第18話 怒りの先にあるもの
その日は、久しぶりに穏やかな時間だった。
庭園には柔らかな日差しが降り注ぎ、
私はみんなに囲まれて遊んでいた。
「ルクシア、こっちだよ」
「ほら、転ばないように」
ユリウスお兄様とレオンハルト王子は、相変わらず左右から手を繋いでくる。
「過保護すぎ」
「でも楽しそうだし、いいんじゃない?」
セレスとノアが笑い合い、
エリオスとカイは少し離れた場所で周囲を警戒していた。
(……平和だな)
そう思った、そのとき。
――ぞわり。
空気が、変わった。
「……止まれ」
エリオスの声が、低く響く。
次の瞬間。
庭園の外壁を越えて、黒ずくめの男たちが姿を現した。
「なっ……!?」
「敵襲だ!」
即座に、護衛たちが前に出る。
「全員、ルクシア様から離れるな!」
「王子を守れ!」
剣が抜かれ、金属音が響く。
(……なに、これ)
怖い。
足が、動かない。
「ルクシア!」
ユリウスが私を抱き寄せる。
「大丈夫だ、絶対に守る」
レオンハルト王子も、私の前に立った。
「ボクがいる」
――だけど。
「ぐっ……!」
鋭い音とともに、護衛の一人が吹き飛ばされた。
「――っ!」
血が、芝生に落ちる。
(……やだ)
「まだ、来るぞ!」
別の護衛も、肩を切られ、膝をついた。
(……やめて)
守るために。
私のために。
みんなが、傷ついていく。
「逃げろ……!」
「ルクシア様を――!」
その声が、胸を締めつけた。
(……なんで)
なんで、こんなことに。
なんで、私のせいで。
――その瞬間。
胸の奥で、何かが、はじけた。
「……やめて」
小さな声。
でも。
世界が、暗転した。
足元から、影が溢れ出す。
「な、何だ……!?」
「影が……動いてる!?」
黒い闇が、地面を這い、空気を覆う。
――冷たく、深く、感情そのもののような闇。
「傷つけるな」
声は、震えていた。
「……私の、大切な人たちを」
闇が、牙を剥く。
悲鳴が上がった。
影は男たちを絡め取り、逃げ場を奪い、
そのまま――飲み込んだ。
ほんの、数瞬。
庭園にいた悪者たちは、跡形もなく消え失せた。
――静寂。
「……ルクシア?」
誰かの声が、遠く聞こえる。
(……終わった?)
怒りは、消えていた。
代わりに。
急激な、空白。
「……あれ?」
力が、抜ける。
視界が、白く滲んだ。
「ルクシア!!」
ユリウスの叫び。
駆け寄ってくる足音。
「医師を!」
(……ごめん)
守りたかっただけなのに。
ただ、それだけだったのに。
意識が、遠のく。
最後に見えたのは、
必死な顔で私を抱きしめるみんなの姿だった。
――闇は、静かに消えた。
その代償として、
小さな身体は、力を失ったまま。
深い、深い眠りへと落ちていった。




