なので皆からあまりよく思われていないからだ。
(……まぁ、ここで、うだうだやっていても何も始まらない。ちょっと授業を受ければいい。それだけの事だ。うん)
そうして俺は自分を落ち着かせてからドアに手をかけ、開けた。
もちろん視線は集まった。
しかしそれは俺に対してではなかった。
それは、俺が入ってきた途端、俺の目の前で、机を蹴っ飛ばさん限りに立ち上がってこっちを見た少女、にだった。
俺はその少女とまん前で目が合った瞬間、卒倒しそうになった。
「なんで、お前がここにいるんだ……」
「……いえい」
「ダミアーーーーーー!!!!!」
そう、その少女とは俺が朝、学校にこれるものなら来てもいい、と言ってしまった、修験学園の制服がやけに似合っているダミアだったのだ。
次話で色々キャラでます