第32話 開幕、最年少の挑戦者
闘技場の中央に設えられた魔法陣が、淡く光を放つ。
「一般の部・第一試合!」
司会の声が響き渡り、観客席がざわめいた。
「続いて入場するのは――最年少参加者、ルクシア!」
その瞬間、空気が一気に揺れた。
「え、子ども?」
「本当に出るのか?」
「一般の部だぞ……?」
無数の視線が、私に集まる。
小さな体。
年齢にそぐわない白磁のような肌と、光を宿した瞳。
私は、ゆっくりと闘技場へ足を踏み入れた。
(……大丈夫)
胸の奥で、光と闇が静かに応える。
反対側のゲートが開き、対戦相手が姿を現す。
「一般の部常連、炎術師・ガルド!」
鍛え上げられた体躯。
年季の入った魔力の波動。
「……は?」
ガルドは、私を見た瞬間、露骨に顔をしかめた。
「おいおい、冗談だろ」
「子守りでもさせる気か?」
観客席から、くすくすと笑い声が漏れる。
――そのとき。
「相手が誰であれ、油断は禁物ですよ」
王族席から、王妃の静かな声が響いた。
王は、腕を組んだまま闘技場を見下ろしている。
「……始まるな」
過保護組の一角。
「……近づくなよ」
「いや、最初から全力で来るだろ、あいつ」
「ルクシア……」
ユリウスの拳が、ぎゅっと握り締められていた。
――ゴングが鳴る。
「試合開始!」
瞬間、ガルドが踏み込む。
「悪く思うな、さっさと終わらせてやる!」
炎が爆ぜる。
熱風が、闘技場を包み込んだ。
(速い……!)
だが――
私は、一歩も動かなかった。
「……なに?」
次の瞬間。
炎が、私の手前で“ほどける”。
「――なっ!?」
光の膜。
薄く、けれど確実な防御結界。
ざわ、と観客席が揺れた。
「今の……」
「結界?」
「詠唱、してないぞ?」
ガルドが歯噛みする。
「チッ……なら、これでどうだ!」
炎が重なり、巨大な火球となって迫る。
私は、静かに手を伸ばした。
(抑える……流す……)
胸の奥。
光と闇が、ゆっくりと回転する。
――光。
闇。
その境界で、生まれた力。
「……っ!」
火球は、歪み、消えた。
完全な――無効化。
「……は?」
会場が、静まり返る。
次の瞬間。
「な、何が起きた!?」
「消えた……炎が……!」
ガルドの顔から、余裕が消える。
「……お前、何者だ」
私は、はっきりと答えた。
「ルクシアです」
それだけで、十分だった。
「――来い!」
ガルドが渾身の魔力を解き放つ。
私は、初めて一歩、前へ出た。
光が走る。
闇が絡む。
二つの力が、完璧な調和をもって解き放たれ――
「――っ!!」
衝撃が、闘技場を揺るがした。
砂煙が舞い、視界が覆われる。
沈黙。
そして――
「……勝者、ルクシア!」
司会の声が、遅れて響いた。
一瞬の静寂のあと。
――どっ、と歓声が爆発する。
「嘘だろ……」
「勝った……!?」
「今の、何……!」
王族席。
王妃が、静かに息を吐いた。
「……この子は」
王は、低く呟く。
「――本物だ」
過保護組。
「……無事だ」
「倒れてない……」
「よかった……」
レオンハルトは、ぎゅっと拳を握りしめた。
「……すごい」
私は、胸に手を当てる。
心臓が、速く打っていた。
でも――苦しくはない。
(……いける)
この場所で。
この力で。
私は、確かに戦えている。
闘技場の中央で、歓声を浴びながら。
――最年少の挑戦者は、確かに一歩、歴史を刻んだ。




