第13話 守られる存在
それは、本当に突然だった。
「ルクシア、次はボクと――」
「いや、次は俺だ」
「ちがうってば!」
ユリウスとレオンハルト王子の言い合いをきっかけに、
周囲はまた少し騒がしくなっていた。
「順番にすればいいじゃん」
「そうだよ、喧嘩しないで」
セレスとノアが間に入る。
エリオスは一歩引いた場所から状況を見守り、
カイは何か言いたそうに口を開いては、結局閉じていた。
(……にぎやかだなあ)
私はその中心で、みんなの声を聞いていた。
――そのとき。
ふっと、視界が揺れた。
(……あれ?)
足元が、頼りなくなる。
世界が、少し遠のいた。
「……あ」
声を出そうとしたけれど、喉がうまく動かない。
そのまま、身体が前に傾いた。
「ルクシア!?」
誰かの声が重なった。
次の瞬間、私は床に倒れ――
なかった。
「危ない!」
強く、でも優しく抱き止められる。
「ルクシア! しっかり!」
ユリウスだった。
「顔色が悪い……!」
レオンハルト王子が、すぐそばで私を覗き込む。
「どこか痛い? 返事して、ルクシア」
「だ、大丈夫!?」
「息、してる!?」
セレスとノアが慌てて声を上げる。
エリオスは即座に判断し、はっきりと言った。
「誰か、侍女を呼んでください。医師も」
その声に反応するように、近くにいた使用人が走り出す。
カイは拳を握りしめ、小さく震えていた。
(……そんな)
意識は、まだある。
けれど、身体に力が入らない。
(……心配、かけちゃった)
そのとき。
「――ルクシア様!?」
慌てた足音とともに、侍女が駆け込んできた。
「どうなさったのですか!?」
「突然、倒れたんだ」
ユリウスが短く答える。
「今すぐ医師を呼んで!」
侍女は青ざめた顔で頷き、すぐに指示を飛ばした。
「すぐです! 旦那様と奥様にもお知らせを!」
その言葉に、胸の奥が小さくざわつく。
(……お父さま、お母さま……)
ほどなくして、足音が重なった。
「ルクシア!」
駆け込んできたのは、父――アレクシス・ノクティス。
その後ろから、母――セレナ・ノクティスが続く。
「ルクシア、目を開けて」
母は私の頬にそっと手を伸ばし、必死に声をかける。
「……ちからが、はいらないの」
絞り出すように告げた声は、か細く震えていた。
「すぐ医師を」
父の声は低く、張りつめている。
「何があった」
「突然、倒れました」
エリオスが簡潔に状況を説明する。
「……そうか」
父は短く頷き、私を抱き上げた。
その腕は、とても強くて、温かかった。
「ルクシア」
名前を呼ばれる。
それだけで、少しだけ安心してしまう。
(……私は)
こんなにも、多くの人に囲まれて。
守られて。
大切にされている。
――その事実が、胸に深く染みていく。
意識が遠のく直前。
聞こえたのは、重なる足音と、
私の名を呼ぶ、必死な声だった。




