第41話 揺れる距離と、迫る夜会
それからというもの――
セリーナは、ほぼ毎日、私の隣にいた。
「ルクシア様、おはようございます」
「今日の授業は実技がございますね」
「こちら、予習まとめましたので……!」
気づけば隣。
移動すれば隣。
昼食も、図書室も、校庭でも。
(……仲良くなれた、よね?)
私は純粋にそう思っていた。
だが周囲の認識は違う。
「アルヴェイン嬢、完全に落ちてるよな」
「距離近すぎない?」
「ルクシア様、無自覚だぞあれ」
セリーナは、さりげなく私の袖を掴む。
腕に触れる。
少し身を寄せる。
「ルクシア様は、本日もお綺麗です……」
「え、ありがとう?」
すると彼女は、なぜか真っ赤になる。
――そして。
それを遠巻きに見守る男性陣。
ユリウス。
エリオス。
レオンハルト。
「……近い」
「距離が、近い」
「自然すぎて注意できないのが厄介だな」
とはいえ。
「まあ……」
「他の男が寄り付くよりはマシか」
という、複雑な安心感もあった。
セリーナは貴族令嬢。
素性もはっきりしている。
危険はない。
――はずだった。
◆
ある日の放課後。
廊下を歩いていると、妙にざわついている。
「聞いた?」
「今年の歓迎ダンス、すごいらしい」
「王族も来るって……!」
(……歓迎ダンス?)
セリーナが、はっと顔を上げた。
「そうでした……!」
「毎年行われる、新入生歓迎ダンスパーティーが……!」
空気が、凍る。
男性陣が、同時に固まった。
「……あ」
「忘れてた」
「最悪だ」
私は首を傾げる。
「ダンス、なの?」
「はい……」
セリーナの声が、わずかに震える。
「新入生は、必ず誰かと一曲は踊る決まりで……」
「申し込みは、早い者勝ちです」
その瞬間。
廊下の向こうから、こちらを見ていた男子生徒たちの視線が変わった。
値踏み。
決意。
闘志。
「ノクティス様、お願いできませんか」
「ぜひ一曲……!」
「私と……!」
――一気に囲まれる。
(え、え?)
「ちょっと待て」
「順番だろ」
「俺が先に声かけた」
ざわめきが広がる。
ルクシア・ノクティス。
魔術大会優勝者。
公爵令嬢。
そして――
“可愛すぎる”と全校に広まっている存在。
「うわ……」
「やっぱり来た」
「争奪戦じゃん」
セリーナの指が、ぎゅっと私の袖を掴む。
いつもより、強く。
「……ルクシア様は」
小さな声。
「……どなたと、踊られるのですか?」
(踊る相手……?)
私はまだ、事態の重大さを理解していなかった。
だが。
男性陣の顔は、真剣そのもの。
「絶対阻止だ」
「誰にも渡さない」
「……作戦会議だな」
完全に戦闘態勢である。
そして、セリーナは。
潤んだ瞳で、必死に笑っていた。
「……わたくしは、応援しておりますので」
その言葉とは裏腹に、
指先は震えている。
――歓迎ダンスパーティー。
華やかな夜。
運命の一曲。
そして。
ルクシアを巡る、静かな戦争の幕が上がろうとしていた。




