第40話 はじめてのお友達
魔法基礎の授業が終わると、
教室の空気は一気に緩んだ。
それと同時に――
(……来る?)
視線が、また集まる。
けれど今度は、さっきとは少し違う。
好奇心と、戸惑いと、勇気。
そんな混ざった気配。
「あ、あの……!」
控えめだけれど、はっきりした声。
振り向くと、
淡い栗色の髪を揺らした少女が立っていた。
年は、たぶん十五か十六。
整った身なりと仕草から、貴族だと分かる。
「わ、わたくし……セリーナ・アルヴェインと申します」
スカートを摘まみ、丁寧に礼をする。
(きれいな所作……)
「本日は……その……」
彼女は、少しだけ頬を赤くした。
「お近くで拝見しておりました」
「とても、素敵でした……ルクシア様」
(様!?)
「え、えっと……様は……」
「当然です!」
なぜか即答された。
「ノクティス公爵家のご令嬢でいらっしゃいますし……」
「大会優勝者ですし……」
周囲の何人かが、うんうんと頷いている。
(そんなに……?)
「わたくしの家は伯爵家ですので……」
「本来なら、こうしてお話するのも恐れ多いのですが……」
それでも、と。
セリーナはぎゅっと手を握った。
「お友達になっていただけませんか?」
一瞬、思考が止まる。
(……お友達?)
今まで、家族や従者以外で
“友達”と呼べる存在は、ほとんどいなかった。
「……私で、いいの?」
思わず本音が出る。
すると。
セリーナは目を見開いた。
「そのようなことを仰らないでください……!」
少し涙ぐんでいる。
「ルクシア様のようにお優しくて、美しくて……」
「それでいて謙虚な方とお近づきになれるなど、光栄すぎます……!」
(え、えぇ……)
私は困って、けれど素直に言った。
「じゃあ、友達になろう」
「……!」
ぱっと、彼女の顔が明るくなる。
「ですが……」
「でも、様はやめてほしいな」
セリーナが、固まった。
「え……?」
「セリーナが友達なら、私はルクシアでいいよ」
「そ、それは……!」
周囲がざわっとする。
「公爵令嬢を、呼び捨て……?」
「無理でしょ……」
セリーナは真っ赤になりながらも、
必死に首を振る。
「で、ですが……身分が……」
「関係ないよ」
私は、自然に笑った。
「友達でしょ?」
その瞬間。
セリーナの呼吸が、止まった。
頬が、さらに赤くなる。
目が潤んで、
胸元を押さえる。
(……?)
「……どうしたの?」
「い、いえ……」
かすれた声。
「いま……その……」
「とても、心臓が……」
周囲の女子がひそひそ。
「やば……」
「それ、落ちてない?」
「尊い……」
(なにが?)
「……る、ルクシア様は……」
セリーナは俯きながら、小さく呟く。
「無自覚で、そのようなことを……」
「?」
私は首を傾げる。
ただ、友達になりたかっただけなのに。
でも。
セリーナは、ぎゅっと私の袖を掴んだ。
「……どうか、これからよろしくお願いいたします」
「ルクシア様」
様は取れなかったけれど。
それでも――
初めてできた、女の子の友達。
王立魔法学院での生活は、
少しだけ、あたたかくなった。
……その裏で。
「ノクティス様、距離近くない?」
「いやあれは無自覚タイプだ……」
「天然人たらし……」
という評価が、
静かに広まり始めていることを。
まだ、ルクシアは知らない。




