2話
名も無き 暗殺者 2話
里宮・・・俺は彼女の裏の顔を知ってしまった
まさか・・・あんなに冷静に人を撃てるなんて
ふと 彼女の方に目がいく 相変わらず彼女は無表情のまま 何考えているのだろうか
彼女が殺した遠藤の一件は 状況の異様さもあってか 警察はほぼお手上げに近い状態だった
それもそうだ 現代の日本においてしかも学校で射殺事件があるなんてそうそう考えられない
が 彼女は間違いなく遠藤を撃ち殺した 何の躊躇いもなく
俺が止めないと・・・!
「おーい やはり里宮にホレたのか? おまえって地味っ娘好みか?」
いつの間にか寺原が後ろにいた
「いや 何でもないさ」
「そうかい? どうせまたあのカワユイ里宮の事を気にしているんじゃないのか?」
コイツは色恋沙汰にしか興味が無いのか?
「誰が! ほら 休み時間終わるぞ 席着け 席に」
おとなしく席に着く寺原
里宮に目が自然といってしまう
彼女は無表情のまま
こうやって見てるととても暗殺者なんかには見えない
何かの間違いだと思いたかった
チャイムが鳴り 授業が始まる
色々なことが頭に浮かんでは消えていく
耳に残る銃声
「ぐおおおおおおおおお!!」
遠藤の絶叫
血
平然と「殺し」を行う里宮
考えれば考えるほど訳が分からない 人殺しが仕事だと!? そんなの あっていいわけがない!
止めなければ・・・!
放課後
「隼人? 帰ろうぜ!」
「ああ」
ふと里宮の方に目を配る・・・特に怪しい動きはしていなかった
帰り道
「なぁ隼人 今度の日曜 隣町のショッピングモールに アネットちゃんが来るらしいぜ」
アネットちゃんとは 今世間から注目を浴びているアイドルである その可愛い姿とそれに似合うボイスから追っかけファンも多い
・・・ちなみにファンクラブの会費が凄く高い事で有名
「何だ寺原 お前もファンだったのか?」
「おうよ! アネットちゃんの可愛さは異常だぜ! 俺なんか自分の部屋にアネットグッズ置きまくってるぜ!」
・・・
・・・
そうか 寺原 お前もか
「へぇ~」
興味がないフリをしておく
しかし寺原の勢いは止まらない
「だから! 隼人ぉ! 行こうぜ! ショッピングモール!!」
「何故俺もなんだ?」
「それでこそ マイ・フレンド!!」
「いや 聞けよ人の話」
「明日の朝 俺んちの前な!!」
そう言って寺原は走り去っていった
・・・あれがオタク・・・なのか?
あんな奴がいざ本物を目の前にしたら・・・!
『うおおおおおお!! アネットちゃんktkr! やべーっす! アネットちゃん可愛いさマジパネェっす!
アネットちゃんの生声聞けるだけで 俺 昇天しそうです!!』
なんて言い出すんじゃなかろうか
・・・考えただけでおぞましいな
先日あんな目にあったし たまには気分転換も良かろう
俺は帰路を急いだ
夕暮れの街を 里宮はどこかへと歩いていた
やがて見えてくる 一つのビル
黒基調の塗装で塗られた壁
そして入り口に掛けられている「関係者以外の立ち入りを禁ず」と書かれた看板
何もかもが異様に感じるこのビルに 里宮は一人入っていった
ビル内
中には扉が一つ ぽつんと存在している と言うより扉は他にもあるのだが 全てが釘を打たれていて 入れそうな扉は一つ 入ってすぐ正面の扉だけだった
里宮が扉の前に立つと 声が
「コードネームは?」
「ベレッタ」
「入れ」
室内は 一台のパソコン 机 椅子 だけの殺風景な部屋
椅子に一人の男がパソコンを操作していた
「戻ったわ SIG」
シグと呼ばれた男はパソコンを操作する手を止める
「ベレッタ ちょっとコイツを見てくれ」
里宮はパソコンの画面を見る そこには話題のアイドル アネットの姿が映し出されていた
「今度のターゲットだ 理由は分かるな?」
「アネット・・・確か・・・」
数年前の出来事
里宮・・・ベレッタはある組織の社長を殺す任務に着いていた
その組織は表では普通のIT企業だったのだが裏ではマフィアに武器などを提供している危険な組織だった
そして 社長が用事で表に出たときに暗殺 周りにいた重役も全て片付けた・・・はずだった
ベレッタは見落としていた・・・その社長には年頃の娘がいたことを
娘の名はアネット アネットは才能で芸能界の階段を駆け上がり
やがてファンクラブを立ち上げた そして元から高かった人気に更に火がつき ついには若者で知らない人はいない という存在になった
が 裏社会から足を洗った訳ではなく 黒い噂は絶えない
「最近音沙汰無いからすっかり裏の方は手を切ったのかと思っていたのだがな」
シグはブラウザソフトを起動させ 掲示板サイトに接続した
画面には
【堕ちた】アネットの黒い噂 Part1【アイドル(笑)】
というタイトルが
「ここの書き込みによると アネットは父親の後を継ぎ テログループなんかに武器を売っているらしい」
「懲りないのね」
「上手く乗れば表の仕事よりも儲かるからな ま その分リスクはでかいけどな
ま 今まで散々テロの助長をしてきたんだ そろそろ年貢を納めてくれないとな
それに お前さんの仇に繋がる情報も得られるかもしれねぇ」
「なるほどね そういえば明日 ここの近所に 彼女 来るみたいね」
「ああ そうらしいな これはチャンスだ 確実に仕留めるぞ」
日曜日
ショッピングモール
「フフフ クフフフ アネットちゃぁーーん 今行くからね? フフフ」
朝から妙にテンションの高い寺原 そして
「・・・ねむ・・・くそ 寺原め・・・ふわぁ」
全く正反対の俺 あー 眠い
「なーに 暗い顔してんの隼人ちゃん そんな顔をアネットに見せる気かな?」
「おう 見せてやろうか?」
「おっと そうは・・・(ピンポンパンポーン)」
〈間もなく今世紀最大のアイドル アネットさんのショーが始まります 整理券を・・・〉
「アネットぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
寺原はどこかに消えた 他人に害を及ぼさなければいいのだが
「やれやれ・・・ ん?」
遠くの方に里宮が見えた
「あいつもファンなのか?」
里宮は何か不審な動きをしている 既に配置されている警備員の周りをウロウロして辺りを変に見回している
「何だ? アイツ?」
なんだか危険だ そう感じた俺は彼女に接近していく まさか あいつアネットを・・・!
「おい! 何をしている!」
隼人はドキリとしたがその声は自分に向けられたものではなく 里宮に向けられていた
「何か隠し持ってるんじゃないか?」
困ったように辺りを見回す里宮 すると隼人と目が合った
「あっ! 隼人!!」
突然 里宮がそんな声を上げた
「え?」
里宮は隼人の方に駆け寄ると 思いっきり隼人を抱きしめながら
「もう どこ行ってたのよ! 心配したじゃないの!! 私を置いて行かないでよ!」
頭が真っ白になる俺 な なんだコイツいきなり・・・!
「〈なんだぁ? とりあえず話を合わせておくか〉 ああ ゴメンよ もう君を置いていかないから 行こう」
「うん」
警備員から離れると 急に里宮も態度を変えた
「もういいわ・・・ いい? 私に関わらないで」
そういい残し 里宮は人混みの中に消えた
俺は追おうとするも すぐに彼女を見失ってしまった
けど 止まってはいられない 彼女に あんなことを二度とさせるわけにはいかない
彼女を止めなければ・・・!
俺は人混みをかき分け 里宮の消えた方向をひたすら進んでいく
<こちらSIG ポイント到達 どうやらまだのようだな>
「ええ アイドルだかなんだか知らないけど 無駄に人が多いわね」
<ああ 自分達の貢いだ金がテロ活動に使われるなんて 夢にも思ってないだろうな まったく哀れな連中だ>
その時 店内放送がかかる
『会場の皆様 間もなく 人気アイドル アネットちゃんが登場します!』
<お そろそろか ファンには悪いが やらせてもらいますかね>
「例の男がいるわ 妨害するかも 始末する?」
<いや ターゲット優先だ>
「了解」
〈間もなくアネットが来てくれますよ? 5 4 3 2 1 アネットさん ご登場!!」
「うおおおおおお!! アネットちゃんktkr! やべーっす! アネットちゃん可愛いさマジパネェっす!
アネットちゃんの生声聞けるだけで 俺 昇天しそうです!!」
寺原が俺の想像と全く同じ台詞を吐きやがった なんなんだコイツ
アイドルの登場と共にクラッカーが鳴らされる
パァン
パァン
パァン
バァン
パァン
クラッカーの音に混ざって違う音が聞こえてきた
「(今のは・・・ 銃声?!)」
隼人がそう感じた直後 会場が騒ぎ始める
「大変だ! アネットが撃たれたぁぁぁ!!」
「きゃーーーーーーーー!!」
「は は 隼人! アネットちゃんが・・・が が!」
寺原が真っ青な顔で駆け寄ってくる
「どうした! 何があった!」
「うた うた うたたたた 撃たれたんだ! そ それれれ 頭から血ぃ流して 倒れたんだ・・・うわぁぁぁぁぁ!!」
「落ち着け寺原!! とにかく家に帰ろう! な?」
ふらふらの寺原を助け 立ちあがる ったく!
里宮・・・アイツ! アイツがやったのか!
遠くに里宮の姿が見える この混乱の中でも 彼女はポーカーフェイスだった
<ターゲット沈黙 お仕事終わりだ 引き上げるぞ この混乱は逆に好機だ>
「気をつけて 警備員が何人かそっちに向かった」
里宮の目に隼人の姿が映る
「・・・ッ! また!」
<どうしたベレッタ?>
「前回の一件で 妨害行為を行ってきた男生徒!」
<どうせお前を狙ってるんだろう 外に誘導しろ>
「了解」
里宮がこちらに気付いたようだ 退散を始めようとする
「待て! 里宮! お前!!」
「・・・」
彼女は俺を見るなり出口に向かって走り出した
「逃がすか!」
里宮を追って外に出る
しばらく走ったところで里宮は観念したのか 立ち止まる
と 同時に
額に冷たい感触
ああ またこのパターンか
「銃を向けられようと 俺はビビらねぇ 馬鹿な真似は止めろ」
「それは こっちの台詞だ 坊主」
後ろに冷たい感触 銃口!?
そうか 本気で俺を消そうとしているわけね・・・
続く